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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十一話 うちの蛮族娘がこんなにチョロいわけがない
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004

 一晩が過ぎた。

 今まで触れたこともない柔らかなベッドの寝心地は最高と言っていいものだったが、起きて窓から垣間見えた空模様をみてどんよりとする。

日が昇るも、公都を覆う雲は分厚く、薄暗いままだ。

 太陽がどこにあるかもわからないので部屋がどちらを向いているのかわからないが、海が見えないあたり西向きではないらしい。

 だがパトラネリゼはその曇天以上に気が重かった。

 昨夜遅く、どうにかゼフィルカイザーと連絡が取れた。しかしながら感づかれることを考慮してあまり長話もできなかった。

 とりあえずアウェルとハッスル丸の無事を確認し、こちらの無事を伝えたくらいだ。もっとも問題はそこではない。

 傍らではくうくうと寝息を立てる赤い髪の少女。

 実質敵地なのに豪胆なものとも思うが、危険を察知して飛び起きる類の人間なので今更だ。

 こうしていると貴族のお姫様というのにも納得が行くものだが、実態はそんなものではない。

 ないはずなのだ。

 ベッドから這い出たパトラネリゼは部屋の隅で通信機を起動。


「もしもしおはようございます。ゼフさん起きてますか?」


『おはようパティ。そちらの状況は?』


「シア姉はまだ寝てます。今のところどうこうということはないです。そちらは?」


『お前たちの無事を伝えたらアウェルが緊張の糸が切れて倒れ込んでな。まだ眠っている。

 私のほうはまあ、7割がた修復できたというところだ』


「……例の件は」


『話せるか』


「ですよねえ」


 当然と言えば当然の反応だった。




(信じてさらわれたポンコツ賢者が仲間の寝取られ実況を送って来るなんて……!

 いやしかし、まだそうと決まったわけではない。私の推察で皆を混乱させるわけにはいかない……!)


 朝、リリエラ一党がそろそろ起き出して朝食の準備をする中、ゼフィルカイザーは心底頭を抱えていた。

 銀髪の黒騎士。

 たぶんイケメンだ。

 それにヒロインが惚れる。


(あるある……で済むか……!)


 行動の動機が100%セルシアなアウェルにそんなことを伝えたら何をしでかすか分かったものではない。暴走する、で済めばまだいいのだが、



『本日未明、トメルギア公都郊外で少年が首を吊って死んでいるのが見つかりました。周囲の証言から旅人のA少年と判明、残された遺書から意中の女性が他の男性と交際を始めたことで、人生を儚んでの自殺とみられ、当局は――』



(なんてことになりかねん……!)


 ゼフィルカイザーは色恋沙汰は全く分からない。面倒案件極まりない。故に関わりたくない。だが、向こうからやって来た。

 いや、まだセルシアが黒騎士にホの字とは限らないのだが。


『……実際、その黒騎士か。どういう男なのだ』


『ガルデリオンと名乗りました。リリエラさんには確認はされたんですか?』


『した。十中八九トメルギアの人間ではない。

 しかし、邪教サイドとも別に思える。お前はどう見た?』


『なんていうか、邪教の教主っていうのが出てきたんですが態度が対等か上みたいな感じでしたよ、ガルデリオンさん』


 パトラネリゼが昨日の様子を見ていた範囲ではそのように感じたらしい。

 言い方が柔らかいあたり、目に見えて人柄が悪いわけでもないのだろう。


『……同じ勢力だが思惑が違う、という線が濃厚だな。

 で、その男、美形か?』


『目元を仮面で隠してるので何とも。

 ただ雰囲気は明らかにイケメンのオーラを醸し出してましたよ』


『だがそんなものでコロっと行くような女か?』


 アウェル以外の人の区別がついているかも定かでないような女だ。

 一行にしても、一月半も旅をしてきて名前を呼ばれたことは一度もない。おそらくあれは名前自体、そもそも記憶しようとしていない。

 それが初対面の相手の名前を一発で覚えた。

 パトラネリゼが慌てふためくのも当然だ。


『そういうのじゃないですよ。

 また取っ組み合いになってすぐに取り押さえられたんですけどね? 

 なんかこう、熱っぽい感じで、「また、手も足も出なかったなって」とか言ってたんですよ』


『あれか。自分より強い奴が好きとかそういうのか』


『有り得すぎます』


 普段の言動や行状だけに、キャラクター的に全く違和感がない。

 これをアウェルに伝える。

 論外である。

 いろんな意味でアウェルがへし折れるのが目に見える。


『パティ、なるべくそちらの状況を探り、隙を見てこちらに送ってくれ。こちらもリリエラ一党と救出作戦を練る』


『了解しました』


『あと件の黒騎士が接触してきたら』


『接触してきたら?』


『全力で妨害しろ……!』


『ぜ、善処します』




 その他、情報交換を諸々して通信を切ったあたりでセルシアが起きた。

 さらにしばらくすると女官が朝食を持ってきた。パンと茹で卵とサラダの簡素なものだ。

 しかし、卵も野菜もうまみが薄い。麦も質が低いのが一発でわかった。


(これならミグノンの作物のがおいしいですねえ。まあこの様子じゃ仕方ないですが)


