006
「で、これがゴーレムを作り出していた魔道具ですか」
パトラネリゼがシャルベから剥ぎ取った腕輪を弄んでいる。
腕輪そのものは質素な作りだが、緑色の宝玉が嵌っている。それが魔法の道具としてのコアなのだろう。
一行は気を失ったシャルベを連行してギモアの町まで戻ってきた。今いるのは領主の館の敷地内だ。
流石にカーバインとは比較できないが、それでも相当に広い敷地なのでゼフィルカイザーが居座っても苦にならないだけのスペースがあった。尋問もそこで行われている。
一行を出迎えたのは武装した男爵家の家裁以下の臣下たちだった。最初は悶着あったものの、アノペドフがとりなしてくれたおかげで何とかなった。
「そうだ、教団の奴らから千ポイントで買ったんだ」
「そのポイントって言うのはどうやったら溜まるんですか」
「ひ、人の嫌がることをすると溜まるって言われたんだ。
だから俺は畑から野菜を盗んだり浴場を覗きにいったりしてだな」
喉元に銀の刃が突きつけられる
「真面目に答えろ」
「ほ、本当だ、本当のことなんだ! 教団の奴らは言うんだ、シンフェギメルアは人の負の感情を好むから人を苦しめろ、だけど殺すなって!」
『性質の悪い宗教もあったもんだな』
「てえか、本当に嫌がらせレベルのことしかしてないな。野菜泥棒とか貴族がするか?」
「腹が減ってたんだ、仕方ないだろ!」
どうやら食い詰めた結果らしい。ますますどうしようもない。
「これが貴族ですか」
「あんなんばっかじゃないからな!?」
アノペドフが叫ぶ。彼は実際立派だし、成長すればいい領主になるだろう。
しかしながらこの国のトップを思うと先行きが暗く感じられてしまう。
「教団とはいつごろからの付き合いでござるか? そのアイテムとやらはどうやって手に入れておったでござるか?」
「そ、それはだな。教団の司祭クラスが――」
説明をしようとした矢先、シャルベの耳に男の声がした。その場の誰のものでもない声が。
「それ以上喋られては困る」
それに、誰もが驚いた。誰より驚いたのはシャルベ自身だろう。
なにせシャルベの口から、シャルベではない声が言葉を紡いだのだ。
(っ、遠隔操作、誰かが操っている!?)
「貴様何者でござるか!?」
即座に同じ結論に達したゼフィルカイザーとハッスル丸が警戒するなか、シャルベではない声は言葉を続ける。
「どうやら何者かに敗れたようだな。我が神に対する信心が足らんからそうなるのだ。
とはいえ我が神に要らぬ誤解をされては困るのでな――」
こちらの様子は向こうには伝わっていないのか、独り言か、あるいはシャルベに言い聞かせるような言葉が続き、
「折角だ。その苦しみをシンフェギメルアに捧げるがよい」
『ッ! 口封じだ!』
ゼフィルカイザーが叫び、ハッスル丸が即座に印を組むが遅かった。何の前触れもなくシャルベがその全身を炎に包まれたのだ。パトラネリゼはその光景を見て驚愕した。
人が火あぶりになることが、ではない。今のは魔法だったのだろうが、今このときにどこからからかけたものではない。条件を満たした時に発動するような術を事前にしかけていたのだ。
人を焼き殺すだけでもどれほどの魔力を要するかわからないのに、そんな術を組めるほどの人間が今の世にいるのか。
自分の手元を見れば、腕輪にはめ込まれていた宝玉もひび割れており、もはや魔道具としては使い物になるまい。
一行は邪教、そしてトメルギアという国に対してますます得体のしれない不安を感じることとなった。
幸いというべきか、ハッスル丸が忍法で即座に消火したためシャルベは一命を取り留めた。
とはいえ全身大やけどで生死の境をさまよい、峠を越した今も意識を失ったままだ。
邪教の教えをそのまま鵜呑みにするなら、こうして生死の境をさまよい苦しんでいることすら邪神にとっては供物となるという。
そう言った意味ではあの声の主は初めからシャルベを殺す気はなかったのかもしれない。だが、だとすればより悪辣である。
一行はその後二日間、ギモア領に逗留した。幸いというべきか、アノペドフが攫われつつも即日救助されたため大事にはならなかった。
アノペドフの両親も事件の知らせと解決の知らせを矢継ぎ早に受け驚いたものの、大事を取って一度領主の館に帰還した。男爵とその夫人は聡明な人で、アノペドフがこれだけ聡いのも納得が行った。
