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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十一話 うちの蛮族娘がこんなにチョロいわけがない
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005

『奴らの目的は王家に伝わる秘宝、おそらくは強力な兵器だ。

 王家の血を引くものを捧げるとかしなければ動かないような仕組みになっているに違いない』


 パトラネリゼから通信機越しに相談を受けたゼフィルカイザーはあっさりとそう言ってのけた。

 チート転生者の面目躍如、この時点で魔族のたくらみはモロバレである。

 パトラネリゼに例の件は絶対漏らすなと釘を刺したうえで、現在オープン状態で会話中だ。

 ゼフィルカイザーの周りにはアウェルとハッスル丸、それにリリエラと副官のドロフがいる。


『えぇー……あの、根拠は?』


『お約束だからだ』


 大真面目にそう答えるゼフィルカイザー。

 王家に伝わる王家の人間しか使えない凄い兵器。ロボット物というよりはファンタジー物のお約束である。


『あのー、ふざけないでほしいんですが』


『まあ真面目な話、夕べから考えていたことではある。セルシアを要する目的はなんなのか、ということになるとな。

 トメルギアの人間なら正当な王を欲するのは当然だが、この場合それを必要としているのは邪教だろう?

 例の王女以外でトメルギアの正統な血を引いているものが必要ということは、それぞれ別の用途があると見たほうがいい。

 そして礎となる、というようなことを言っていただろう。となると、王家の血を引くものを使い捨てにするような手段、それを要する目的があるのではないだろうか』


『まあ、魔法文明のころにはそういう非人道な兵器が作られてた、みたいな話は師匠にちらっと聞いたことがありますけど』


 もっともこの推論、結論ありきである。

 ゼフィルカイザーはまずそういうすごいメカがあるという前提のもとでこの説をくみ上げたのだ。

 ただ、パトラネリゼが納得ぎみな声で返事しているあたり整合性はあったらしい。


「ちょい待った。正当な血筋っていうならイルランド王子がいるはずだろうに、なんで嬢ちゃんなんだい?」


 ここで話に割って入ったのはリリエラだ。しかしそういえば、彼女に例の件を伝えた覚えがなかった。


『あー、リリエラさん。残念なお知らせですが、なんかその王子、種違いだったそうで』


「はい!? いやでもなんでそれが――あ、戴冠の儀、真なる玉座か! となるとあの愚王はくたばったのかい!?」


 この辺りは流石代理騎士の家系だ。それだけで大体の状況を察したようだ。


「ちょうどカーバインを訪れたときに件の王女と鉢合わせてござってな。どうも王の死も王太子が不義の子であったことも伏せられているようで」


「まあ、幼馴染のとこでも聞かなかったからね、そんな話。このついでに首を取ってこようかと思ってたんだけどねえ」


 もはや国への忠義などないとばかりにうそぶくリリエラ。そこでゼフィルカイザーが尋ねた。


『騎士殿、その真なる玉座とは一体どういったものなのか知らないか?』


「私も詳しいことは知らないよ。王家の血筋の正統を示すもので、先代の血に近い者を優先して受け付けるとか」


『ならあの痴女でもいいはずでは? 妹なら血筋としては極めて近いだろう』


「アレは王位継承権放棄してるし、それ以上に国のまともな人間全員に忌み嫌われてるからね。

 真なる玉座は戴冠の儀のときのみ、典礼官の認証が無けりゃ近づくこともできないんだ。だからそっちが締め切ってるんだろ」


 セルシアでなければ駄目な理由はこれで上がった。ゼフィルカイザーの推測が正しいなら、その真なる玉座が巨大兵器のコックピット的な何かになっているはずだ。


『実際のところ、そういった兵器は存在しないのか?』


『えーと、ちょっとまってくださいよ……』


「「いや、ある」でござる」


 パトラネリゼが思い返そうとしたときに、口を挟んだものが二人いた。アウェルとハッスル丸だ。

 アウェルは起きてからこちら、森の中から拾ってきた木片を一心不乱に削り出していた。その手をひとまず止める。

 まだ目元が腫れているが目つきはしっかりしていた。

