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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十話 漆黒の魔動機(マジカライザー)
62/292

006

 時はわずかに遡る。

 街道からやや離れた小高い丘の上で、ゼフィルカイザーたちとハクダ一行の戦闘を見つめる影があった。


「ちょうとケリがついたところか。トメルギア側の腕も悪くはなかったが、相手が悪かったな。

 あの白い機体、並ではない」


 黒い鎧を纏う騎士。黒騎士が、その光景を眺めていた。ふと何事かを呟き、手に灯った光を仮面に当てる。


「白に赤と青の機体。話に聞いた通りだな。姫は――あれか?」


 なんらかの魔法なのだろう。黒騎士の視覚は戦場からやや離れた場所の岩陰から様子をうかがう赤い髪の娘とそれより幼い白い髪の少女の姿を見つけていた。

 道々でも聞いた通り、目を引く美しさを備えている。だが、やたらと殺気だった目つきで抜身の剣を手にしているのは何故なのだろうか。


「穏便に接触できればいいのだが」


 その時。金色の残骸の上に、黒い影が見えた。


「む、バイドロット卿の配下か。話がこじれるとマズいな……なにっ!?」


 黒騎士が驚愕の声を上げる。その視線の先で瘴気が渦を巻き、巨躯を成したのだ。


「バイドロットの仕業か……!? 邪神信仰を広めるだけでなく人間に災霊機(ファントムライザー)を作り与えるなど、何を考えている!?」


 はるか向こうでは白い機体が黒い機体、ジビルエルと交戦を開始した。さらに既に倒された二体の魔動機も急に起き上り、白い機体へと襲い掛かる。


「――介入するしかない、か。

 始まりのもの、すべてを終わらせる刃よ――」


 抜き放った黒い刀身が口上に応じて輝き、膨大な量の魔力が渦を巻く。


「――来い、黒騎士エグゼディ」


 黒い風が地を駆ける。




『なんなんだこいつは!?』


「攻撃がまるで通じない、どういうことなんだ」


 棒立ちのジビルエルに連続して斬撃を見舞うが、やはりまるで通じている様子はない。


『ふむ。その様子ですと魔剣のような物は持っていない様子。まあ所詮は田舎者ということですか』


 ぞわり、とジビルエルの影が広がった。広がった影は打ち倒されたラギメッツとスレイドニアにまとわりつくとそのままじわりと染みるように消える。途端、火の消えた二体の魔動機が動き出した。


『あが、ぎ、い、ぴいいいいいい!?』


『えげげげ、にょ、びひゅっ!』


 二体の魔動機は奇声を上げながら、まるでゾンビのような足取りでゼフィルカイザーへと襲い掛かってくる。

 ラギメッツはともかくスレイドニアは四肢の駆動系を損傷しているのだ。動くはずがないというのに。


『この術――外法の類でござるか!?』


『神の奇跡と言い直したまえ』


 ジビルエルが無造作に拳を振るう。アウェルはとっさにそれをガードした。だが、ガードした左腕が嫌な音を立てた。


(――え?)


