002
「おい、どうだ?」
「やっぱりたんまりと溜め込んでやがったぜ。
へっへっへ、こんなにうまいこと行くとはなあ」
男たちが、テーブルの上に積まれた貨幣の山を主とした金品を弄びながら笑いあう。中にはこの場には明らかに場違いな剣もある。
「言ったとおりだろ。猿と変わらんからな、あの娘」
「だが、あの空が光ったのはなんだったんだろうな。山のほうから飛んでったように見えたが……」
「関係ねえって。あとは例の連中の到着を待つだけと……」
その中でも立場が上と思しき髭面の男の言葉を遮り、勢いよく部屋の扉が開けられた。
「そ、村長! あ、あのガキどもが!」
「あ? なんだってんだ……」
一同が家の外に出ると、朝方の村は騒然となっていた。
当然と言えば当然だろう。ドラゴンが住み着いた山のほうから、何者かが迫ってきた。またドラゴンかと思いきや、そこに立っていたのは見たこともない外見をした魔動機である。
ましてや、そこから生贄にされた娘をかっさらった少年が顔を出せば騒動にもなるだろう。
「おーい、みんないるかー?」
村の真ん中にある広場。機体の拡声器越しに、アウェルが何事かと集まってきた村人たちに声をかける。
「お前アウェルか!? その魔動機どうしたんだ!?」
「山ん中で拾った」
言いながら機体を降りようとするアウェルに、ゼフィルカイザーがコックピット内のマイクから外に聞こえないように進言する。
『おい、不用意に降りるな。言っては悪いが村の人間はあまり信用できないぞ』
「そんなけんか腰じゃ駄目だろ。
一応同じ村の人間だし、オレも悪いことしたわけだし」
そう言って止めるのも聞かずに膝をついた機体から降りてきたアウェルに、村人たちが詰め寄ってくる。
「お、お前のせいで大変な目に遭ったんだぞ、どうしてくれるんだ!」
「受け取りにきたドラゴンが怒り狂ってたんだぞ!」
「村はおしまいだ……」
絶望感を漂わせながら少年を責め立てるが、しかしアウェルはあっけらかんと言い放った。
「あ、ドラゴンどもなら全部倒したぞ」
「「「……え?」」」
その人波をかき分けて、髭面の大柄な人物が姿を現わす。
「おう、てめえどのツラ下げて村に戻ってきた? その魔動機はなんだ?」
「あ、村長。こいつは山ん中で拾った。んでドラゴンは全部仕留めた」
「ああん?」
その言葉を受け、村人たちが改めてその機体を見上げる。すでに完全に修復された装甲は傷一つなく、鏡のような光沢を放っている。
その姿をまじまじと見ている村人たちは、その人影の接近に気付けなかった。その、くすんだ赤色の髪の少女に。
「で」
声に気付いた時には、村長の首元に白刃が突きつけられていた。
「あたしらの家の惨状はどういうことなのか、ちょい聞かせてもらいましょうか」
時はいくらかさかのぼる。
「おかしい、確かにここに隠しておいたはずなのに……!」
村より幾分離れた場所にて、木のうろの中に首を突っ込みながらうろたえるアウェルの姿があった。
後ろにいるセルシアは不機嫌そのものの顔でその声を聴いている。
『何者かに奪われたと見るのが妥当かと思うが』
「でしょうね。たぶん村の連中でしょ」
「いや、なんで村のみんながそんなことを……」
『人間は欲に目が眩むものである』
念のため、隠してある荷物を先に回収しておこうとゼフィルカイザーが進言した。そして隠し場所に来たら隠しておいたはずのものが無くなっていたという。
(どうにも嫌な予感がしていたがなあ)
『確認したいことがあるのだが。
そのセルシアの父親が亡くなってから、二人はどうやって生活していたのだ?』
「うちの畑で採れたもんとか、あとはあたしが適当にシメてきたもん食べてたけど。
なんていうか、うちの父さん村とは距離置いてたところがあったし」
(あかん、村八分かそれに近い状況だコレ)
そう確信したゼフィルカイザーは、矢継ぎ早に指示を出す。
『私とアウェルで村人を引き付けておくので、セルシア、お前はお前たちの家の様子を見てこい』
緑色のカメラアイと目が合う。セルシアもそれで何となく理解したらしく、
「……わかった。そっちはそっちで頼むわ」
そう言うと、剣を片手にあっという間に森の中に紛れ込んだ。