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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第七話 怪奇! 異世界に驚異の植物生命体エルフを見た!
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001

「で、一体いつになったら話してもらえるのかな?」


 補修跡が生々しくのこる村長宅で、黒い甲冑の騎士は目の前の村長に尋ねていた。

 外はすでに日も傾き空は茜色。剣こそ降ろしているが、甲冑も目元を覆う仮面もそのままだ。だが覗いている口元からは、おそらく整った顔立ちをしているだろうことが伺える。

 一方の村長は、神経質そうな目で手を揉みながらそれに応じていた。


「いえね? 確かにそういう者はおりますよ?

 ですが村の仲間を、急にやって来た方に差し出すわけには、ねえ?」


 実情を知るものからすれば白々しいことこの上ない。

 顔役を助け尋ねごとをした黒騎士だったが、わかったのはセルシアという名前だけだ。それ以上のことは村長に聞いてくれ、とだけ言ってそのまま立ち去ってしまった。

 村のほうへと足を運べばあちこちで諍いの音が聞こえる。縛られて担がれてきた今一人の顔役の前にその妻や娘と思しき女が引きずり出されるや否や裸に剥かれ、今にも襲われそうになっていたのには絶句したものだ。

 助けに入ったら入ったで、娘のほうがしなを作って自分にすり寄り、妻は妻で己の夫を絞め殺そうとする。

 こういう村か、というのが黒騎士の感想だった。魔物の脅威に遭い切羽詰まっているのはわかるが、開拓村としてはまとまりが無さすぎる。

 なので村長の白々しさなどとうに見抜いたうえでそれに付き合っているのだ。


「セルシアという娘、本当にこの村にいるのだろうな?」


「ええ、ええ。おりますよもちろん。

 ですがね? ただ引き合わせろ、というだけではとてもとても、ねえ?」


 ため息をついた黒騎士は、懐をまさぐると取出したものをぽいと机の上に乗せた。大人の指ほどのサイズの金塊だ。


「これで不満か?」


「あ、いえいえ別に金銭を要求したわけではありませんよ?

 むしろ大切な村の仲間を金で売るなんてねえ、ええ」


 言いながらも金塊をちらちらと見る目つきがまるで隠せていない。

 村長の目検討では金貨5枚分にはなる。それだけあれば向こうしばらく自分の身代を維持するには十分だ。しかし。


「せめて騎士様の身元をおっしゃっていただければいいんですがねえ。

 ですがそれをおっしゃられないとなるとねえ、ええ」


 黒騎士は内心で毒づく。実際、正体を明かすわけにはいかないのだ。


「結局のところ、私に何をしてほしいのだ」


「何を? いえいえ、そんなことは申しておりませんよ? ええ。

 でもどうしてもとおっしゃるなら、ねえ?」


 村長は村長で必死であった。この村を襲っている魔物の被害は看過できないところまで来ている。だが、かといってミグノンに頭を下げることはできない。

 なにせパイプがない。行商人を介しての付き合いがあるだけで、ミグノン側からは落人村としか認識されていない。

 無論、だからミグノンの傘下というわけでもなく、保護してもらうために金銭や作物を収める必要もない。

 なにより魔物の害などこの辺りにはないし、保護してもらう必要もなかったのだ。そう、今までは。


(あの疫病神どもが、くそ)


 アウェルとセルシア。あの二人がこの村を出て行ってからいいことなど何一つとしてない。

 満足に財産を取り上げることもできず、本命だった作業用魔動機は魔物に壊されてしまった。

 だから武力がいる。それもどこにも頭を下げずに手に入る力が。

 目の前の騎士はおそらくトメルギアの人間だろう。

 だが、村長はトメルギアに頭を下げることだけはしたくなかった。この村の、トメルギアの出の人間は例外なくそう思っている。

 だからどうにかして目の前の騎士をうまいこと使えないか、そのために悪知恵を働かせている。


「ナグラス・ブレイゾートは?」


 その言葉に、村長の顔がゆがむ。なにせ一番聞きたくなかった名だ。自分たちがここまで落ちのびるハメになったのも元を正せばその男のせいと言っていい。

 あの男やその娘を置いておかなければならなかったのは屈辱以外の何物でもない。眉をひくつかせながらも抑え、何とか黒騎士を言いくるめようとする村長。


「いやそれがね? ナグラスさんはちと臥せっておりましてね、娘も看病で離れられないんですよ。

 なのにここの所村の周りに魔物が出てましてねえ、ええ」


「わかった」


 そこまで聞いた黒騎士が立ち上がると、立てかけた剣を手にとり家を後にしようとする。


「え? いやあの?」


「あたりの魔物をとりあえず始末すればいいんだな? そうしたら逢わせてもらうぞ」


 だがその時、村全体に地響きが起こった。村長の家を出て黒騎士が目の当たりにしたのは、村のどの建物よりも巨大な翼をもった生物。

 夕日に染まる空に紫鱗に覆われた巨体が絶妙のコントラストを描いている。

 ドラゴンだ。

 片目がつぶれ、鱗の一部が真新しい。黒騎士も村長も知るべくもないが、このことはこのドラゴンがゼフィルカイザーの一撃の生き残りであることを表している。


「やあ下等生物。最近大変みたいだねえ?」


 言葉だけを見れば友好的に感じなくもないが、下卑た口調がそれを否定する。舌なめずりしながら、ドラゴンは続ける。


「おやおや、巣があちこち荒らされている。これは大変だ。

 よし、我が守ってやろうではないですか。なあに、とりあえず月が一巡りするごとに一匹、娘を差し出せばよしとしましょう。これは大変なサービスだよ?

