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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第八話 トメルギアの魔女 ※エロいほう
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007

 あちらこちらが煤けた領主の館であったが、ゼフィルカイザーが叩き込まれた痕を除けばさほどの被害はなかった。延焼していた部分もあったが、ハッスル丸が忍法で消火して回ったためだ。人的被害もなかったのは不幸中の幸いと言うほかない。


「なるほど、地脈の流れを利用して術を強化して使ってるんですか」


「そういうことでござるな。とはいえそのために楔を打たねばならないので即座に用いれるものでもないのでござるが」


 通信機の映像では、ペンギン姿のハッスル丸から広範囲で発動した火避けや火消しの術の原理を聞いたパトラネリゼがコクコクと頷いている。

 領主の館の敷地内では残ったギルトマが動き回り、後片付けをしている。その中に混ざっている白い機体はと言えば、今は無人で稼働している。

 残骸を指示されたとおりに片付けつつ、通信機越しに侯爵と会話を試みる。


『済まなかった侯爵殿。損傷は極力抑えはしたが』


「いやなに、あの程度ならまた治せばいい。

 フラムフェーダーもあれは古式ゆえしばらく格納しておけば修復される。まああれだけ壊れると完全に修復するには相当の時間が要るであろうがな。

 カーバインに被害が出なかったことを思えばどうということはない」


 屋敷の中でも損傷が少なかった応接室にて、横になった侯爵はそのように答える。ひとまずの処置は施したあとだが、魔法が凄いのか本人の体力が凄いのか、今のところ顔色は安定している。

 室内にいるのはアウェルたち一行、それにメググトだ。筆頭騎士バリアロービッツは本日の作業の後しばらくの降格を言い渡された。

 本人も己の失態からして不服はなかったらしく、粛々と叱責を受けていた。

 放置されていったハクダの配下は取り押さえられ、三人とも牢に繋がれた。幸いというべきか腹立たしいというべきか、三人とも命に別状はないらしい。

 残骸の中には金ぴかの機体の、その金ぴかの装甲の中身のみが見当たらなかった。アウェルによればあとから追加された装甲は格納魔道具が認識していなかったのだろうということだ。


『しかし、トメルギアは問題が多いということを聞いていたが、入って即座にこの騒動とは……』


「やっぱり辺境に戻ったほうがいいのかなあ」


「しかしそれだと大陸から出られません。港も船も公都にしかないんですから」


「泳ぐという手が」


「「黙れ非常識」」


 流石に大陸間を横断するような遠泳に挑む気はゼフィルカイザーにはない。

 そもそもこの機体の水中適正も不明なのだ。海水に漬かって一日で錆びたりしたら洒落にならない。


(そもそも俺、ビート板使ってのバタ脚しかできないしなあ)


 体が硬いので肩が回らないのである。最近は柔軟をやっているからひょっとしたら大丈夫かもしれないが。

 そんな中、セルシアは強い意志を感じさせる声で言った。


「公都ってところに行くわよ。母親が生きてるんなら会わないと。

 たぶんそうしないと、あたしはいろんなことにケリがつけられない」


『いいのか? どう考えてもこの先もめ事が待ち構えているぞ』


「なんならあたしだけでも行くわよ。なんていうか、父さんのことをいろいろ聞いたら余計もやもやしてきたし。

 すっきりしないと嫌よ、あたし」


 ゼフィルカイザーの忠告も聞く様子はない。その言葉を受けて、侯爵が口を開いた。


「ならば忠告しておかねばならんことがある。

 ひと月近く前、公王が死去したそうだ。だが、後継者と見込まれていた王子は王の血を引いていなかったらしい。

 どうやって見つけたのか王女たちは貴女の存在に目をつけていた。曰く、貴女を王位に着けるために探しに行こうとしていたらしい。

 そして、それを口実に当家のフラムフェーダーを接収しようとしていたのだ」


「聞いた分にはまともな理由に聞こえるでござるが、おそらくそれだけではなかったと思うでござるよ」


 口をはさんだハッスル丸が金属製のバッジのようなものを放り投げる。血のりのついたそれを見た侯爵の顔のしわが一層深まった。


「これは邪教徒のあかし……おぬし、どこでこれを?」


「あの騎士二人に少々"お話"をさせていただいたのでござるが、手勢が橋の近くに待機していると申すので。

 なのでちと"向こう岸"に送って"お達者"してもらっただけでござるよ。

 いやあ、大河の魚が腹を下さぬといいでござるがな、はっはっは」


(怖ええええええっ!?)


