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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十一話 うちの蛮族娘がこんなにチョロいわけがない
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007

『派手にやってるな、あいつ』


 爆音を通信機越しに聞きながら、ゼフィルカイザーはそんなことを言った。

 現在、ゼフィルカイザーの本体はリリエラ一党とともに公都の市街地に隠れている。

 市街地と言っても度重なる市民の流出によりゴーストタウン化した地域だ。ゼフィルカイザーの熱源感知でも人らしい反応はまるでない。

 城壁からの距離は約1km。ゼフィルカイザーが全力疾走すればすぐの距離である。

 とはいうものの、城は己の身長の四倍近い城壁に囲まれ、即座の侵入は難しいだろう。それに城壁から城の本丸までは庭園を挟んでいる。

 リリエラ一党のギルトマもゼフィルカイザーの背後に控えており、その他の人員も空き家になった家に隠れている。

 とはいえ、いくら暗闇であるとは言ってもこう容易く近寄れてしまうあたり、警備隊の質が落ちているというのは事実らしい。


『で、アウェル。大丈夫か?』


『大丈夫、だけどさ。オレ、生身の戦いだとやっぱり役に立たないのな』


 案の定沈んだ声を返すアウェルにため息をつきそうになるゼフィルカイザー。

 実際のところ、アウェルが肉弾戦で役に立たないかと言えば是と言わざるを得ない。他が強すぎる、という点を差し引いても、アウェルはそういった方面に向いている性質ではない。


(俺が生身だったら確実にボコられる自信があるがなー)


 ヒョロい二十代中盤に喧嘩で負けるほどではないし、長時間の戦闘にも耐えうるのだ、体力はある。

 だが、例えば同年代、中学三年生の武道系運動部員に勝てるイメージは全くない。

 ゼフィルカイザーは己のコックピット内に目をやる。そこに置かれているのは荒削りの木彫りの人形。昼間アウェルが大急ぎで彫っていたものだ。

 ゼフィルカイザーを彫りなおしているのかと思えば、出来上がったそれは細部のツメが足りていないがあの黒騎士の魔動機の人形だった。

 半日足らずで、あの僅かな邂逅の間に見覚えた情報だけでここまで正確に彫り出せるのは感服する。

 この工作技術と操縦技術。アウェルに光るものがあるのは確かだ。

 だが、それが役に立たない状況な上に、本人もそれを引け目にしている。

 下手な慰めをすればまた気落ちするのが目に見えているだけに、ゼフィルカイザーも何も言えなかった。


(というか、この黒騎士ロボ人形は一体なんなんだ?

 景気付けに叩き壊すつもりかと思ったらそういうわけでもないし)


 何か考えがあるのだろうが、あとで聞けばいい話と思って頭を切り替える。

 とにかく、敵に鉢合わせるまでは予想の範疇内だったが、しかしこうなるのは予想外だ。


(どういういきさつがあったかは知らんがあの喪女、目的を忘れよってからに)