 ああ、足りないというならよそから攫ってきたまえ」


 自分の横で恐れおののいている村長。窓を開け何ごとかと様子をうかがった村人たちも皆おびえている。

 だが、一人だけそんな様子もなく、冷静にドラゴンの姿を観察している者がいた。


「聞いた通りこちらのドラゴンは翼があるのか……それに鱗の形状も違うな。

 なのに習性だけは全く同じ、と。どこも大変だな」


 独り言なのだろうが、それを聞きとめたドラゴンが黒騎士に目をやる。


「んん? おびえていない下等生物がいるねえ。

 いけません、下等生物はわれらを恐れ、ひれ伏し、泣き叫ぶのが義務だというのに」


「よく言う。どうせこの村を襲っていた魔物もお前が追い立てたんだろう?」


「おやおや言いがかりを。

 まったく、このような下等生物を飼っているとは、この巣は消毒が必要ですね、焼きますか。

 少し離れればもっと大きな巣があるようですし」


 にやついた目で黒騎士を睥睨するドラゴン。だが、黒騎士は歯牙にもかけないという風にドラゴンを無視し、村長に話しかけた。


「村長。こいつを倒したらナグラス・ブレイゾートに逢わせてもらうぞ」


「へ? いや、それは」


「断ったら私はここを去るぞ。いいから今選べ」


「は、はい、話します、全部話します! だからどうか」


「交渉成立――」


 その口元が弧を描き、黒の剣が抜き放たれ、柄に象嵌されていた宝玉が光を放った。

 ただそれを光と呼んでいいのか。

 黒い光、などというものを見るのは誰しも初めてだったのだ。対照的に刀身に刻まれた幾何学的な文様が金色に光った。


「始まりのもの、すべてを終わらせる刃よ――来い」


 漆黒の鉄機。それがそのドラゴンが最後に見た物だった。




 黄昏時の暗がりの森の中、開けた岩場には明かりが灯っていた。

 いくつものテントが立ち並び、松明があたりを照らしている。リリエラの一党の野営地だ。

 リリエラの配下たちは戻ってきたガンベルの処置に手間取っている。

 そんな中、野営地の一角に土下座が三体並んでいた。二つは人間の子供サイズで今一つは魔動機サイズだ。


「はーい、なんかいうことはありますかおバカども」


「バカっていうほうがバカなんだぞ姉ちゃん!」


「セルシアさんにバカって言われた……もう死ぬしかないです」


『お前にだけは言われたくない……!』


 拳骨の音が三発響いた。


「がががが」


「脳細胞が、私の貴重な脳細胞が……!」


『装甲にヒビがああああ!? 一体どういう拳の強度してるんだお前……!!』


 激痛を訴える三人。それに対してセルシアの表情は苛立ち満載だ。さすがに見かねた忍者ペンギンが助け船を出すが、


「まあまあセルシア殿もその辺で。三者とも反省しておるでござろうしな?」


「黙ってろ非常食」


「クエッ!?」


 殺気全開の視線に射すくめられてに野生に戻るハッスル丸。

 だが救いの手は意外なところから差しのべられた。野営地の喧騒の中から進み出てきた紫髪の女頭目だ。


「あー、嬢ちゃん? 割と本当にその辺で。

 邪魔はされたけどあんたらのおかげで助かったのも事実だしね。その辺はチャラってことで」


 リリエラがなだめるように言うが、セルシアの不機嫌さは収まらない。


「あんたらのことはどーでもいいのよ。あんなもんに騙されてるこいつらに腹立ってるの。

 特にアウェル。あんた父さんから何教わってきたの」


「ぐ……」


(こういう言い方されるのはキツいよなあ……本当にすまんアウェル)


 名指しで言われて押し黙るアウェルに、ゼフィルカイザーも申し訳なくなってくる。なにせ原因は半分以上自分なのだ。

 だが、リリエラはなおも熱心に仲裁しようとしてくれる。


「とは言うがね? エルフってのはああして美しい容姿で人間を誑かして森に引きずり込む、そういう魔物なんだよ。

 直接見たことないなら人間と間違っても仕方ないさね。それに私らもまあ、紛らわしいマネしてたと言えば否定できないしね」


「は? あんなの魔物だって見ればわかるでしょ」


 リリエラの言葉を全否定するセルシア。その目には確信がある。


「いや、あの。そう真っ直ぐ言われると困るんだけどね?

 てか、私もただ並べられただけだと血の色見ないと見分けつかないんだけど、どうしてわかるんだい」


「呼吸しない生き物とかいるわけないじゃない。それにあいつら体臭完全に同じだし」


(訂正、どういう五感してるんだこの女……! 生物としてオーバースペックすぎるぞ!)

 つまり、耳で呼吸をしていないのを、鼻で体臭を捉えていたということになる。

 同じ結論に至ったらしいリリエラと、土下座の体勢でセルシアの顔色をうかがっていた二人がドン引きする。


「で、あんたらどうして騙されたわけ?」


『すまない、私の責任だ。外見から人間なのだと思い、また彼らが以前に会った珍走団だったので悪さをしていると思い乱入してしまった』


 実際その通りだし、この状況で名乗り出ないほど無責任でもない。

 それは正義のロボットのすることではないからだ。正直に謝り出ると、ため息をついたセルシアは剣を抜き、


「よしポンコツ、ちょっと首貸しな」


『その剣でなにをする気だ!?』


「打ち首にするに決まってるじゃない」


『言い切ったよこの女!』


 結局、セルシアが留まったのは空が完全に夜に染まったころだった。

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