 面構えだけで周囲を亜空間にしているアデリーペンギンのリアルな忍者言動に恐れおののくゼフィルカイザー。

 アウェルは言葉の意味に気付いていないようだが、パトラネリゼはそそくさとセルシアの影に隠れる。


「まあ真面目な話、あの魔動機を奪ってはい終わり、ではなかった可能性が高いでござる。

 そういう意味でもセルシア殿の身柄をきゃつらに渡すわけにはいかんでござる」


「関係ないわね。次に襲ってきたら今度こそぶっ殺してやる」


 セルシアは相も変わらずの調子で言い放つ。だがそういう話となると、セルシアを引きずってでも辺境に戻ったほうがいいのではないか。

 だが、ハッスル丸が口を挟んだ。


「あの様子ならば、仮に辺境に引っ込んだところで確実に追いかけてくるでござるよ? むしろ大義名分のもと軍勢を差し向けてくるやもしれぬ。

 それならばこちらから進むほうがよい。虎穴に要らずんば虎子を得ずでござるよ」


(その格言、こっちの世界にもあるのなあ)


 もはやその程度では驚かないゼフィルカイザーもハッスル丸の言葉で覚悟を決めた。パトラネリゼも頷いているし、アウェルは言わずもがなだ。


「そういうわけだから。んじゃ、行くわ」


「今からかよセルシア」


 外はもう黄昏色に染まっている。今から出ても夜闇で身動きが取れないだろう。

 ゼフィルカイザーには暗視モードも搭載されてはいるが、それでも危険であるのに変わりはない。


「でもシア姉はこの町だと目立ちます。こうして騒動も起こしたことですし、あまり長居しないに越したことはありませんし。

 明日の早朝には出る、そういうことでどうでしょうか。エル兄もゼフさんも消耗してますし」


「む……わかったわよ」


 渋々ながらも意見を受け入れるセルシア。パトラネリゼもここの所セルシアの操縦方法をそれなりに理解してきたらしい。

 まあ場合によっては手綱を引きちぎる手合いなのでこういう時しか活用できないが。


「しかし、王が亡くなったというのに冷静でござるな、侯爵は」


「いや、ただ公王が死んだだけならば喜ぶべきことだからな。聞いた諸侯は皆喝采の声を上げるだろう。

 それくらい、あの王には王たる資質が無かった」


 一切擁護する気はないというように断言する侯爵。いかに上位の貴族とは言え、主に対する物言いとしては不遜の極みだろう。

 だが、続く話を聞いて納得せざるを得ない。


「あの愚王はな。私が命の保証をしたギルトール伯爵夫妻を毒を盛り殺したのだよ。和平会談の折に、私の目の前でな。

 私の騎士の誓いも貴族の矜持も、すべては泥にまみれた。

 アレは私やガリカントが忠節を捧げるに足る相手ではなかったのだ」


『……それは』


「伯爵、言ってよかったんですかい」


 メググトが不安げに尋ねる。道中でメググトが口をつぐんだのは、おそらくこのことだったのだろう。


「よい。ヘレンカ妃の娘とナグラス卿の弟子なれば、聞く資格はあるだろう。

 そしてその妹があの女だ。大公家の血筋を決して絶やしてはならぬ、そう伝えられては来たが……私もギルトールもガリカントも、何をやって来たのやら」


「一つ聞きたいことがあるのでござるが。その、王子が不義の子であったというのは何故わかったので?」


「公宮には真なる玉座というものがある。

 これは建国王の時より伝わるもので戴冠の儀のときのみ明かされるものなのだが、それに認められねば王とはなれぬのだ」


(一種の遺伝子照合システムみたいなもんか)


