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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十三話 チートロボに異世界転生(第一章最終話)
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005

 ヴォルガルーパーを消滅させたあと、ゼフィルカイザーは再度変形し、元の姿へと戻って行った。


(エネルギー出力は元通り、粒子は空。ついでに過負荷で俺がヤバいと)


 俗に言うスーパーモードの変形と言ってもいろんな種類があるが、ゼフィルカイザーのそれはどうも余剰エネルギーのフローを目的としたものだったようだ。

 莫大なエネルギーを機体内に抱えた反動で全身が熱を持っているような感覚がある。だが、それ以上に不安なのが、


「アウェル、大丈夫?」


「ああ、なんか、どっと疲れた」


 操縦席で額に血交じりの汗を垂らしながら息を切らす少年。今のところは大事ないようだ。

 だが、ゼフィルカイザーとしては全く安心できない。O-エンジンという例の動力機構がアウェルの何をどれだけ削ったか分かったものではないからだ。

 とにかく一度パトラネリゼやハッスル丸に看てもらわねばならない。

 しかし、滞空するゼフィルカイザーを横切って地表に降りていく黒の機体があった。エグゼディだ。

 捨て置くのはまずい気もするが、しかしアウェルのほうも心配だ。だがしかし、


「アウェル。お願い、あいつを追っかけて」


「え、セルシア?」


『おいセルシア。今はアウェルは――』


「無理言ってるのはわかってる。でも、お願い」


 セルシアとは思えないほど真摯な言葉。

 実際、ゼフィルカイザーとしてもあの黒騎士には問い質したいことが大量にあるわけで。


『――危険だと判断したら即座に逃げるぞ。いいな』


「それでいい。あんがと」


(……あれ? 俺、いまこいつに礼を言われなかったか? んな馬鹿な)


 首を傾げつつ、通信でハッスル丸にパトラネリゼを拾って合流するよう指示を出した。




 かくして。ゼフィルカイザーが地表に近づいたあたりでセルシアは機体から飛び出した。

 ただ飛び降りたのではなく、ゼフィルカイザーを蹴って加速してまでガルデリオンへと斬りかかる。

 手にするのはヒビにまみれた己の剣。全霊を込めた一撃はしかし予定調和というように防ぎきられた。

 改めてガルデリオンが手にする黒い大剣を見る。

 刀身はすべてが漆黒のようだが、よく見れば刃にはわずかな金色が見える。柄まで含めた全長はパトラネリゼと同じくらいか。

 セルシアの今の一撃なら、ガンベルあたりの四肢なら両断できただろう。それだけの自信がある。

 それでもどうにもできないあたり、得物に関してはガルデリオンのほうが上だ。

 確認すべき最後の点を確認したセルシアはガルデリオン側の力を利用して大きく飛び退いた。セルシアにとっては一足の間合いである。

 驚愕の表情でセルシアを見つめたガルデリオンは、しかしひとまず剣を下ろしていつも通りの真摯な口調で話しかける。


「セルシア。このようなことになってしまったことは済まなく思う。

 だが、私は成さねばならないことがあるのだ」


「どうでもいい」


 ガルデリオンの謝罪の言葉を、しかしセルシアは一顧だにしなかった。


「ずっと、あんたのことを考えてた」


「――なに?」


 その言葉に、一瞬呆けるガルデリオン。だが、わずかに逡巡した後、


「……ひょっとすると、あれか。私に好意を抱いていると、そういうことか」


 そう返すガルデリオンには、どこか戸惑ったような様子があった。

 実際、セルシアほどの美少女にそう言われれば、喜ばない男も、また平静でいられる男もそうそういるまい。


『あの、ゼフさん? これマイク切っといたほうがよかったんじゃ?』


『すまんもう遅い』


『いやあ出歯亀は楽しゅうござるなあ』


 通信回線でその音声をやりとりするゼフィルカイザーと他二名。

 今の今までの鉄火場でセルシアがいろいろと堕ちていたことをすっぱり忘れていたゼフィルカイザーは集音機を起動したことを心の底から後悔していた。

 だが、その言葉を聞きとめたにも関わらず、アウェルは真剣な表情でその光景を見つめていた。


『あ、あー、アウェル? 大丈夫か?』


「ちょっとだるいだけだって。お前らこそどうかしたのか?」


 アウェルは気にした様子もなく、息を落ちつけながらモニターを見つめている。

 その目線の先では、戸惑うガルデリオンにセルシアが近づいていく。


(……まさか恋愛感情というものを理解してないとかそういうやつか? あるいは初めからそういう風に見ていないとか)


