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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第六話 大自然の罠! 怒れるエルフたち!
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002

『鎖国している、だと?』


「そーなんですよ」


 セルシアとハッスル丸が森の中に分け入って食べれそうなものを探している間、パトラネリゼから聞いたのがその話だ。

 なお、アウェルは黙々と木の人形を削っている。以前から地道に作っているゼフィルカイザーの木製フィギュアである。大まかな形の掘り出しは終わったので、今は細部を詰めている最中らしい。

 相当集中しているのか、パトラネリゼとゼフィルカイザーの二人の会話も耳に入っていないようだ。

 パトラネリゼが枝で地面に書いたのは左に傾いた卵型だ。細かい地理は置いておいて、大陸の概略図ということらしい。その卵の上のほう、全体の五分の一ほどを丸く線で区切り、


「だいたいこのへんがトメルギアの支配域なんですけどね。この大陸ってトメルギア公都以外は港が作れるような場所がないんですよ」


『なん、だと?』


 パトラネリゼが示したのは卵のいちばんてっぺんだ。


「大陸全体が断崖絶壁に囲まれてまして。

 公都は入植時に相当大規模な工事を行ったとかで港があるんですが、それ以外にはそもそも港が作れそうにないので」


 ゼフィルカイザーの脳裏には、RPGなどでシナリオの都合上、あらたな交通手段を手に入れないと入れないようになっている山に囲まれた大陸が思い浮かんだ。


『それはまあ分かったが、鎖国しているのはどういうことなのだ』


「以前言ったとおりトメルギアの現在の公王は世紀の愚物として知られてるんですが、そいつの政策なんですよ。

 トメルギア以外に港が持てないのでトメルギアが港を閉めてしまえば自動的に大陸全土が鎖国できてしまうというわけです」


『理由は』


「不明ですねえ。辺境にはあんまり影響ないですし、交易でお金がこっちに入ればまあいいやって感じでしたので」


 独立独歩でやっている開拓地などそんなものなのだろう。だが、今度はまた新たな疑問が一つ。


『ならあの忍者はどうやってこの大陸に入ってきたというのだ? 出入りできるのはトメルギア公都だけなのだろう?』


「私もそう思いましたし、だからゼフさんの言う不審者説もそれなりに聞いてたんですけど……聞いてみたらまあアホらしくなるというかなんというか。

 忍者というのが非常識っていうのは、ゼフさんの言うとおりでしたよ」


 諦め顔のパトラネリゼ。どういうことなのか、森の幸を抱えて戻ってきたペンギンに聞いてみれば、


「なに、単純な話でござる。断崖を登攀とうはんしてきたでござるよ」


 あらゆる意味で何を言っているのかと思った。


「山の大陸、ああ、こちらのことを旧帝国ではそう呼んでいるのでござるが、山の大陸の情勢自体は耳にしておったでござるからな。

 これはもう他に手段はあるまいと」


「その上前人未到の地域を突っ切ってきたそうで。はははははは」


 乾いた笑いをあげながら、がりがりと概略図に書き足していく。

 大陸の最南端から大陸中央あたりまで竜巣山脈が走り、山脈の真ん中あたり、大陸でも南よりの地域の麓がアウェルたちの村。そこからミグノンの町、モルッド村、ときて、ハッスル丸が上陸してきたのは大陸の南西の端である。


「いや、なかなかに大変でござった。天津橋の直下より北にある島国までは船便で行けたのでござるが、そこからの便がなかったので」


 天津橋(スペースブリッジ)とは、空を両断するあのリングのことらしい。その直下、というのはつまり赤道直下ということだろう。ならば南大陸というのは南半球にあるということか。


『自分一人で漕ぎ出してきたのか?』


「いや、泳いで参った。自慢ではないでござるが、同期の中では水練が一番達者でな。

 あの影鯱丸も水中戦が行えるようわざわざ改良していただけたほどで」


 ひきつった笑みのパトラネリゼの心境を察するにあまりあるが。


「そしてどうにか間近までこれたので登攀してきた、と。まあ口で言うほど簡単ではなかったでござるがな?

 影鯱丸あってのことでござるし、大分と無理もさせてしもうた。

 人里に出るまでも魔物と連戦しておったし、実のところモルッド村についた時点で満身創痍でござってな。宿を取ってすぐに眠ってしまったのでござるよ」


 いや不覚不覚とぼやくハッスル丸だが、


(満身創痍どころか普通死ぬわ……!

 むしろそんな調子で俺を手玉に取ったのか、こいつは!)


