006
『下がれ!』
その言葉に全員が反応できたのは行幸だった。同時に土中から巨大なものが姿を現す。ゼフィルカイザーたちの倍はあろうかという体長の、樹木でできた巨大な人型だ。
その頭頂部にはやはり金髪美女。だが全裸ではなく、あちこちに葉を茂らせて下半身は人型の頭部に埋没している。
『あれは……』
『ハイエルフか?』
『いや、エルフシャーマン! エルフの、私が見た中では最上位のもんだ!!
グレーターの魔力弾なんかじゃない、正真正銘の魔法を使うエルフだ!』
(とことんゴブリン準拠だな!? 次はエルフチャンピオンかエルフキングか!?)
言う間に、エルフシャーマンが巨体の中へと沈んでいく。そして巨体があるものを蹴り飛ばしてきた。足元にあったトリセルのガンベルだ。
緩慢な動きだがどれほどの力を込めたのか。砲弾のように飛んできたガンベルが、同じくリリエラ配下のガンベルに直撃、そのまま吹き飛ばされる。
『ぐああああっ! くそっ、なんなんだ、なんなんだこいつはよお!?』
『ウッドゴーレムだ!! 樹木でできた巨躯だ、そうだよなパティ!?』
「は、はい、そうだと思います! でもなんでそんなに必死なんですかゼフさん!?」
これ以上自分の常識が塗り替えられるのがつらいとは口が裂けても言えない。
ちらりと見れば、サッカーボールにされたガンベルもその直撃を食らったガンベルも装甲がひしゃげ、腕や脚が有りえない方向を向いていた。内部のフレームにまで損傷が及んだのは一目瞭然だ。
そのとき、ハッスル丸からの通信が入った。
『ゼフ殿、何ごとでござるか!? こちらは人質の救出はあらかた完了、今出口目前でござる!』
『エルフシャーマンとかいうより強力なエルフがウッドゴーレムで襲ってきた!! おいアウェル、脚を徹底的に狙い打て!』
「お、おう!」
出されるマーカーに従ってアウェルはウッドゴーレムの右足に弾丸を叩き込んでいく。次々と穴が穿たれ、そのままもんどりうって倒れ込むウッドゴーレム。
『今だ、さっさと逃げろ!』
『了解でござる、ご武運を!』
うろから出て去っていく人々。僅か二日とはいえ身動きができなかったのだ、その足取りは重い。一方でウッドゴーレムは倒れ込みはしたものの、すぐに起き上ってくる。何事かと思えばまた新たな脚が生えている。
『ちっ、ならこれはどうだい!』
ベルエルグがダガーを投擲し、そこに雷撃が落ちる。だが巨体すぎて電撃の通りが悪いのかあまり効いている様子もなく、逆に電撃のほうが細くなっていく。
『ぐ……魔力切れか!』
『騎士殿、あなたは部下を拾って人質の警護を!
ここは私たちが何とかする!』
『く、すまない……! ギュパド、動けるかい!?』
『どうにか足回りは無事でさあ!』
『んじゃ、退くよ! あとそのガンベルもできたら引きずっていきな!』
二機は各々一機ずつ、トリセルのガンベルを掴んで退いて行く。それを追おうとウッドゴーレムが手を伸ばすが、
「させるか!」
ヴァイタルブレードの一撃が腕を切り落とす。だがまたすぐに生えてくる。足止めにはなるが、これではきりがない。基本の頑丈さはエルフと同程度な上にこの質量というのも手間だ。
(くっそ、エネルギー管理が……!)
今の一撃にしてもほとんど最大出力だ。おかげで連続で攻撃を繰り出すことができない。高威力で一気に引き裂かないと、裂く間に再生されてしまう。
ビームを使えればもっと手っ取り早く仕留めれるのだろうが、バリアを張るので粒子残量はほぼ使い切ってしまった。
「もっと強力な武器は!?」
『馬鹿、アウェル!』
聞いてきたアウェルを叱咤するが、遅かった。ウッドゴーレムに掴まれ、そのまま地面に叩き付けられる。
『がっ』
「きゃああああっ!?」
ゼフィルカイザーの全身にしびれるような感覚が走り、フレームの負荷を訴えるアラートが表示される。
その隙にウッドゴーレムは逃げてゆく人質の列へと目を向けた。捕えた肥やしの素を逃すまいと。
じりじりと近寄っていくウッドゴーレムは、ガンベルを容易く払いのけ、ベルエルグを事もなげに蹴り倒し、背後から襲いかかった影鯱丸のことなど気にも留めない。
いずれも消耗はしていた。だが、彼らが何の障害にもならないほどウッドゴーレムは圧倒的だった。
ゼフィルカイザーがなんとか立ち上がった時見た物は、剣を構えた赤い髪の少女にウッドゴーレムの手が伸びる姿。その表情に余裕がないのは、決して疲労のせいだけではない。
その姿がメインモニターに映ったとき。それを目にした少年が叫んだ。
「セルシアあああああああッ!!」
(――づっ!?)
