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003

霊鎧装(エレメイル)の破り方? 魔法か、魔力の籠った武器、魔剣なんかを使うしかないね。

 貸せって言われても、ベルエルグの武装で霊鎧装に対抗できるのは鉤爪だけだしねえ。

 魔力を使わずに貫く? 不可能じゃないらしいけど、実例はないらしいよ。あんたの石弓でも貫けなかったんなら、通じる武器なんてないと思うし。

 霊鎧装どうしならお互いダメージも受けるけど、あんたには関係ないし……妙に食いつくね。私なんか変な事言ったかい?」




 リリエラに聞いたところ、以上のような返答が返ってきた。なのでやっていることは簡単だ。二機が同時に襲ってくるので同士討ちをさせる。本当にただそれだけだ。


(だけど言うは易しだろうによく即座に実践できるな、アウェルは)


 殴ってくる手をそらす、足払いをかけて転ばせる、やっているのはそれだけだ。

 リリエラ一党のギルトマは他の場所から来た近衛のギルトマを抑えている。だが同じ機体だというのにリリエラ一党のほうがよく動き、相手を翻弄していた。

 リリエラは練度が下がったと言っていたが、その差がこういうところでも出てきたということか。

 まして、眼前の二機に至ってはその動きは素人のそれだ。ゼフィルカイザーに乗り始めたころのアウェルでももう少し動いていたというのに、ほとんど棒立ちで腕を無造作に振るのみ。

 考えてみれば、昨日戦ったジビルエルもそうだったわけで。


(そら、他人への嫌がらせばっかりやってるようなアホに後れを取るこいつじゃないわな)


 昨日の戦いにしても、ジビルエルはゼフィルカイザーに一撃を叩き込んだだけだ。戦っていた相手は実質ラギメッツとスレイドニアである。

 さらにあの二機をゾンビ化したような術も使う気配がない。使わないよりは使えない、と考えたほうがいいだろう。


(影を伸ばしてたからな。この闇夜じゃ影もなにもあったもんじゃないか)


「おんどりゃあああああ!」


 ジビルエルの拳を避け、そのまま掴んだジビルエルをその背後にいるジビルエルへ直接ぶつける。

 するとジビルエルの霊鎧装にノイズのようなものが走り、それが砕け散った。開いた穴からは、コールタールのようなものがあふれ出てくる。

 チャンス、そう考えたアウェルはその胸部の穴へと手を突き入れた。ずぶり、と手を機体へと沈む。


『あばばばば、なんかすごく気持ち悪いぞアウェル! 例えるならミミズの巣窟に手を突っ込んだような!』


「ちょっと我慢、してろって!」


 モニターの熱源反応を頼りに引きずり出した手には黒ローブの男。だが、地面に降ろした黒ローブの男はすぐにもがき始めるとその全身が黒く染まり、やがて黒い塵となって霧散した。機体も同様だ。


(なんつーか、テンプレだなあ……じゃなくて)


 ゲームの敵の消滅エフェクトのようだ、と一瞬感心したゼフィルカイザーは即座に思考を切り替えた。


『アウェル、もう一機もだ!』


 もう一機のジビルエルも背中の霊鎧装に開いた穴から黒いものを垂れ流していた。そこから手を突き入れて黒ローブを引きずり出すが、やはり同じように塵となって消えてしまう。


「ど、どういうことなんだ?」


『見た目通り、この機体は真っ当とは言い難い代物だということだ。

 精霊機ではない、おそらくは搭乗者を蝕んで殺すようなものなのだろう』


 それに、霊鎧装は脅威だったがそれ以外がお粗末にすぎる。同じ外見の機体が出てきた時点で予想はできていたが、やはり量産型ということだろう。それも頭に粗悪とつくような。