 ハッスル丸もリリエラが回復魔法をかけてくれたため全快していた。


「ハッスル丸、知ってるのか?」


「先にアウェル殿からどうぞでござる」


 そう薦められたアウェルはぽつぽつと語りだした。


「例によっておっちゃんが言ってた話なんだがな。

 魔法文明のころには多くの人間の魔力を糧にして動く巨大な魔動機、大魔動機グラン・マジカライザーっていうのがあったらしい。

 山を切り崩すほどの力を持っていたとか」


『おいポンコツ、お前本当に賢者か』


『黙りなさいこのポンコツが』


 電波越しに毒を飛ばしあう二人を無視してハッスル丸が語り出す。


「帝国の内乱末期に帝国がその大魔動機を持ち出したのでござるよ。帝都決戦で帝都を灰燼に帰したのは実質その兵器だったそうで。

 曰く皇族のみが用いれる機体だったと言われておるでござる。

 恐ろしく頑強な機体でござってな、今も残骸が旧帝都に横たわっておるでござる。

 実のところ、ルイベーヌ侯爵の話を聞いた折にそのことを思い返してござってな。侯爵に尋ねたのでござるよ」


 侯爵の話に妙に黙りこくっていたのはそのせいだったのだろう。


『侯爵はなんて言っていた?』


「わからぬ、と。この国、古い家でも古い事跡のすっぽ抜けが多いそうで。建国のころの話に至っては建国記に纏められている以上のことはわかっておらんのでござるよ」


『建国記ですか。でもあれ、噛み砕くと天竜王と戦った、勝った、程度のことしか書いてませんよ。

 内容的には正直おとぎ話レベルで、フラムリューゲル以外の魔動機や精霊機の名前も載ってませんし。

 まあ建国期によると、天竜王を退けたこの大陸を寒冷化が襲ったそうですからね。土地は凍てつき、海も氷河に覆われたとか』


「そのとおりだよ。そのころはどこの家も生き延びるのに必死だったもんでね、魔道具でも間に合わずに書きつけに使う紙も煮炊きの薪にしちまったって話さ。そういう話は残ってる。

 知ってるとすればそれこそ公宮の典礼官だけだね。典礼官たちは魔法文明からの秘事を口伝しているとか。

 他にその秘事を知る人間は王位についたものと代理騎士のみ、つまり死んだ愚王と私の兄さんだけさ」


「いずれにせよ、同じ魔法文明の大公家を祖とする家、同格の代物を受け継いでいたとしても不思議ではないでござるし」


「王家直系の血を絶やしてはならない、というトメルギアの絶対法にも納得がいく、と。だけど、その力を狙っている奴っていうのは一体誰なんだい?」


『邪教を名乗っているのだから、邪神の信奉者どもだろう。ひょっとしたら伝説の魔族かもな』


 あえて冗談めかして言うゼフィルカイザー。邪神が甦りそうなこと自体は確定情報なのだが、今は騒動を大きくしている状況ではないのだ。

 もっとも、地味に敵の正体を看破してしまっているとは気づいてはいない。


「そんなことは関係ない。とっととセルシアを助ける、それだけだ」


 アウェルが簡潔に言いきった。この少年にとって大切なのはそれだけなのだろう。


(正直、状況のややこしさなんてこいつにはわからんだろうなあ)


 姉に認められたい。その姉がさらわれた。だから助けに行く。それだけなのだろう。

 セルシアの血筋の価値とそれを取り巻く状況を思えば、いい歳した大人としては笑い飛ばすか、あるいは叱って諭すかするべきなのかもしれない。

 だが、この単純さがゼフィルカイザーには心地よかった。

 子供のころのロボットアニメは簡潔だった。悪い奴がいて、そいつを倒す。

 無論ただそれだけというわけではなく、その奥底には作っている者たちが語りたいものがあったのだと思う。

 だが、中学生高校生と上がるにしたがってロボットアニメもめんどくさい内容の物が増えた。

 それはそれで面白かったし、そんなころは子供のころに見ていたものを単調だの子供向けだのと鼻で笑っていたものだ。

 だが、もっと上に行って俗にいう大きいお友達くらいになると、子供向けには子供向けの良さがあったのだと知るようになった。

 いろんな事情があるのはわかっているが、しかし今の自分は喋るロボットで、それを操っているのはこの少年だ。

 だから自分はこの少年の味方でいようとそう思った。なんにせよセルシアの身柄をあちらに置いたままにしておいていい理由にはならない。


(まあそれだけにあの蛮族がほだされているとは口が裂けても言えんがな……!)


