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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十三話 チートロボに異世界転生(第一章最終話)
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【再構築中 現在99% 因子が足りません】




「ん……あれ? あたし、どうなって……たしか、なんかが突っ込んできて……」


 何かに鷲掴みにされた。そして抵抗しようとしたら電撃のようなものに撃たれた。そこまでは覚えている。だが、その先は。


「あれ、ちょ、これなに!?」


 目を覚ましたセルシアは自分が拘束されているのに気が付いた。

 両手両足がそれぞれ銀色の金属の束に拘束されており、どれだけ力を入れてもびくともしない。どころか、その金属の束に魔力が持っていかれているような感覚がある。

 あたりは同じような金属の線が大量に折り重なっており、それが生物的な印象を醸し出している。


「っ、なんなのよ、一体」


『あらあらあら。バイドロット様、ちょうどいいタイミングでワンちゃんが目を覚ましたようですわよ?』


『くひ、ひひひひ。そりゃちょうどいい。アレには殺されそうになったしなあ……!』


 聞き覚えのあるようなないような耳障りな声と共に、魔法陣を伴って目の前に映像が映し出された。

 見知らぬ場所だ。建物があったらしい跡もあるが今は瓦礫の山と化した場所。その中に見知った物が転がっていた。

 白に赤と青の機体。アウェルを調子に乗らせる白い奴。だが、その姿は変わり果てていた。

 不可思議な光沢をもった流線型の装甲は粉々に砕けわずかに機体に張り付くばかりで、鋼色の駆体がさらされている。

 それも不自然にへし折れたりねじ曲がったりと、明らかに破損している。特にひどいのが頭部で、顔面が半分潰れていた。


「――アウェル? アウェルが乗ってるの!?」


『大サービスですわ、見せてあげようじゃないですか』


 映像が切り替わる。暗い空間の中、火花が飛び散り、無事なディスプレイもノイズが流れるのみ。

 その中で、アウェルが頭から血を流して横たわっていた。


「アウェル!? ねえアウェル、しっかりして!」


『あ……ねえ、ちゃん?』


 うっすらと目を空けたアウェルが、か細くも返事をした。




 目を空けたアウェルが見たのは、自分の血で真っ赤に染まった視界の中、魔法陣の中に映るセルシアの姿。

 ゼフィルカイザーが危惧した通りだ。ミュースリルの束がセルシアを拘束して捉えていた。


「姉ちゃん、大丈夫か……つ、今、助けるから……」


『馬鹿言うな!! だから言ったでしょうが、あんたが強くなったわけじゃないって!!』


「んなこと言うなよ、痛っ……ゼフィルカイザー、大丈夫か? ……ゼフィルカイザー?」


 反応はない。コックピット内の何もかもが沈黙していた。


『言わんこっちゃない、そいつが壊れちゃったら何もできないでしょうが! 早く逃げなさい!』


「っ、違う、こいつはそんなんじゃない!! それに、こいつを置いて逃げられるか!!」


 頭の中に基本的な操作方法それ自体は入っている。それに従ってコックピット内を操作していくが、しかし反応はやはりない。


『あんたが死んだらあたしはどうしたらいいのよ!! さっさと逃げろ!!』


「姉ちゃんこそ大丈夫じゃないだろ!! くっそ、頼む起きてくれゼフィルカイザー、このままじゃ姉ちゃんが……!!」


『そいつがいないと何もできないなら、助けようとなんかするな、この弱虫!!』


 その一言に、反論したい気持ちはたくさんあった。それ以上にアウェルを打ちのめしたのは、そう言うセルシアが泣いていたことだった。そんな姿は、自分の両親が死んだとき以来だった。

 自分が無茶をやったからセルシアを泣かせた。

 結局自分は、ゼフィルカイザーがいないとセルシアを助けることができない。


『お願いだから、早く逃げてよぉ!! あたしには、もう、あんたしかいないんだから……!!』


 わかっている。セルシアが散々口にしてきたことは、結局のところ自分を気遣ってのことだ。気遣われるだけの自分でいたくないから、ゼフィルカイザーの頼みを聞いてここまで来た。

 道中で出会いもあったから、少しは成長できたとそう思った。だけれど、この状況は。

 村でセルシアを動かすための人質にされていたのと何の違いがあるのか。

 機体の外では何かが飛び交う音がしている。ひび割れたモニターが、偶然なのか映像を拾った。

 エグゼディが、ヴォルガルーパーに果敢に斬りかかっている。だが致命打はまるで与えられていない。


『ひゃははははは、哀れだなあできそこないの黒騎士、合いの子、混ざりもの!!