 やはり忍者は油断ならんと認識を改めるゼフィルカイザーである。己のチート特権がどこ吹く風になっているが、忍者が相手なら仕方ないとたかをくくる。


「やっぱり強いんだな、あんた」


 アウェルが驚きと共にそういうが、ハッスル丸は例によって謙遜した。


「いやいや、拙者などたいしたことはないでござるよ。上忍試験ほっぽり出して今は気楽な冒険者稼業でござるしな」


(じゃあ今中忍ってことじゃねーか! やっぱり只者じゃねえよこいつ!)


 つくづく突っ込みどころ満載だ。


(むしろこいつを仲間にしてたら抜け忍を始末する暗部とかに襲われるんじゃ……)


「あ、ちなみに拙者の里から追手がかかってるとかないでござるからな? 拙者の里、三つ巴になって争ってる最中でござるし」


『人の、ではないロボットの思考を読むな……!』


 パトラネリゼともども頭を抱えるゼフィルカイザーだったが、救いの手は舞い降りた。物理的に。

 果物らしきものを布で抱えたセルシアがいつも通りビターンと降ってきたのだ。四つん這いの姿勢のまま果物を掲げると、


「飯にするわよ」


 元祖突っ込みどころの塊が、常識人二人には天使に見えた。





「では、かかって参られよ」


「いくぞ! うおおおお!」


 拳を握りしめて突っ込むアウェル。だがあっと言う間に足を払われ転ばされる。起き上ろうとするが眼前に拳。


「くっ……もう一回だ!」


「ようござる。ほれ」


 カラクリ仕掛けの忍び装束は名を頑張という。

 ハッスル丸曰く、自分のような小柄な人間用のもので、これも一応は魔動機らしい。それに着替えた、というより乗り込んだハッスル丸が、かかってくるアウェルを相手している状況だ。


「ほら、脇があまい!」


「ごふっ、くそ、まだまだ!」


 果敢に立ち向かうアウェルを軽々といなす。当人の技量差も当然あるのだが、それ以上に体格の差もある。

 頑張が180㎝超なのに対して、アウェルは150㎝をやや超すくらいだ。


(というか、単位まで地球と同じってどういうことなの……)


 モルッドを発ってから、いわゆる常識をかなり細かいところまでパトラネリゼに聞いてみたところ。

 長さはメートルだわ重さはグラムだわと基本的な単位系は大体自分の知るものと同じだった。

 一日の長さについても24時間と言うことだった。これについては拘束中にタイマー機能で測定してみたところ、正午からつぎの正午までは24時間と数秒でほぼ変わらず。

 暦に関してのみ違いがあり、一年が371日だった。一週間は7日だが一月は一律で四週間区切り、13か月と一週間が一年だという。この最後の一週間が二十年ごとに8日になるという。


(つまり公転周期以外は大体地球と同じ、と。まあ月が二つあるわ異様としか言えない生態系してるわでどう考えても異世界だが)


『しかしセルシア。アウェルを鍛えるならお前がやったほうがいいのではないか?』


「無理だって。あたしの力に耐えれるほど頑丈じゃないもん、あいつ。あたし手加減とかできないし」


 言いながら取ってきた梨のような果物をかじるセルシア。逆を言えば他人がアウェルをしごいているのを見過ごしていられる辺りは普段の過保護ぶりからすると成長したようにも見える。

 だが当人が若干不機嫌なオーラを出しているあたりそういうわけでもないらしい。果物をかじるもう一人に聞いてみる。


『……パテヲヌリゼ。私が埋められている間にいったい何があったんだ』


「久々に間違えてくれましたねこんちくしょう。

 てかもう、そんだけ間違うなら適当に略してくれていいですよ」


『ではトラ』


「なんでそうなります!? もっとかわいい呼び方があるでしょう!?」


『じゃあパト』


「あのー、ゼフさん。ひょっとして根に持ってます?」


『HAHAHA、なにが?』


 別にゼフという略称が気に入らないとかそう言ったことはない。

 いぶし銀というかそんなイメージのほうが強くヒロイックな外見の己にはそぐわないとか、そう言ったことは思っていないはずだ、たぶん。


『まあ冗談はさておき、パティ、でいいか? そう呼ばれていたよな?』


「どこから冗談だったか追及したい気もしますが、まあいいです。

 モルッド村で歓待されてるうちに意気投合したって言いましたけどね。

 そう簡単なわけもなく、セルシアさんが一応ケリをつけるぞとか言ってハッスル丸さんに襲いかかったり、まあいろいろあったんですよ」


『村に被害はなかったんだろうな……!?』


「あんたあたしをなんだと思ってんのよ」


「ちなみにハッスル丸さんが逃げてる間にしかけてた魔法で拘束されてました。

 本人曰く、セルシアさんが本気じゃなかったからできたそうですけど」


 つまりゼフィルカイザーと同じやられ方をしたということだ。目の前の野獣と同レベルという扱いにゼフィルカイザーの自信にまたもやヒビが入る。


「そして言葉巧みに交渉を持ち出してきまして、気が付いたら同道するということに……あれ?」


『それは取り入られているというのだ……!』


「拙者、別に邪なことは考えてはござらんよ!?