 目下のところの最重要課題である。下手をして自分ごと自爆されたらゼフィルカイザーも死ぬので本当に他人ごとではない。


『とにかく、パティはその線で探りを入れてみてくれ。違うなら違うで構わん。

 こっちもそろそろ動き出す。夜には向かえるようにするつもりだ』


『はい了解し――ピ――――』


 会話を切ろうとしたその時。電子音が響いて通信が途絶した。ゼフィルカイザーは目を疑い通信システムを見るが、システムがパトラネリゼの通信機を認識していない。


「ゼフィルカイザー? どうしたんだ?」


『……まずい。バッテリー切れだ……!』




「あんのポンコツがああああああ!」


 パトラネリゼは手にした通信機を睨みながらぎりぎりと歯噛みする。

 通信機についたランプが消えている。ゼフィルカイザーに教わったとおりにスイッチをいじっても何の反応もしなくなった。

 ソーラーパネルがくすんでいるとか曇天で光の量が足りていないとか、さらに言えば日頃のゼフィルカイザー本体からの充電を怠っていたためとかいろんな理由はあるのだが、この状況で通信ができなくなるのは極めてまずい。

 セルシアに相談するも、


「夜には助けに来てくれるそうですが……ど、どうしましょう?」


「んー……? 正直、興味ない。ちょっと黙っててくんない?」


 この調子だ。会話にしても、代わるかと言っても面倒くさいの一点張りで、部屋の中にある高級そうな椅子に腰かけて、机に頬杖をついている。

 外見だけ見れば深窓の令嬢に見えなくもない。というか、見える。


(ううう……そりゃ美人ですよ? 美人ですけれどね?)


 自分のちんちくりんっぷりに比べると泣きたくなってくる。

 自分が同じ年齢になってもあそこまでの雰囲気を醸し出せるとは到底思えない。


(血ですか、結局は血なのですか……!)


 パトラネリゼが女泣きに泣いていたその時、部屋のドアがノックされた。一瞬で警戒態勢に移行するセルシア。逆を言えば、こうしてノックされるまで完全に警戒を解いていたということになる。

 これだけ見ても、如何に彼女が気を抜いているかがよくわかる。

 だが、ドアの向こうからかかった声とその後のセルシアの変化はパトラネリゼを更なる困惑のるつぼに叩き落とした。


「私だ、ガルデリオンだ。いいかな?」


「えっ? あ、やだ、ちょっと待ってくれない?」


 いそいそと身だしなみ、と言っても乱れた髪やしわのよった服程度だが、それを直すセルシア。


「ど、どうぞ」


「失礼する。む、もう一人のお嬢さんは?」


 部屋に入ってきたガルデリオンが見たのは恥じらいの表情でガルデリオンを迎える薄紅色の髪の姫と、人には見せられない形相でセルシアを見つめる白髪の幼女。


「……ふむ。どうかしたのかな、お嬢さん」


「ああいえ、お構いなく。文明開化の一端を見ただけですので。

 ええ本当にお構いなく。ささ、どうぞお帰りを」


「私は来たばかりなのだが。虜囚の立場であるということを忘れてもらっては困るぞ」


「ちょっとちんまいの、邪魔しないで」


(いかんです……! こいつメスの顔してやがります……!)


 この幼女の心の声も乙女の物とは思えないが。


「とりあえず女官に頼んでお茶を用意してもらったのだが、どうかな」


 背後にはカートが用意されていた。

 パトラネリゼが放心しているうちに、気づけばあっさりとお茶会に移行していた。


(くっそ、ゼフさんじゃないけどこいつはマズいです。

 こんなシア姉は見てられんです、ていうか気持ち悪い!)