 この瘴気雲のせいだろう。陽光を遮るだけでなく、土地の活力までも奪い去っているようだ。

 だが、パトラネリゼを驚かせたのはそこではなかった。


「ごちそうさん。もういいわ」


「……えっ?」


 あっさりと平らげたセルシアはそう言った。

 おかしい。量的にはパトラネリゼがちょうど腹八分目程度だ。

 普段からパトラネリゼの十倍食うセルシアには到底足りないはずだ。


「あ、あの。シア姉? 足りないんならおかわり頼みますよ?

 それとも舌に合いませんでした?」


「そういうんじゃないわよ。食欲ないだけ……はぁ」


 アンニュイげにため息をつくセルシアの様子に空恐ろしくなる。

 セルシアに食欲がない。これは世界が滅ぶ前触れではなかろうか。


(恋愛とか、個人の自由だと思うんですけどねえ。流石にこの状況でっていうのは)


 正直、パトラネリゼとしてはそう思っている。アウェルには悪いがこればかりは人の縁の妙だろう。

 だが、さすがに相手の腹が読めない状況だ。あのバイドロットという人物はいかにもすぎたので論外だ。そして、ガルデリオンにしても目的がどこにあるのかが分からない以上危険である。

 そもそもセルシアを確保しようとする真意が不明だ。正統を正すためなどと言っていたが、絶対にそんな理由ではないだろう。


(王女と教主の二人と黒騎士とでそれぞれ思惑が違う、ってことなんでしょうね。問題はその思惑がなんなのか)