 ゼフィルカイザーの中でリリエラのランクが何段階か下がった。

 なにせハッスル丸が防いでいるうちに二人を救出する、という手段がこれで使えなくなった。


『とりあえず落ち着け。状況を確認するが、お前の周囲に人の気配は?』


『ない。とりあえず塔っぽいところを登ってるんだけど、ここで合ってるか? 正直真っ暗で不安なんだけど』


『わからん』


 アウェルの反応は追えている。城壁からわずかに顔を出した城の尖塔の一つを登っていっているようだ。

 だが、ほかにも似たような塔があるせいでどれがどれだかわからない。さらにこの距離だとさすがに熱源感知も効かない。

 と、アウェルの反応が頂上近くになったところで、


『この不審者め、何者だ!?』


『うわっ、ちょ、ま』


 そんな声が通信機越しに聞こえた。




 アウェルが昇っていた螺旋階段は正真正銘真っ暗だった。のぞき窓はいくらか開いているが、外が真っ暗闇では同じことだ。

 だが、上からドアの開く音がして何かが駆け下りてくると、瞬く間にアウェルを締め上げ、引きずりあげていった。


「ちくしょう、放せ!」


「誰が放すか! 王女のほうだろうが、とうとう直接手を出してきたな……!」


 両手を捻りあげられたアウェルが連れ込まれたのは質素な作りの一室だった。さらに部屋の中には鉄格子で仕切りがもうけられている。

 ゼフィルカイザーが言っていたセルシアが捉えられている部屋とはとても思えない。

 そこまで来て、自分を捉えている人間の姿がようやく見えた。セルシアと同じくらいの歳のころの少年だ。

 騎士の装いをしており、パッと見て無形質に見えるが瞳孔が縦に割れていた。猫科の目を持っているようだ。

 そしてアウェルの前、鉄格子を挟んだ向こうに今一人、椅子に腰かけた少年がいた。こちらは猫か、それに近い形質が強い。


(耳の形からすると虎っぽいが柄はない……たてがみがないが、ライオンか?)


 カメラ越しのゼフィルカイザーは相手の少年をワーライオンと判断した。

 平服であり、服装だけを見れば今のアウェルのほうが立派ななりに見えるが、そのたたずまいには言いようもない気品が感じられる。

 それだけでゼフィルカイザーはこの少年が何者かおよその察しがついた。


「どうしたか、ケレルト」


「は。見ての通りです。おそらくは王女に誑かされたのでしょう」


「ちょ、何のことだ! オレはセルシアを助けに来ただけだ!」


「しらばっくれるな!」


 ケレルトと呼ばれた少年が怒声を上げるが、ワーライオンの少年がそれを制止した。


「放してやりなさい、ケレルト。

 きみ、セルシアとは誰です? 見たところ城の人間ではないようですが」


「お、お前こそ誰だよ」


「無礼者! この方を誰と心得る、トメルギア王子イルランド殿下なるぞ!」


「もう王子ではありませんよ。ただのイルランドです。それで君は?」


 あくまで物腰柔らかに尋ねるイルランド。その姿にアウェルは気圧されつつも、ぽつりと答えた。


「オレはアウェルっていうんだ。姉貴分のセルシアがさらわれたから助けに来たんだ」


「さらわれた? どういうことです?」


 疑問を上げるイルランド。その場に、第四者の声がした。


『私が説明しよう、イルランド王子』




「なんと。そんなことになっていたのですか」


 ゼフィルカイザーの説明を聞いたイルランドは驚きを返していた。


『王子は何故まだ城に? てっきり侯爵と共に落ちのびたものと』


「王子は侯爵が動けないように人質にされているのだ」


 鉄格子越しに控えるケレルトがそう返す。


「王女たちにとって一番の脅威は公都に近い領地を構え潤沢な軍備を持つベリエルクガン侯爵だからな。

 その侯爵に動かれないために王子を人質に取っているのだ」


「おじい様もぼくのことなど気にせずに動かれればいいのに」


「何をおっしゃいます。

 王子はこの国を背負って立つお方。そのようなことをおっしゃられないでください」


「いいえ。彼の話を聞いて安心しました。王家の正統が途絶えていなかった、これは吉報です。ぼくは心置きなく死を迎えることができます。

 ただ、そのためにはハクダ王女をなんとかしなければなりません――ケレルト。申し訳ないですが、その命、捨ててもらえませんか」


「――ッ! 御意!」


『待てい。二人の世界に入るな』


 アウェルとゼフィルカイザーを無視したところで話が進みそうだったので慌てて割って入るゼフィルカイザー。


「王家の血を絶やすことまかりならぬ、そう言われる以上はその方に王となっていただくしかないです。

 このままハクダ王女がこの国を手中に収めればこの国が滅びます。

 ぼくが文をしたためましょう。あとのことはお爺様が取り計らってくださるはずです」


 王子は悲壮感を漂わせながらそう言う。神童と言われるだけのことはあるのだろう、この歳でそれだけの覚悟を決めているのは並の胆力ではない。だが、そういう問題ではないのだ。


