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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第八話 トメルギアの魔女 ※エロいほう
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006

 二人の騎士は死闘を繰り広げていた。

 片や辺境侯の若き筆頭騎士、片や国中に名を知られた直参の騎士である。双方大小の手傷を負いつつも、その目には今だ闘志が滾っている。

 その時。


「やったか!?」


 バリアロービッツは金ぴかの魔動機が倒される様を見て喝采を上げた。だが、それがいけなかった。


「よそ見をしている暇があるのか」


「ぐっ!?」


 隙を突かれ剣を弾き飛ばされる。バリアロービッツは死を覚悟したが、止めの刃は迫ってこなかった。

 なぜならばギベルティはバリアロービッツの手にした剣こそが目当てだったからである。


「やはり若いな、所詮はこの程度か……来い、フラムフェーダー!」


 弾き飛ばされた剣を手に取ったギベルティが声を上げると共に爆炎の柱が巻き起こり、現れる深紅の魔動機。

 古式魔動機フラムフェーダー。現存する中ではトメルギア最強格の魔動機である。


「しまった……!」


「何をやっているのだ、貴様……!」


 バリアロービッツの背後から声がかかる。見れば、メググトと赤い髪の少女に肩を貸された侯爵が己の配下を睨み付けていた。


「侯爵、大丈夫なのですか!?」


「大丈夫なわけがあるか! ぐ……」


「傷をふさいだだけなんですから大声あげないでください!」


「そーそー、爺さんはちょっと大人しくしてなって」


「そういうシア姉も両手足の腱がズタズタなんですよ!? なんで動けてるんですかあなた!」


「あ、もうほとんど治った」


「どういうことなんですか……きゃあっ!?」


 一行を熱波が薙いだ。見れば、陽炎を纏ったフラムフェーダーがゼフィルカイザーに突撃をかましていた。

 背部のスラスターが開き、そこから放たれた炎が翼のように広がって機体を後押しし、ゼフィルカイザーを後ずさらせている。


「ちょ、熱い、熱いですよ!? ぎゃあ髪がチリチリに……!」


 遠ざかったとはいえフラムフェーダーの背後にいる一行はたまったものではない。あっという間に芝生が燃え尽き、服も端から焦げだしたところに、


「水遁、加湿器の術――遅れてすまんでござる」


 熱波が和らいだ。一行の盾になるように印を組んだ影鯱丸が淡い霧の壁を出していた。


「遅いわよ非常食!」


「なに、ちと厄介を始末しておったら時間がかかり申してな」


 そう言う影鯱丸から若干の血の匂いがするのをセルシアは逃さなかった。ハッスル丸自身のものではない。


「なによ、他にも敵がいたの?」


「セルシア殿にはかなわんでござるなあ……ま、拙者一人でどうにかなる範囲でござったから大丈夫でござるよ。

 とにかく皆は屋敷の外へ出られよ。勝手ながら敷地全体を結界で覆わせてもらったでござる、この中の熱気が外に漏れることはござらん」


「つくづくどういう技術なんですかその忍法って。

 とにかく助かります、さ、急ぎましょう!」


「拙者はほかの逃げ遅れた者を助けだしてくるでござるよ」


 侯爵を担いで逃げてゆく一行。パトラネリゼは心配そうに後ろを振り返る。

 そこでは先ほどまでの攻勢はどこへやら、防戦一方になった白いロボットの姿があった。




 ランスが炎を纏い、背部のスラスターから炎を噴いて突撃してくるフラムフェーダー。まるでフラムフェーダー自体が一本の炎の槍になったようなその一撃を、


『バリアで防ぐぞ!』


「おう!」


 両手から出した緑色の粒子光が受け止める。だが余程の推進力なのか、そのまま機体ごと押し切られ、館に激突するゼフィルカイザー。


『ぐああああっ!』


「大丈夫かゼフィルカイザー!?」


『なんとかな。前に集中しろ!』


 見れば、寄り切った至近距離からフラムフェーダーが深紅の槍を叩き付けてくる。ゼフィルカイザーはこれを片手で受け止めた。

 ゼフィルカイザーの馬力自体は古式魔動機をもはるかに上回る。事実、フラムフェーダーはそれ以上槍を押し込めずにいる。

 だが、突如としてその槍が赤熱し、ゼフィルカイザーの手を焼きだした。途端にコックピット内にアラートが鳴り響く。


(ぎゃあああああああ!? あっつ、手が、手があああああ!)


