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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十三話 チートロボに異世界転生(第一章最終話)
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004

 起こった変化は唐突であり、しかしゼフィルカイザーには予見できていたものでもあった。

 両腕の装甲が展開しせり出した透明なフィンが青い光を放ちだす。それと同様の機構が全身のあちこちで展開していく。

 両肩、パックパック、両足の脛とその裏、稼働の邪魔にならない範囲でフィンが展開し同様の輝きを帯びていく。

 さらに胴体の中央、粒子炉が黄金色に輝き、その周りの装甲が元々入っていたモールド通りに開いていく。

 最後に両手の増加装甲同様、フェイスマスクがより頑健なそれに覆われ、カメラアイもバイザーがカバーする。

 ゼフィルカイザーの見る画面には振り切って限界の見えなくなったエネルギーゲージと粒子ゲージ、そして視界の中央にタイマーが表示された。


【03:00:00】


 三分からスタートしたそれはどんどん目減りしていく。

 今の己の中にたぎる全能感と引き換えに、アウェルの何がどれだけ削られるのかわかったものではない、とっとと済ませるに限る。


『バリア、最大展開』


 空を覆い尽くさんばかりに広がった黄金の粒子光の壁。それが邪炎を完全にさえぎった。だが、それだけにとどまらない。

 壁は邪炎の塊を包み込んでゆき、ゼフィルカイザーの手の動きに応じてどんどん小さくなっていく。

 加速度的に縮退した邪炎はゼフィルカイザーの両手の中で完全に消滅した。




 その光景は公都を離れた場所にいる避難民たちの目にもありありと映った。荘厳な青い輝きと、黄金色の粒子光を纏うその姿を。

 中には涙を流して拝むものもいる中、白髪の少女は嘆息した。


「ほんと、ゼフさんったら派手好きなんだから」


 通信機はハッスル丸に渡して声が届くはずもない。

 だがパトラネリゼは握りしめた拳を上げて高らかに叫んだ。


「やっちゃいましょう、ゼフさん!」


 少女の声が届いたかのかどうか。青い流星が星屑を散らして突撃した。




 セルシアという少女は魔動機が心底嫌いだった。

 別に強い武器に頼ったら強くなったつもりでいるのが嫌とかそう言うことではない。そういう話なら乗る前に仕留めれば済む話であるし。

 もっと単純な話だ。

 アウェルに魔動機の訓練をしているとき、父親が朗らかな表情を浮かべていたこと。それがひたすらに嫌だった。

 アウェルに父親を取られた、とは思わなかった。

 アウェルも、魔動機のこととなるとそれにかかりっきりになるからだ。

 結果、父親と弟分を魔動機に取られた、と彼女は思った。

 別に昔の話だし、今となっては割り切ったこと。そう思っていた彼女の目の前に、それが現れた。喋るロボット。村で微妙な立場だったアウェルにとっての初めての友達。

 微妙な関係とは言え、それでも父親であった人を失ったセルシアに残されたただ一人の家族を奪って行こうとする奴。それが憎くて仕方なかった。


 アウェルはずっと自分の後ろをついてくる存在だった。

 自分と仲がいいせいでいじめられることもあったし、そのたびに助けた。

 だけれどこの白いのが現れてから、平気で無理をするようになった。


 それはいけない。

 アウェルは自分とは違う。

 アウェルは弱いのだ。

 無理をしたら死んでしまう。

 そうなったら自分は一人だ。

 それは嫌だ。考えたくもない。


 そう思っていた。だけれど。


「ちっ、あの野郎滅茶苦茶しやがる!!」


『ならこっちもあいつを滅茶苦茶にしてやろうじゃないか……!!』


 両手に黄金の粒子光が収束し巨大な刃を形成。襲い掛かってきたヴォルガルーパーの腕を容易く受け止め、二本の刃が鋏よろしくその腕を両断する。

 たてがみから邪炎の火線が追ってくるが避けるまでもなく金色の粒子の壁がそれを防ぎきる。

 セルシアにもわかるほどゼフィルカイザーの性能は圧倒的だ。

 だが、それを扱うアウェルには調子づいている様子も油断した様子もない。

 真剣に、相手を倒すために、そして、


(あたしを、守るために?)


