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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十三話 チートロボに異世界転生(第一章最終話)
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003

 戦闘の再開を飾ったのは青い流星が掲げる黄金の輝きだ。

 両腕の機構を展開させ、黄金の光を掲げたゼフィルカイザーがその粒子光をヴォルガルーパーへと叩き付けた。

 ただの一撃。

 それだけでヴォルガルーパーの胴体前面の霊鎧装のほとんどが消し飛んだ。


『ひ、な、なんだあああああ!?』


『なんだ、あの力は……!?』


 バイドロットとガルデリオンがそれぞれ驚愕の声を上げる。

 リリエラがちらりと言っていたが、霊鎧装を魔力を用いない手段で貫くことは不可能ではない。

 だがいかなる手段を用いるにしても膨大なエネルギーを要するのか絶対だ。

 なにより、ジビルエルの霊鎧装でもゼフィルカイザーのレールガンでも打ち抜くことができなかったのだ。この極厚の赤光をどうやって打ち破ったというのか。




『……えっ』


 誰より驚いていたのはゼフィルカイザーだ。これまで散々恐れてきた霊鎧装が、寒天か何かのように砕けちったのだ。


『通じた、だと。いや、しかし……もしや、O-エンジンの力によるものなのか?』


「言ってる場合か、早くセルシアを!」


 あまりの効果に戸惑うゼフィルカイザーに対してアウェルに迷いはない。即座に腹部の隔壁へともう一撃を見舞う。

 だが、それが届く直前に再度霊鎧装が展開。これも砕くが、その時には両手の粒子光は既に切れている。


『アウェルいったん離れろ!』


「くっそ!」


 全力で飛びのいたところをヴォルガルーパーの腕が薙ぐ。粒子のメーターは今の二撃でごっそりと減っていた。

 粒子の回復速度は通常時は無論のこと、トライアル時と比べてももはるかに上だが、それでも無策で連撃できるわけではない。


『確実に連撃できるのはあと二、三回か……くそ、せめて霊鎧装を再展開させずに済めば……!!』


 その隣に黒い機体が横付けた。


『難しい。お前が言う通りなら奴は周囲の熱量を自身の力に変えているのだろう? それをなんとかできなければ……』


 黒騎士の声にも焦りと疲れが見えていた。

 実際の時間にして見れば大したことはないはずなのだが、しかしこの三者にとっては各々の人生の中でもトップクラスに濃密な時間だ。

 これ以上持たせるのは困難。そう思ったところに、


『あー、忍者、忍者の出前はいかがでござるかー?』


『バラしてセイウチの餌にすんぞこのペンギン、何の用だ!?』


『むむむ、拙者の本能がその言葉に異様な恐怖を感じておる……冗談はさておき。

 貴殿らが気を引いている間にこちらでも小細工をさせてもらったでござる。精々一、二分ほどであるが霊鎧装の再展開を防げるかと。

 ――ただ、そのためには一度アレを一度に剥ぐ必要があるでござる』


 それだけでゼフィルカイザーは作戦を構築した。他に打てる手もない、あの忍者はできないことは言わない奴だ。


『黒騎士、ほどほどに追いつめてさっきの攻勢防壁をもう一度撃たせるぞ』


『なに?』


『うちの仲間が霊鎧装の展開を防ぐから一度全部剥げとさ。じゃあ行くぞ』


 返事を待つことなく飛んでいくゼフィルカイザー。他に策もなしと、エグゼディもそれに倣う。

 腕を乱暴に振り回すヴォルガルーパーだが、やはりその二機を捕えることはできない。

 ただ飛ぶだけの機体ならよかっただろうがそれぞれ乗り手の腕が別格だ。

 そして粒子を温存しているゼフィルカイザーは手出しはしないが、エグゼディはヴォルガルーパーからすればちくちくとではあるが霊鎧装を削っている。

 気になるのは攻撃している個所だ。ずっと頭部を重点的に狙っている。それが原因なのか、バイドロットが苛立った声を上げた。


『貴様ら、ちょこまかと……!!

 いいだろう、この一撃で葬ってくれる……!!』


 ぼこり、とヴォルガルーパーの霊鎧装が泡立つ。来る。


(短気なことだ、展開が早くて助かる……!)