「ちょ、まずい……!」


 即座に密着距離からのケンカキック。一撃を受けてフラムフェーダーとの間合いが開く。だが、


(今度は足が、足の裏があああああ!)


「なんなんだあの機体、全身炎でできてるとでも言うのか!?」


 蹴りが直撃する直前に盾が赤熱したのだ。雑な蹴りがその盾で防がれた結果、足の裏の装甲が焼け焦げた。

 一方、ギベルティのほうも驚いていた。

 フラムフェーダーという機体は現在の公王機フラムリューゲルが完成するまでトメルギア大公家の旗頭であった機体だ。

 公王機である精霊機フラムリューゲルはコンセプト上フラムフェーダーの上位互換として作られており、逆にフラムフェーダーは精霊機に伍すほどの力を持つ最強格の魔動機としてその名を知られている。

 炎熱を操る機道魔法を多数有し、得物を赤熱化させる機道魔法ブレイズウェポンにかかればあらゆる生物は触れる前に焼け焦げ、魔動機であっても融解するという。

 だというのに眼前の機体は掌と足の裏の装甲が焼け爛れたのみ。どう考えても尋常の機体ではない。


「何をやっていますの下僕七号!

 バイドロット様所望のフラムフェーダーは手に入れたのです、あとはこの町を灰燼に帰してシンフェギメルアへの供物とするのです!」


 見れば、金ぴかの機体の残骸の上で怒鳴り散らすハクダの姿がある。髪はぐしゃぐしゃになり、半裸同然だった服装はあちらこちらが破け裸同然、おまけに油やら泥やらで汚れきっている。


『かしこまってございます。しかしながらこの白い機体、尋常の相手ではございません。ハクダ様は念のため退避を』


「わたくしに恥をかかせたらもう踏んであげませんわよ!」


 そんなことをほざくと、放置されている魔動機のうち近衛用のギルトマへと走って行くハクダ。もはや布切れが体に張り付いているだけとなっているのになんら恥じらいがなく、そのくせ局部だけはきっちりと隠れているあたりあたり恐れ入る。


「……あれはないなあ」


『だなあ』


「なあおっさん、あんたあんなのに仕えてて悲しくならないのか?」


 かなりドン引きした表情で、念のため眼前の騎士に問いかけるアウェル。だが、


『あの方はあれだからいいのだよ。

 あんなのよりも己が下等だというこの暗い快感……フフフ……うっ』


 そんな悦の入った声が返ってきて、アウェルは首を傾げた。


「……なんなんだアレ。主人のことをあんなのとか言ったぞ」


『お前は理解しなくていい。

 それより左腕ビーム機構使用不可だ。バリアはしばらく張れん』


 手の平に仕込まれたビームの発射口が焼けて潰されている。修復はするだろうが、待っている余裕はない。

 再度突撃しようと構えたフラムフェーダーに牽制のミサイルを二発発射。だが、槍を薙いだ軌跡に現れた炎の壁でミサイルが全て撃ち落とされる。


(機体全体が火炎放射器と思ったほうがいいな、あれは)


「くっそ、取り巻きは雑魚だったけどこいつ、リリエラさん並みに強い……!」


 突撃の隙を与えてはならない。そう判断したアウェルはヴァイタルブレードで斬りかかる。だが、フラムフェーダーは槍と盾を巧みに操りこの斬撃を防いで回る。

 アウェルはもともとセルシアやナグラスの剣技をある程度見覚えていた。この道中はそれを反芻するように練習を重ね、現在はかなりの再現度を有している。リリエラ一党の配下では二機がかりでももう相手にならないだろう。

 だが眼前の相手はそのアウェルと対等に渡り合う力量があるらしい。

 加えてガンベルと比べものにならないほどの機体の頑健さ。ただ重装甲というだけでなく魔法による付与でもかかっているのか、ヴァイタルブレードの牽引場による引き裂きがうまく働いていない。

 さらに加えて機体自体が常にある程度の高熱を纏っている。機体が纏う陽炎はそのためだ。結果、


(ちょ、あっつ、熱いってヲイ!)