 そのために戦っている。

 思えば、魔動機の特訓をする父とアウェルの姿を真剣に見たことがあっただろうか。

 自分はただ妬んでいただけだ。

 だが、二人とも真剣な表情で取り組んでいた。それは自分が剣を習っているときと同じではないか。

 剣を習う自分をアウェルは羨ましそうに見ていたが、アウェルはセルシアのようには考えなかった。自分にできることをひたすら伸ばしてきた。

 それに。アウェルは本当に、途中まで手を借りたとはいえ身一つで自分を助けにきたではないか。

 アウェルは弱いからそんなことはできないだろうと一方的に見切った、自分の予想を超えて。


『エネルギーも粒子も有り余っているというのはいいことだなあ!! フェノメナ粒子ミサイルだ、とくと食らえ!!』


 励起状態のフェノメナ粒子を圧縮封入したミサイルが八発、普段のミサイルとは比べ物にならない速度で飛来しヴォルガルーパーの瘴気の装甲を消し飛ばし、その下の装甲まで抉り取っていく。


「お前なんでそうハイテンションなのさ……!!

 あ痛ッ、セルシア!?」


「……えっ? な、なに?」


「ちょい傷がまた開いたから抑えてくれ!!」


 はじけ飛んだモニターの破片で切った額の傷からまた血が滴っていた。セルシアは迅速に対処。ドレスの裾を破ってそれでアウェルの頭を縛る。

 ちらりと見えた表情は、しかしこちらを見てもいない。ただ覚悟の籠った目で前を見据えている。

 思えば、実戦の最中のアウェルを見るのはこれが初めてだ。


(あ……これ、なに?)


 その姿に、体の奥にうずくものがあった。

 それはつい最近も味わったことがあるもの、自分を打ち負かした、自分より強い相手に感じたのと同じものだ。

 自分のことばかり見ていた少年が、自分を歯牙にもかけていない。

 もっと言うと顎で使った。

 怒ってもいいくらいなのに、そんな気は湧いてこない。

 アウェルはセルシアより弱い。

 それは絶対の事実だ。だけれど。じゃあそんな弱い相手に助けられた自分はなんなのかというと。

 それに、じゃあ自分を助けに来たこの少年が本当に弱いのかというと。


(~~~~~ッ!?)


 顔が熱くなる。恥ずかしさのような嬉しさのようなそんな感覚。

 およそ初めての感情が、セルシアを襲っていた。

 言葉にできない感覚に身悶えしながら、それでもセルシアは一つの納得を得た。

 自分を打ち倒した相手と同じものを感じさせるこの少年は。


(たぶん。アウェルは、強くなったんだ)


 それも、腕っぷしとかそういうことではなく。

 セルシアがまだ言葉にできないようなところで。


 そして同時にセルシアは敗北感を感じていた。

 自分の一番身近にいたこの少年を強くしたのはセルシアに対するなにかのためなのかもしれないが――それを引き出したのは紛れもない、この得体のしれない機械なのだということに。


『ヴァイタルブレード回収完了、やれ、アウェル!!』


「おうよ!!」


 地面スレスレに飛んで落ちていたヴァイタルブレードを回収したゼフィルカイザーがレールガンを構えると同時、もう再生成されたミサイルを発射。張りなおされた霊鎧装を容易くぶち抜いたところに本命のレールガンが発射される。

 四発、セルシアが拘束されていたあたりを目がけて寸分たがわず叩き込まれる。

 一撃目で外郭が砕け、二発目で内部構造が千切れ飛び、三発目がコアのあった部屋を砕きつくして四発目は背中へと突き抜けた。

 サブのコアが損傷したのか、ヴォルガルーパーの両腕が力をなくして地面に墜落し、機体も傾いていく。


『ひが、ぎいいいいいい!?