 そうゼフィルカイザーは納得した。SFにありがちな装置だが、ファンタジーでも散見されるからだ。

 だが、それを聞いたハッスル丸が神妙そうに押し黙っていたことだけが妙に引っかかった。




「なんつうのか、本当に悪いな」


 一行とメググトはトアラル大河に架かる橋の、カーバイン側のたもとにいた。まだ日も登らず、空がようやく白み始めてきたような時間である。


「ほらこれ、侯爵からの書簡だ。ベリエルクガン侯爵宛てのな。

 公都で力を持っている、王子の祖父にあたる方だ。おそらく力になってくれるってよ」


『助かる。侯爵には礼を言っておいてくれ』


「いやはや、助かり申した。拙者としても数年来の依頼を片せてほっとしていたところでござるよ」


 そうハッスル丸がぼやく。一行が退室するときに一人残って侯爵と何やら話し込んでいたのだ。


「一体何の用だったんですか?」


「なに、あの御仁は若き頃に帝国に留学しておったことがござってな。そのころの知己に伝言を頼まれておったのでござるよ。

 それとまあ南大陸の情勢についてなどあれこれと。

 まあワンコ殿もダメ元で言っておったことでござったが、合縁奇縁とはよく言ったものでござる」


 そんな会話をしつつ、町を発とうとしたその時。メググトが今一度セルシアを呼び止めた。


「なあ。昨日、なんで俺たちを助けてくれたんだ?」


「は? 助けないほうがよかったの?」


「そうじゃない。そうじゃないんだが……お前は、なんで俺や、その嬢ちゃんを助けたんだ?」


 問いかけの意図がいまいちわからない。相手の良識を測るような、正直失礼な質問だろう。だがその表情がひどく切実だ。

 セルシアは面倒そうな表情ながらも、


「アウェルもいたし、それだけよ。まあ、爺さんはどうでもよかったけど、ちんまいのはアウェルになついてるみたいだし」


 セルシアらしいと言えばセルシアらしい。パトラネリゼの扱いが犬猫並みな辺りは性根が変わっていないし、それに気づいたパトラネリゼはどんよりとした顔をしている。

 だが、それでもあの時セルシアが助けようとしたのは避けれたアウェルではなく避けようがなかったパトラネリゼのほうだ。

 それを聞いて、メググトはいくらか晴れやかな顔になった。何かに納得したというような、そういう表情で。


「分かった。嬢ちゃん、訂正する。あんたは姫になんか似てねえわ。外見はそりゃ似てるけどな。

 血がどうのってのじゃなく、あんたは間違いなくナギーの娘だ」


「それってどういう意味よ」


「姫とあんたの違いを言うなら、一つだ。

 姫なら、助けなかった。

 親兄弟だろうと、たとえナギーが相手であろうと。そして、あんたが娘だったとして、あんたがいても、だ」


 メググトはそう言い切った。それを聞いたセルシアがどういう表情をしていたのか知るのは、正面にいたメググトだけだろう。


「……なんとなく。なんとなく、母親がどういう女なのかは分かった。

 だけど、なら父さんはなんでそんな女のことが好きだったの?」


「そればっかは、男と女のことだからわからんよ。

 俺も女房はいるがな、たまにコイツのどこがよかったのか首を傾げたりもする。

 そんなもんだ」


 言われて嘆息するセルシア。だが、一呼吸して、話を切り替えた。まるでその母親の影を振り切るかのように。


「もう一つ聞きたい。この剣ってなんか謂れのあるもんなの?

 父さんに何も聞いてなかったんだけど」


「その剣か。それなら、ナギーの奴が仕官する前から持ってた剣だ。ずっと口伝と一緒に伝わってきたもんだって言ってたわ」


「口伝って?」


「一回酔ったときにポロっと漏らしてたな。なんでも、その剣を継ぐ者はこの世界すべての命に対して責任を果たさなきゃならんとかなんとか。

 妙に神妙な感じだったからよく覚えてるわ」


「それが、父さんが言わなかったこと」


 セルシアの消え入りそうな呟きを、しかし背後の皆が聞きとめていた。


「普通の平民の出だったのに妙に学もあったし、剣や操縦に限らず魔法も結構達者でな。

 たぶん元はどっかの騎士の家系だったんだろうが、詳しいことは話さなかった。仕官した時点で両親も死別してたらしいしな。

 ただ、その剣を譲れって話は何べんもあったんだよ。だけどそれだけは絶対にできないって言ってたな。

 冗談めかして言った伯爵にもすごい剣幕で断ってた」


「まあ、総ミスリル鋼の剣なんてそうそうあるもんじゃないですからね。下手したらこの大陸にその剣だけなんじゃ」


『そんなに貴重なものなのか?』


「貴重というか珍しいというか。ミスリル自体は魔法文明期に普通に用いられてた金属ですけど、大概は合金にしてですからね。一番わかりやすいのがミュースリルです。

 対してシア姉の剣は全部ミスリルでできてます。純ミスリル鋼は鍛造も研磨も恐ろしく手間がかかるらしいので。

 その代わり軽く硬く粘りもあるという理想の金属なんだとか」


(聞く限りミスリルっぽい金属だな、確かに)


