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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第八話 トメルギアの魔女 ※エロいほう
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005

『な、なんなんですのこの娘!?』


「ほーれ、こっちこっち」


『くそっ、いい加減捕まりやがれ!』


 三体の魔動機を足場に、セルシアが弾丸のように飛び交っていた。それを追って手を伸ばすたび、三体の魔動機がお互いにどつきあう羽目になっている。


「つくづく姫を髣髴とさせるなあ、あの嬢ちゃん」


「もう驚かないけどさ。

 にしても爺さん、あのまま暴れさせといていいのか? ここ、爺さん家なんだろ?」


「なに、安心せい。当家最強の騎士がおるでな。のうバリアロービッツよ」


 言いながら、隣の騎士を見る侯爵。その腰に差している剣の柄には赤い宝玉がある。アウェルは見ただけでそれが魔動機の召喚器だと理解した。


「このまま放っておいても騒ぎが拡大するだけかと。鎮圧にかかります」


「うむ、よきにはからえ――ごふっ!?」


 突如として侯爵が血を吹いた。何事か見れば、侯爵の腹のあたりから細剣の刃が突き出ている。


「させぬ」


 侯爵を蹴り倒しながら刃を抜き、剣の血を払う男。黒髪に切れ長の目の騎士。アウェル達は初見の相手だが、その服装からハクダの取り巻きの一味と言うことだけはわかった。


「キサマあああああ! よくも侯爵を!」


「私の接近にも気づかぬ者が最強などと、トメルギア三大侯爵も落ちた物だ。

 フラムフェーダーを置いて潔くここで散れ」


 そのままバリアロービッツへと斬りかかる黒髪の騎士。バリアロービッツも応戦するが、相手も手練れなのだろう、防戦一方になってしまう。

 とてもではないが、魔動機を呼び出している暇などない。


「ビッツ!」


「私のことはいい、侯爵を頼む!」


 メググトにそう指示を飛ばして眼前の相手に専念するバリアロービッツ。

 メググトは慌てて侯爵を助け起こすが、腹からも背中からも血がどんどんにじみ出ていた。


「くっそ、施療官のところへ連れて行かねえと!」


「私が見ます、回復魔法には若干の心得があります! ほらエル兄も手伝ってください!」


「お、おう!」


 助け起こした侯爵の服を切り、露わになった傷口が回復魔法の淡い光に照らされる。


「く……すまぬな、面倒に巻き込んで」


「喋らんでください侯爵。嬢ちゃん、助かりそうかい?」


「相手がレイピアだったのが幸いでした、重要な器官に傷はついてないっぽいです。でも、私の腕だと血を止めるくらいが精一杯です」


 だが、そこに高笑いの声が響いた。黄金の魔動機から、聞くものの癇に障る声が響いてくる。


『よくやりましたわ下僕七号! 今宵はあなたに褒美をくれてあげましょう、存分に嬲ってあげますわ!』


「感謝の極み」


「く、この色狂いどもめ!

