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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第一話 出現 チートロボ!
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004

 自分の記憶を思い返す。

 秋葉原に買い物に行った。ロボグッズ他を大量に買い込んだ。トラックに轢かれて死んだ。


 ここまではいい。いやよくはないがここまではいい。問題はここからだ。

 小学生に面倒事を押し付けそうな光るおっさんに転生させてくれると言われた。拒否ろうとしたがロボのある世界ということで即座に手の平を返した。

 あれこれ注文を付け終わって、最後に機体名を申し出た直後に、


「じゃ、頑張ってくれ。その世界邪神が封印されて甦りそうになってるから封印維持するか封印解いて倒すかするように」


 と、最後の最後でミッション内容を告げられ、直後に視界が暗転した。ここから記憶が途切れている。


 意識の再開は轟音と共に来た。

 目を覚ますとどこか暗い場所にいることがわかる。転生ということだったが、まさか胎児の状態から意識があるのか、と思ったが、どうやらそういうことではないらしい。

 体の感覚はあるが、どう考えても赤ん坊や子供の体格ではない。本気で何がどうなっているのかと首をかしげようとしても、首が動かない。首に限らず、全身のどこも感覚があるのに動こうとしない。

 と、暗闇の中に光が走る。どうやらクローゼットだか棺桶だかのようなものに閉じ込められていたようだ。入ってくる光に瞼を閉じようとして―閉じる瞼がないことに気が付いた。


(ん!?)


 目に入ってきたのはどこかの岩場のようなところ。あちこちに緑色の液体やら、赤黒い肉片のようなものが飛び散っている。だが、そういった光景が頭の中に入ってこない。


(いや、本当に、ちょっと待て――)


【安全を確認。最終セーフティを解除します】


 やたらと電子音声めいたそんな言葉が耳、ではなく、頭の中に直接響いた。それと同時に体が動くようになる。

 踏み出そうとしていた脚が持ち上がり、地面を踏みしめる。ついでに何か踏みつぶしたように思ったが、そんなことはどうでもいい。


「こいつ、誰か乗ってるのか?」


 そんな声が足元からしたので見下ろすと、そこには小人が二匹立ってこちらを見上げていた。少年と少女の二人だ。

 少女のほうは剣を片手にこちらを疑わしそうに見上げ、少年のほうはなにか大きなものを――物理的な意味でも、それ以外の観念的な意味でも――見るような目で、こちらを見ている。その少年のまなざしに、どこか覚えがあるような気がした。


「お前は、いったい何だ?」


 そう、少年が聞いてきたので、彼は迷いなく己の名前を返した。


『俺は、ゼフィルカイザーだ』


 告げた。間違いなく己の名前を告げたはずだ。なのに口で出したら最近やってるロボゲーで機体につけた名前が出てきた。脳内ハンガーの専用機十五号の名前である。その事態にゼフィルカイザーと名乗った彼は恐慌する。

 改めて頭の中を整理する。己の名前は? ゼフィルカイザーだ。うむ、何の問題もない――否、問題しかない!

 必死で記憶を手繰り寄せる。小学生時代、


「もうまったく、本当にロボットが好きなのね、ゼフィルカイザーは」


 そんな風に自分をあやす両親。


「お前あいかわらずロボゲーだけは異常に強いよな、ゼフィルカイザー」


そう揶揄してきた中学時代のゲーム仲間。


「僕が間違っていたよゼフィルカイザー君! 細かい講釈なんていい、ロボットはまずかっこよさなのだと!」


 洗脳じみた教育で改宗させた高校のSF研究会。


「えー、それでゼフィルカイザー君が当社を志望された理由は?」


 受けまくって結局一社も受からなかった就職面接。


(本気でどうなってやがる……!)


 どう記憶をひっくり返しても同じである。自分の記憶の中の自分の名前が、入出力の例外なくゼフィルカイザーに置き換わっている。

 まさか、と思い自分の手を見てみる。鈍色の装甲に覆われた掌、手首部分が青く、あとは白い篭手に覆われた腕。

 脚を見てみる。自分のひょろりとした脚とは似ても似つかない太い脚。やはり白い装甲に覆われている。ついでにつま先の感覚はあるが足の指の感覚はやはりない。


(うん、あれだ。ロボだこれ……ロボだこれー!?)


 結論、彼自信が注文したロボットになっていた。詐欺だ、と彼は思った。だがあの光るおっさんとの会話を思い返す。ロボットになったからなのか、記憶を手繰るのがやたらと楽でおまけに鮮明だ。


(あの野郎、ロボをくれるとは言ったし俺を転生させるとも言ったが、俺を人間に転生させるとも俺が乗るロボをくれるとも言ってねえ……!