「聞き捨てならんな。まるで我らが信徒を殺そうとしているような物言いではないか」


 ゼフィルカイザーの予想に反論するかのように、赤黒い鉄機が新たに降り立った。

 全体的に細身でまとまった機体は、その機体には不釣り合いにも見える両手持ちの大斧を構えている。そして、その肩にバイドロットを乗せていた。

 外見はパッと見ではまるで違うが、要所要所のポイントからその機体が何者であるか見切るロボオタとその乗り手。


「あの金ぴかの中身だな」


『だな。関節部の形状とかが同じだ。こうしてみると結構まともな機体なのに、あんな無駄なデコかましてたのかあの女』


『お黙りなさい! 一度ならず二度までも、わたくしのクイーン・ゴージャス・エレガント・エンプレスを壊してくれましたわね!

 おかげでこのクソださい、優雅さのかけらもない姿をさらす羽目になったではないですか!』


「普通にカッコいいよなあ?」


『だな。割と渋めだし、センスいいわ』


 そんな風に軽口をたたく二人だが、機体のたたずまいから只者ではないと察知している。一方で乗っている者は只者だ。

 しかし、元金ぴかの機体の方に立つ男がふわりと宙に浮かんだ。バイドロットだ。


「おしゃべりはそこまでにしてもらおうか……!」


 神経質そうな印象の長身痩躯、その表情は焦燥にかられていた。息は荒く、目の焦点も定まっていないように思える。


「このままでは私の身が本当に危ないのでな、切り札を使わせてもらうぞ」


 赤い、炎のような色の篭手をはめた左腕を掲げるバイドロット。

 と、その篭手の宝玉が輝き、篭手全体にも光の文様が走る。同時に魔法陣がバイドロットを中心にして幾重にも描かれていく。だが、恐るべきはそこからだった。

 バイドロットが浮かぶ地点の下、城の庭の芝生が突如煙をあげ、燃えだした。火の手はそのままあちこちに広がり、まだはるかに間合いを空けているというのにゼフィルカイザーが熱気を感じていた。

 マズい。そう感じたゼフィルカイザーは即座にミサイルを発射。近接信管式の2発だ。だが、それはバイドロットにたどり着くことなくはじけ飛び、破片も直接接触することもなく溶けて散ってしまう。


「機体が顕現してないのにフラムフェーダー並みだって、何が来るって言うんだ!?」


『この国の公王機という奴か!』


『あんな役立たずのひねくれ物と一緒にしないでもらいましょうか! バイドロット様の真のお力、わたくしも初めて拝見させていただきますわ――どうか惚れ直させて下さいまし』


 どれほど本気で言っているやら。バイドロットはそう思いながら口上を唱えた。


「我、四天の火冠の担い手なり。契約に基づきここにその力を示せ、天上天下を焼き払う神殺しの業火よ――顕現(マテリアライズ)災霊機(ファントムライザー)ラグナロク!」


 膨大な熱量が一気に収束し、それが顕現した。

 機体の本体は赤と黒に彩られた重量級の機体。それが焔色と紫色、二色の炎を纏っている。存在するだけで莫大な熱量を放っているのはかつて戦ったフラムフェーダーと同様だ。

 だが、纏う熱量の次元が違う。ラグナロクと名乗った機体が、軽く手を振るった。それだけで炎の線が走った。

 牽制なのだろう、ゼフィルカイザーにもギルトマにも当たらなかったそれは地面に赤い線を刻んでいる。それは燃えているのではない、融けているのだ。

 その線が背後、城壁にまで届いていた。城壁が、上から下まで走った赤い線に従って崩れていく。否、融け落ちていく。


『ついに私にこの剣を抜かせたなあ……! さあ、消し炭にしてやる!』




 ラグナロクの放つ炎が城内に次々と延焼していく。

 眼下の光景を見ながら、イルランドは表情こそ崩さないがその瞳に怯えの色を浮かべていた。白い機体を相手取る赤黒い斧兵と炎の化身と見まごう魔神の姿。


「あの機体はダーザイン、あれが出ているということは王女が乗っているのか……?