 二人の間でティーカップをすすりながら二人の同行をうかがう。高級そうな香りを立てているがまるで頭に入ってこない。


「それで、よく眠れたかな?」


「おかげさまで」


「そうか。二人とも、そんなローブでは不都合だろう。あとで着替えも用意させる」


「そ、その。ありがとう」


(私が服選んだ時は礼の一つもなかったくせに!

 エルフもどきだとぶちまけてやろうか……!)


「お嬢さん、私に敵意を抱くのは当然かと思うが、どうかそんなに警戒しないでほしい。

 誓って、危害を加えるようなことはしない」


「いえいえ大丈夫ですよ? そんな、敵意なんて抱いてませんって!」


 満面の笑みであるが、雰囲気がまるで笑っていない。

 しかし黒騎士は歯牙にもかけずセルシアに向き直る。


「そ、それで、何の用?」


「ふむ。貴族の令嬢が相手ならば社交辞令など述べるべきなのだろうがな。そういったものは好かない。

 故に単刀直入に言おう。姫」


「セルシア」


「……む?」


「姫じゃなくてセルシアって呼んで」


(ぐあああああっ! さぶいぼがあああああ!)


「……こちらのお嬢さん、本当に大丈夫かね。

 なにやら全身を掻き毟っているが、病の類ならば隔離せねば」


「病なのは私ではありませんから! どうかお構いなく!」


「そ、そうか。

 ではセルシア。王座に就く気はないか」


「興味ないわ」


 即決であった。何の迷いもない。その姿にパトラネリゼはやはりセルシアはセルシアなのだと涙を流す。


「……お嬢さん、一応、大人の話をしているのでな。

 できる限り大人しくしていてほしいのだが」


「お構いなく」


 これである。


「まったく、子供はこれだから。

 いいか、王家の正統が乱れれば国が乱れ、民も傷つくことになる。

 あの王女では国は纏まらぬ。なれば、君が立つのが最も悲しみの少ない選択となるのだ」


「悪いけど、興味ないわ」


(ですよねえ。シア姉が身内以外に興味あるわけないですって、うんうん。

 ……まあトメルギアがまた内乱になったら辺境は超困るんですけどね!?)


 温かいお茶をすすりながらも内心冷や汗ダラダラのパトラネリゼ。トリセルの難民超過からのエルフ騒動を見ているだけに本当に笑えない。

 だが、パトラネリゼが本当に笑えなくなったのはこの直後のセルシアの言動だった。


「今興味があるのは、あなたのことだけ」


「ごふっ!? げほっ、お、お茶がきか、気管支に……!?」


「お、お嬢さん? 本当に大丈夫か?」


 傍から見れば毒を盛られたのを必死に吐き出そうとしているかのようである。もういろんな意味で少女らしさのかけらもない有様だ。

 そんなパトラネリゼを尻目にセルシアはするりと手を伸ばし、ガルデリオンの手を取った。だが。


「いいから、あたしを見て?」


「――俺に触れるな……!!」


 その手をガルデリオンは振り払った。

 椅子から転げ落ちたセルシアはきょとんとした目でガルデリオンを見上げるが、ガルデリオンは肩を上下させてわなないていた。


「まったく、少しは大人しくなったかと思ったら盛りのついた山猿が……!

 見ず知らずの男の手を取るとはどういう育てられ方をしたんだ」


「あ、う……その、ごめんなさい。気に障ったなら、謝る」


「や、そこは怒っていいところだと思いますよ、シア姉。

 あなたもあなたです。一体何様のつもりですか」

 毒づくガルデリオンとしおらしく謝るセルシアの間に入りながらも、しかしパトラネリゼの脳細胞は崩壊寸前だった。


(あなたはそんなんじゃないでしょうが……!

 こう、ここで、「隙ありぃッ!」とか言って相手を投げ飛ばすとか、そういう人というか、まあ、そんなんでしょうが!)