 魔族でも人でもない分際で、血筋だけで黒騎士になったような奴にはその程度が関の山だなあ!!』


『黙れええええええ!』


 その声にピクリとしたセルシアは、泣き叫ぶように訴えた。


『っ、ガルデリオン? 外にいるの!?』


『セルシアか! 無事か?』


 セルシアが自分以外の人間の名を呼んでいる。それも初めて聞くことだ。だが、真にアウェルを打ち砕いたのはその次のセルシアの言葉だった。


『お願い、アウェルを連れて逃げて!! あたしのことはいいから、早く!!』


 アウェルの中で、決定的な何かが折れた。

 別にゼフィルカイザーやパトラネリゼが危惧していたような下世話な事情ではなく、もっと、極めて単純な事。

 セルシアが、自分以外の人間を頼った。

 自分は頼られなかった。

 その事実。それが、少年にとって致命的すぎる一撃となった。だがそこに追い打ちをかけるように、汚濁が降り注いできた。


『あらあら。麗しい光景ですわねえバイドロット様』


『そうだなあハクダ。うんうん、家族愛って奴だな。

 こういうのはいいよなあ。でもこういうのを踏みにじるのはもっと楽しいよなあ』


 どうしようもなく下卑た声が降り注ぐ。本当に、心の底から、人の不幸を楽しむ声。

 嘲弄などでは断じてない。彼らは純粋に楽しんでいるのだ。


『流石ですわバイドロット様!

 ――で、どっちからいっときます? 少年の前で少女を嬲ると、少女の前で少年をいたぶるのと』


『ひ、ひひひひひ。どっちも、というのは二流のすることだ。

 こういうのはな、選ばせてやるんだよ……さあ、どっちが犠牲になる? 志願したらもう一方は助けてやろう』


「あ、お、オレが」


『やるならあたしをやれ!! アウェルには手を出すな!!』


 アウェルが口を出すまでもない。

 そうだ。セルシアは何をどういったところでいつもアウェルのことを守ってくれる。それがアウェルにとっては頼もしくもあり、だが惨めでもあった。

 なにより。ゼフィルカイザーと出会う直前。

 ドラゴンと対峙しようとしたセルシアの手がわずかに震えていたことを思い出す。それで、セルシアとて無敵の存在でないということを知ってしまった。

 その姉に無理をさせている自分というものを知ってしまった。そんな自分がどこまでも惨めで、情けない。


『おお、なんとも美しい家族愛だなあ……だがお前に死なれるとこっちは困るんだ。

 代わりに弟のほうを殺してやるからありがたく思え』


 およそ人倫を超越した発想に、セルシアの表情が凍りつく。


『ちょっと、やめてよ。お願い。なんでもするから。だからそれだけは。やめて、お願いだから……!』


『キャハハハハハ!! あなた本当にあの蛮族の娘ですの!?

 ああ、滑稽、滑稽ですわ!! これだから人の不幸はたまりませんわ!!

 人の幸せなんて――見たくもない!!』


『はっはっは!! シンフェギメルアも喜ぶだろうよ!!

 まあ邪神の本当の名前なんぞ俺は知らないけどな!?』


 下衆の歓喜の声が滴る中、絶望の叫びがこだまする。だが。だがしかし。


『――ふザけるナよ、三下悪役』


 軋みを上げて、機体が持ち上がる感覚をアウェルは覚えた。



「ぜ、ゼフィルカイザー?」


『心配かケたな、アウェる』


 音声はノイズ混じり。機体が立ち上がった感覚がある。だが、すぐに膝が文字通り折れる。アウェルが操縦しようにも操作系がイカレてしまっているのか、操作を受け付けない。


「っ、全然大丈夫じゃないだろ!?」


『ダイじょウぶだ』


 意識がなかったわけではない。最低限の修復ができるまで身動きを取ることもできなかっただけだ。今も全身を痛みを通り越した感覚が襲っている。

 ロボットの体だからそうそう死なないのはいいことなのか悪いことなのか。

 人で例えれば全身第三度熱傷、複雑骨折、とどめに頭蓋骨陥没。人間ならまず間違いなく死んでいる。だからこそ、


(あー、思い出しちまった。俺死んだときこんな感じだったわ)