 とにかくチャンスです王子。この機に城を逃げ出しましょう。鍵を探しに行ってきます」


「いいえ、ボクは残ります。ケレルト、あなただけでも逃げなさい」


「王子、なにをおっしゃいます! 侯爵の領地へと逃げ込みさえすれば……!」


「ボクが不義の子であるという事実は変わりませんし、そうなればお爺様の足かせとなります。できれば母様のほうを」


「ここかあああああ!?」


 唐突に脈絡もなく、居室のドアが開け放たれた。びくりとするイルランドに即座に剣に手をかけるケレルト。

 二人が見たのは紫の髪の血走った眼をした女だ。手には抜身の剣とナイフの二刀流。息を荒げ、明らかに平静でない様子だ。


「っ、何者だ、侵入者の仲間か!?」


「んなこたあどうでもいいからハクダはどこだい!?

 あの腐れアマの首上げねえことには気分よく眠れないんだよ!」


「あ、あのー。どうか落ち着いてくださいませんか? その、非常に怖いので」


 鉄格子越しにどうどう、とイルランドがなだめる。すると女、リリエラも少しは冷静になったのか周りを見回し、ため息をつく。


「っとに……ああもう、あのクソビッチが絡むとろくなことにならんわ。邪魔したわね」


「ちょ、ちょっと待っていただけませんか!? あなたアウェル殿の仲間ですよね?」


「仲間ってーか、まあそんな感じのもんだけど。あんたは……ん? あれ?

 ひょっとしてイルランド王子?」


「もう王子ではありませんが。あなたは?」


「んー……まあ大したもんじゃないわ。この城に戴きたいもんがあったから忍び込ませてもらっただけだよ」


 言動だけ聞けば完全に盗賊のそれである。しかしリリエラもある程度考えての判断だ。

 流石にリリエラのことは知らないだろうが、ハルマハットのことは知らないはずはない。

 リリエラが恨みを持っているのは愚王やその愚妹であって息子ではない。血を引いていないというならなおさらのことだ。

 ならばこちらとしても手を出す必要はないし、逆にあちらに勘ぐられても困る。


「一体何を狙ってきた、この盗っ人め!」


「フラムリューゲル。あいつがどこにいるか知らない?」


「下郎め、かの精霊機は貴様のような者が扱えるものではない!」


 とは言うが、ケレルトも剣を抜こうとはしない。ケレルトはイルランドの近習、後の側近として育てられた少年であり、それだけあって年齢以上の力量と才覚を持つ。その彼の勘が、目の前の相手が只者でないと告げていたのだ。

