表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/292

007

 崩落した墓所の後に山のようなものがせりあがってきた。初めはそれこそ山にしか見えなかった。

 ゼフィルカイザーはせりあがってきたリフトかなにかに上にあった瓦礫が乗っているだけかとも思った。だが、すぐにそうでないことが分かった。

 山の全体にオレンジ色の光のラインが走り、その全貌が露わになっていく。

 そして、その巨体が身を起こした。

 そう、巨体である。

 魔動機の目線から、どころの話ではない。あれを巨体と言わないのならどれほどの大きさのものを言うのか。それほどのサイズがあった。

 前足と後足が大地を踏みしめ、その巨体を起こしていく。


『おいおいおい……』


 ゼフィルカイザーの目に狂いがないのであれば、その全長は城をゆうに超えている。

 そしてその頭部にも光のラインが走って行く。

 露わになったのは焔の色に揺らめくたてがみを備えた巨大な大蜥蜴の姿だ。その姿を一言で言いあらわすならば、


『馬鹿でかいサラマンダーだと……!?』


 大魔動機のことを聞いていたゼフィルカイザーは、しかし魔動機のサイズからせいぜいその4、5倍ほどのサイズと思っていた。また、人型だろうとも思っていた。

 しかし、目の前にあるのは超巨大な大蜥蜴の姿。あれはもう陸上戦艦のレベルだ。

 あまりの質量ゆえか、完全に体を起こすことはできていないようで、這いずりながらこちらへと向かってきている。

 蜥蜴というには横幅があり、サラマンダーというよりはサンショウウオのそれだ。


『ははははは、ぎゃーっはっははははは!!

 どうだ!? 見たかこの巨体、この威容を!!』


 耳障りな甲高い男の声。おそらくは本来こちらが地声で、本来の喋り方なのだろう。バイドロットがわが世の春が来たとばかりに哄笑する。


『これぞ、これぞこれぞ!! この国が伝えてきた最強の力!!

 大魔動機グラン・マジカライザーヴォルガルーパーだ!』


『って、ウーパールーパーかよ!?』


 この危機にではあるが突っ込みを入れるゼフィルカイザー。

 だが、生物知識にうとい彼はウーパールーパーが商品名で正式名称がメキシコサラマンダーだということも実はサンショウウオの仲間であろうということも知らない。


『くひひひひ、このため、このために十年、十年だぞ!? 十年もこのしみったれた都から動けずに雌伏のときを過ごしてきたのだ!!

 だがそれももう終わる!! この力で大陸を制し、俺が支配者となるのだ』


『きゃあ素敵! このハクダ、改めて惚れ直しましたわ!』


「げ、あの痴女の人も乗ってるんですか」


「んなことよりセルシアはどうしたんだ!」


『あらあら、わたくしの邪魔をしまくってくれたおガキ様たちじゃありませんこと。あの野獣ならばこの機体の鍵として働いてもらっていますわよ』


(おおよそ予想通りか……!)


 歯噛みするゼフィルカイザーを尻目に、ヴォルガルーパーへと向き直った姿がある。漆黒の騎士、エグゼディだ。


『バイドロット、勧告する。これが最後のチャンスだ。

 セルシア姫を開放し、その機体を本国に持ち帰るぞ』


『ッ! 黒騎士、貴様!?』


『待て。私の目的はこのヴォルガルーパーのみ、それ以上の手出しはするつもりはない――さあどうするバイドロット』


『ふ、ふ、ふ――いつまで自分が上のつもりでいやがる、このガキぃ!』


 ヴォルガルーパーがその口を空ける。

 開かれた大口には地獄の釜のような熱量が灯っていた。来る。


『バイドロット、貴様……!』


『バリア、広域展開!』


 咆哮のように爆炎が吐き出された。

 熱量それ自体はラグナロクが放っていた火線と大差ない――すなわち城壁を容易く溶かすような熱量が、線ではなく面でもって一同を襲った。

 ここまでフェノメナ粒子をろくに使っていなかったのが幸いした。5割近くまで充填されていたフェノメナ粒子をガリガリと減らしながらも爆炎を耐えしのぐゼフィルカイザー。

 だが、


「く、お、押される……!?」


『最大出力だぞ!? どういう熱量してやがる!』


 かつて食らった天竜王のブレスを思い起こさせる。あれが面を持って襲い来るような火力。

 天竜王は倒されず眠りについていたわけだが、逆に思う。

 奴はどうやってこの最凶兵器に生き延びたのだと。

 爆炎が止むと、あたりの様子は一変していた。

 バリアに防がれて流れた余波は残っていた城壁を飴のように融かしつくした。

 城も同様だ。余波だけで城の三分の一が融け落ち、さながら溶鉱炉のような有様を呈している。


『ひゃっはああああああ!! 殺した、跡形も残っていないぞ!!