『いいか王子、我々はセルシアを救出に来たのだ。アレに王など務まらん。勝手な期待をされては困る』


「そうだそうだ。セルシアにそんなもんやらせてみろ、国が滅ぶぞ」


 その言葉に二人とも嫌なものを思い出したという顔をする。何か思い当たる節でもあるかのように。

 冷や汗を垂らしたイルランドがぽつりとつぶやく。


「考えてみればヘレンカ妃の娘なわけですよね」


「いけません王子……! あんなのだったら本当に国が滅びます!」


 どこかで見たような反応である。

 まさか件のセルシアの母親、故郷だけでなくこちらでも恐れられているのか。


「一つお聞きしたいのですが、そのセルシアなる方、どのような方ですか?」


「どのようなっつっても。セルシアはセルシアとしか言いようがないぞ」


『こいつに聞いてもいろいろ無駄だと思うぞ。

 とりあえず剣一本でドラゴンを仕留め、魔動機に足蹴にされても堪えられるような娘だ』


 イルランドとケレルトが本当に顔を青ざめさせる。

 だが、二人には悪いがゼフィルカイザーにはこの国の継承問題よりも差し迫った問題があるのだ。


『王子ならば知っているかもしれないから一つ聞きたい。真なる玉座とはなんだ? この国には一体なにが眠っている?』


「ど、どういうことですか?」


『セルシアをさらった者たちは王家の血を欲していたのだ。

 邪教と王女は王位以外に狙っているものがあり、そしてそのためにトメルギアの本来の血を欲していると思われる。

 その、ハクダでは通されない場所にある真なる玉座とやらに鍵があるのではないかと私は踏んでいるのだ』


 息を呑むイルランド。その様子に、ゼフィルカイザーはあたりを引いたと確信した。


「……真なる玉座はこの城の地下にあるものです。

 しかし玉座と呼ばれてはいますが、その実は巨大な魔晶石の塊、魔動機のコアと同じものでした。

 ぼくは戴冠の儀でそれに触れ、しかし非適格者として弾かれたのです」


「王子。いいのですかこのような者たちに」


「その声の主の言うことには筋が通っています。

 仮に先王の血を引くものがぼく以外にいたとしても、ハクダ王女と教主が通じているのですから他の継承者など不要です。それをわざわざ捕えておくのは何故です?

 王家の血の正統が意味を成さない状況になっているのは最早誰もが知っていることです。

 諸侯もぼくの王位というよりはお爺様の摂政を望んでいたのですし」


「ぜ、ゼフィルカイザー?」


『例のまともな村長の息子とその養い親だ。村人はその養い親が村長代理を務めてほしくて息子を応援してるんだよ』


「たぶん、わかった」


『安心しろ、私もうまく説明できたか自信がない』


 とにかく危機があるということは伝わったらしい。イルランドからは先ほどまでの悲壮感とは別種の焦燥が感じられる。


「しかし、だからといってどうなさるのですか。この者たちにおおっぴらに手を貸せば王子の身が危うくなります。

 私は王子にこそ忠節を誓う身。御身を損なうようなことはできかねます」


「あなたはそう言うと思いました。ですがこの国に暗躍するものの存在を看過するわけにはいきません。

 なので、これは賭けになりますが――彼を地下牢へと案内してやりなさい」


「――王子、正気ですか!?」


 ケレルトの声は常軌を逸していた。地下牢に、ということはアウェルを捕えるということでそれに反対しているのか。

 だが、どうにも様子がおかしい。


「騒ぎを起こしてしまった以上、そのセルシア姫の警護も増しているでしょう。

 ですがぼくが手を貸すことができない以上、彼らになんとかしてもらうしかないです」


 そう言ってイルランドは鉄格子の向こうからアウェルへ助言を与えた。


「いいですか。これからケレルトに、あなたを捕えたふりをしてある人物のところまで案内させます。その方の助力を請うてください。

 ただし、かの方を動かせるか否かはあなた次第です」




「んん? 偽王子のお付きじゃねえか。どうしたんでえ」


「御覧の通り、不審者が寝所に忍び込もうとしていたのでな、捕えた。

 そちらこそどうした。今日はえらく真面目に突っ立っているではないか」


 地下への階段の入口付近で、そこに立っていた守衛の揶揄を流して切り返すケレルト。その手の先には腕を縛られたアウェルがいる。

 もっとも縛られた振りにすぎず、その気になればいつでも解けるものだが。


「はっ、いいとこの生まれだからって生意気抜かすんじゃねえぞ?