 ゼフィルカイザーにはじわじわとダメージが蓄積していた。とはいえ装甲が焼け焦げ、しかしそのそばから修復しているので自分が痛いだけで大したことではない――などとは、ゼフィルカイザーは考えない。

 粒子ゲージとは別の、主動力からのエネルギーゲージを見れば、じわじわとだがゲージが減っている。

 ここまで継続的にダメージを受ける状況に遭わなかったため今まで確認できていなかったが、やはりダメージの修復にもエネルギーを食うらしい。おかげでヴァイタルブレードにエネルギーを回せていない。

 その上熱による痛みがゼフィルカイザーから集中力を奪う。

 ひときわ大きくぶつかり合った後、フラムフェーダーが大きく引き、距離を取る。そこにヴァイタルブレードの射撃を叩き込むが、通常弾頭であるせいもあってか、赤熱する盾を突破できずに弾丸が溶解してしまう。

 こちらの遠距離武器は通じず、しかしあちらも全力の突撃を行うには加速距離が足りない。

 お互い好ましくない間合いだと、ゼフィルカイザーとアウェルが思った時だ。


『埒が明かんな。こうなれば――フラムフェーダーの名の意味、とくと知るがいい!』


 背中のスラスターが展開し炎の翼が発現する。すると、フラムフェーダーの機体が空中に持ち上がったではないか。


「んなっ、魔動機が飛ぶだって!?」


『あれこそがフラムフェーダーの真の力、飛行能力でしてよ!


 古式魔動機の中でもごく一部の機体にしかない力、目に焼き付けてお死になさい!』


 驚いたアウェルの横から煽りが入る。見れば近衛用のギルトマが指を指して金切り声をあげていた。


「あいつ……!」


『ああ、御安心なさいな。王女はありがたく連れて行かせてもらいますし、小娘はきっちり処分しておいてあげますから。

 小娘のほうは見た目は悪くないですし殺すのはもったいないですわね。適当に嬲って売り払うことにしましょう』


『――女。礼を言う』


 ハクダは眉をひそめた。まただ。白い機体から、乗り込んだ少年とは別の声がした。確信を持った声で、


『お前のおかげですべての手札が揃った――!』


 ゼフィルカイザーから言わせれば飛び上がるのは阿呆の極みである。なにせ遮蔽物がないところに自分から躍り出たのだ。

 高度を上げたフラムフェーダーが槍を構え急降下してくる。あたかも獲物を突き殺さんとする百舌のように。

 その時、ギベルティは、白い機体が再度何かを足から発射したのを確認した。だが構わない、今のフラムフェーダーは機体自体が炎の槍だ。当たったところで焼け落ちるのみ。

 勝利を確信したギベルティは目標を視界の中心に見据え――その視界を、白光に焼かれることになった。ミサイルはフラムフェーダー直撃寸前に爆ぜ、白い光をまき散らす。


(念のため作っておいてよかったなあ、フラッシュグレネード)


 ゼフィルカイザー自身は光学フィルター機能で視界はちゃんと確保できている。手としては単純、閃光弾である。

 セルシアの出自からもめ事に巻き込まれる可能性、さらにそこから対人戦に巻き込まれる可能性を考慮したゼフィルカイザーが用意した非殺傷兵器がこれである。

 対魔動機戦を考慮してセンサーによる近接信管、直撃しなくても接近しただけで炸裂する信管を仕込んだフラッシュグレネード・ミサイルはロックオンした通り、フラムフェーダーの顔の寸でで炸裂した。