「本当になんと言ったらいいか。皆さまには感謝の言葉もありません」
町のはずれで、領主夫妻が一向に頭を軽く下げる。
一行は既に旅支度を整えていた。ハクダのことを考えると長居はできないためだ。
「本当に行ってしまうのか? なんだったら永住してくれても構わんのだぞ」
「ここは良いところにござるゆえ、実によき誘いでござるが……しかしながら拙者らも目的がござってな」
アノペドフが尻尾をぱたぱたと鳴らしながら言うが、ハッスル丸はやんわりと断った。その仕草が妙に慣れているあたり、冒険者稼業の長さがうかがえる。
(しかしこの世界の生態系どうなってんの。どうなってんの)
アノペドフの両親を見る。
ギモア男爵は筋骨隆々とした、ゼフィルカイザーからするといわゆる人間の姿をしている。立派な体格であるが、戦うよりも農作業のほうが似合いそうな温和な男性だ。
それはいい。問題は夫人だ。
こちらも女性としては大柄でしっかりとした体つきをしている。気候もいい加減暑くなったためか、服装は膝ほどまでのスカートにノースリーブと活動的だ。ノースリーブから除く、鱗の張った肩がどこかなまめかしい――そう、鱗である。にんまりと笑った口には牙が覗いている。
一言で言うなら夫人はリザードマンであった。この場合はリザードウーマンか。オタクに媚びた人間的なデザインなどでは断じてない、トカゲヘッドのリザードマンである。
別にリザードマンが悪いわけではないのだ。むしろファンタジー的にはよくあることだし、種族がいるならオスもメスもいる。
夫人のようなボン・キュ・ボンな体つきのリザードマンがいること自体は別にそう気にすることではない。問題はだ。
『何故人と蜥蜴から犬が生まれるのだ。おかしくないか』
「へ?」
つい口をついて出た言葉に皆が白い機体を見上げる。
「ちょっとゼフさん、失礼ですよ」
『ああ、失礼した。謝罪する』
その場できっちり四十五度に腰を曲げるゼフィルカイザー。腰の可動域が意外と広いことに感激しつつ、しかし疑問は尽きない。
「お主はこの世の常識に疎いのであったな」
『ああ。失言をしてしまった。許してほしい』
「なに気にすることはない。我もよく言われるのだ、父上よりも母上に似ていると」
『えっ!?』
「確かに目元とか奥様に似てらっしゃいますね」
「それに毛並みは私の母親によく似ていますからな。懐かしむ声も多いのですよ」
『……どういうことだってばよ』
「ゼフ殿、それどちらかというと拙者の台詞でござらんか」
何の話だ、と思いながらも、一度パトラネリゼとは人とはなんなのか本腰を入れて語り合わねばならない、そう思ったゼフィルカイザーだった。
「んじゃ行くわ。飯美味かったわよワンコロ」
「うむ。我がギモア領では人材を常に求めている。旅に疲れたらまた寄ってほしい」
「んー……まあ、鳥はもっかい食べに来るわ」
「次は奢らんぞ」
「ちっ」
そんな言葉を最後に交わしてギモアの町を発った。トメルギア公都までは、そう遠くない。
一方そのころ。ギモア領の西隣のシャルベ領のとある村にて。
「まったく。どうやらこちらの道はハズレだったようだな」
嘆息しながら黒騎士は剣の血を払う。そこにはおびただしい数の人が倒れ伏していた。いずれも一撃で息が絶えている。
「追いはぎをするにも相手を選べと言うのだ。まったく、獣は睨めば逃げる分まだマシだな」
荒れ果てた村の中、倒れ伏したものはいずれも真っ当な身なりではない。明らかに山賊のそれだ。
「見たところ、山賊に襲われ村ごと根絶やしになった、というところか」
ちらほらと転がる死後数日経っただろう死体を一瞥した黒騎士は、そのまま足を進めていく。
今までの情報から姫が公都へと向かっていること自体は確かだ。それまでに何としても抑えなければいけない。
「さて、麗しの姫君はどのようなお方かな」
トメルギアを進むにつれて一向に漂う不穏な空気。
強すぎる少女と、力を手に入れた少年のすれ違う想い。
そんな中、アウェルとゼフィルカイザーはついに宿敵と邂逅する。
次回、転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~
第十話
漆黒の魔動機
『黒騎士、だと』
次回もお楽しみに!