アウェルの絶叫と共に膨大な何かが全身にあふれかえり、ゼフィルカイザーの意識が危うく押し流されそうになる。それに伴って起こった変化は唐突だった。
ゼフィルカイザーの右腕が裂けたのだ。
腕の外側の装甲が開き、中から複数枚の透明な板が飛び出し、青い光を帯び始める。
同時に手の形状が変化した。いかなる原理か、手全体が手首関節から走った光に覆われる。光が解けて現れたのは鋭い爪をもつ、鋭角な掌だ。
(一体何が!?)
体の操作権は完全にアウェル側にあり、自分の方へと戻すにもエラーが表示されできない。
腕の装甲が割れた感触は確かに自分にもある。生身で例えるなら、痛みもない状態で腕の皮が剥離しているような感触。そんな中、目の前に幾重にも並んだシステムメッセージが告げていた。
【アームドジェネレーター出力上昇 最低基準値クリア】
【O-エンジン トライアルドライブ】
【フェーズ2へ以降 メインジェネレーター リミッター限定解除】
(――ッ!!)
他にもさまざまなシステムメッセージが流れていた。だが、中心にあったその三行、それだけでゼフィルカイザーは己の身に、それ以上にアウェルに何が起こったのかを察し、
『やれ、アウェル、ぶちかませ!』
それだけを告げた。同時に掌に膨大な量の光が収束していく。普段用いているビームの光のような粒子の収束。
だが普段の緑色と違い、今の粒子の輝きは黄金色のそれだ。粒子ゲージを見れば、残量ゲージが見当たらないほどだったのが、今は一割近くまでチャージされ、今なおゲージが伸びて行っている。
普段以上の速度でゼフィルカイザーが駆ける。今のアウェルにゼフィルカイザーに対する気遣いはない。目の前の敵を倒すために全速力を出させているため、ゼフィルカイザーの各関節が軋みを上げる。だが、この状況で弱音を吐くのはゼフィルカイザーの美学に反する。
ウッドゴーレムが気づき振り向くのと、ゼフィルカイザーがウッドゴーレムを射程に収めるのは同時だった。全力の跳躍で飛びかかり、無造作にその掌を頭部に叩き付けようとするゼフィルカイザー。緩慢な動きでガードしようとするが、
『遅い、アウェル構うな!』
「おおっ!!」
二人の叫びと同時、エネルギーゲージが振り切ったのをゼフィルカイザーは視認。掌がウッドゴーレムの頭部に接触すると、そのままなんの抵抗もなく、掌がウッドゴーレムの頭部にめり込んだ。
ゼフィルカイザー自身には何かに触れている感覚はまるでない。掌が纏う黄金色の粒子光に触れた時点で、ウッドゴーレムの体が消滅しているのだ。ならば、この収束した金色の粒子を解き放てばどうなるか。
ゼフィルカイザーはそのようにした。それによって起こったのは破壊ではなく消滅だ。掌に収束していた黄金色の粒子が弾け飛ぶと、並みの魔動機の倍の体長はあろうかというウッドゴーレムの上半身が、跡形もなく消し飛んだ。後には地面から生えている脚と、やり場のなくなった腕が残るのみ。
支えを失った腕が重力に従って地面に落ちていく。めきめきと音を立てて本体から千切れ落ち、地響きを上げた。
「……っ、はぁ、はぁ……やった、のか?」
「はわわ……、目が、目が」
コックピット内では息を切らすアウェルに、アウェルの全力の操縦に目を回したパトラネリゼ。
腕を改めて見れば、解放部の光が止んだ後大きく排気が起こり、そのあと即座に元の形状へと変化した。掌も同様で、粒子光が止むと同時、巨大化した掌が崩れ去り、そこから普段の形状の手が出てきた。
だが、この期に及んでもゼフィルカイザーに油断の二字はなかった。
『お約束もほどほどにして欲しいがな』
視線の先には抉れたウッドゴーレムから這い出そうとするエルフシャーマンの姿。美しい金髪美女の姿だが。
(こういう世界だしな。俺も覚悟を決めるしかない、か)
拳がエルフシャーマンを無慈悲に叩き潰した。
人の形をしたものを、間違いなく自分の意志で殺したという感覚。
あるのかどうかも分からない胃から吐き気がこみ上げるような感触。
だが、それを堪えて、
『後始末だ。まったく、エルフはこりごりだ……!』
エルフのなる木に向けて焼夷弾を発射した。
焼夷弾の直撃したエルフの木は勢いよく燃えだし、さらにうろの中に溜まっていたアルコールに引火したのか、根元が爆発する。
その業火に、エルフのなる木自体が身もだえしだした。
つまり、そういう植物系の魔物だったのだろう。己の実を手駒にして己を肥えさせるという。
なにはともあれ。こうして、エルフ討伐はなんとか完了した。