 くそっ、専用機という響きにつられたばっかりに! やっぱりあんな光るおっさん信用するんじゃなかった!)


 内心そう思い、膝を落とす。ずしん、と地面が揺れ、小人――彼基準で見れば――があわてて距離を取る。


 小人、アウェルとセルシアの側からしても、目の前の状況は奇怪にもほどがあった。

 自分たちの命が助かったのはおそらく目の前の魔動機? のおかげなのだが、その魔動機は自分の体の動きを確認するかのようにあちこちを動かしてまわり、かと思えば唐突に膝をついて倒れ込んできたのだ。これで驚かないほうがどうかしているだろう。

 セルシアはいい加減状況に頭が参っているのか、諦めたような顔で手ごろな岩に腰を下ろしている。一方のアウェルは好奇心が勝るのか、ゼフィルカイザーと名乗った魔動機へと近寄ってくる。


「どうかした? その、ゼフィルカイザー、だっけ?」


 おっかなびっくりと尋ねるが、返事はない。一方でゼフィルカイザーは全力で脳、現在はおそらくメカメカしい何かになっているであろうそれをフル回転させた。


(ええい、ロボになりたいと思ったことがないわけではないしこれはこれでおいしいから良しとして。しかしどうする?)


 眼下にいる小人はおそらく人間だ。そうなるとこちらがロボに見えているはずだ。では、どうすべきか。実は人間だがロボになったなどと吹聴する? この世界がどういう世界かは知らないが、それを即座に信じるような世界観かどうかはまだ不明だ。なにより、


(鏡ないから細かいところはわからんが。おそらくトリコロールカラーのいかにも主人公機っぽいデザインになっているはず。それが元の俺のような口調で喋る?

 ――ありえん。それは世界が許さん。仮に許しても俺が許さん)


 それはこのロボットオタクにとって神の理すら超える絶対の摂理であった。なによりもそう、ロボットは、かっこよくなければいけないのだ。

 そして、少年のまなざしに覚えたものを理解した。あれはそう、ロボットへのあこがれの感情が詰まった目だ。子供のころから26歳無職ときどきアルバイターに至るまで変わらなかった自分のまなざしそっくりだ。それを裏切ってはならない。


『済まない、起動直後で混乱していたようだ。私はゼフィルカイザー。

 私は――私は、一体なんだ?』


「えっと……お前、魔動機(マジカライザー)じゃないのか?

 いや、というか誰か乗ってるんだよな、とりあえず降りてきたらどうさ」


『私には、誰も、乗っていない。その、マジカライザーというものがなにかは、私は知らない』


「いや、まさか……お前、自分の意志があるのか?」


『私は、ゼフィルカイザー。私は、私だ』


 そう言うゼフィルカイザーに瞠目するアウェル。


(記憶喪失っていうのは嘘くさすぎたかな?

 いや、起動直後のロボットが右も左もわからない! これよくあること! 問題なし!)


 一方で内心こんなことを思っているゼフィルカイザー。実際彼にとってはこの状況は本当に右も左もわからないのである。

 今いるのは山の中だろうか。澄み渡る空はどこまでも続き、ある一線で帯のようなものに断ち切られている。それなりに気も落ち着いたのか、ようやく状況を把握する余裕が出たゼフィルカイザーは、そこでようやくそれに気が付いた。


(なんぞあれ。まさかリングか? 木星や土星みたいな……月は……テンプレのように二つあるな。しかもでかい方の月にまで輪があるし。

 本当に異世界っぽいなあ)


 異世界情緒にしんみりしつつ、足元の二人に問いかける。


『君たちは誰だ? ここはどこなのだ?』


「オレはアウェルっていうんだ。ここはうちの村の上にある山の中だよ。そっちで威嚇してるのはセルシア。

 んで姉ちゃん、いい加減剣しまえよ。こいつ危ないやつじゃなさそうだし」


「へいへい、わかりましたよっと」


 促されてひとまず剣を収めるセルシア。しかし、何かに警戒するようなそぶりはそのままである。


「んで、あんたはどこの何様なのさ。なんで空から降ってきたのよ。そりゃこっちは助かったけどさ」


『助かった、とは』


「オレたちドラゴンに襲われてたんだよ。お前の入ってた箱が降ってきて、それで助かったんだけど」


(ドラゴンとな。じゃあこの辺にちらばってるのは……考えないほうがいいな、うん)


『では、その村とやらまで送ろうか』


「あ、いや、ちょっとオレたち、村には帰れそうにないんだけど」


『どういうことだ?』


「説明すると長くなるんだけど……」


 そう、アウェルが切り出そうとした瞬間。横殴りの力を受けたゼフィルカイザーは、そのまま勢いよくなぎ倒された。

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