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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第九話 邪教、春の勧誘祭り! いまならポイント二倍!
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004

「へっへっへ。いいかお前ら。動くんじゃねえぞ?

 動いたらこのガキの顔に傷がついちまうぞ、ああ?」


 全身を黒いローブで覆った人物。フードで顔も隠れているが、声からすると男だ。

 それがテンプレ通りの発言をしているのを見て、ゼフィルカイザーは警戒以前に感激してしまった。


(ああいうのって実在するんだなあ)


 このように呑気なことを考えているのも当然、なにせこちらには蛮族(セルシア)忍者(ハッスル丸)もいるのだ。チンピラごとき容易く鎮圧できる。

 むしろこの最悪のタイミングで襲撃をかけてきた下手人には同情するところだ。

 だがしかし。


「皆、動くでない……!」


 切羽詰まった声でそれを止めるものがあった。アノペドフである。

 尻尾を逆立たせ、牙を剥いて犯人を威嚇するアノペドフ。


「貴様、先日性懲りもなく布教させろとやって来た邪教徒だな。何の用で参った」


「要件は同じだ、我らが偉大なるシンフェギメルアの加護を授けてやろうというんだ。

 おっと、下手なことをするなよ若様。大切な下民に傷がつくぞ」


「我が領民を下民だと……!」


「わ、わかさま……」


「トニエ、安心しろ。我が何とかしてやる」


 心細そうな声をあげる幼女に力強く答えるアノペドフを見たゼフィルカイザーは思った。

 初対面のころのアウェルよりもコイツのほうが主人公してるなあ、と。


「要求はなんだ」


「今言ったとおりだ。シンフェギメルア教の流布を認めろ。

 そうすれば俺は晴れて次の位階に上がれるんだよ」


「我にそんな権限はないぞ」


「ああわかってるよ。だからてめぇ、人質になれや」


「わかった」


 一瞬の迷いもなく頷いてローブの男に近づいていくアノペドフ。だが、アウェルもパトラネリゼも特に止める気配はない。

 セルシアもハッスル丸もいつの間にか二人の背後に回っているためだ。だが、


「客人よ、余計な手出しは無用だ」


「あん? ……げ、舐めたマネしやがって……!」


 アノペドフの言葉で後ろをちらりと見た黒ローブが舌打ちをする。これでは下手に取り押さえにかかれない。

 そのまま近づいて行ったアノペドフは、男のローブの裾から這い出たものにあっと言う間に拘束された。

 何かと思えば何の変哲もないロープだ。しかし今このロープは蛇のようにくねり、動いたのだ。黒ローブは特別なにか指図をした様子もない。


「御覧の通りだ。こやつらは奇怪な力を持っている。不用意に手を出すのは危険だ」


「ナマ抜かしてんじゃねえぞガキ!」


 男が縛られたアノペドフを蹴り飛ばし、足蹴にする。それまで人質に取っていた少女を放り出して、だ。

 この機を逃すまいと迫ったセルシアとハッスル丸だったが、


「くっそ、高かったっつーのに!」


 男が手にした小さな玉を地面に叩き付けると、光が瞬き煙が立ち込めた。その煙にセルシアとハッスル丸も目を覆う。

 煙自体は数瞬で晴れたものの、そこには黒ローブの男もアノペドフの姿もなかった。




「あーもう、あのガキが余計なこと言わなきゃ仕留めれてたのに!」


「とはいえ不可解、あの男、何の気配もなく立ち寄り、また我らに察せられることなく逃げおおせた。一体どういうことにござるか」


 子供たちが三々五々に散って行った広場で、一行は頭を抱えていた。


「あの煙、ただの煙じゃなかったです。かなり濃密な魔力が混ざってました。何らかの魔道具だと思います」


『そういった物は貴重ではないのか?』


「貴重です。今のご時世魔力の籠ったアイテムを作る技術を持っている人間なんてそうはいません。

 煙玉はたぶん魔晶石なり魔鉱石なりを加工してたんでしょう。あっちなら材料があれば私でも作れると思います。

 けど、あの自分で動くロープは相当貴重なもの、のはずです」


 あの様子からして件の邪教徒なのだろう。アノペドフは位階が上がると恩恵を得られる、と言っていたが、その恩恵とはああしたアイテムを手に入れられるということなのだろうか。