 ギベルディ卿、トメルギア中にその名を知られたあなたほどの方が、騎士の誇りはないのか!?」


 バリアロービッツがつばぜり合いをしながらそう問い詰めるが、黒髪の騎士、ギベルティは涼やかな笑みを返すばかりだ。


「なんなら貴様も一度組み伏されるといい。

 あのお方は底なしだ、どこまででも溺れさせてくれる。それに比べれば騎士の誇りなどどの程度の価値があろうか」


「毒婦と、その犬が……!」


「犬で結構」


 刃のかち合う音の間隔がどんどん短くなっていく。それほどの剣技を交わす二人を、しかし、


「うわー……なんてかっこいいドM宣言。さすがにないです」


 呆れた顔で見つめるパトラネリゼ。正直ドン引きであった。


「エム? なんのことだ? てか、あいつら何の話をしてるんだ?」


「ゼフさんなら綺麗なあなたのままでいてって言うでしょうし理解しなくていいです」


 顔を赤らめながらそうぼやいて治療に専念する。メググトとアウェルも侯爵の顔色の悪化が少しずつ緩やかになっていくのに胸を撫で下ろしていた。

 だからこそ、後ろから迫る影に反応できなかった。


「え?」


 暗くなったことに気が付いて振り返ってみれば、鉄塊が視界を覆っていた。ギルトマの足の裏だ。

 セルシアはと言えば、もう一歩のギルトマの頭の上でその光景を見て青ざめていた。


『ハクダ様! 今から私がこいつらを踏みつぶしますから、どうか私にも褒美を!』


『あらあら、駄犬の分際で張り切りますわね。いいでしょう、やりなさいな。

 フラムフェーダーさえ手に入れば後は要済みです』


「ひっ……」


 鉄塊が振り下ろされる。だが、


『……む? なんだ、これ以上踏み込めない?』


 ギルトマの中の優男風の騎士が首を傾げる。一方のギルトマの足の下では、その姿を見た全員が絶句していた。


「ぐぎぎぎぎぎ……!!」


「ちょ、姉ちゃんいくらなんでも無理だって!」


「いーから、とっとと、逃げなさい……!!」


 セルシアが、その両手両足に満身の力を込めてギルトマの足を押しとどめていた。

 だが、逆を言えばそれが限度。セルシア自身もいくらなんでも無理だという確信があった。だが、つい体が動いてしまったのだ。ギルトマから飛び降り、全力疾走してどうにか足に割り込んだ。

 優男の性格が悪かったのがある意味で幸いしていた。恐怖を味あわせようとゆっくりと踏み下ろしていたためだ。勢いよくストンピングしていたら、いくらセルシアでも押し潰されていた。

 とはいえ、この状況とてそう大差はない。


「くっ、もう、もたない……!」


 両肩からぴしり、と嫌な音が走る。そのまま押しつぶされようとして、


『見えたぞアウェル、どうすればいい!?』


「――踏みつぶされそうになってる、一番手前の奴だ!」


 直後、鉄がぶつかりあう轟音とともに、セルシアにかかっていた質量が途端に失せ、空が見えた。

 力のやりどころがなくなってすっころぶセルシア。それと同時に、ギルトマが地面にめり込んだ。

 セルシアを助け起こしながら、アウェルは己の相棒を見上げた。拳を振り抜いた姿勢で止まっている白いロボットを。


「白いの、なにやってたのよ、ったく」


「ぜ、ゼフさん……! 本当に遅いですよ、もう!」


 息も絶え絶えのセルシアと、涙声でわめくパトラネリゼ。その声にゼフィルカイザーが取った行動は礼法に従ったものだった。

 姿勢を正すとその場で正座し、


『大変申し訳ございませんでした』


 土下座の姿勢を取る白い鉄塊。全面謝罪の体勢であるとともに、アウェルが即座に乗り込める姿勢を取っているのだ。

 こういう気遣いができるならミスしないでほしいとアウェルは思いつつ、


「っとに。まいいや。パティ、姉ちゃんと爺さんを頼む」


 ゼフィルカイザーへと乗り込んだ。白い機体が立ち上がり抜剣する。

 眼前には尻もちをつくギルトマに、それを助け起こすもう一機のギルトマ。そして黄金の魔動機。


『それでどうする、アウェル』


「まあハッスル丸やセルシアにしごかれた成果を見せるいいチャンスだと思うさ――蹴散らすぞ、ゼフィルカイザー」




 ハクダはこの数瞬の光景に目を疑っていた。町中ではあるが、しかし領主の館でもある。ゆえにこの館の外壁は万が一に備えて魔動機でもそうそう越せない高さに作られている。

 だが、唐突に現れた白い魔動機はそれを人間が柵を超すような身軽さでひらりと飛び越し、そのまま走り寄ってギルトマを殴り倒した。

 かち上げ気味のアッパーを食らったギルトマはふわりと浮かび、そのまま吹き飛んだ。

 かと思えば土下座の体勢を取り、今は不可思議な形の剣を抜いてこちらを見据えている。

 見たこともない流線型のボディに、どう磨いたらそうなるのか光沢を帯びた白い総身は赤や青の装飾に彩られ、鋭い眼光はこちらを見据えている。

 美しい機体だ、とハクダは思った。絶世と言っていい。己の趣味には合わないが、あれほど見事な機体はそうあるものではない。

 そして、一方である確信があった。


『なんですの、あなた』


 乗り込んだ少年のものではない、全く別の男の気配がその機体には感じられていた。

 己の直観。幾人もの男を籠絡し、堕落させてきた己の本能が告げていたのだ。

 アレは敵だと。絶対に相容れることがない相手であると。


『何者かと聞かれれば――我が名はゼフィルカイザー。悪を断つ正義のロボットだ』


「だ、そうだ。まあオレがいないとてんで役に立たないけどな」


『それを言うなよアウェル。まあいい、任せた』


 言うなり、ゼフィルカイザーは駆け出した。その進路に立ちふさがる影。柄の悪い騎士が乗っていたほうのギルトマだ。

 両手持ちのバトルアックスを構え、猛然と襲ってくる。


『死ねやガキ!』


 風を切って振り下ろされるバトルアックス。そのまま食らえば唐竹割になるのは目に見えているそれを、ゼフィルカイザーはスピードを落とすことなく突き進み、身をそらしただけでその一閃を避けた。