 セルシア側はそうだとしてもアウェルがそうだとは考え難い。となるとセルシアがガルデリオンになびいていると理解していないのか。


「ふむ。気持ちは嬉しく思う。が、こうしたことは段取りを踏むものだ。そうしたものを飛ばすのは品がないぞ。

 こうしたことはお互いの気持ちを考えてだな」


 この状況下で妙に説教くさいことを言うガルデリオンに、しかしゼフィルカイザーは僅かな違和感を感じた。

 ロボットアニメでイケメンの悪役を腐るほど見てきた経験が、眼前の黒騎士は何かが違うと告げている。キザな類ではないが、堅物というにも何かが違うような。

 一方、セルシアは穏やかな様子で微笑んでいた。


「うん。あたしも、これだけ他人のことばっかり考えてたのは初めてだわ」


 そんな応答に、どことなく空気に甘いものが混じった気がした。だが。それは、そんな気がしただけだった。

 言葉とともに、セルシアはその剣を正眼に構えた。

 その姿に、ガルデリオンもゼフィルカイザーも息をのんだ。

 アウェルだけが何事もなかったかのようにその姿を見つめている。


「……なにを?」


「まああれよ――立ち会え。次はあたしが勝つ」


「……私のことばかり考えていたというのは?」


「どうやったら勝てるか考えてたに決まってんでしょうが」


 あちこちに火の手が上がる中、その場全員の心の中に冷たい風が吹き抜けた。


『……ああ、うん。そうだよね。あの蛮族がそういうのにコロっといくとかないよね?』


『ゼフさん微妙に口調がおかしくなってらっしゃいましてよ』


『貴様もだポンコツ、紛らわしい報告をしやがって……!』


『なんですかこのポンコツ、早とちりしたのはそっちでしょうが!』


『あー、パティ殿お静かに』


 通信越しにグダる一方、現場では。


「……どったの?」


「いや、なに。所詮山猿は山猿に過ぎんとな」


 仮面越しに顔を抑える黒騎士と呆然とそれを見つめるセルシア。ゼフィルカイザーは同情の涙を禁じ得なかった。


『あんだけクソ真面目な対応しといてこれって、なあ……?