 トラックに轢き潰されたという話だったが、その感覚がはっきりと思い出せた。潰れた個所は違うが、今と同じような有様だったという気がしている。

 逆を言えば、人なら死ぬ激痛が彼を襲っているということでもある。視界が頭ごと半分潰れているというのは恐怖を通り越して新鮮ですらある。

 だが、ゼフィルカイザーの中に怒りが燃えていた。理不尽を振りまく邪悪への、正しき怒りが。

 そして、それだけではない。


「無理すんな、死んじまうぞ!」


『死ぬ、カ』


 その言葉がまたありがたい。

 壊れるではなく死ぬと言ってくれるのが、ただ嬉しい。それだけを頼りに立ち上がろうとするゼフィルカイザー。

 満身創痍などというものではない。動けることすら奇跡だし、そして奇跡はそこ止まりだ。

 赤く発光する腕が今にも襲い掛かろうとしていた。




『白いの、馬鹿やってないでアウェル連れてとっとと逃げろ!! 

 こっちはいつもどおり自分で何とかするってえの!!』


 自分のことはいいと言って泣き腫らして叫ぶセルシア。

 砕けた体を押して立ち上がろうとするゼフィルカイザー。

 無力な自分。


「――なんかないのか」


 そしてこのままでは三人とも死ぬ。

 その現実が、無力感に打ちひしがれていたアウェルを突き動かした。


「頼む、オレが力になれることはなんかないのか。なんでもいい。なんでもいいから……!!」


 その時。ひび割れたメインモニターにノイズが走り光が灯った。アウェルでも読める文字で、メッセージが映っている。


【その ちからで おまえは なにを まもる】


 かつてゼフィルカイザーに諌められた言葉だ。何を守るのか。そう言えばあの時自分は答えられなかった。


「オレは、守りたい……セルシアを、ゼフィルカイザーを、大切な家族を、初めての友達を、守れるようになりたい……!!」


 その声に気付いたゼフィルカイザーが激痛を堪えつつコックピット内へと注意を向ける。


『アウェる? なにヲ』


 コックピット周りの各システムが破損とエラーでほとんどが停止している中、どうにかコックピット内の映像を拾った。

 火花を散らすコックピットの中、唯一点灯したメインモニターに向かって叫ぶアウェル。

 メインモニターに映っている言葉はかつてゼフィルカイザーが投げかけた物だが、こうしてそれが映し出しているのは彼のあずかり知らぬことだ。

 モニターにノイズが流れ、新たに表示された言葉が表示された。


【そのために たましいを かけられるか】


「魂でも命でも魔力でもなんでもいい、持ってけるもんは全部もってけ……オレはそれでも助けたい、守りたいもんがある!!」


 その言葉には覚悟があった。かつて村を旅立った時のような。森でゼフィルカイザーとかわした時のような。

 そして、それに答えるかのように。


【O-Engine overlimite 2 sec】


 アウェルの読めないメッセージと共に、かつてない虚脱感がアウェルを襲った。




 アウェルの了承の言葉とともに、弾かれるような音を立ててセルシアの映った魔法陣が消し飛んだ。そしてコックピットブロックから膨大なエネルギーが全身へと流れていく。


『ヤメろ、あウェる……!』


 メインモニターに流れたメッセージを目にしたゼフィルカイザーはノイズ混じりに叫ぶ。

 制止するためにコックピットのシステムへと干渉しようとするが、できない。何かに阻まれているような感覚がある。

 むしろその操作をして気づいた。コックピットブロックが初めから、この機体から隔離可能な構造になっていることに。

 そして、コックピット内に自分以外の何かが干渉していることに。

 過剰な、暴力的ともいえる出力が自己修復機能を最大限に活性化、周囲に飛び散った己の破片、さらには瓦礫すら貪って破損した部位を修復していく。

 コックピット内も同様。破損したモニター類が巻き戻し映像のように復元していく

 完全に修復されたコックピット内のメインモニター。そこに、一文が流がれ、


【この かれを たのむ】


 それを最後に、モニターが暗転した。