 田舎の子供程度容易く誑かせるわとか思ってないでござるよ!?」


『言葉にするな、余計怪しいわ……!』


 慌てて反論してきたハッスル丸に突っ込むゼフィルカイザー。ハッスル丸はおどけたように肩をすくめつつ、幾分真面目な声色で語りだす。


「まあ拙者にも目的がないわけではないでござる。

 帝国崩壊以降の南の大陸では大小さまざまな勢力が割拠してござってな。そうした勢力の中で、トメルギアの情勢は有力者の興味を引いておるのでござるよ」


『というと?』


「まあ商売相手でござるよ。

 南の大陸は、なんというか直接行って見てもらわんと説明しづらい部分が多いので割愛するでござるが。

 あいや、間違ってもこちらの大陸に難事を呼び込もう、などという企みは持っておらんと断言できるでござる」


『何故そう断言できるのだ、貴様一冒険者だろう。やはりどこかの隠密……!』


「ではなくて、単にどこもそんな余裕ないんでござるよ。

 帝国崩壊から十余年と経つでござるが、その間どこも生き延びるので精いっぱいだったのでござる。

 そうした中で人々の助けとなってきたのが我らのような冒険者――と、これは閑話でござるがな。

 なにより邪神が甦るとか、邪教が跋扈しておるとか、そんな楽しそう――いやいや、そんな危機に立ち向かうのもまた忍びの誉れでござるしな!」


 やたら楽しそうに言うハッスル丸になんとなく同好の士の匂いを感じたゼフィルカイザー。ちなみにこうして喋っている間も、ハッスル丸はアウェルの相手を続けていた。と、さすがに力尽きたのか、アウェルが膝をついた。


「お、ギブでござるか」


「まだ、まだ……」


「無理するもんでもないでござるよ、と」


 ハッスル丸も頑張から降りる。やはりどう見てもペンギンだ。頑張姿ならまだ違和感はないのだが、先ほどまでの言動をこのペンギンがしていたかと思うと。アウェルにはセルシアが水を持っていった。


『というか、なんだったのだこれは。訓練か何かか?』


「まあそんなものでござるよ。アウェルどのに頼まれ申してな。戦い方を教えてほしいと」


『……まさか私はお払い箱なのか!?』


「いや、そういうんじゃないって」


 水を飲みながら否定するアウェル。


「オレさ、弱いじゃん? ゼフィルカイザーにも割と迷惑かけてるし」


『そんなことはないと思うが。むしろ私だけならとうにスクラップになっているぞ』


 それはゼフィルカイザーの偽らざる本音だ。

 アウェルに操縦されているのは専門のインストラクターの指導を受けているようなものなのだ。懸垂やスクワットのような高負荷の筋トレなどに言えることだが、重要なのは正しいフォームと正しい力の入れ方だ。いわゆるコツなのだが、それを掴んでいるかで効果もやりやすさも段違いだ。

 そのおかげでゼフィルカイザーも、自分で体を動かす際に無駄なく動かすコツのようなものを徐々に理解しつつあった。

 なにせ機械の体、しかもこの巨体なので、7割水分の人間の体と違い関節への負荷はよりダイレクトなものとなる。自己修復機能があるからといって過信していては致命的な負荷を抱えかねないのだ。

 そうした意味でも、アウェルの操縦がゼフィルカイザーにもたらしているものは極めて重大だったのだ。が、


「や、そういうんじゃなくってさ。一番最初に村で襲われたときとか、いいようにやられてたじゃん? そのあとの古式とやりあった時も。

 オレがもっと喧嘩慣れしてたらうまいこと立ち回れたんじゃないかなってさ」


『――アウェル』


「そんなもん、考える前にバーっといってガーっといってドカーって決めればいいって言ってんのに」


 えらそうに擬音を飛ばす姉を見上げ、しかし肩をすくめて


「姉ちゃんはこういうことだと役に立たないし」


「あ゛?」


「ま、そういったことで同行しておるのでござるよ。拙者も有望な若者を相手取れるというのは気分のいいものでござるし。

 こうなると教官たちの心境がわかるでござるなあ」


『……ちなみに聞くが、お前いくつなんだ』


「ハタチでござるよ? まあおぬしらからすればオッサンでござるよ」


 自分のほうが年齢上だ。そしてこんな新成人嫌だ。ゼフィルカイザーはそう思った。

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