 なんなのだ、なんなのだ貴様はああああ!?』


 絶叫と共に瘴気の装甲が泡立ち、膨大な量の砲撃となってあたりへと飛び散った。

 ゼフィルカイザーは鋭角な軌道を描いて避け切るが、しかし無差別にばら撒かれる邪炎の塊は残る町並みも容赦なく消し飛ばしていく。

 駆動系が破損してもこの有様だ、倒れ伏しても瘴気が尽きるまで破壊をまき散らすのは目に見えている。

 こうなれば。


『時間ももうない、アウェル。私の最終兵器を使うぞ!!』


「あの時のか!? でもあれをこんなところで使ったら――」


『お前を信じている。だからお前も私を信じろ……!!』


「っ! ああ、んなもん今更だろ!!」




 ゼフィルカイザーの全身から放たれた膨大な量の金色の粒子が檻のようになってヴォルガルーパーを拘束した。傾きつつあった邪龍は、倒れ伏すことさえできなくなる。

 ヴォルガルーパーは必死になって炎弾を飛ばすがすべて光壁に阻まれていく。その機体の中でバイドロットとハクダは見た。

 上空、欠けた天津橋を背負う死神の姿を。

 胸部のフェノメナ粒子炉がせり出し、今ヴォルガルーパーを拘束するよりもなお膨大な量の粒子があふれていく。


『ギャザウェイッ、ブラスタァアアアアアアア!!!』


 だが。それをゼフィルカイザーは両手でもって押しとどめた。

 両手の粒子兵装と全身の重力制御機構でもってフェノメナ粒子を極限まで圧縮していく。

 金にも青にも翠にも見えるエネルギー塊をゼフィルカイザーは振りかぶり、


『サァンシャァアアアアインッッ!!!』


 全力でもって投擲した。同じ粒子だからか光壁をすり抜けたエネルギー塊はヴォルガルーパーに直撃し、その破壊力を余すところなく叩き込んだ。

 霊鎧装が秒と持たずにはじけ飛び、全身を構成する再生能力を持った装甲も原子の塵へと砕け散っていく。


『ひ、な、なんだ!? 炎でも雷でも魔力でもない、なんなんだこの力はああああ!?』


『ありえない、あってはならない……!!

 わたくしの思い通りにならないことなんて、この世にあってはならないのに……!』


 そんな叫び声すらもこの世に残すまいと、星の輪すら穿った破壊力は邪竜に変貌させられた大魔動機を消滅に導いていく。


 トメルギアの歪さの原因ともいえる存在。

 魔族を呼び込んだ元凶ともいえる存在。

 かつての人々が希望を持って未来に託し、しかし災いしか成せなかったもの。


 真実を知らないゼフィルカイザーはしかしいつものお約束から、朽ち行く鋼のウーパールーパーがそんな存在だったのだろうとあたりをつける。

 そう思った時、ゼフィルカイザーはどうしようもなく同情の念が湧いた。

 だが、結局道具は使う者次第で聖にも邪にもなるものだ。

 己が、己の友次第で神とも悪魔ともなりかねない力を生み出すのと同様に。


『お前は電子レンジに入れられたダイナマイトだ、ってな。

 せめて安らかに眠りにつくといい、この国の、おそらくは守護神よ』


『ぎゃあああああ!!』


『――お前らには同情せん。

 フェノメナ粒子の閉鎖空間の中、塵も残さず分解するがいい……!!』


 無粋な叫びにそう言い放ったのを最後に、閃光の爆裂が天へと解き放たれた。

 有り余る破壊力が天へと散って行く。

 その光条は、大陸全土から見渡すことができたという。




 その光景をガルデリオンは驚愕の連続と共に見届けた。

 驚異的な自己修復能力。

 無敵とすら思える防御障壁。

 ガルデリオンの目をもってしても見切るのが困難な速度と慣性を無視したマニューバー。

 霊鎧装を容易く引き裂き、魔法文明全盛期の技術で作り上げられた魔道合金の複合装甲を砕いていく圧倒的破壊力。

 そしてなにより、最後に見せた尋常ならざる必滅兵器。

 稼働するヴォルガルーパーを見たとき、畏怖とそれにも勝る羨望を覚えた。

 魔法文明の技術。今の世界から失われた力。己が手に入れなければならないもの。

 だがあの青い陽炎と金色の星屑を纏う機体はそれを遥かに凌駕する力を有している。


「巻き込まれまいと距離を取ったのは正解だったか……しかし、これではヴォルガルーパーは」


 見下ろした先ではヴォルガルーパーがまき散らした炎が市街を焼き、煙が渦巻いている。低温と高温の空気が入り交ざっているせいで大気の様子も不安定だ。

 爆心地には巨大なクレーターと僅かばかりの残骸が飛び散るだけだ。一体どういう力を使えばあれほどの破壊を成すことができるのか。

 思い起こされるのは一月半ほど前にみた光景、天津橋を穿った謎の光。セルシアが村を出た時期を考えれば、その関係は自明の理だ。


「……む、あれは?」


 その時、巻き起こる黒煙の中にちらりと動くものを見つけた。人ではない、魔動機サイズの何かだ。


「ヴォルガルーパーはしくじったが、どうにかあちらは回収できそうか」


 それだけ呟いて、地上へと舞い降りていくエグゼディ。

 すれ違ったゼフィルカイザーは既に青い光も粒子光も収まっており、普段通りのトリコロールカラーの形態に戻っていた。

 その姿を、エグゼディの眼光は確かにとらえていた。




 もはやマッチ一本ほどの火すら纏わないラグナロクが地面に落着し、その機体を分解させていく。


「ひ、ひ、終わりだ……何もかも……!

