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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十話 漆黒の魔動機(マジカライザー)
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004

(拝啓、偉大なる先輩様方。パーティの雰囲気が最悪です)


 一夜明け公都を目指す一行であるが、朝から誰一人として口を聞いていない。

 殺気を振りまきながら、ゼフィルカイザーが早足でないと追いつけない速度で進むセルシア。

 しょんぼりと落ち込んだまま、黙々とゼフィルカイザーを前へと進めるアウェル。

 その様子に頬を膨らす後部座席のパトラネリゼ。

 ゼフィルカイザーの肩の上、たたずまいがシュールすぎて亜空の瘴気を放つオブジェと化したアデリーペンギン。

 一応、ハッスル丸は空気を良くしようと努め、朝食のときにいつもの軽口をたたこうとしたのだ。

 だが、セルシアの一瞥がそれを制した。それで、ハッスル丸も空気の正常化を諦めた。


(いやほんとう、どうしてこうなった)


 機嫌が直っていないどころか確実に悪化している。電子頭脳が痛いことこの上ない。


『なぁ、パティ』


「嫌です」


 こっそりとパトラネリゼに声をかけるが即断される。

 もっとも、12歳に14歳と16歳の喧嘩を仲裁させようとする26歳、この世界に来てからの分を足すともう27歳としてはぐうの音も出ないところだ。


(今時の若い奴の考えることはわからん……!)


 そういう問題ではないのだが。ともあれ街道を進んでいく一行だが、道行く人は皆無だ。

 道の先、北西の方角は暗雲が垂れ込め、時折稲光が走っている。いかにも、といった雰囲気だ。


「む……ちょっと待ってください。あれってまさか瘴気雲ですか」


「見た限りそうとしか見えんでござるな」


 二人の言葉にいったん足を止めるゼフィルカイザー。その様子を察してか、セルシアも苦々しげな表情ながら足を止める。


『瘴気雲、とは何なのだ』


「読んで字のごとく、瘴気の雲ですよ。

 この世の負の力が見えるレベルにまで高まったのが瘴気っていう物なんですが、それが恒常的に溜まるような状況になってしまった結果発生するのが瘴気雲です。私も伝承でしか知りませんけど」


「拙者、実物を見たことがあるでござるよ。

 南大陸の果てには魔の森、と呼ばれる大樹海がござってな。帝国も二の足を踏んでいた恐るべき魔物の巣窟なのでござるが、ああして常に瘴気が垂れ込めてござった。

 まあ魔の森のものに比べれば規模は小さくござるが」


『負の力というと』


「地脈の淀みやら濁った魔力やら、いろいろでござるがな。人の負の感情なども含まれるとは聞くでござるが」


「公都がそのレベルで荒れてる、と?」


「有りえんでござるよ。

 国の崩壊と魔物の跋扈、他諸々の苦難を受けた南の大陸でも人里であんな光景は見なんだでござる。

 暴政を敷いた程度であんなものは発生するとは思えんでござる」


『ちなみにパティ、公都にあんなものが浮かんでいるという話は』


「曇りがちとかずっと日を見てないって話は聞いてましたが、あんなことになってるなんて思いませんよ。普通の人は瘴気雲なんて知りませんし」


 となると。公都は思った以上にアレなことになっている可能性が高いと、そういうことなのか。


『……退くか?』


「帰るならあんたらだけで帰れ。あたしは行く」


 セルシアの声を今日になってから初めて聞いた一行。振り向きもせず足を進めていく。

 同時に、ゼフィルカイザーも足を進め出す。ゼフィルカイザーの意志ではなく、アウェルの操縦によるものだ。


『……いいのか、アウェル』


「姉ちゃんが行くって言うんだ。オレも行かなきゃいけないだろ」


「あの、エル兄。いっそほっといたほうがいいんじゃないですか。

 シア姉はちょっとは痛い目を見たほうがいいんですよ」


「そういうわけにはいかないだろ」


 言いはするが、目の光は死んだままだ。夕べ、セルシアにノされたが打撲程度でそこまでの外傷はなかった。だが、起きたときからこうしてふさぎ込んだままだ。

 パトラネリゼもハッスル丸も困惑しているが、ゼフィルカイザーには見覚えがある。

 あの村で浮かべていた顔。自分がひたすら無力なのだと打ちひしがれていたあの表情だ。

 ゼフィルカイザーがちらりと目線をやればSEKKYOUという枠に喝を入れるようなセリフがウジャウジャと並んでいる。

 だが、これでどうこうなる類のものではあるまい。


(元気づけてやろうにも、なあ)


 眼下で殺気を振りまく元凶がいる以上は無駄だろう。どこかに落ち着かないことには話が進まない。


(一応念のため打てる手は打っておいたがな。

 非常手段だし、必要な事態になるとは思いたくない、が)


 そうは問屋が卸さない、というように、眼前に一体の魔動機が立ちふさがっていた。

 いつぞや見た金色の装甲の機体。長ったらしい名前を付けられたハクダの機体だった。


『ふっふっふ。あーっはっはっはっは!! 予想通りこの道を通りましたわね!!