 もうじきハクダ様の天下だ。そうなったらお前のご主人の首は景気付けに都の広場で叩き落としてやるってよ、げっへっへ」


「ッ……!」


 ぎり、と歯噛みするケレルト。そのケレルトに下卑た口調で告げる守衛。


「まーなんか今夜はほかにも忍び込んだやつがいるらしくってな。

 近衛にも招集がかかりやがって、めんどくさいことこの上ねえ」


 どうやらセルシア達を直接目指すのはあきらめたほうがよさそうだ。ゼフィルカイザーはそう思いつつ、ケレルトに促されるまま地下牢へと降りていく。

 石造りの地下牢はかび臭さと鉄錆臭さが充満していた。だがそれ以上に、


「ん? 獣臭い?」


『そうなのかアウェル?』


「まあ、そうだろうなあ……」


 ケレルトがため息をつきながら地下牢を歩いていく。

 見れば収監者はいるのだが、いずれも声もなにもあげずにじっとしている。どういうことなのか。

 そう考えていると、とある一つの牢の前でアウェルの拘束が解かれた。


「ええと、ここか?」


「ああ。では私は戻らせてもらう――死にたくないのでな」


 足早に地下牢から出ていくケレルト。明らかに様子がおかしい。

 眼前の牢の扉を見れば、鍵もかからずぶらぶらと開いている。牢は妙に奥行きがあり、その奥まで見渡すことができない。だがその奥から感じたものに思わず唾をのむアウェル。

 カメラやマイク越しにゼフィルカイザーも違和感を感じた。アウェルが腹をくくって牢の扉をくぐり、中へと入っていく。すると、


「んー? なんだい。新入りかい?

 それにしたってここに寄越すかねえ」


 ぼう、と暗闇の中、翠色の目が輝く。一体何が、と思ったとき、ぽ、と明かりが灯った。それによって牢の中が見渡せた。

 明かりを出したのは、擦り切れたドレス姿の妙齢の女性だ。その女性が手に明かりをともし、アウェルに尋ねてきた。


「見ればまだ子供ではないですか。なぜこのようなところに?」


「関係あるめえよ。やらかしたらブチ込まれる、そういうところだろう、ここは」


 今一人。要所に布を巻いただけの、およそ蛮族の類にしか見えないような女が、酒瓶を煽りながらそう返す。

 今しがた暗闇に光っていた翠色の瞳の持ち主だ。

 その髪は血のように赤い。宝石のような光沢をした、美しい髪だ。

 整った顔立ちも、細やかさと張りを両立した肌も、しなやかに伸びた四肢も、どこか見覚えがある。

 ありすぎた。


「んで、何やらかしたのさ坊主。

 この牢名主のヘレンカ様にいっちょう話してみろや」

 ついに現れたセルシアの母、トメルギアの魔女の血生臭いほう!

 解き放たれた凶獣はその圧倒的な力で公宮を崩壊させていく。


 捕らわれのセルシアとパトラネリゼ。


 またも現れる災霊機ジビルエル。


 対抗するゼフィルカイザーとアウェル。

 

 その本性を垣間見せる黒騎士ガルデリオン。


 混乱の中、追いつめられた炎の四天王がその真の力を解き放つ……!!



 次回 転生機ゼフィルカイザー


 第十二話


 凍てつく公都


(さあて、ボス戦と行きますか……努力と幸運とか言ってる場合じゃないな)



 ――そして。


 魔法文明の遺産が、とうとう目覚める。



 次回もお楽しみに!

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