 機体状況は装甲、内部フレームともにほぼ完全に修復完了。エネルギーゲージは全く問題なし。

 フェノメナ粒子も目に見える勢いで充填されていく。


『アウェル……!! お前、何をした!?』


「オレが、できることを、した。たぶんそうなんだと思う」


 アウェルの息切れした声と共に、ゼフィルカイザーの機体側の視界が復元されていく。カメラアイからの画像と、それにオーバーレイ表示されるシステム関係の表示。

 その中に映ったシステムメッセージを見て、いよいよゼフィルカイザーは戦慄した。


【アームドジェネレーター出力上昇】

【フェーズ3へ以降 主動力リミッター完全開放】

【魂魄燃焼炉 O-エンジン 完全起動完了】

【セーフティ再稼働中】


 O-エンジンの、直球過ぎるシステム名がその危険さを示していた。

 どう考えても使ったら死ぬシステムの名称である。間違っても正義のロボットに載っていていい代物ではない。

 ゼフィルカイザーはこの謎の出力機構を感情の起伏をエネルギーに変えるものだと思っていた。

 だが、どうやらそんな安直なものでは絶対にないらしい。

 安全装置が稼働しているというならまだいいかもしれないが、いや、むしろ再稼働というなら今しがたの大出力はセーフティが切れていたからなのか。


「ゼフィルカイザー。頼む、力を貸してくれ。セルシアを助ける」


 そんな危惧も知らないというようにアウェルが言う。

 モニターのすべて落ちたコックピット内には、しかし非常灯と共にほのかな青い光が漂っている。右腕が展開したとき、フィンから発せられていたのと同じ光だ。


『お前』


「頼む。オレ、お前や姉ちゃんがいないとなんもできないからさ。

 ――だから、二人がいなくなるのは、嫌だ」


『――ああ、そうだな』


 どう考えても危険だし、どのような弊害がアウェルや自分に訪れるか分からない。

 だが、そうだ。先ほどのアウェルの叫びが胸に届いていた。

 友達と言ってくれた。

 それだけで十分ではないか。

 そう思った時。何かがかちりとはまるような感覚があり、


【因子を確認】

【システム再構築完了】

【本機の全権を委譲します】


 システムメッセージがゼフィルカイザーの視界に流れると共に、コックピット内の機器が一斉に点灯した。そして、


【O-エンジン システム起動権委譲】


 コックピットブロックの、最重要システムがゼフィルカイザーへと投げ渡された。

 この意味するところが分からないゼフィルカイザーではない。だが、この期に及んで狼狽することはなかった。


「来てくれるのか、ゼフィルカイザー」


『ああ。セルシアの奴には私も山ほど説教がある。引っ張り出して土下座させてパティと一緒に説教だ。いつぞやの仕返しといこう』


 新品同様に修復されたボディでヴォルガルーパーを見据える。

 絶望的なシチュエーションだ。だが、自分の知るロボットたちはこんな状況を幾度となく覆してきた。

 いつものお約束頼りなどではない。それはゼフィルカイザーにとっての絶対だ。

 そのロボットや、ロボットに乗っている奴らは諦めなかった。

 自分に乗っている奴は折れた。それをゼフィルカイザーも聞いていた。

 だが、折れても、それでも大切なものを見失わなかった。なら自分もこいつを信じてやるべきだ。


『それとな。お前になにもできないなんてことはない。

 それをあの馬鹿と、下種どもに教えてやれ』


「あんがとな、ゼフィルカイザー」


 友の手が、球状の操縦桿を改めて握りしめる。眼前には壁のようにそびえる赤く発行する巨大な魔竜。


『茶番は済みましたか? ではさようなら、ごきげんよう』


 ゼフィルカイザーの頭上へとヴォルガルーパーの腕が叩き付けられる。

 ハクダとバイドロットは愉悦に顔をゆがめ、ガルデリオンは顔をそむけ、セルシアは絶望に目を見開き、しかし。

 ゼフィルカイザーの機体全体から青い光があふれ出し、


【O-エンジン セミドライブ】


「セルシアを、返してもらう――!」


 燐光の爆裂を伴って、青い彗星が天へと逆流れた。

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