 めきり、と音を立てて、左腕の装甲が砕け、駆動系らしいパーツが飛び散った。


「え――」


 アウェルの驚く声がどこか遠くに聞こえてから、激痛がゼフィルカイザーを襲った。


『――っ、が、あ――』


 本当に痛いときは声すらあげられないという。ゼフィルカイザーはそれを実感することになった。威力を殺し切れずに、そのまま転がっていくゼフィルカイザー。


『ゼフ殿、アウェル殿! おのれよくも!』


 影鯱丸が仇を討たんとジビルエルに襲い掛かる。

 やはり棒立ちのままその斬撃を受けたジビルエルだが、影鯱丸の斬撃を受けたジビルエルの首がわずかに斬れた。そこから黒いもやが噴き出すが、すぐに止まる。


『この対魔刀ではこれが精いっぱいでござるか……!!』


『その剣は魔剣の類ですか。あちらの木偶よりか厄介ですねえ。そちらのゴミに相手をしてもらいましょうか』


 何の感慨もないという声がそう言ったと同時、影鯱丸のいたところを槍の一突きが襲った。ラギメッツが槍を無造作に突き立てたのだ。

 恐るべきはその挙動。生気が感じられないのに魔力の気配は膨大であり、一方で殺気も闘志もない。


「ぜ、ゼフィルカイザー!? 大丈夫か!?」


『ちと、きつい、な』


 機体の状況を見れば左腕が真っ赤に染まっている。痛みも尋常ではなく、わずかでも気を抜けば意識を失いかねない。


『レールガンを使う、出力を回すから弾を』


「わかった!」


 左腕の握力がほとんど感じられない中、どうにか弾倉を交換する。

 あちらは余程こちらを舐めているのか微動だにもしていない。その余裕を切り崩してやる、と再生に回すエネルギーまでつぎ込んだレールガンの一撃が放たれた。

 ベルエルグの時以上の運動エネルギーを伴い、莫大な衝撃波を巻き起こしてジビルエルに弾丸が直撃した。だが。


『ぐ……今のは、さすがに驚きましたが。しかしこの程度、神の奇跡を害するには程遠い』


 わずかにのけぞらせたのみで、ジビルエルは無傷。そこに通信機からパトラネリゼの声が入った。


『ゼフさん、逃げてください! ゼフさんではその機体に勝てません!』


『パティどういうことだ!?』




 岩陰から状況を見守っていたパトラネリゼが、蒼白になりながら金切り声をあげる。


「あの機体はおそらく精霊機です! 精霊機は霊鎧装(エレメイル)を持っていて、ええと、霊鎧装というのはあの……」


『要点だけ頼む』


「精霊機に物理攻撃は通じません、魔法か魔力のこもった武器でないと傷すらつけられないんです!」


「ちょっと待ちなさいよ、それじゃアウェルが……! あの疫病神……!」


 その声を聴きとめたのか。邪悪な闇色の機体が、二人のほうへと顔を向けた。




『おや、確保対象はそこですか。先に確保しておくとしましょう』


 ゆっくりとジビルエルが歩み出す。


「させるか、セルシアに手を出させるわけには――」


『お前はそいつと遊んでいなさい』


 横殴りの力を受けてゼフィルカイザーが再度吹き飛ばされる。棍棒を振り抜いたスレイドニアがその目を不気味に輝かせながらゼフィルカイザーを見ていた。


『ぐ、おの、レ』


 なんとか立ち上がるが、今ので全身の駆動系が悲鳴を上げている。修復にエネルギーを食われているせいでビームも武器も使用不可。ヤケクソで撃ったミサイル四発も当然のように通じない。

 影鯱丸はといえばケダモノのような挙動で襲い掛かるラギメッツを凌ぐので精いっぱいだ。足止めの忍法もまるで通じず、機体の損傷を意に介さずに襲い掛かっていく。

 そのままのしのしと、恐怖を煽るように二人へと歩み寄っていくジビルエル。


「――あ」


 ぞわり、とジビルエルから黒い触手が這い出す。アレはまずいものだ。人の生理的嫌悪感を全力で刺激してくる。


(ダメだ。セルシアが危ない。助けなきゃ。今のオレには力があるんだ。だから。だから)


『アウェル、横!』


「え」


 再度スレイドニアの一撃を受けるゼフィルカイザー。装甲が砕け、無様に転がる。


「あ――」


 その時。ゼフィルカイザーとアウェルは見た。黒い風が駆け抜けるのを。



 

 剣に手をかけた件の娘と、その影に隠れた少女。それを嬲り者にする愉悦に舌なめずりをした、そのとき。


『え?』


 ずるり、とジビルエルの機体が斜めにズレた。中の邪教の司祭もろともに。


『なにが』


 振り返る。そこには赤いマントをたなびかせた黒い機体。漆黒の騎士の姿。


『眠れ。悪い夢は終わりだ』


 その言葉が、邪教の司祭が最後に聞いたものだった。霧散していくジビルエルごと、司祭も瘴気のもやへと分解されていった。




 一瞬のことだった。その黒い機体は唐突に現れたのだ。本当に唐突に、まるで急にその場に出現したかのように。そのまま、黒い精霊機を一刀で両断した。


「あの、機体は、いったい?」


 ジビルエルと同様に黒い機体。

 だが、格が違う。見ただけでわかる。

 闇よりもなお深い漆黒。機能性を損なわないぎりぎりのラインで施された装飾は華美ではなく質素ですらあるが、それを揶揄することなど誰にもできないだろう。機体を走る金や赤のラインがそこにさらなる重厚感を与えている。

 今までにも鎧を着こんだ騎士、あるいは騎士甲冑風の魔動機は何度も見たが、その機体ほど騎士らしさを感じられた存在はいない。

 どうにか立ち上がったゼフィルカイザーよりもその機体は頭一つ分は大きい。だが図体だけと感じさせない完成度がそこにある。

 手にするのはやはり漆黒の剣と、深紅に黒のラインが入った盾。さきほどのパトラネリゼの言の通りなら魔法の武器なのだろう。

 金色の輝きと漆黒の輝きが見事に調和した剣には装飾もないもない。必要がない。それほどにその剣は見事であり、付け入る隙を感じさせない。


『黒騎士、だと』


 ゼフィルカイザーが、つい口をついてその名を呟く。その名に、その場の誰もが納得した。この機体を呼び表す名などほかにないだろう。

 機体の構造は魔動機と同じようで、首の後ろから搭乗者が現れた。機体同様、黒い甲冑を纏った騎士が。

 機体から飛び降りると、地面直前でふわりと減速し、セルシアとパトラネリゼの前に降り立った。やはり赤いマントと、銀色の髪を風になびかせた仮面の騎士。


「ようやく会えたか――セルシア姫。貴殿の身柄を頂きに参った」

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