「なあハッスル丸、セルシア。二人とも本当にあいつが来たのに気付かなかったのか?」


「声がするまで全く気付かなかったわよ。広場に何人いるかきっちり把握してたのに、急に誰もいなかったところに気配が現れた感じ」


「拙者も同じような感じでござるな。逃げていくときも、あの煙の中では気配も何も感じ取れなんだでござる」


『いやそれはいいから。助けに行かないのか?』


「なんで?」


 容赦のない一言が返ってくる。セルシアらしいと言えばセルシアらしい。

 最近まともになってきたと思ったが、根のところはそう変わるものでもない。しかし、今回に関して言えば。


「あのガキの自業自得でしょ。むしろあたしらに厄介がかからないうちにとっととここを出ましょう」


 こういうご意見である。確かに一理はあるが、しかしセルシア達の力量をちゃんと把握しているわけでもなかったのに無理を言ってはいけないだろう。

 他の一同も半目でセルシアを睨んでいる。


「な、なによ」


 地味にうろたえるセルシア。そこに、


「でもあいつに奢ってもらったじゃん」


「うぐっ」


「この状況でいなくなったら確実に拙者らも一味扱いされるでござるよ」


「ごふっ」


『都合よくあっちからやって来た邪教徒だ。絞れば情報が得られるかもしれんぞ」


「むむむ……」


 正論の波状攻撃が投げかけられ、とどめに、


「助けたら謝礼がもらえるかもしれませんよ。少なくとも今夜の宿と食事には困りません」


「助けに行きましょう」


 操縦が大変楽な娘でありがたかった。


『で、捕捉は当然できているんだろうな』


「無論。こんなこともあろうかとアノペドフ殿に拙者の式神を忍ばせておいたでござる。

 この町の近郊を移動しておるようでござるな」




「くっくっく。ギモア領に布教を許可させたとなれば俺の地位もうなぎ登りよ」


「貴様、こんなことをしてただで済むと思っているのか?」


「うるせえ!」


 縛り付けられたアノペドフがまたも蹴りつけられる。

 二人がいるのは山小屋だ。もう随分と人が使った形跡はない。


「このために溜め込んだポイントをはたいたんだ、元が取れなきゃお終いなんだよ!」


「貴様はまず己の領地を何とかするべきだろう」


 その言葉にびくりとする黒ローブの男。


「西隣の領地のシャルベ男爵だろう。こんなことをしていたら領民が悲しむぞ。

 今なら私の腹のうちに収めておくゆえこんなことは止めるのだ」


「てめえ、なんで気づきやがった!」


「犬科の形質をナメるな。一度会った人間の匂いや声は必ず覚えておくようにしておるのだ」


 そうは言うが簡単なことではない。この辺りは領地のためになろうというアノペドフの努力の賜物だ。

 歯ぎしりしながらフードをめくる男。オールバックの青年が青筋を立ててアノペドフを睨んでいる。


「元はお前の親父が悪いんじゃねえか! 人の領地の人足を分捕りやがって!」


「私欲にかまけて己の領地を顧みなかったのはおぬしの父君であろうが。それは逆恨みという物だろう。

 なにより父上は近隣からの流民には帰るように説得しているぞ。なのに絶対に帰りたくないと言わせるほど人心を手放してしまっているのはそちらの落ち度だろう」


「ああそうだよ……あのクソ親父のせいで、俺は何にもしなくても楽ができたのに金借りるために頭下げる羽目になってんだぞ?

 貴族の俺が、下民の商人にだぞ? これが耐えられるか!」


「下民ではない、民だ。何の努力もせずに楽ができるわけがあろうか。

 そも、トメルギア貴族と言っても数家の譜代を除けば皆開拓で名を挙げた家ばかりではないか」


 そのあたりは周知の事実だ。

 魔法王国が崩壊した後、火の大公家は本来の身代からすれば僅かばかりの臣下と魔動機、それに多量の流民を抱えてこの大陸に渡ってきたという。そして、それも天竜王との戦いでさらに失われてしまった。

 諸説はあるが確実に譜代の臣下だったと断言できるのはルイベーヌ侯爵家とベリエルクガン侯爵家にナギウスメリン侯爵家の三侯爵家。あとはギルトール伯爵家にハルマハット家の五家のみ。

 残りの貴族は開拓に勤しむ中で頭角を現した者が列席することになったに過ぎない。

 故に貴族とは民衆の代表であり、それ以上でもそれ以下でもない、というのがギモア家の家訓であった。

 だが、そんなものは関係ないとばかりに眼前の男、シャルベは吐き捨てる。


「知らねえよ、俺は生まれたときから貴いんだ。あんな下賤な奴らとは違うんだ!」


「生まれは確かに違う。だがそれは役割が違うだけだ。貴賤はない」


「そのセリフ、首だけになっても言えるか?」


 ぎらり、とナイフを輝かせるシャルベの血走った目に、アノペドフも怖気を覚えた。


「なあに、すぐには殺さねえよ。とりあえず尻尾からいくか。

 獣系の奴は切れる場所が一か所多くて助かるな」


「我を人質にしたところで父上は貴様の要求なぞ飲まんぞ」


「へっへっへ、どんだけ気丈に振る舞ったところで無駄だよ、無駄。どんだけ偉そうなこと言ってても自分の子供が一番大事なのさ。

 いや、人間一番大事なのはテメェだけどな? あっひゃっひゃっひゃ」


『否定はせんが、そういうことを言うなら己の身は守れるようにすべきではないかと思うぞ』


 そんな言葉が大音量で響いたと同時、山小屋が横薙ぎの力を受けて崩壊した。

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