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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十話 漆黒の魔動機(マジカライザー)
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003

(道具じゃない、か)


 ロボットアニメではよくあるシーンだ。

 意志のあるロボットがいたとして、それがロボットらしく人の言うことを聞いて当たり前と言われて、そうではない、彼も自分の意志があるのだと言ってくれる誰かがいて。お約束と言っていい。

 自分がそう言うシーンに遭遇できたら、とは常々願っていたが、自分が言われる側になるとは思ってもみなかったことだ。

 そして実際に言われてみると。


(暖かいなあ)


 そう思う。何度も疑問に思うたび放棄しているが、今の自分がどのような存在なのかは正直よくわからないのだ。

 死の暇に回収された意識がデータとして刷り込まれているのか。

 魂魄というものがしっかりあるとして、それが機体のどこかに封入されているのか。

 或いはそれこそ、機体それ自体に憑りついているような状態なのか。

 この世界の生態系や人種の多種多様具合に面喰らい続けてきたゼフィルカイザーだが、この世界の者からすればゼフィルカイザーのほうがよほど特異な存在だろう。セルシアが警戒するのも当然なのだ。

 なにせ巨人と言っていい機体が自分の意思を持って歩き回っているのだ。日本であれば自衛隊のお世話になること請け合いである。

 そんな中、意志のあるものと認めてもらえたというのはなんとも嬉しいものがある。


(正直、道具扱いでもそう困らなかったんだがな)


 子供のころほどロボットに幻想は抱いていない。だからこそある意味割り切っていた面もある。

 だが、それでもそう言ってもらえたこと。そう言ってくれる友を得られたということ。

 それだけでも、こうして異世界に送り込まれた価値はあった。


(先輩連中もそりゃ嬉しいだろうよ。あんなこと言われちゃあな)