 原典を近しくするエルフがアレだったから完全なる別物かもしれぬと思ったが、ミスリルらしいミスリルではあるらしい。


「なんていうかな。下手な騎士よりも騎士らしい性格してたよ。

 それこそ騎士道物語の主役みたいなやつでな。いい奴だった」


「そ……たぶん、そう言ってもらえたら父さんも喜ぶと思うわ」


 この町に来てからこっち、威嚇以外で笑わなかったセルシアがわずかに笑みを見せた。

 そういう言葉が聞けただけで、カーバインまで来た甲斐はあったのだと、そう言うように。




 そうして一行が町を発ち、日も中天に差しかかろうかと言う頃。橋の袂の真反対、カーバイン入口の門にて。


「ビッツ殿、大変でしたね。おかげでこんなところで雑用とは」


「いや、私の修行不足だったというだけの話。魂を腐らせていようとかの人ありと言われた騎士だけのことはあったのに、私に油断があったのだろう。

 召喚器を手放すなど騎士にあるまじき失態だ。首が繋がっているだけ良しとするさ」


 衛兵に混ざって雑用を行っているのは筆頭騎士バリアロービッツである。今回の失態を受けて、しばらくの降格処分となったのだ。

 とはいえ当人も引きずった様子はなく、黙々と仕事をこなすのはやはり彼も一角の騎士であるということなのだろう。

 朝方は姫の再来におびえる市民を押しとどめるのに必死だった。

 それがようやく一息つき、これから昼食にでもしようかというところであった。気配もなく、漆黒の鎧に赤い外套を纏う騎士が現れたのは。

 バリアロービッツはその男が只者でないと一目で見抜く。昨日の今日でということはないだろうが、またしてもハクダの手の者であったら洒落にならない。

 他の衛兵を押しとどめて一人黒騎士と相対する。


「何者だ。カーバインにいかなる用で参った」


「私は……旅の者だ。故あって、ある娘を探している。赤い髪に銀の剣を携えた少女がカーバインを訪れなかったか?」


 その一言で黒騎士に警戒心を抱いたバリアロービッツは腰の剣に手をかけ、

 ――気が付いた時には、その体を袈裟切りに両断されていた。上体が崩れ落ち、おびただしい血液と共に地面に転がり落ち――


「ッ!?」


 正気に返れば自分はまだ五体満足のままだ。黒騎士は剣に手をかけてもいない。周りの衛兵もどうしたのかと首を傾げるばかりだ。今一瞬の光景はバリアロービッツが見たイメージにすぎなかった。

 だが、黒騎士が剣を抜けばたちまち現実のものとなる。それをバリアロービッツはどうしようもなく理解してしまっていた。

 ギベルティは手練れであった。

 昨日見た赤髪の少女は人間の限界を超えていた。

 だが、眼前の相手はそれ以上に底が見えない。


「どうやらまた入れ違いになったか」


 冷淡にそれだけ呟いた黒騎士は悠々とバリアロービッツの横を通り過ぎていく。まるで無防備に。

 だがバリアロービッツは動けない。騎士の矜持などではなく、仕掛ければ死ぬということをどうしようもなく悟っていたために。




 降格処分が解けたのち、バリアロービッツは暇を願いルイベーヌ家を退転した。

 後に辺境の英雄と呼ばれる彼が突如として侯爵家を出奔したことはのちの講談の種となっているが、真相を知るのは彼自身のみである。

 覚悟を決めてトメルギアへと足を踏み入れた一行。

 一見して平穏に見える営みの中にも、腐敗の連鎖の影がちらつく。


 そんな中、ある貴族の治める領地を訪れるゼフィルカイザーたち。

 穏やかな統治によって栄えるギモア男爵領、しかしそこにも邪教の魔の手が忍び寄っていた。



次回、転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~


 第九話



 邪教、春の勧誘祭り! いまならポイント二倍!



(ついに来てしまった、貴族のドラ息子が……!)



 次回もお楽しみに!

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