 あの黒騎士を!! 我々の悪夢を、俺がこの手で討ち取ったのだ!!』


『よくわからないけどすごいですわバイドロット様!』


『阿呆が!!』


 その声はヴォルガルーパーよりさらに上からした。

 飛び上がり炎をかわしたのか。それにしてはマントにも焦げ目一つないエグゼディは、大剣を振りかぶりヴォルガルーパーの頭へと全力を持って振り下ろす。

 その威力はゼフィルカイザー自身が身を持って知っている。だが、その刃がヴォルガルーパーに届くことはなかった。

 突如としてヴォルガルーパー全体を覆った極厚の焔色の光壁が、その刃を受け止めていた。


『これは……まさか、魔動機が霊鎧装(エレメイル)を纏うだと……!! ぐっ、おのれ!!』


 そこからさらなる攻撃に移ろうとしたエグゼディだが、顔を覆う鬣が触手のようにわなないてその機体を打ちのめした。触手と言っても一本で魔動機2、3機分の質量がありそうなものだ。

 弾き飛ばされたエグゼディは空中で静止、しかしあたりに起こった変化にさらに瞠目した。


『なに……先ほどの攻撃の余波はどうしたんだ!?』


 つい先ほどまで灼熱地獄の体を成していた城壁や城郭の融解部が、いつの間にか冷えて固まっている。地上側でも、その現象を確認していた。

 そしてゼフィルカイザーは起動前に起こったことと重ねてその現象にアタリをつけていた。


『あの大魔動機の仕業だ……!!

 あの機体はおそらく、周囲の熱量を自分のエネルギーとして吸収する能力を持っているのだ!!』


『待たれよ、では帝国の砂漠化は』


 その一言に驚いた影鯱丸が慌てて口をはさむ。ゼフィルカイザー自身、ハッスル丸から聞いていた情報をもとにくみ上げた理屈だ。


『火の公爵家の機体が火を食うんなら、土の公爵家の機体は大地の滋養を食ったんだろうさ。

 十中八九、砂漠化の主原因はその機体だ。そしてこのままでは……』


『興国記にあるように、この国に冬が訪れるっていうのかい!?』


 リリエラの驚愕の声を横に、ゼフィルカイザーは慄きながらも毒づいていた。


(欠陥兵器にもほどがある――いや、ここまでの力を持ってしなければ対抗できないような、そんな相手だったのか、邪神は!?)


 格が違う。

 桁が違う。

 いままで見てきた魔動機、精霊機、災霊機、それらすべてと比較してもその力は圧倒的すぎる。

 あえて比較対象になるとすればラグナロクのみだ。あれはまだ何とかなった。

 だが、眼前の敵はなんだ。

 災霊機を両断する一撃を放てる黒騎士の斬撃が通らず、ラグナロク以上の火力を持っている。

 それだけではない。霊鎧装が失せるとヴォルガルーパーの全身を覆う鱗、いや、鱗に見えていた物が逆立った。その全てから赤いラインが飛び交ってエグゼディを襲う。

 ラグナロクの火線と同様の物だろうがいかなる原理か曲線を描いてエグゼディを執拗にねらっていく。


(おいおい、ホーミングレーザーだと!?)


 しかしそれをやすやすと避けていくエグゼディ。

 だが避けたということは標的を失った火線が別に飛んでいくということであり――結果、城壁の外の街並みが業火に包まれた。


『町が、民が……!!』


『落ち着いてください王子、あちらは無人になっている街区です!!』


『ですがこのままでは!!』


 その時、一同から一歩踏み出したものがいた。トリコロールカラーのロボット。ゼフィルカイザーだ。

 否、歩みを進めたのはゼフィルカイザー自身ではなく、


『アウェル!?』


「細かいことはどうでもいい。

 あの中にセルシアがいるんだな? 助けに行くぞ」


 ――そうだ。こいつはそういう奴だった。それに決めたではないか。自分だけはこいつの味方でいてやろうと。


『あちらの方面はゴーストタウンなのだな?』


『見て回ってきた限りそうでござる。しかれば?』


『騎士殿たちは人の避難を。その機体ではあの火力は防げんだろう。

 こっちは被害が出ないように誘導しつつ奴を倒す。王子、件のコアの有りそうな場所は分かるか?』


『あ、ええと……あの、胴体の真ん中あたりの分厚いところに見覚えがあります。入口はあのようになっていたと』


『了解した』


「ぜ、ゼフさん!? まさか戦うつもりなんですか、相手は霊鎧装が」


『さっきのを見ただろう。奴は攻撃とバリアを同時に張ることはできない。なら実体があるぶんやりようはある。

 パティ、あの黒騎士は信用できるか?』


「たぶん、ですけれど……でも! そうだ私もついてきます!」


『駄目だ。危険だから騎士殿たちと一緒に逃げろ。

 できれば公都の外まで逃げたほうがいい――アウェル、行けるか』


「ああ。あのスカしたやつにいいとこ持ってかれるわけにはいかない」


『結局それか……ま、お前はそれくらいのほうがいいわな』


 震えを堪えて紅蓮の巨影に立ち向かうゼフィルカイザー。

 単に機体の不調からくるものだけではない、明確な恐怖。だが、堪える。

 正義のロボットは格好良くなくてはいけない。

 それは彼の絶対の矜持だ。


(さあて、ボス戦と行きますか……努力と幸運とか言ってる場合じゃないな)


 背のブースターから閃光を噴いて、ゼフィルカイザーが駆け出した。

 とうとう目覚めた大魔動機ヴォルガルーパー。



「姉ちゃん、大丈夫か……つ、今、助けるから……」



 その巨躯の圧倒的すぎる力になすすべもない白のロボット。



「ちょっと、やめてよ。お願い。なんでもするから。だからそれだけは。やめて、お願いだから……!」



 砕け散るゼフィルカイザー。

 そして――



 次回、転生機ゼフィルカイザー


 第十三話



 チートロボに異世界転生



『お前を信じている。だからお前も私を信じろ……!』



 次回、第一章完結

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