 そう思う。そう言ってもらえるほどのことをしてきたのかと思えば若干微妙なところだが。

 どちらかというとゼフィルカイザーがかけた迷惑のほうが多い。

 アウェルは我が強くもなく、引っ込みがちな少年だ。それだけに手間のかかることもない。

 そんなことを考えていると、コックピットハッチをノックする音がした。何事かと思えば寝間着姿のパトラネリゼだ。


「あの、こっちで寝させてもらえません?」


 衣類をやたらと持ち込み荷物を圧迫している張本人ではあるが、ナイトキャップ付きの可愛らしい寝間着姿を見ると許せる気にもなってくる。

 まあこんな旅路でする格好でないのは確かなのだが。


『構わんが、いいのか』


「シア姉のほうは殺気がヤバいですし、エル兄のほうはハッスル丸さんが見ててくれますから。

 ――それに正直、今のシア姉とは一緒にいたくありません。殺気とか関係なく」


 パトラネリゼもそれなりに思うところがあったらしい。彼女がこういう反応を示すのは珍しいことだ。

 コックピットに降りてくると後部座席に座るパトラネリゼ。ゼフィルカイザーは気を使い、背もたれを傾ける。


「おおう、こんな機能が。やっぱりゼフさんはすごいですね」


『そんなことはない。アウェルがいなければまともに戦えんぞ』


「こないだのギルトマとやりあった時は傑作でしたねえ」


『言うな』


 先日、通った領地の領主に絡まれたときのことだ。

 けしかけられたギルトマを、そろそろ自分でも大丈夫かと思いアウェルの操縦なしでやりあってみたのだ。結果、あっという間にボコられて這いつくばるハメになった。


『ちょっとはマシになったと思ったんだがな』


「そうそう簡単には行きませんよ」


『だな』


 穏やかな空気に、パトラネリゼもいくらか気が緩んだのかほっとした顔を見せる。


「ゼフさん、怒ってないんですね。心配しました」


『怒るとは何にだ』


「シア姉ですよ。エル兄にあんなこと言うし、ゼフさんも道具呼ばわりするし」


 コックピット内に置かれたゼフィルカイザーフィギュアをじっと見つめるこの娘も、ゼフィルカイザーを道具や兵器とは見ていないのだろう。それだけでもほっとする。


『まあアウェルに対してはどうかと思うが、私に対してはまあ正論だろうよ』


「え、でも」


『お前の家族……と言ってもよく知らないが。そう、確かお前には姉がいただろう。

 たとえば彼女に「邪神を倒すために君の力が必要なんだ、ぜひ力を貸してくれ!」と私が言ったら?』


「あー、それは、まあ」


『いたいけな少年少女を連れまわしていると言われれば否定ができなくてな』


 以前にも思ったことだが状況だけ見たら未成年略取以外の何物でもない。


「とは言いますが。私は自分でついてきてますけれど、シア姉もエル兄も、言わないようにしてましたけどぶっちゃけ孤児ですよね。

 ゼフさんがいなかったら野垂れ死にしてても……いやいや、シア姉だけなら生き延びそうですが、でも二人だと無理がありますって」


 セルシアなら生きていくだけならなんとでもなるだろう。

 食べたい時に狩り、寝たい時に寝る、そういう生活ができる能力がある。だが、アウェルがいるとなると話は別だ。

 ハッスル丸も未踏破領域を突っ切ってきたというが、ハッスル丸は忍者というサバイバルも長けた業種だ。

 そしてその忍者でも、その道程は困難だったという。

 結局どこかの人里で生きていくほかなく、そうなるとどう食べていったものかという話になるわけで。


「先に言っておきますけど。

 ゼフさんなしでミグノンに来てたら、あの二人がどうなってたかの保証はできませんよ。

 エル兄の彫刻の腕前ならミグノンの職人さんは大喜びでしょうけど、それにしたってあんな身なりじゃ町に入れるかどうか」


『それをどうこう言う気もないし、行けたかどうかも怪しいからな』


 故事によくある話だ。豪傑とその母が旅をしており、豪傑が水を汲みに行っている間に母が獣に食われてしまったという。

 豪傑は獣を殺して仇を討ったが、逆を言えばそれだけの力があっても誰かを守るということは難しいのだ。

 なにより、あの娘はそれを理解しているふしがある。


「どういう人なんですかね、シア姉って。余計にわかりません」


『いや、わかりやすいだろう』


「へ?」


『強さばかりに目が行くがな、所詮は16の娘だぞ。それが急に親を失い、弟分と二人で生きていかなければならなくなったのだ。

 視野狭窄になるのも仕方ないだろう』


 言いながらゼフィルカイザーが思い出すのは、ロボットアニメの展開、ではなく。

 前世、ゼフィルカイザーという名前でなかった(はずの)、高校のころのことだ。

 同級生で母親が急逝した奴がいた。最初はふさぎ込み、しばらくすると元通りになったのだが、それからさらにしばらくすると明らかに元に比べて様子がおかしかった。

 一言で言うなら無理に明るく振る舞っているような調子で、あるときストレス性の病気で倒れたのだ。

 ゼフィルカイザー自身は特に関わりのある相手ではなかったし、何年生の時のことかまでは覚えていない。

 ただ、周りが騒いでいたので印象に残っていたのだ。

 それまでの日常を構成していた要素が突然抜け落ちるというのは計り知れないダメージがある。

 平和な日本でもそれで、ましてやこんな生きることに必死にならなければならない世界だ。張りつめていても仕方ないだろう。



「いやまあ、そりゃそうなんですけれど。ああもエル兄のことを言わなくっても」


『虎からすれば人はみんな弱いだろう』


「自分基準だと、ってことですか」


『私がいなければというあたりも、まあ正論ではあるしな。

 逆に私を己の力だと勘違いするようならアウェルのほうに矯正が必要になる』


 彼らの村での時点で釘を指せたのは我ながらファインプレーだと思うゼフィルカイザー。

 だが、アウェルがそういう勘違いに至らなかった最大の要因はゼフィルカイザーが要所要所でポンコツぶりを発揮してきたせいだとは知らない。

 ゼフィルカイザーはロボットアニメ脳ならぬロボットアニメ頭脳回路のせいで苦戦してからの逆転に違和感がないが、毎度毎度最初に追いつめられていては調子に乗りようがない。

 最近は苦も無く勝てるようになってきたが、この辺りは本人の努力によるところが大きい。

 そもそもセルシアもそこをどうこう言っているわけではないのだ。


「結局のところシア姉はどうしたいんでしょうかね」


『なんとなく予想はついていたことだがな、先ほど言っていただろう。

 元の生活に戻りたい、と。

 結局そこなんじゃないかと思うぞ』


「その元の生活っていうのは……シア姉のお父さんが死ぬ前、のことですよね?」


『おそらく、な。ただ、下手をしたらアウェルの両親が死ぬ前のことかもしれん』


 パトラネリゼの聡さに感心しつつ、自分でもそれは嫌だと思う下方修正予想を付け加えておく。

 いくらなんでもそこまで過去にとらわれている人間であってほしくない。


(変わらないものなんてないのにな。人の縁なんてなおさらだ)