 というかアウェル、お前ひょっとしてわかってたのか?』


「セルシアがただ負けて終わるわけないじゃん」


 言われてみればドラゴンの時も似たようなものだったわけで。

 もっともあれは別の個体だったからとばっちりもいいところだったのだろうが。


「んじゃ、行こうか」


 白刃を閃かせ、セルシアが疾駆した。




 如何に意表を突かれる展開に襲われようが、その程度は隙にはならない。

 鍛えあげた戦士であるガルデリオンはその一撃を食い止める。しかしその一撃でセルシアが先回とは明らかに違うことを即座に理解した。


「ぐ……なぜ負けたのか洗いなおしてきたと、そう言うことか!?」


「そういうことよ」


 出会いがしらの一戦でガルデリオンがやったのは理屈そのものは単純である。

 己に意図的に隙を作り、そこに攻撃を誘い、それを受け流す。そういうことをやっていたのだ。

 言葉にすれば容易く思えるがそれは並の技量の者ができることではない。あからさまではない隙を見せるというのにどれほどの鍛練と、なにより実戦経験がいるか。

 だがセルシアはものの見事にそれに引っかかった。

 超人的な身体能力と野生の勘を持つ一方、父親以外に同格以上の力を持つ相手との対人戦闘の経験のないセルシアは、そのあるかないかの隙を見出してはそれに釣られていた。

 セルシア自身に優れたセンスがあったがために、余計にひっかかりやすかったということもある。

 ならばどうすればいいか。単純なことだ、隙をついて裏をかかれるなら突かなければいい。

 相手のもっとも守りの硬いところを全力で叩きのめす。セルシアが今やっているのはそれだ。


「だがこの威力は……!」


 常人が同じことをやったところでいなされて返す刀で終わりである。常人に限ったことではない、達人であろうとそんなことをすれば命取りだ。

 だが相手は化外の者と見まごう存在。直に受ければその衝撃を殺すので手いっぱいで受け流せるような代物ではない。

 むしろ、受け流しようがない剣戟ばかりを叩き込んでくる。


「とはいええらく剣が鈍っているぞ!」


「そりゃお互い様でしょうよ!」


 双方、全力には程遠い。ガルデリオンはヴォルガルーパーとの長時間の戦闘で、セルシアはヴォルガルーパーに魔力を吸われ続けたせいで消耗していた。

 だが、だからといってセルシアにはここで喧嘩を売らない道理はなかった。

 否。



「本当はさ。負けといたままでもよかったのよ」



 ぽつりと。ゼフィルカイザーが拾えない程度の呟きをセルシアは漏らした。

 僅かな鈍りをついてガルデリオンが攻勢に出る。

 大振りな刃がそれに見合わぬ速度で旋風を起こし、セルシアを追い立てた。

 鉄槌の重さを備えた斬撃の雨をセルシアは受け続ける。そのたびに剣に刃こぼれとヒビが増えていく。

 それで気づく。ガルデリオンが狙っているのはセルシアではなく、剣だ。武器を砕けば折れると踏んでのことだろう。

 させまいとしたセルシアは受けを完全に捨てて剣閃を避けることに力を裂く。だが完全に避け切れるほど甘い相手ではない。

 ならばどうすればいいか。セルシアは知っていた。

 向かってくる刃を迎撃するのではなく、その黒刃に己の白刃を添えるようにして、その軌道をわずかにずらす。


「なに……!?」


 ガルデリオンは己の剣が受け流されたことに驚愕した。

 そのまま連携につなげれるような流し方ではなく、技としては稚拙。

 しかしそれまで剣を相手に叩き付け押し切るだけだったスタイルがここにきて急に変化した。

 直線的に刃を叩き付けるだけだったのが、柔らかさと軽やかさを備えだす。

 一つ一つの動きは達者ではあるが尋常の域である。

 だが、それを破綻なく既存の動きに組み込んでくるセンスは常軌を逸している。

 明らかにアドリブでありながら、初めからその型を修練していたかのような違和感のなさ。

 刃を合わせること自体を減らし、鋭く避けたかと思えば舞うように剣閃を逃れる。



「負けたんだからさ。

 あたしよりも強い、あんたのもんになってもよかったのよ。

 割と、今でもそう思ってる」



 虚実まで使うか。ガルデリオンは一瞬、そう思った。

 だが、合わせた剣から伝わってくるのはまやかしめいたものではない。

 その言葉はガルデリオンというよりは、己に向けた物のように思えた。

 初対面の時。一番最初に合わせた剣には純然たる殺意だけがあった。

 そこから先の剣にはひたすら焦りと苛立ちばかりがあった。

 城で暴れたときには、わずかながらの諦めのようなものがあった。

 だが。今この剣から伝わってくるものは底の見えない迷いだ。

 なのに。何故迷いのある剣がここまで鋭いのか。


「けど。そしたら、あたしがアウェルの何に負けたのかわかんなくなるから。

 だから、あんたに負けたままじゃいられない」


 これだけの領域の戦いだ、お互い無傷ではいられない。

 鎧を着こむガルデリオンに対してセルシアはドレスをはためかせるのみ、この斬撃の嵐の中では丸裸に等しい。

 玉の肌には幾筋も赤い線が走り、髪は乱れ汗と血にまみれたその姿は、しかし、


(――綺麗だ)