 フラムフェーダーはそのままバランスを崩し、轟音を立てて地面に落着する。ゼフィルカイザーがいる場所とはまるで離れた場所にである。


『きゃあああああ! 目が、目があああああ!』


 ハクダがわめくのを意に介さずゼフィルカイザーはヴァイタルブレードを構える。地面に激突してあちこちがひしゃげたフラムフェーダーの姿。


『おのれ、小癪な手を! だが貴様の剣ではフラムフェーダーの炎熱装甲を敗れまい!』


『ああ、普段の出力なら無理だな。普段の出力なら』


 ゼフィルカイザーの視界内では【O-エンジン トライアルドライブ】のシステムメッセージが点滅し、エネルギーゲージが限界を振り切っていた。先ほどのハクダの要らない一言がアウェルの逆鱗に触れたためだ。

 右腕の機構が展開するが、そのエネルギーをすべてヴァイタルブレードへ回し、


『フォールウェーブ!』


 放たれた重力波を受けたフラムフェーダーが、軋みを上げてその場でひしゃげ始める。

 かつてガンベル相手に用いたのとは比べ物にならない威力だ。これがガンベル相手ならばこれだけで勝負が決していただろう。

 そこに剣を振りかぶり走り寄る白い機体。莫大な威力の斥力場が光すら捻じ曲げ、刀身の周りが黒く歪む。その剣が、


『ディバイディング・スラッシュ!』


「おおおおおおおっ!」


 フラムフェーダーを袈裟切りに引き裂いた。防ごうとした大盾も赤熱した装甲もまるで意味をなさず、ひしゃげ、引き裂かれていく。装甲がねじ切れ、内部のフレームもねじ曲がり、ミュースリルがはじけ飛んでいった。

 振り返って見れば、そこには両手も頭部も千切れ飛び、胴体も半壊してコックピットに風穴の開いたフラムフェーダーだったものがあった。

 コアだけは無傷で、胴体の穴から操縦者の姿が確認できるが、


『生体反応あり。どうやら死んではいないようだな』


「魔動機の搭乗者生存機能って強力だからな。古式ならなおのことなんだろ。さて、じゃあ次はてめぇの――」


 次は貴様だと言わんばかりに振り向くと、そこでは塀にまたがるギルトマの姿。


『げっ』


「げ、じゃない、お前の部下はもういないぞ。観念してもらおうか……!」


『なんでわたくしが命令されなきゃいけないんですの!?

 まったく、下僕が使い物にならないせいで……お前らはクビ、クビですわ!

 そこの白い機体、今日のところは勘弁してあげますが次はわたくしの真の下僕がお相手してあげましょう!』


『待て!』


『待て、と言われて待つ馬鹿がいますか! アデュー!』


 塀を飛び超してその向こうへと走り去っていくギルトマの姿。それを追おうとするが、


『ぐっ……』


「どうした、大丈夫かゼフィルカイザー!?」


『私もそろそろ限界のようだ、すまない』


 視界には【ダメージ許容限界】【熱量許容限界】【強制冷却】のメッセージが流れていた。

 当然と言えば当然だ、ゼフィルカイザーは攻撃に回すエネルギーを確保するため途中から自己修復を切っていたのだ。

 結果的に蓄積したダメージが限界を迎えたのだろう、各部の動きが目に見えて悪くなる。


『足を引っ張ってしまったな』


「言うなって。オレも前にやったしな。おあいこだって」


 おたがいに苦笑し、声をあげて笑いあうアウェルとゼフィルカイザー。




 後に公に知られる二人の活躍はこの一戦から始まっている。

 邪悪なる王女ハクダ率いる一団をいともたやすく打ち払い、奪われたトメルギア最強の魔動機をこともなげに倒したと、そう伝えられる。

 実際には接戦だったのだが、それもわずか十四歳の少年の上げた戦功として見れば破格である。

 だが、二人はこれからさほどの間を置かないうちに、これよりさらに強大な敵と戦うこととなる。

 それを、アウェルもゼフィルカイザーも、まだ知らない。

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