 再度、地上に太陽が爆現した。

 灼熱が大気を抉り、大地を融解させていく。最初の一撃よりも明らかに大出力のそれは無人区画を通り越して市街地にまで及んだ。爆熱の余波が、大地を舐めていく。


『くひ、くひひひいいいい……今度こそ、今度こそ殺ったぞ!!』


 溶鉱炉の中心にたたずむヴォルガルーパーに挑むような者はどこにもない。

 だが念には念を入れて霊鎧装を再展開しようとして、


『……? 再展開できないだと? 熱量吸収も働いていない?』


 あたり一面が溶鉱炉のまま。即座に冷え固まらない。どういうことか。

 首を傾げたバイドロットを、上方からの衝撃が揺さぶった。何事か。

 見ればヴォルガルーパーの頭上でエグゼディがその刃を深々と突き立て、装甲を引き裂き、こじ開けていく。ラグナロクが鎮座する操縦機構へのハッチ部分を。


『見つけたぞバイドロット……!』


『ひっ、こ、このままでは……!』


 そう判断したバイドロットはその腕で頭上のエグゼディを叩き潰そうとし、だがその視界を白光が染め上げた。エグゼディの背後で炸裂した閃光弾のせいだ。

 ブースターを全開にして急上昇し、攻性防壁の威力の外へとのがれていたゼフィルカイザー。

 直上で反転し、頭に閃光弾を見舞いつつ一路、腹部の隔壁を目指す。

 霊鎧装が展開する気配は相変わらずない。だがそんなに持つ物でもないとハッスル丸は言ったのだ。急がねばならない。




 事実その通り、ハッスル丸は今も全力でくみ上げた術の行使に力を注いでいた。


『ぐ……これだけ広範囲の地脈に干渉するとなると……!』


 戦場から余波を受けない程度の場所で影鯱丸は胡坐を組んで印を結んでいた。

 元々公都の至るところにあった地脈をゆがめる結界、ハッスル丸はそれを破壊しつつ、地脈を整調するための楔を打ち込んでいた。それを応用してのことである。

 やっていることは単純、地脈を通じてヴォルガルーパーの周囲に結界を張ったのだ。ヴォルガルーパーを火炎から守るためのものを、である。

 結果として結界の外の熱量はヴォルガルーパーに吸収される前に止まる。

 発案そのものはパトラネリゼのものだ。ルイベーヌ侯爵邸でのハッスル丸の言を覚えていたため、通信機をハッスル丸に託したのだ。

 だがヴォルガルーパーのサイズがサイズの上に直接それ用の楔を打ち込んだわけでもなく、出られればそれでアウトという状況。


『急ぐでござるゼフ殿、アウェル殿!』




「おうよ!」


 両の掌を獲物を掻き毟る形に構えたゼフィルカイザーは金色の粒子光を纏う右腕で腹部の隔壁を引き裂いた。

 飴を融かすように隔壁が塵になっていく。だがまだ奥は見えない。そこにもう一撃。粒子光が今度こそ隔壁や装甲を引きはがし、内部構造を露出させた。だが、


「セルシア……!! くそ、装甲が再生する!?」


 とてもゼフィルカイザーが突入できるほどではない。

 粒子にしても既に残量が心もとないし、ここで叩き込めば内部のセルシアを傷つけかねない。

 ゼフィルカイザーは閉じようとする装甲の隙間をこじ開けながらアウェルに言い放った。


『アウェル、お前が自分で行け!! 行ってあの馬鹿を連れ戻してこい!!』


「っ、ああ!!」


 動力源(アウェル)が操縦席を出ると同時に粒子光が止む。その機にアウェルはゼフィルカイザーの腕伝いにヴォルガルーパーの中へと侵入した。

 地表から50m以上、落ちれば確実に死ぬ高さだというのに足元を見ることもなく、全力で駆けていった。


『ブースターが搭乗者無しでも使えてよかったなあ……』


 アウェルを見送った後、一人ごちるゼフィルカイザー。


(いっつものパターンならアームドジェネレーター不在じゃ仕えなさそうなんだが。無理矢理引っこ抜いたせいでその辺バグってるのかね)