 見たところ三十前後、服装の着こなしから軍人崩れなのだろうが、そのたたずまいには隙がない。さらに言えば手にしているナイフは魔動機の召喚器、おそらくは古式だ。

 それだけのものを使う相手となれば迂闊に刺激するのはまずい。だが。


「いいでしょう、かの機体は差し上げます」


「王子!?」


「その代わり二つ、お願いを聞いていただきたい。一つはこのケレルトと、地下牢にいるはずのボクの母様を城から逃がしてほしいのです。

 そして、フラムリューゲルをどこかにいるハルマハットの遺児に渡してもらえませんか」


「は? 最初のはまあわかるけど、後のはなんでさね」


「彼の機体はずっと言い続けているのですよ。ガリカント卿の仇を、と。それを果たすべきもののところにどうか。

 なんでしたら、ボクの首もつけてもらって構いません」


 少年の目には悲壮な覚悟があった。リリエラはその少年に、確かな器量を感じた。この少年が王となれば、確かにトメルギアは甦ったろうにと、そう思わずにはいられない。


「あの馬鹿が……それに王子、あんたも馬鹿だよ。ちょい待ってな、あーもう、こういうのも手慣れちまったわねえ」


 鉄格子にかかった鍵を手に取ると、髪留めを引き抜いてそれを鍵穴に突っ込む。ものの十秒ほどで錠前が開く音が響いたことにイルランドたちは驚いた。

 おずおずと檻から出てきたイルランドに、リリエラは膝をついて礼を取った。その立ち振る舞いがあまりに堂に入っていて、ケレルトも口を挟めずにいる。


「王子。あんたは生きなきゃならない」


「何故ですか。ボクがいなくなれば」


「民草のため、とか家臣のため、とかいろいろな言い方はあるけどねえ……」


 ぽん、とその頭に手を乗せて、


「子供がそんな、泣きそうな目で死にたがるもんじゃない」


「あ、う……」


 大粒の涙をこぼすイルランドを、リリエラはそっと抱きとめてやる。胸のなかで泣きじゃくるイルランドを見下ろすリリエラは母性的な目でそれを見ながら、


(子供はこんなもんでいいんだよ、こんなもんで……王子、たしか14だっけか……私も早くに結婚してれば今頃これくらいの子供がいてもなあ……はぁ……)


「おい、なんか目の色が曇っているが大丈夫なのか」


「平気平気。現実なんて見ないほうがいいのさ。はっはっは」


 泣きそうになるのを堪えるのは得意になってしまったリリエラだった。


「さて、んじゃとっとと逃げるとするか。下の連中には悪いけど……てか、ありゃダーザインと、なに? それにダーザインは誰が乗ってるの?」


「ダーザインはハクダ王女が乗り回している。

 要らん改造をして金を無駄遣いしていたが、どうやら追加外装も尽きたようで――おい?」


 ケレルトが気づくとリリエラは再度凶悪な笑みを見せていた。だが、先ほどとは違い冷静に戦況を見てもいる。

 飛び交う炎がゼフィルカイザーたちを追い立て、その隙を突くようにダーザインが強襲する。ゼフィルカイザーはよく対応しているが、しかし決め手を欠いているようだ。

 様子からして、あの炎の塊のような機体は精霊機の類だろう。

 ゼフィルカイザーには精霊機に対抗する手段がないと言っていたのを思い出し、それらの条件からリリエラの頭が結論をはじき出した。


「んじゃ、意趣返しと援護を同時にやっときますか。ほれ、あんたも来るんだよ」


「ちょ、何を」


 イルランドを抱きとめたままケレルトも脇に捕まえて、その状態でリリエラはナイフの柄に手を当てた。


「じゃあ行ってみようか、ベルエルグ!」




 ラグナロクがその腕を振るうたびに火線が地面に走り、大地を焼き焦がし城壁を融解させていく。しかしその中、ゼフィルカイザーは臆することなく立ち向かっていた。


『くっくっく。耐熱装甲の素晴らしさよ、ぬるいぬるい!』


 ゼフィルカイザーの装甲はナノマシンによって緩やかに代謝している。ならば装甲の組成を変えることもできるのではないか、そう考えたゼフィルカイザーがあれこれとシステムを探ったところ、それらしい機能を見つけたので試した結果がこれである。