 ごふっ、くそ、瘴気が足りない……!」


 転がり落ちてきたバイドロットは血を吐きながら、生気の失せた目でわめく。

 公都に満ちていた瘴気は根こそぎ吸収し、ヴォルガルーパーごと消滅してしまった。瘴気の祓われたこの地の大気は、バイドロットにとっては深海と真空の苦痛を同時に味わうようなものだ。

 その目の前に立つものがあった。あちこちが擦り切れてまたもボロ布同然になった衣服をひっかけているハクダだ。


「は、ハクダ……! 頼む、助けてくれ……! お前を抱いていないと俺は……!!」


 這いずってその足に縋り付こうとするバイドロット。しかしハクダは鋭いローキックでその顔面を蹴り抜いた。

 苦痛も忘れて呆然とするバイドロットに見下し切った目を向けたハクダは、しかし途端に怯えたような表情を浮かべ、


「ひっ、な、なんですのあなた!?」


 こんなことをほざきだした。

 長年の付き合いである。ハクダの企みを瞬時に読み切ったバイドロットは窒息しそうな苦悶を怒りで塗りつぶし、凶相を浮かべて立ち上がった。


「ハクダぁああああ!! てめえ、俺を見捨てるつもりか……!?」


「し、知りませんわあなたなど!

 ああ、ここ数年何をしていたのかまるで記憶にない……!

 こ、ここはまさか公都? あ、あなたがこんなことをしたというのですか!?」


「俺とお前でだろうがよ……!

 俺に所業を擦り付けて逃げ切るつもりか、このアマ!」


 その言葉に狂態をひそめたハクダは、普段の痴態からは思いもつかない、酷薄な冷笑を浮かべた。


「……ええ。だって、あなたはもうわたくしに差し出せるものなど何もないでしょう?

 ああ、違いますわね。その命でもって、わたくしの所業を禊なさいな。この役立たず」


「くひ、ふひひひひ……!!

 いやぁ、お前ホントいい性格してるわ。抱き心地だけは最高だったから生かしておいてやったがもういい。テメェが死ね……!!」


 焔色の篭手を纏う左手をハクダに向けて差し向ける。だが、それが何かを成すことはなかった。

 左腕が宙に飛び、黒い影がそれをかっさらう。ガルデリオンだ。抜き打った剣には血のり一片つけずにその腕を両断し、


「あ……ああ!? 俺の、俺の腕! 俺の力が!!」


「これは貴様には過ぎた代物だ」


 返す一刀でその体を両断した。


「あ……俺の食い物、俺の酒……俺の、おん、な……」


「地獄の底で魔界の民に詫びろ、下種」


 息絶えたバイドロットを見ることもなく手にしたその腕から篭手、ラグナロクの顕現器を剥ぎ取り中身を放り捨てるガルデリオン。

 ちらり、と見たところにはこの惨状でも色香を漂わす魔性の女。


「あ、あの。わたくしはこの男に操られて」


 この期に及んでしなを作って媚を売ることを忘れない。本当にこれが魔法王国大公爵家の正統を継ぐ者なのか。

 失望を露わにしながら、ガルデリオンは冷淡に告げた。


「どこへなりとも逃げるがいい。だが、貴様の所業は多くの人間が目にしている。

 この国の、この大陸のどこにも、貴様の居場所はあるまい」


「そ、それでしたらどうか騎士様」


 縋り付こうとするハクダを一瞥すらせずに、待ち構えているエグゼディへと歩いていくガルデリオン。

 だが。背後、否、上方に突如現れた膨大な殺気に、反射的に剣を抜き打った。

 まるで巨竜の一撃でも受け止めたかのような反動、覚えのある衝撃がガルデリオンを襲う。

 白刃を煌めかせた赤い髪の少女は歯を剥いて笑っていた。

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