 王女とバイドロットは通じ合っている。そしてその二人とガルデリオンはそれぞれセルシアを必要としている。

 ではセルシアが特別である点と言えば何か。トメルギア王の血を引いている可能性がある、ということだ。

 問題はなぜ王女では駄目で、セルシアでなければならないのかという点だ。

 ルイベーヌ侯爵や、あるいは師匠のエンホーであれば何か知っていたかもしれないが思い当たる節はない。つくづく、己が未熟なのだと思い知る。

 いや。自分が思い至らないだけで、伝承の中には自分が気づいていない真実が隠されているかもしれない。


「これならカーバインにもう少し長居したほうがよかったですかね」


 とにかく、頭を巡らせる。己の知識を総ざらいして、奴らの目的を見出さなければならない。

 集中し、脳の片隅に至るまで記憶を探っていく――


「はぁ……ガルデリオン、か」


 物憂げな呟きに全身が粟立ったパトラネリゼであった。




「で、バイドロット卿。いろいろと聞きたいことがあるのだがな」


 城内の一室にて、バイドロットとガルデリオンが対峙していた。他には誰もいない。ガルデリオンの指図で人払いがされたためだ。


「なんでしょうか、黒騎士殿」


「なんでしょうか、ではない。

 貴様、何故人に災霊機(ファントムライザー)を作り与えた」


 仮面越しにも怒りの形相であることがわかる、強い言い方だ。それにバイドロットが引け腰になる。


「し、しかし、我はこの都から動けぬ身ゆえ。我やシンフェギメルアに忠誠を誓う一部の者に必要な力を与えたまで」


「だからと言ってほいほい作り与えていいものではないぞ。

 数打ちゆえに真正の精霊機には及ばないが、並みの魔動機では太刀打ちができない機体だ。

 いや、それはまだいい。あれを魔族以外が用いればどうなるか知らぬとは言わせんぞ」


 その言葉にバイドロットが歯噛みする。

 バイドロットとて、リスクは承知の上だ。なにせどのみち使い捨てるつもりだったのだし。

 しかしあの司祭、シャーグルは思った以上に使いこなしていた。そう言った意味では惜しい駒を失ったという気も起ってくる。だが、


「所詮は人間です。我ら魔族の命に比べれば比較にもなりますまい。

 なによりシンフェギメルアの糧となった、それは奴にとって何よりの功徳でしょう」


 バイドロットは真顔で言い切った。

 ――直後。その顔を、拳が打ち抜いた。


「下らんことを抜かすな」


「ひっ……!」


 背丈自体はバイドロットのほうが高い。だが、顔を殴られ倒れ伏したバイドロットは、目の前の青年から後ずさった。

 一方のガルデリオンは今のは突発的な行動だったのか、一息つき、調子を落ち着ける。


「いいか。この十年、魔界を離れ任務をこなし続けていた貴様だ、大概のことは大目に見よう。

 だがな、我らの存在は露見してはならないものだ。それはわかっているのだろうな」


「わ、わかっています。我ら魔族がこの世に出でていることは知られてはならない」


「そうだ。我ら魔族がいまだ存続していること、邪神復活のために各地に介入していること。これらは知られてはならんことだ。

 災霊機は魔界にしかないものだ。伝承を真に詳しく知るものならばアレを見て我らの存在にたどり着きかねん」


「は、はい。それはもう理解しております。ですから邪教なぞという看板をぶら下げているわけでありまして」


「そのあたりの手腕は認めるがな」


 ガルデリオンは冷淡に言ってのけるが、その言葉にバイドロットは歯を軋ませた。


「それで、邪神の封印の鍵の目星はついたのか」


「以前も申し上げましたとおり、この城の地下に眠るもので間違いないかと。

 ですが接触する機会は戴冠の儀しかありませぬ。それ以外では典礼官が鍵を握っており、接触することは不可能です」


「そして、肝心要の王子はその血を引いていなかった、と」


「王子も辿って行けば王家の血は引いているのですが、典礼官の話が本当ならばアレは前契約者の血により近いものの認証しか受け付けませぬ」


「すると、あの王女は」


「資格はあるのですが、あれに王位を継承させることはこの国の重臣や典礼官すべてが反対しておりまして。

 私としても、あれを契約者にすることは避けたく」


「己の情婦を危険に晒したくない、ということか」


 バイドロットの言葉に冷笑を浴びせるガルデリオンだが、無論、そんな青臭い理由では断じてない。

 バイドロットとハクダはお互いが利用し合っている関係だ。

 バイドロットは公都から動くことはできない。なので、ハクダの持つ派閥の必要性は高い。

 シンフェギメルア教も随分と広まりバイドロット自身の子飼いも数が揃ってきたが、まだハクダを切り捨てれるほどではないのだ。

 なにより、彼女の派閥というのは彼女にのみ忠誠を誓っている。だからバイドロットがそれを受け継ぐことは不可能なのだ。


(あの下郎ども、人間の分際で……! 大体なんなんだ、ハクダの下僕どもの生暖かい目は!)


 単に同朋扱いされているだけだが、気づかないほうが彼にとっては幸せだろう。

 そんなことはつゆ知らず、ため息をつくガルデリオン。そのわずかな挙動にすらバイドロットは鳥肌が立つ。

 肩を震わせながら、赤い篭手を掲げ、


「な、なんでしたら力ずくにでも! 我が災霊機の力をもってすれば、このような国」


「ならん。大事にすることはまかりならん。改めて告げる。我々の目的はその王家の大魔動機グラン・マジカライザーとする。

 その過程において武力を行使することは許さん」


「武力を用いぬとなると、どのようにすれば」


「私が姫を説得する。

 貴殿の言う通りならば典礼官以外は大魔動機がそれであると知るものはいないのだろうし、辺境育ちの姫が知るはずもない。

 なによりあの通りの山猿だ。誑かすのは容易い」


 膝をついたまま、伏せた顔で歯噛みするバイドロット。何を腑抜けたことを言っているのか。

 しかしそれを口に出せば己の首が物理的に飛びかねない。だが己にとっての最重要項目だけは確認しておかねばならない。


「ちなみに、その大魔動機を奪った後は」


「当然我らはこの国を引き払う。この都に敷いた結界も解除してもらうぞ」


「――ッ!! ですが私は」


 口答えしようとするバイドロットを、ガルデリオンは一瞥もしない。


「十年越しに故郷に帰れるのだ。陛下も貴殿の働きを労われるだろう。

 今しばし尽力を頼む、魔王軍炎の四天王よ」




 ガルデリオンが去ったあとも、バイドロットは一人部屋の中で膝をついていた。そこに声をかける者が一人。


「ば、バイドロット様? どうされたのですか?」


 ハクダだ。しかし、バイドロットは微動だにしない。なにがあったのか。ハクダがその顔を覗き込もうとして、唐突にバイドロットに押し倒された。

 衣服が破り捨てられ、強引に押し入られる。


「ちょ、ちょっとバイドロット様!?」


「黙れ、黙れ黙れ黙れええええっ! 嫌だ、嫌だ……! あそこに帰るのだけは……!

 くそっ、あの混ざりものの小僧めええええ!」


 その形相は恐れと怯えに満ちていた。まるで怯えた子供が母親にすがるかのようにハクダを貪るバイドロット。

 血の気を失っていた顔が、徐々に生気を取り戻していく。

 バイドロットがこの国にきて一番最初に手に入れたものがこの女だ。いたぶる必要も苦しめる必要もなく、ただいるだけで瘴気を生み出す腐りきった魂の持ち主。

 魔族は、瘴気が無ければ生きていくことができない。

 そのバイドロットにとって、ハクダはまさしく生命線だった。

 しかし組み伏されるハクダは白けた表情で己に巣食う寄生虫の有様を眺めていた。


(これは……そろそろ主従をはっきりさせるところかしら)

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