 生まれてこのかた。

 これほど美しいものをみたことがないというように、ガルデリオンはその姿に見惚れた。




 一度目で負けて。

 二度目も組み伏されて。

 なにか腑に落ちてしまったものがあった。

 悔しがる以上に、自分の体の奥底に去来したモノがあった。

 セルシアはそう初心でもない。嫁に行ってもおかしくない年齢だし、子供の作り方も理解はしている。

 森をぶらぶらしていて動物の交尾シーンに出くわして、気配を殺しながらしげしげと眺めていたことも何度か。

 だけに、自分よりはるかに弱い村長の息子がそれを強要してきたときは、格の違いを思い知らせるために文字通り叩き潰してやったわけだ。

 自分より弱い奴が自分を組み敷こうなどおこがましい。

 だが、自分より強い相手が現れたら? それが、目の前に現れた。

 どうにも認めたくないものがあったからつぶさに観察し、再戦した場合の勝ち筋も見出した。

 だがそれ以上に、自分より強い男に対してどうしようもなく疼くものがあった。


「あたしは、強い奴が好き」


 それだけは確信できた。

 だけれど。

 アウェルが自分を助けに来たとき。その少年を認めてしまったとき。同じような疼きを味わった。

 自分が負けたときの感覚。だがアウェルの何がセルシアを打ちのめしたのか、セルシアにはまだわからない。

 それを理解するためにこそ、


「だから。あたしも、強くなりたい」


 望みを口にしてさらに動きを調整していく。

 実際のところ、自分で出力調整をしていたガルデリオンと違い遠慮なしに魔力を食われていたセルシアのほうが疲労が濃い。

 腕にも力が籠らない。だから、最低限の力で剣を振り回せるように。

 技自体は既に己の中にあったもの。幾度となくセルシアを打ちのめしてきた父の兵法。

 さほど巡りがいいわけでもない頭の中に焼きついたその技巧を己の動きへと取り込んでいく。

 そして、だからこそ理解できる。

 父の剣には今の自分とは及びもつかないほどの苦悩があった。

 最後まで黙して語らなかったあの人の過去に何があったのかはわからない。

 だけれどセルシアをここまで育て、鍛え上げた苦悩の中には、確かな愛情があったのだ。

 砕けていく刃の感触。

 僅かに霞めた斬撃が肌を切り裂いていく。

 全身が熱を持っていて自分がまだ立っているのかもわからない。

 だが、右上方から迫り来るものを感じた。

 だから、残されたありったけでその一撃を迎撃した。



「――――」



「――――っ」



 からん、と音を立てて、両断された仮面が地面に転がり落ちた。

 そしてわずかな間を置いて、黒の剣が地面に突き立った。

 それを確認したセルシアは、崩れ落ちそうになる体をどうにか押し留めた。体を折りながらも剣を杖代わりにどうにか立ち続ける。

 そうして気づいた。


「あ、なに、これ?」


 刃が銀色ではない何かに代わっていた。僅かに残る破片から、ミスリル鋼の刀身の中にその刃が隠されていたのだと理解する。

 この黒煙燻る夜空の下、その剣だけは陽光のような暖かな光を保っている。


「どーりで、折れないと思ったら……どったのあんた」


 目の前のガルデリオンは呆然とした表情でセルシアの剣を見つめている。ある程度予想はしていたが、綺麗な顔だ。

 セルシアの斬りこみが浅かったのか傷がついている様子はない。端正な顔立ちの中、右の紫色の瞳と左の真紅の瞳を見開いて陽だまりの剣を、ついで、弾き飛ばされた己の剣に目をやる。

 黒の剣がその刃先から同じような光を漂わせていた。


「イクリプスが共鳴している――聖剣ソーラーレイ、だと。

 セルシア。その剣は、どこで手に入れた」


「あん? 父さんの形見よ。それがどうしたのよ」


 その言葉を聞き届けたガルデリオンは、イクリプスと呼んだ己の剣を拾い上げ、鞘に納める。


「今日は俺の負けだ。だが――セルシア。誓おう。

 俺は必ず、君を手に入れる」


「あら情熱的。ま、お互い万全には程遠かったわけだし。

 次は万全でやりましょう。あたしが欲しけりゃそんとき勝ってちょうだい」


「――次は俺が勝つ。忘れるな」


 炎がその顔を赤く照らす中、隠しきれない疲労の色を纏いながらも、ガルデリオンはそう宣言した。

 やはり、この男はこの男で上玉だと、そんな風に思うセルシアだったが。


「まあいいんだけどさ。あ、そこ危ないわよ」


「――!?」


 即座に飛びのいたところを白い機体の拳が打ち付けた。


「一つ追加しときましょうか。

 次は万全で。ただしそっちがこの場から逃げられたらってことで」


「なっ……くそっ! この山猿め……!」


 全力でエグゼディへと走って行くガルデリオン。

 それを追うことはせず、ゼフィルカイザーは、というよりアウェルはセルシアを心配そうに見つめる。


『セルシア、大丈夫か?』


「あー、なんつうか人生今までで一番疲れたわ。もう死ぬって」


 へたり込みそうになりながらも、体を倒すことはせず。


「あたしは勝ったわよ」


『ああ』


「あたしの戦いは見た?」


『しっかりと』


「じゃ、アドバイス。

 あたしの真似はもうすんな。父さんの教えを思い出しなさい」


『――わかった』


「危ないことするなとも無理するなとも言わない。

 次は、あんたが勝て」


『うん――ありがとう、姉ちゃん』


 二人にだけ通じる何かを交わしあって、白い機体は黒い機体へと挑みかかる。

 それを、セルシアは楽しそうな目で見つめていた。


「……それはそうと。腹減ったわね。いかん、マジで死ぬ」

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