 高校までは地元だったので一貫した付き合いがあった。

 だが、秋葉原目当てに地方から関東方面へ出てくるとそれまでの付き合いとはさっぱりになってしまった。ゼフィルカイザーがネットを介した付き合いなどに疎かったというのも大きい。

 大学は大学で同好の士のコミュニティもあり付き合いもあった。だがそれにしたって卒業してしまうとさっぱりとしたものだ。

 自分が半フリーター半ニートな生活な一方で周りは大体就職したというのも大きい。

 月に一度くらい、誰か一人と顔を合わせる機会があるかないか、それくらいだ。

 そもそも大学を出て以降、特定の他人とこれだけ一緒にいたというのが初めてのことだ。


『まあ、あれくらいの年齢の娘に生き死にに納得しろ、というのも酷かもしれんがな』


 自分の身内で死んだ人間というと父方の祖母くらいで、身内の死という物とは割と無縁だったからあまり偉そうなことを言うつもりはない。

 そもそも、死んだ一番身近な人間というと自分自身であることだし。だが、白い髪の賢者はふくれっ面で、


「師匠と今生の別れをしてきた私はどうするんですか。

 帰れるかどうかわからないし、歳が歳だから帰った時に師匠が死んでるかもしれないんですよ」


 そんなことを言う。そう言われればそうだった。


『む……そういえばそうだったな」


「はぁ……シア姉ならすっぱり割り切りそうなものなんですけどね」


『虎は情が深い生き物だからなあ』


「別にシア姉、虎の形質はないですよ」


(むしろ虎はどこかにいるのか。覚えておこう)


 話す影でそんなことを考えるゼフィルカイザー。


『だが、な。アウェルの覚悟を頭ごなしに否定するのは勘弁がならん』


「ですよね。エル兄だって結構頑張ってるのに」


 そもそもアウェルが引っ込みがちなのもセルシアが悉く矢面に立ってきたからなのだろう。あの様子を見ていると一目瞭然だ。

 旅の中で徐々に前に出てくるようになっているアウェルを見ているのはゼフィルカイザーも楽しいのだが、セルシアは気に食わないのだろう。


(弟分が背伸びしてるのが気に食わない、あるいは危なっかしくて見てられない、とかか?

 パティにも聞いてみるか――いや、よそう。俺の予想でみんなを混乱させたくない)


「うまいこと行けば明日の日暮れまでには公都につけるはずですし。

 今日はもう寝ます。それじゃ、おやすみなさい」


『ああ、おやすみパティ』


 しばらくすると寝息を立てだすパトラネリゼ。自分の中で幼女が眠っているという状況は人によれば興奮のしどころなのだろうが、生憎とゼフィルカイザーは幼女趣味ではない。


(随分とえらいことになってしまったもんだ)


 南の方角を見れば、白く輝くリングの上に白と赤の二つの月。もっともリングは盛大に穴が開いたままだ。この世界における最大の環境破壊ではないだろうか。

 この世界に降り立って一月半。成り行きからの旅も、一つの終着点を迎えようとしている。

 甦ろうとしている邪神、その邪神を崇める教団、そして邪神と戦った王家とその末裔かもしれない娘。

 自分を転生させた存在は言っていた。自分には選択によって運命を曲げる何かがある、と。


(馬鹿馬鹿しい)


 生憎と、特別な能力に憧れるような年齢はとうに過ぎている。

 何よりこの世界に降り立ってから選択と言えるほどのことなどしていない。ただの成り行きだ。

 最初に天竜王を倒せたのは大金星かもしれないが、最初にコンテナが落ちるところを狙った覚えはない。そのあたりは黒幕の差配だろう。

 実際、この状況があの神を自称する何某かの手の平の上である、という可能性も否定できない。

 だから、ゼフィルカイザーは邪神を倒すという最終目標は脇に置いている。

 自分を道具でないと言ってくれた友がいる。

 そいつが懸想している面倒くさい娘がいる。

 彼らの行き先を見届けるほうが、今の己にとっては重要だった。


(さしあたっては、明日か。あと一日で公都。ここまであの女の余計なちょっかいは無し――確実に待ち構えていると見ていいな)


 これもお約束だ。現状も夜襲の可能性は捨てきれない。

 だからこそ、ハッスル丸に気配を遮断する陣を敷いてもらってもいる。最近は毎晩しっかりと寝ていたので、一晩二晩の寝ずの番もたやすいものだ。

 ただ、お約束の法則を考えるとこのタイミングでアウェルとセルシアが喧嘩中、というのがド級のフラグにしか感じられない。


(こういうタイミングでさらわれるのがヒロインだからなあ……まああいつをさらえる人間がそういるとは思わんが)

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