 勢いのついたままたたらを踏み、相手を失った一撃が地面を抉る。

 その時にはゼフィルカイザーはギルトマの向かって左側にいた。

 ギルトマの左足と左肩にそれぞれ足と手をかけ、わずかな力をかける。それだけで勢いを殺し切れずバランスを崩していたギルトマはその場になぎ倒された。

 腹ばいになってあがくギルトマだったが、四撃分の音が響くと四肢のあがきが止まる。両手足の付け根に銃撃が入れられたため、伝達系を破壊されたのだ。


「一応ここの奴だからな、派手に壊しちゃまずい。だろ?」


『理解が早くて助かる』


 言う間に、もう一機のギルトマが襲いかかってきた。こちらの得物は槍だ。

 ゼフィルカイザーの胴体目がけて迫る槍を、だがゼフィルカイザーはこれも半身をよじるだけであっさりとかわし、左脇をすり抜けた槍を空いていた左手で掴み止め、一気に間合いを詰める。


『ひ……!』


 間合いを詰め、ギルトマが踏み出していた右足をこちらの左足が踏み止める。ゼフィルカイザーの脚力であれば即座に粉砕していそうなものだがそうならなかったのは、アウェルの操縦技術によるものだろう。

 そして、ヴァイタルブレードを放り投げたゼフィルカイザーがコア目がけて拳を叩き込んだ。

 絶大な衝撃と共に機体が揺れ、そのまま倒れ込むギルトマ。コックピットの中では頭を初めあちこちをしたたかに打ち付けた優男風の騎士が気を失っていた。

 ゼフィルカイザーは打ち込んだ拳の痛みを堪えつつ、落としたヴァイタルブレードを拾い上げる。


『く、コアというのは思った以上に硬いな。こちらの拳にも少しヒビが入っているぞ』


「魔動機で最も頑丈な部分だからな。

 普通にやっても壊せないし、コアは魔法文明の技術がない今じゃ再現不能だから壊すのは論外ってのが定石なんだっておっちゃんが言ってたけどな。

 せっかく覚えた技だから使ってみたけど、お前にダメージが来るならもう使わないよ。悪かった」


『いや、私はじきに修復するから構わんのだが』


 気軽に言うが、ゼフィルカイザーはこの一連の攻防に舌を巻いていた。

 トリセルからこちら、アウェルはハッスル丸やセルシアにしきりに教えを乞うていたし、道中ゼフィルカイザーを歩かせているときも戦闘のイロハについての談義を求めていた。エルフとの戦いでセルシアを危機にさらしたことへの責任感なのだろう。

 とは言えそうそうすぐに効果が出るようなものではない、そう思っていたのだが、今の体捌きは素人のそれとは思えないものだった。

 ゼフィルカイザーが自分で再現できるかと言えば絶対に無理だと断言できる。だからこそ聞いてみたのだが、


『どうやって今のような動きを覚えたのだ?』


「いや、セルシアやハッスル丸に散々技食らってたじゃん。あれだけ食らえば覚えるって。

 まあ自分の体でやれって言われたらたぶん無理だけど」


 こともなげにそう言ってのけた。


(ふつう逆だろうが……!)


 つまり今己を操縦している少年はこう言ったのだ。見た技を自分でやることはできないが、ロボットで再現するのは簡単だ、と。

 自分の思ったとおりに動く自分の体ならともかく、操縦のためのインターフェイスを挟んだロボットを用いての、武芸者の技の際限が難しくないという。


「でもお前の関節も最初のころに比べたら大分とほぐれたしな。

 毎朝やってるらぢお体操の効果があったってことか」


(ラジオ体操やってパワーアップするロボットとか聞いたことないぞ!

 いや俺だけど、そんな修行パートは嫌だ!)


 厳密にはパワーアップではなくハンデの解消なのだが、戦力が向上してきたのは事実だ。


「んで、あとはあの金ピカか。あいつはここの所属の機体じゃないし、ぶっ壊しても問題ないな」


『あ、あらあら。こう見えてもこの機体は古式ですわよ?

 降参するならいまのうち、今ならわたくしの下僕の末席に加えてやってもよろしくてよ?』


 この期に及んでなおも態度を崩さないハクダ。しかしながら、その語調にアウェルもゼフィルカイザーも呆れるばかりだ。


『ブルった声で言われてもな』


「なあ?」


 その言葉にハクダの我慢が限界を迎えた。


『キィーッ! こうなったら見せてくれるわ、このトメルギア王女の魔力を!

