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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十三話 チートロボに異世界転生(第一章最終話)
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007 第一章 完

 邪龍と化した大魔動機を覆い隠すように地上に金色の太陽が現出し、そしてその邪龍ごと光条となって消え失せた。

 後に残るのはいたるところに火の手の上がった公都の姿だった。


 避難民たちはその光景にただ息をのんで呆然としていた。彼らは公宮務めの者の家族か、財産もなく公都を離れられなかったような者たちがほとんどだ。

 起こったあまりの出来事に何をどうすればいいのかわからないのだろう。

 そんな中、立ち上ったものがあった。

 あちこちが煤けて傷ついた赤い魔動機。人々の盾になりながらここまで皆を誘導してきた機体の上に、平服の少年の姿があった。


『王子様、どうするんだい?』


 隣の青い機体もつられて立ち上がり、ダーザインの上のイルランドへと尋ねた。


「火を消さなければいけません。

 このままでは無事な場所にも火の手が及んでしまいます」


『都ほっといて侯爵領へ逃げたほうが賢明だと思うけどね』


「そうはいきません。曲がりなりにも王子として育ったのです。

 この都を離れられないものたちがこうして数多くいる以上、ぼくが真っ先に逃げ出すわけにはいきません」


 その声を聴いたものたちがいた。避難民の中から声が上がる。


「王子?」


「イルランド王子だっていうのか?」


「あの、侯爵の孫の?」


「何度か町のほうにも顔を出してくださったことがある、あれは王子だ……!」


 イルランド王子が神童だという噂は民衆の間でも広まっていたことだ。

 愚王のために王家の評判は失墜しきっていたが、しかし腐っても王家だ。そこに光るものがあれば人は希望を見出そうとした。

 無論、王家への恨み言の声もちらほらと聞こえる。それも当然のことだ。

 だが、こうしていくらかでも期待の声が上がっているのを無視するわけにはいかない。イルランドはそのように育てられていた。


『ふむ、して、王子様? 近習と二人だけでなにができるっていうんだい?』


「それは……ですが、やれることはやらないと」


『ったく、まだまだその辺は甘いというか青いというか。

 野郎ども、聞きな! ここにおわすのは確かにイルランド王子だ! 

 都はあの邪教かぶれの王女のためにこんなことになってしまったが、まだ王子は残っておられる!

 これより我々は都の火を消しに参る。王子自ら、民のために働こうとしておられる。

 思うところがあるのは当然だろう、しかし、我こそはと思う者は王子の力となってほしい』


 はっきりと通る女の声が避難民たちの間に伝わる。その中から、一人、また一人と立ち上がり、赤い機体のもとへと集っていく。

 その姿を見てリリエラは思う。あの愚王やその愚妹はともかくとして、王家もトメルギアもまだ捨てたものではないのではないかと。

 こうして人心が王子のもとに集うのは、この国を亡ばせまいとしてきた功臣たちの力あってこそだ。

 そして、この王子はちゃんとそれを理解している。


『ま、乗りかかった船だし報酬ももらっちゃいない。私らも手伝うとするさね。

 おい野郎ども行くよ。それと近衛ども、お前らもだよ』


「む、わ、我々がか?」


 鎧姿の兵士たちが狼狽するが、リリエラは有無を言わせない。


『あの王女はこれで反逆者だ。だけどお前らの働き次第では帳消しにできるかもしれない……どうするね?』


 脅しそのものの言葉と声色に、近衛たちもうなずかざるを得ない。その様子を見たケレルトが不意に尋ねた。


『貴殿は一体何者だ? おそらく名のある騎士かとは思うが』


『なぁに。ただのゴロツキどもの頭だよ』


「ご協力ありがとうございます。あの、そういえばお名前は?」


『んー……ま、んのくらいはいいかね。リリエラだよ。

 報酬は忘れてないだろうね』


「はい、しかと」


 たてがみも生え揃わない少年はそうして災害復興に向けて動き始めた。

 後にトメルギア中興の祖と言われる獅子王イルランドは、この日このとき、生涯の片腕を得たと伝えられている。




『あがががが、か、関節が……!』


 ばきばきと音を立てながらゼフィルカイザーが腰をつく。

 ひとまず火の手を避け、いくらか小高い場所まで逃れてきた。町並みの中ではそれを食い止めようと決死で働く姿がある。

 関節もそうだが、最後に受けたエグゼディの必殺技のダメージがかなり厳しい。機道奥義(ライザーアーツ)などと言っていたが、魔動機にはゼフィルカイザーがまだ知らない領域の力があるのか。