 推察しつつ、ブースターの出力を調整。上昇推力を機体重量に釣り合わせとにかく滞空することに神経を裂く。

 エネルギーゲージの管理は大の得意分野だが、しかしそれでも限度がある。


『なるべく急げよ、アウェル』




 膨大な量のミュースリルでできた生物的な印象を受ける内部をアウェルは駆けていく。

 構造からしてもともと通路になっている部分のようだ。ならばこのまま真っ直ぐ行けば。


「セルシア!!」


「!? アウェル!? どうやってここに!?」


 広間のようになった場所でセルシアはミュースリルの束に拘束されていた。

 背後には赤い輝きをたたえる巨大なコア。魔動機のそれの三倍近くはある上、見ればその周囲にも並のサイズのコアがいくつも見られる。


「助けに来たんだよ、いいから逃げるぞ!!」


「べ、別に頼んでないでしょうが、とっとと帰れ!!」


 セルシアの声など無視してアウェルがミュースリルの束を引きはがそうとする。

 すると、触れた瞬間アウェルにはなじみ深い感覚が襲ってきた。自分の中からごっそりと魔力が持っていかれる感覚だ。このミュースリルはセルシアから、魔力を無尽蔵に吸い上げている。

 そして引きはがそうにもまるで動く気配がない。セルシアが自力で引きはがせていない時点で察せることではあったのだが。

 背負ってきた、ひび割れたセルシアの剣を抜いて斬りつける。だが、これもわずかに傷がついただけでミュースリル自体がすぐに復元してしまう。

 これもおそらくセルシアなら束ごと両断できただろうが、悲しいかなアウェルの力ではそれに及ばなかった。

 駄目なのか。そんな思いが去来したが、だが諦めない。ここまで来て逃げ帰るなど死ぬのと同じだ。なにより、ゼフィルカイザーに申し訳ない。

 そう思った瞬間、


「……え? おっちゃん?」


「あ、アウェル?」


 アウェルは、師の声を聴いたような気がした。セルシアには聞こえていないようだ。

 見れば剣の柄に象嵌された宝玉が淡い輝きを放っている。そして、その剣を背後のコアに突き立てろと、そう言っている。

 思い出すのはナグラスの末期の時。この剣にはひょっとしたら何か特別な力があるのかもしれない。あるいは、血迷った自分が聞いている幻聴なのかもしれない。

 だけれど他に試せることもない。だから、渾身の力を込めて、


「セルシアを返せ……!!」


 その白刃をヴォルガルーパーのコアに突き入れた。

 この世で最も硬い物は何か、という問いの答えはいろいろとある。

 だが、単純に硬いものと聞いて人が真っ先に思い浮かべるのは魔動機のコアだ。

 魔晶石に特別な加工を施して出来上がった魔動機のコアは単純な硬度に加え、それ自体が魔力によって保護される性質を持つため、まず滅多なことでは破損しない。

 だが、このときアウェルが放った刃は、まるで水面に剣を落としたかのように、とぷり、とコアに飲まれた。それこそ水かなにかのような抵抗を感じただけだ。

 そして起こった変化に瞠目する。コアがたたえていたほのかな輝きが、剣へ、もっと言うと刀身のヒビへと吸い込まれていく。その輝きを吸い込み切ったとき、剣の宝玉の周りにはまった透明な宝玉、その一つが赤く灯った。