 このハクダ・エメル・トメルギアの冴えわたる頭脳の賜物ですわ!!』


 キンキンと鳴り響く声。無駄に艶があるのが教育に悪いが、この頭の悪い言動がいまのゼフィルカイザーには心地よい。

 見れば、金ぴかの機体は以前とは装いが変わっていた。具体的には肩のアーマーが縮小していた。

 以前アウェルが言っていた通りなら、前回のようにバランスが悪いということはなくなっているのだろう。


「いや、予想通りって言っても。南部から公都目指すとこの道しかないって話でしたしねえ」


「順当に網を張って順当に引っかかったというだけの話でござるよなあ」


(むしろ網に引っ掛かったのはどっちだか、という感じがするな)


『お黙りっ! ええい、うっとおしい小娘に怪生物め!

 ですが今日はあなた方に用はなくってよ』


 金ぴかの機体が白い機体の足元にいるセルシアを見る。


『そこの小娘。シンフェギメルア教教主、バイドロット様があなたを所望です。ついてらっしゃいな』


「あん? 嫌よ。ていうか誰よそれ」


『この国を、ひいてはこの大陸をいずれは牛耳るお方ですわ。あなたはその糧となるのだそうで。

 さ、いらっしゃいな』


「断る。てか、そっちから出向いてきてくれたんならちょうどいいわ。

 今あたしは機嫌が悪いのよ。ぶっ殺してやる」


 乱暴に白銀の剣を抜き、鞘を放り投げるセルシア。


『いかん。あいつ自分で敗北フラグを……!

 パティ、ちょっと止めてこい!』


「やですよ。痛い目見たほうがいいんですよあの人は」


 焦りで言葉が乱れるゼフィルカイザーと、怒り心頭という様子のパトラネリゼ。しかし、金色の機体の両脇に、それぞれ騎士の装いをした男が立った。

 こちらから見て右の、まだ若い男はその腕に腕輪を、左の中年の男は剣の鞘を掲げている。どちらにも宝玉が埋め込まれていた。


「来い、ラギメッツ」


「来るのだ、スレイドニア」


 その声に従って魔法陣が展開、二体の魔動機が現れる。どちらも騎士らしい装いの機体だ。

 ラギメッツと呼ばれた機体は鋼色の、細身の全身甲冑のような姿に槍を備え、スレイドニアと呼ばれた機体は黄土色の重量級の体格に両手にそれぞれ棍棒を持っている。


「――古式魔動機。パティ頼む、姉ちゃんを止めてきてくれ」


「っ、わかりました、降ろしてください!」


 流石にこの状況で渋るほどパトラネリゼも頭の巡りが悪くはない。コックピットから身を乗り出すと既に頑張を装着していたハッスル丸がパトラネリゼを抱えて跳躍、セルシアのもとに降り立つ。


「セルシア殿。パティ殿と共に隠れておってくだされ」


「嫌よ。もう嫌。斬りたい奴は自分で斬るの。

 アウェルに任せるなんてゴメン――」


 ぱちん、と響く音がした。見れば、パトラネリゼが背伸びをして手を振り抜いている。

 頬がじんわりと痺れるように痛んで、自分が頬を叩かれたのだと理解する。


「ちんまいの。あんたも斬られたいの?」


 およそ底冷えする殺意を振りまくセルシアだが、パトラネリゼは臆面もなく言い返す。


「斬りたきゃ斬ればいいでしょうが。

 でも、私の平手が止められないくらい混乱しててなにをどう斬るんですか」


「ッ……!」


「そこまで。奴らもやる気の様子でござる。ひとまずはどこかに」


 歯噛みするセルシアと視線を逸らさないパトラネリゼにハッスル丸が促す。パトラネリゼがセルシアの手を取った。


「ほら、逃げますよ。早く!」


「わかったわよ……」


 うなだれたまま、かけていくパトラネリゼとセルシア。それを見送って、眼前の敵を見据えるゼフィルカイザー。


『……やれるか、アウェル』


「ああ」


 モニターに映る三体の魔動機を光のないままの目で確認したアウェルは、呟くように言った。


「オレもいろいろと頭にきてるんだ。憂さ晴らしに付き合ってもらう」


(あかん、これ負けるかもしれん)


 ゼフィルカイザーは敗北の予感に打ち震えた。

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