 なんにせよ、この修復が終わったら手伝いに行かねば。そう思いながらも、今はそれより優先すべき事項がある。


「アウェル……!」


 機体を降りたアウェルを抱きとめる者があった。セルシアだ。月明かりの中、赤い髪が揺れている。

 全身に受けていた傷があらかた塞がっているのはパティのおかげなのだろうが、ひょっとしたら素かもしれない、そんなことを考えるゼフィルカイザー。


「ちょ、痛い、痛いってセルシア。

 その、さ。オレも勝ったぞ、と、およ?」


 アウェルもいい加減限界だったのか、膝が折れる。

 それを抱き寄せたまま、セルシアも腰を下ろす。ちょうど膝枕の体勢になるように。そして、アウェルを見下ろしたセルシアは嬉しそうに顔をほころばせた。


「うん、よくやった」


「……オレさ。やっぱり、おっちゃんにずっと習ってきたことだしさ。こういう風にしかなれないよ。

 セルシアみたいには、強くはなれない」


 そう呟くアウェル。だが、セルシアは笑いながら首を振る。


「んなことはないわよ。

 あんたは強くなった――癪だけど、認めたげる」


 その一言。なによりも、その言葉が欲しかったというように。


「あ……そう、か。オレ、強くなれたかな」


「うん。たぶん、あたしなんかよりも、ずっと」


「そうか。そうだと、いい、な」



 その手が、力なく落ちた。目が閉じられる。



「――アウェル? ちょっと、アウェル。

 ねえ、アウェルってば? ねえ……!」


 セルシアがアウェルをゆする。だが、目を覚ます気配はない。

 恐れていたことが起こったか。ゼフィルカイザーは慌てて二人に声をかけた。


『パティ、ハッスル丸! アウェルを……!』


「はい! 失礼しますよシア姉、エル兄!」


「手遅れでなければいいでござるが」


 慌ててアウェルの様子を見だす忍者と賢者。


「……白いの。アウェルは、何をしたの」


 顔を上げることなく、セルシアが問う。

 殺気は感じられない。ただ、問うてきている。


『アウェルは、代償を支払ったのだと思う。

 私の、おそらくは本来の力を引き出すために』


 隠しておくこともできるが、それはあまりに不誠実だと思ったから。


『私の力は、乗るものの命を削るかもしれないものだ。

 アウェルはそれに応じた。弁解はしない』


「それは、あたしを助けるために?」


『……そうだ』


「そっか。そうなんだ」


 優しげに、アウェルの頭をなでてやるセルシア。

 しかし。


「あー。雰囲気出してるところ悪いんですが、エル兄、寝てるだけです」


「や、それは知ってるけど。急だったし今までにない疲れ方だったし」


『えええええええ!?』


 なんじゃいそれは、と思わず突っ込みそうになったがギリギリで踏みとどまる。

 見ればアウェルは幸せそうな表情でよだれを垂らしながら寝息を立てていた。

 何事もなかった、そのことにどっと疲れが来るゼフィルカイザーだったが。


「とは申せ、ゼフ殿の言うことも事実かと。

 えらい気が減っておるでござるからな」


『気?』


「魔力の源となる、生命の根源的な力でござるよ。

 他の流派だと魂といったり生命力といったりまちまちでござるがな、それがちと目減りしておる」


 ハッスル丸の言で、一つ得心した。あの金色のフェノメナ粒子が霊鎧装を容易く引き裂いた理由。

 O-エンジンの生み出す出力は、魔力と燃料を同じくしているのだ。あれだけの特攻性を見せたのは、人間が生み出す魔力よりも強力な力を強制的に引き出せるためだろう。


「この程度なら数日すればもとに戻るでござるが、その力、極力使用は控えるべきかと」


『どのみちそのつもりだ』


 世の中そうそう美味い話があるはずもなし。

 しかしそんなことよりもアウェルが無事だったこと。そしてこの少年が成したいことを成せたこと。

 それがゼフィルカイザーには嬉しかった。見れば、膝枕をしたままセルシアも寝息を立てている。

 二人とも疲れていたのだ、そっとしてやるべきだろう。


「でも、ゼフさんが言ったとおり魔族だとして、魔王が健在で軍勢構えてるとして。

 邪神の復活が目的なんでしょうけど、トメルギアでの彼らの狙いはなんだったんでしょうね」


『ヴォルガルーパーを欲していたようだが、それだけではないように感じる。

 それに、謎も増えた』


 ガルデリオンはセルシアの剣を聖剣ソーラーレイと呼んだ。

 聖剣などと名がつくということは勇者絡みのなんらかのものである可能性が高いわけで。


(こいつが勇者? ありえんと思いたい……だが、状況証拠がそろってるしな。しかしそうなるこいつの生まれ素性とかどうなるんだ)