「これは、いったい……」


 剣をコアから引き抜く。そこには輝きも艶も失った、ひび割れた石くれが残っていた。刀身を呑みこんだ場所にもヒビがのこるのみ。それが音を立てて広がっていき、


「へ? セルシアを頼むって、おっちゃん!?」


 剣からの声に気を取られていたところを、首根っこを後ろから掴まれて引っ張り寄せられた。

 もしわずかにでも遅れていたら崩れ落ちるコアに押しつぶされていたところだった。

 驚くアウェルを背後から抱きしめるものがあった。離れていたのは二日程度だが、考えてみれば今までこんなに離れていたこともなかった。


「馬鹿、無茶ばっかりして……!!」


 涙声とともに、セルシアの腕がアウェルをぎゅっと抱きしめた。


「せ、セルシア!? ちょ、痛いって! ああくそ柔らかくねえ!」


「抱き絞め殺すぞ」


「申し訳ございませんお姉様!!」


 いつぞやのようなやりとりと共に、どうにか体を起こすアウェル。

 間近で見たドレス姿のセルシアは驚くほど綺麗で、思わず顔が熱くなる。

 一方で泣き腫らしてさえいなければと己のふがいなさを恥じるが、セルシアも目元を赤くしているのでお互い様だ。


「だ、大丈夫か?」


「うん、なんか、急にほどけた」


 見ればセルシアを拘束していたミュースリルの束は力なく垂れ下がっている。

 あたりのミュースリルもどことなくだが張りが無くなったような気がした。


「っと。立てるか、セルシア」


「ああ大丈夫大丈夫……ととと」


 ひとまず立ち上がるセルシアだが、もんどりうって転ぶ。

 無理もない、あんな勢いで魔力を吸われ続けたら常人なら命はない。

 ゼフィルカイザーが危惧していたとおりにならなくてよかったと胸を撫で下ろしつつ、アウェルはセルシアを抱き上げた。お姫様抱っこだ。


「うわっ、ちょ、どこ触ってんのよ!?」


「非常時だし散々素っ裸見せといて言うことか、ああくそ重い……!!」


 アウェルとて力がないわけではない。魔動機整備には腕力は必須だし、荷物の上げ下ろしはどちらかというとコツのほうが重要だ。

 だが、そのアウェルからしてもセルシアで本気で重いのだが。

 発達して異様な密度になった骨格と筋肉が原因であるがそれはさておき、セルシアを抱えて駆け出す。

 コアが無くなれば魔動機は動かない、それが常識だ。

 だが、大魔動機は複数のコアを有しているとナグラスは言っていたし、事実あの部屋には他に複数のコアがあった。それによってまだ稼働する可能性がある。

 焦りながら足を進めるアウェルに、きょとんとしたセルシアがふと尋ねた。


「ね、ねえ。あんた、ちょっと背伸びた?」


「どうせセルシアよか低いって、今気にするこっちゃないと思うぞ!!」


 それどころではないと受け流し、どうにか侵入した地点まで辿りつく。

 そこには穴が塞がりきらないよう、栓をするように二本の腕が突っ込まれていた。ゼフィルカイザーのものだ。

 こちらに気付いたのか、手の平がくいくいと手招きをする。

 慌ててそれに飛び乗ると、手が優しく、それでいてしっかりと二人を包み込み、


『ふんずぶりゃああああ!!』


 見栄の欠片も感じられないかけ声とともに、一気に腕が引き抜かれた。

 僅かなほてりの直後の急激な冷気。二人は汗を冷やしながら、開かれた手の平の上でゼフィルカイザーの姿を見た。全身の装甲が焼け焦げたその姿を。


「ぜ、ゼフィルカイザー!?」


 慌てて背後のヴォルガルーパーへと視線をやると、再展開しつつある霊鎧装が熱気を放っていた。ハッスル丸が力尽きたのか。

 だがセルシアを取り戻したおかげか、再展開がえらく遅い。


『ギリギリだぞ、死ぬかと思った。通常仕様で再生したようだから耐熱性ないし。

 ……日に二度も死にかけるっていうのも貴重な体験だな、おい』


「大丈夫か!?」


『あちらさんが他に気を取られているようでな、どうにか上手に焼けるだけで済んだ』


「済んだって言わないと思うぞ、それ」


 言いながらコックピットに乗り移りつつ、ヴォルガルーパーを再度見る。見れば、自分で自分の頭をがつがつと叩く姿がそこにあった。


『ああしてると愛嬌あるように見えないか?』


「わかる自分が嫌だ。セルシア、大丈夫か?」


「あ、うん、なんとか。あの、その……」


『セルシアよ』


 ゼフィルカイザーの、普段より低いドスの聞いた声に思わずびくりとなる。

 流石のセルシアもこの状況で何の恩義も感じないほど薄情でもなければ、己の所業を顧みないほど浅薄でもなかったらしい。

 ゼフィルカイザーもその様子に毒気が抜ける。少し前にこの上位版を見た後なのでなおさらだ。


『お前には後で山ほど説教がある。

 パティと協力して絞ってやるから覚悟しろ』


 あと黒騎士相手にどこまで行ったのかとか聞いておかねばならないことがそれなりにある気もするが、この場で聞くと墜落死しかねないのでやめておく。

 だが、若干和んだ空気が上から飛んできた金切り声のせいで掻き消された。


『ちょっと、あの山猿に逃げられてるじゃありませんこと!?

 なにをやってますのバイドロット様!』


『ううう、うるさい! こっちはこっちで必死なんだ!!