 装甲の表層の耐熱性と放熱性が引き上げられているため、この火炎の中でも装甲はダメージを受けていない。

 結果として余計な再生を行わずに済み、エネルギーの節約にもなっている。


『どうせまた炎系の機体がいるだろうと読んでいたら大当たりだなあ、おい。

 いつまでも同じ手が通じると思うなよ……!』


「ちょっと黙ってろ集中できない――こっちか!?」


 ゼフィルカイザーがヴァイタルブレードを抜き打った先で硬い音が響く。ハクダの乗る機体、彼らは知らないがダーザインという機体の巨大斧だ。


『ああもう、とっとと死になさい!』


『こんなところで死んでられるか!』


 乱暴に振り回される斧を避け、受け流す。

 だがゼフィルカイザーはダーザインを蹴り飛ばすと即座にその場を飛びのいた。そこに火線が走り抜ける。


『く、動くでない、とっとと焼け焦げろ!』


 ラグナロクからヒステリックなバイドロットの声が響く。それを聞いて、ゼフィルカイザーとアウェルは確信した。


「なあ。ひょっとしてあの陰険そうなオールバック、素人?」


『どう見ても芋砂です、ありがとうございます』


 戦闘開始からラグナロクはその場から微動だにせずに炎を放ってくるだけだ。そこをダーザインが高速移動で襲ってくる。

 当初はそういう作戦なのかと思っていたが、この分だとそうではない。明らかに連携が取れていないし、それになにより、


『うわっと!?』


『おおう!? ああちくしょう、熱いぜおい!』


『ぎゃあああ! 腕が解け落ちたあああ!?』


 リリエラ一党のギルトマがなんとか避けて立ち回っている一方で、近衛兵はいくらかの機体が火線をよけきれずに食らっている。

 リリエラの部下たちくらいの腕ならかわせる程度に狙いが甘く、さらに味方に誤射しているというのは。


『くっ、なぜ当たらんのだ!』


(お前の腕が悪いからです。その火力なら横に薙いだ方が早いだろうに素人が)


 自分があの機体を使ったら3秒かからずに殲滅できる自信がある。

 その膨大な火力はこの世界に来てから見た中でも間違いなく最強クラス、フラムフェーダーは言うに及ばず、下手をすればあの天竜王にも匹敵しかねない。

 だがしかし、乗っている人間の腕が悪すぎる。


『なんで当たらないんですの!?』


(それもお前の腕が悪いからです。渾身の力で一撃離脱が本来の使い方だろうに思い切りが足らんのだよ)


 ダーザインは本来の機体バランスを取り戻し、機道魔法の高速化も相まって侮れない力を発揮している。

 だが、中に乗っているのは只者だ。

 乱暴に振り回される戦斧は今のアウェルが食らうようなものではない。

 ゼフィルカイザーとしては、こういったときは見栄を捨てた本来の実力が恐ろしくヤバいというのがお約束なので警戒していたのだが、どうやらそんなことはなかったようだ。


『第一、昨日破壊したばかりなのが何故もう歩き回っているのだ』


「本来のパーツにつなげ替えたんだろ。でも内部フレームは完全に修復できてないな、明らかに動きが悪い」


 ゼフィルカイザーの疑問にすらりと答えるアウェル。


『とはいえ、決め手を欠くのも事実だ。あと直撃は絶対にもらうなよ。あの熱量に耐える自信は流石にない』


「つうか、このまま燃え広がるとヤバくね?」


 庭園は火の海、あの分だと城の外がどうなっているか想像したくはない。

 それに城のほうも白亜の外壁がじわじわと焦げ付いて行っている。ラグナロクの放つ機体熱量が尋常ではないせいだ。

 既に立っている地面は融解して泡立ち、機体近くの大気がプラズマ化してさえいる。

 実際、動く必要はないのだろう。霊鎧装以前にあの機体熱量では攻撃自体が届かない。

 フラムフェーダーにもできたことだ、あれほどの機体にできないわけがないのだ。


(ついでに言えばレールガンは通常弾が残弾なし、高品質弾が7発か)