 アウェルと違って背景事情がややこしすぎる。

 それにだとして、勇者であるセルシアを求める黒騎士の思惑はなんなのか。

 四天王と言っていたが、バイドロットのようなものがあと三人もいるのか。

 さらに、それより上の立場と思しき黒騎士の魔王軍での立ち位置は。

 それになにより、ゼフィルカイザーにはどうしても確認しておきたいことがあった。


『パティ。ラグナロクという単語に聞き覚えは?』


「いえ、ちょっと聞いたことないですね。なんですか、それ」


『バイドロットが使っていた機体の名前だ』


 北欧神話の重要単語、みんな大好きラグナロク。その単語を異世界で聞くとは。

 随分と前からあった疑念が、現実味を帯びてくる。


(おそらく、俺以外にも地球、日本から来てる奴がいるな。

 転移か転生かまではわからないが、少なくとも過去には絶対にいたはずだ)


 これまでにも聞き覚えのある横文字は少なからずあった。

 公用語が日本語であることや地球原産としか思えない単語の数々。

 それらから過去に転生者がいたという疑念は持っていた。

 これだけ生態系が異なっていながら似通っている部分があるのはそう考えたほうが妥当だろう。

 それに、エグゼディという機体は自分のこの機体をモデルにしている可能性がある。

 超技術の機体を地元民が地元の技術で再現する、鉄板である。

 あるいは逆にこの機体がエグゼディをベースに自分用に生み出されたのかもしれないが、エグゼディはゼフィルカイザーを始祖と呼んだ。ならば、おそらくはこちらが元だ。

 なにより自分が理解しきれていないこの機体のシステムの数々。

 注文を変に拡大解釈したにしても納得しかねる、パイロットの生命力を食らう動力装置。

 そしてアウェルに接触してきた何者か。

 確実なのは、この機体は自分の注文に際してポンと作られただけのものではないということだ。

 ……無論、これだけ推察を重ねておいてその答えが「たまたまそういう異世界(もの)だから」という可能性も無きにしも非ず。

 80年代から90年代のおもちゃの販促アニメに整合性を求めるのも無粋な話ではあるし。


(リアルなのかスーパーなのか、SFなのかファンタジーなのかはっきりしろよ。伏線撒いておけばいいってもんじゃないぞ、ったく。

とりあえず邪神は倒してやる。だから覚悟しとけよ、あの光る黒幕)


 本当に確実なのは自分は一度死んでいて今生は文字通り余生だということ。

 そしてアウェルやセルシアの人生はこれからだということだ。

 正直この二人の行く末に待ち構えているものを予想すると気が思いやられるが、しかしここまで引きずりだした自分の責任でもある。

 今後のことは後々相談するとして、とにかく今は疲れを癒そう。


(ああ、でも。一応チート性能ではあったんだな)


 ヴォルガルーパーを屠った力を思い出す。

 あの絶対的と言ってもいい力。しかし、それが遠慮なく使える状況だったとしたら自分はどうしていたか。

 なんだかんだでここまで正義のロボットロールをやってきたが、それが無かったら。

 普通に転生して今の機体を乗る側として手に入れていたら。


(何をやらかしてたかわかったもんじゃないな……エルフのときにやらかしてるし)


 初めて出会ったのがアウェルだったからこそここまで自分を律してこれた。

 ゼフィルカイザー(ロボット)を、かつての自分のように羨望の目で見る少年。それを裏切りたくないと思ったからここまでこれた。

 そういう意味では、自分はかつて憧れた存在になれたのではないかとそう思う。


「ゼフさん、どうかしたんですか?」


『いや、なに。夢が一つ叶ったと思ってな』


「ゼフさんに夢なんてあったんですか。どんなんです?」


『まあそう大したことではない。

 正義のロボットになりたかったのだよ、私は』


「いやあ、そのポンコツっぷりで叶ったって言ってるのはちょっとどうかと思いますよ、頭が」


『貴様の頭のポンコツっぷりのほうがよほどどうかと思うぞ』


 そんなことをぼやきながら笑いあう。

 と、びくりとしてセルシアが唐突に目を覚ます。どうしたのか。なにか殺気でも感じたのか。


「あ……忘れてた、まだおなか空いてたんだ。このまま寝たら、死ぬ」


 相も変わらずの平常運転、今更なので仕方がない。

 東のほうが徐々に明るくなっていく。もう夜明けが近いのだろう。

 照らされていく公都、はるか向こうに見える海の煌めきは、ゼフィルカイザーたちの旅がまだ続いていくことを予見させた。

 これにて第一章完結です。ここまでのご愛読ありがとうございました。

 続きの掲載については、あらすじ欄や活動報告のほうで連絡させていただきます。

 第二章も頑張って執筆中ですのでご期待ください。

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