 パトラネリゼの頭脳に深刻なダメージが入っている。

 これはアウェルには見せられない。一方でゼフィルカイザーに流してこの苦しみを共有したい。そんな気持ちにかられる。

 彼なら今のこの胸の内をわかってくれるはずだ。もっとも今は話すこともできないのだが。

 おのれ肝心なときに役に立たないポンコツめ。

 一方で黒騎士も黒騎士だ。手を握られただけであの反応は自意識過剰なのではないか。

 息を落ち着けた黒騎士は仮面越しにセルシアを見下しながら冷淡に言い放った。


「……私も話を急ぎ過ぎたようだ。ただ、これだけは言っておく。

 君が王位を継いでくれるというならば、私が責任を持ってこの国からシンフェギメルア教を引き揚げさせる」


「――つまり、なんですか。ガルデリオンさんはあのバイドロットとかいう邪教の頭よりも上の立場の人と、そうとらえていいんですか?」


 パトラネリゼの目の色が変わる。馬鹿の熱に振り回されている時間は終わりだ。頭を氷河に叩き込む勢いで一気に冷やしていく。

 その問いに、ガルデリオンは、そうだ、と即答した。


「私としてもあのような教えが広まっていることは不本意だ。

 これだけは確約するし、その後のトメルギアに関与するつもりもない」


「なるほど、なるほどなるほど――鍵で金庫を開けて、もらうもんもらったら用済みと、そういう話ですか」


 その言葉に、今度はガルデリオンの気配が変わる。それを見てパトラネリゼはゼフィルカイザーの推理がそれなりに的を射ていたと確信した。

 少なくともこの国から持ち去りたい何かがあるのは確実だ。


「――そう言えば名を聞いていなかったな。なんとおっしゃるのかな?」


「アガミナ村のトネルパセリと申します」


 地元への報復回避のために瞬時に偽名を名乗るパトラネリゼ。徹底していた。


「トネルパセリ、聡いのは良いことだが、それが必ずしも君のためになるとは限らないぞ?」


「おやおや。私とシア姉の安全は保障してくれるんですよね、騎士様?」


 二人の間に冷たいものが走る。


「君は、その幼さで大したものだな」


「いえいえそれほどでも。ついでにあなたとあの陰険オールバックがどこから来た方なのかとか、この公都がどうして瘴気雲に覆われっぱなしなのかとかも話して頂けると助かりますがね」


「君に関係のあることではない」


 務めて冷静そうに、そう答えるガルデリオン。部外者は知る必要がないと、そう言わんばかりだ。


「冷静に考えてみてほしい。責を負うことは大変だが、それによって救われる者もいるのだ」


 そう言って、席を立つ。尻もちをついたままのセルシアは一瞬追いすがろうとするが、立とうとはしなかった。


「では、失礼する。なにか必要なものがあったら――」


「あの、シア姉。シア姉のお母さんの件はいいんですか?」


「ん? ああ、そういやそんなのもいたわね」


 彼女の旅の本来の目的だったのだが、完璧に脳からすっぽ抜けていたらしい。どれだけ重病なのだこの蛮族は。


「あたしの母親がまだ生きてるって話なんだけど、会うことってできる?」


「私の一存ではなんとも言えん。だが、掛け合ってみよう」


 それだけ言って部屋を去っていくガルデリオン。それを見届けたパトラネリゼは頭を全力で回転させ始めた。


(マズいですね。

 王家の血がないと動かせない代物が欲しいのは確実。そしてあれだけ高度な魔道具を作り与え、精霊機持ちを従える組織の長よりも上の人間。

 ゼフさんじゃないですが、本当に魔族かなにかかもしれませんね)


 それは最早伝説の彼方の存在のはずだ。

 とはいえ魔族は魔界に押し戻された、としか言われていない。第一、魔界がどこにあるのかも分かっていないのだ。

 そして邪神が甦るかもしれないというならば、


「これは……私は、新しい伝説に立ち会えるのかもしれませんね」


 ぞわりとした。恐怖ではないなにかが、パトラネリゼを打った気がした。その横で、


「はぁ……また話せるかな、ガルデリオン」


(……ごふっ)


 恐怖ではない何かが、パトラネリゼをそれはそれはぞわりとさせた。

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