 相手の攻撃を捌けてこそいるが、実際追いつめられているのはこちらだ。極論、相手はああして立ち尽くしているだけでもこちらを追いつめることができる。

 ラグナロク本体近くの熱量だと流石に耐熱装甲が持つかは微妙なところだし、この火の海の中でゼフィルカイザーは大丈夫でも、背後のギルトマは持たないだろう。

 しかしその時。城の中に何本かそびえる尖塔の一つが崩落した。

 何事か、とその場の誰もが意識を向けたとき、土煙の中からそれが飛び出てきた。青い古式魔動機、ベルエルグだ。

 右腕のクローを別の尖塔にかけてターザンよろしく降りてくる。その目指す先には、


『へ?』


 ハクダがそれに気づいたときには青い機体の足蹴を食らい機体がふっとばされていた。

 ベルエルグは蹴り飛ばされたダーザインには目もくれず、ダーザインが取りこぼした大斧を拾い上げるとそれをゼフィルカイザーに投げ渡した。

「おおうっ!? リリエラさん、これは!?」


『ダーザインの大戦斧なら魔法加工がしてある、精霊機も殴れるはずさね!』


『騎士殿かたじけない――行くぞアウェル!』


「おう!」


『ひ、来るな、来るなああああ!』


 両手で斧を構えラグナロクへと疾駆するゼフィルカイザー。

 ラグナロクは出鱈目に手を振り回しそのたびに火線が走るが、ゼフィルカイザーにはかすりもしない。そのまま肉薄したゼフィルカイザーは大斧を全力でラグナロクへと叩き込んだ。

 膨大な熱量のせいで刃の表面が融け、ゼフィルカイザーも耐熱装甲が許容限界を超えたのか、自身の前面を痛みとそれに伴うアラートが襲う。

 だがしかし一撃を受けたラグナロクは運動エネルギーの法則に従って吹き飛ばされ、城へとめり込んだ。同時に全身に纏っていた炎も消え失せ、赤と黒の本体が露わになる。


『あぢぢぢぢぢ……み、水、水で冷やさねば』


「あとでな。でもこの程度じゃ倒せないだろ」


 警戒するアウェルとゼフィルカイザーだが、しかしラグナロクが立ち上がってくる様子は一向にない。


『……まさか、今の一撃で倒したとかんなことないよな?』


 じりじりと近寄って、重厚な機体を観察する。

 血のような赤に黒のラインと装甲を纏う有機的な機体。魔動機のようにコアが見当たらないのはジビルエルと同じだ。

 機体そのものは恰幅もよく、ゼフィルカイザーより一回りは大きい。悪役デザインではあるが、その中でも相当上位の機体に思える。

 だが、起き上ってくる気配はやはりない。

『アウェル、やれ』


「おう」


 溶けて刃が潰れてしまった斧を無造作に振り下ろす。と、それまでの抵抗はなんだったのかというくらい容易くめり込んだ。同時、


『え!? あ、ひ、ひいいい!?

 いいいい、いつの間に、来るな来るな来るなああああ!』


 絶叫と共に再度炎を纏いだすラグナロク。しかし背後から紫電が迸ると、その炎をあっさりと掻き消した。ベルエルグの雷撃だ。


『一発殴られただけで気絶してるとか、どんだけ素人が乗ってるんだい。霊鎧装が収束もしていない』


『収束?』


『そいつの炎だよ。それ、霊鎧装のなりそこないさ。そりゃ霊鎧装を攻撃転用するってこともできるけどね、そいつのは装甲の形に練れてないだけだよ』


「ひょっとして普通に殴っても効いたんじゃ」


『あの熱量で無理を言うな。とりあえず中身を引きずり出すとするか』


『ひいいいいっ!

 ああ、ちくしょう、ちくしょうちくしょうちくしょう、来るなああああ!』


 ラグナロクが一瞬ほとばしらせた爆炎を腕で防ぐゼフィルカイザー。だが、炎が収まった時にはその姿は見当たらない。どこか。


『上か!?』


 上から火照りを感じたゼフィルカイザーが見上げると、いた。

 当初の強大そうな雰囲気はどこへやら、ちろちろと消えそうな火をところどころに灯したラグナロクが城へ向かって飛んでいき、城の尖塔の一つへと突っ込んだ。

 崩落する尖塔から這い出たラグナロクは、その手にあるものを握っていた。

 特徴的な赤い髪。そして、崩れそうな縁につかまる白い髪。


「セルシア!?」


『パティ……!』

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