 そしてわたくし自らの指示で改装された古式魔動機クイーン・ゴージャス・エレガント・エンプレスの力を!』


(なにそれダサい)


 腰のレイピアを抜き襲い掛かってくるクイーン・ゴージャス・エレガント・エンプレスこと金ぴかの機体。剣閃は鋭く、また力も乗っている。

 古式なのは事実だろうとアウェルは判断する。だがそれだけに、


「ほれ」


 レイピアを避け、大きく出張った肩アーマーをヴァイタルブレードの平で殴りつける。それだけで金ぴかはバランスを崩してすっ転んだ。


「やっぱりか、重心が最悪なんだよその機体。

 あんたが指示したってなら納得だ、大昔の魔動機鍛冶がそんな役立たず作ったりしてたらオレ泣くぞ」


 言いつつ、立ち上って再度襲ってきた金ぴかの攻撃をこれまたあっさりと避け、わずかな交錯の間にヴァイタルブレードの砲撃を発射。

 弾丸は金ぴかの左肩のアーマーを粉砕し、それで左右のバランスを崩した金ぴかはぐらぐらと揺れ出す。


(操縦のセンスは言わずもがな、見ただけで魔動機の性能を推察する能力といい、こいつやっぱり只者じゃないんじゃないか?)


 とはいえ本来は戦闘用の魔動機を動かすこともできない少年だ。

 それが何の縁か魔力を用いずとも動くロボットと出会い、その才能を開花させつつある。

 幾多と繰り広げられてきたロボットアニメの主人公の覚醒、そう言った場面に当事者として巡り合えたという感慨にゼフィルカイザーは打ち震えていた。


『こうなったら……機道魔法、アクセル!』


 突如として唱えられた呪文とともに金ぴかの機体の速度が目に見えて上がった。

 不安定な重心もものともせずに、一気呵成に責め立ててくる。だが、アウェルはそれにもため息をつく。


「あー、そういうコンセプトの機体だったわけね。加速して一撃見舞うみたいな」


『気づいたところでもう遅いですわ! 食らいなさい、ゴージャス・ブレイジング・ハンド!』


 金ぴかの左手に炎が灯り、それをゼフィルカイザー目がけてぶつけてくる。

 だが、その手がゼフィルカイザーの頭部に直撃すると思ったその瞬間、ハクダの視界からゼフィルカイザーの姿が消えた。


『え? どこ!? どこへ行ったんですの!?』


「ここだよ、ここ」


 探し回る声に返す声あり、同時に金ぴかの機体を衝撃が連続して襲った。


『きゃあああっ!? な、なに、なんですの、なんなんですの!?』


 金ぴかの機体の背後に立つゼフィルカイザーがゼロ距離でヴァイタルブレードの射撃を見舞っているのだ。

 関節部を徹底的にねらい打たれ、あちこちから火花を吹いて崩れ落ちる金ぴかの魔動機。


(うわあ、えげつな……)


 だがしかし、ゼフィルカイザーが教えた戦法である。

 ロボットアクションの対戦などで敵の後ろを取り、相手が混乱しているうちに一気に攻めたてるというゼフィルカイザーが好んだ戦法だ。回り込み自体はハッスル丸に教わった足さばきによるものだが。

 ちなみにこれをやるとリアルファイトに発展することが時折あったが腕がないほうが悪いとゼフィルカイザーは信じている。


「っとに、せっかくの古式がもったいない」


『と言うと?』


「たぶんだけどさ、元はもっとまともな古式魔動機だったのを、さっきのエロいねーちゃんの趣味で強引に改造したんだよ。

 本当はもっと軽量軽装甲の機体なんだろ。それに機道魔法で加速かけて、手の炎で焼くっていう機体だったんじゃないか?」


『魔改造の犠牲か。それは確かに哀れだな』


 足元に転がる金ぴかの機体を見下ろす二人。肩腕がもげ、両足もフレームから砕かれている。ここまでやれば再起は不可能だろう。


「とにかく終わったな。いやー、しごかれた甲斐があったってもんだ」


『普通はこんなに早く効果は出ないぞ。パティたちは……』


 その時、爆炎の柱が館の一角から立ち上った。その異様はカーバインのみならず、近隣の村からも見えた。

 炎が徐々に収束してゆき、その炎を引き裂いて深紅の鉄機が陽炎を纏い現れた。重厚な装甲に覆われたその姿は見かけ倒しなどでないことを一目で知らせてくれる。

 右腕には機体の全長よりも長大な突撃槍(ランス)を、もう一方には身の半分以上を覆い隠せる大盾を構えている。

 なにより特徴的なのは背面だ。背中に巨大な、折りたたまれた翼のようなものが二基見える。その機体から、黒髪の騎士の声が聞こえてきた。


『よくもハクダ様を――焼き殺してやる』

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