 くそ、くそくそくそ……!! なぜだ、なぜ魔力が足りない!?』


 ハクダの金切り声とバイドロットの焦り声。いい気味だが、その一方でそれでも不快だ。

 霊鎧装は再展開されたがずいぶんと薄く、あちこちに上がる火の手も消える気配がない。メインのコアを失って熱量吸収が使用できなくなったということなのか。

 だが、小悪党ほどこういうときにあきらめが悪い。

 ロボット物に限らずあらゆる創作で相場が決まっているとおり、バイドロットは悪あがきを敢行した。

 ヴォルガルーパーが突如天を仰いでその口を広げる。上方にいたエグゼディが即座に退避するが、火炎放射器は壊れたままのようで、炎を吐くわけではない。起こったのはむしろ逆の現象だ。

 天から黒雲がヴォルガルーパーの口へと吸い寄せられていく。公都に浮かぶ膨大な量の瘴気雲が根こそぎ吸い寄せられ、ヴォルガルーパーへと吸収されていくのだ。

 そしてそれに呼応するようにヴォルガルーパーの霊鎧装が分厚く、ドス黒く染まっていく。


(テンプレートなパワーアップするなあ。つーか、さっきまでは愛嬌あったのに)


 出来上がっていくのは暗黒の邪龍としか言いようがない代物だ。黒い炎でできた怪獣がたてがみをたなびかせている。

 瘴気雲が食らいつくされ晴れ渡った夜空に反してその姿は汚濁の塊。だが、ゼフィルカイザーが知る限りこういう時は敵は自信満々にパワーアップ形態を自慢してくるものなのだが、出てきたのは疑問と焦燥にかられた声だった。


『な、何故だ!? なぜ瘴気がこの程度で晴れる!? 一体何が』


『はっはっはっは……はーっはっはっはっはっは!』


 突如として響いた大音量の哄笑に、戦場の全員がそちらを見た。崩れかかった城のその頂上の尖塔のさらに先端にたたずむ紫の影。


『正義の魔動忍者、影鯱丸見参! この都に張られた貴様の地脈封じの結界は拙者が破壊させてもらったでござるよ!

 都を瘴気に満たし、さらに国をすら弄ぶ悪行三昧――許せん!!』


『うわあ、あいつタイミング見計らってたな絶対』


『あ、やっぱりわかるでござるか?

 あと魔力はほぼからっけつでござるからな、機を見て逃げさせてもらうでござるよ』


 ツッコミに通信機越しに声が返ってくる。ここまでの空気がぶち壊しである。


『で、どうするアウェル。セルシアは助けたし、逃げるか?』


「そりゃ逃げるに――」


「戦う。倒す」


 セルシアの言葉を遮ってアウェルが言い切った。


『なんのために?』

「ほっときゃ止まるかもしんないけど、それまでどんだけ暴れるかわかんないだろ。逃げた人たちも無事かわからないし」


 そう、利口な意見を言った後に。



「それに、あいつらはセルシアを泣かせた。ぶっ殺す」



 本音のところをぶちまけた。正義も何もあったもんじゃない。

 というよりは、彼にとってはそれが正義なのだろう。


『なにをほざいている、このガキどもがああああ!』


『虫唾が走る、虫唾が走る……!! 他人の幸せなんて見たくもない物を目の前で!』


 魔界の邪竜が首をもたげ、暗黒の大釜と見まごう口と、わななくたてがみに黒い汚濁の混ざった炎が燃えたぎる。

 膨れ上がる邪炎はヴォルガルーパー自身すら傷つけながら、なおも膨れ上がっていく。この間合いで放たれれば、距離速度関係なく避けられる物ではない。

 だが、ゼフィルカイザーは逃げる素振りすら見せずに敢然と立ち向かった。

 炎を前にして、アウェルが苦笑した。

 状況にではない、己の前言に対してだ。


「オレは結局こんなもんだ」



【アームドジェネレーター出力臨界】



「一人で何かを守れるほど強くないし、やられたらやりかえしたい。

 でも頼む、力を貸してくれ、オレの初めての友達」



【O-エンジン 最大駆動スタンバイ】



『――ああ。だから、お前も力を貸してくれ。

 あいつをぶっ飛ばそう。この世界での初めての友よ』



【セーフティ限定解除承認】



 邪炎が放たれ――



【O-エンジン フルドライブ】



 同時、金色の粒子光が瀑布のようにあふれ出した。

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