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039-005

 ――気づけば、セーフルームに電脳体で突っ立っていた。畳敷きの四畳半間に、テレビやちゃぶ台といったいつもの家具。

 ずらりと並ぶ魔動機マジカライザー精霊機エレメンタライザー災霊機ファントムライザー電動機モーターライザーのデータモデルコレクション。

 そしてアクセントというように部屋のそこかしこから生える結晶体。内部で魔力のラインが明滅するそれは、神剣と共に取り込まれた魔力の精製・伝達系の具象化だろう。

 定期的に訪れてはいるのだが、ここ最近の激戦と急展開、気の抜けない状況のせいで、ゆっくりできたためしがない。心なしか、家具にもほこりが積もっているような感じすらしている。


「……って、いや、ゆっくりしている暇などない。というかこの状況は、一体――」


「あたしが聞きたいんだけど。つーかなに? それがあんたの素顔……顔? 臭いも気配もしないし、けど存在感はあるし……」


 いつの間にか、ちゃぶ台に客人が座っていた。薄紅色の長い髪を垂らし、あちこちボロボロの蛮族娘は、図体もあっていかにも狭苦しいといった様子だ。


「な、セルシア!? 一体どうしてここに――」


「オレもいんだけど。ここ来るの二回目だけどさ。セルシア、何したのさ」


 またもいつの間にやら、セルシアの向かいにアウェルが座り込んでいた。


「あ、あたしじゃないわよ。あたしは言われたとおりにしただけだし」


「言われた通り、だと――」


 その一言で、ゼフィルカイザーは何がどうなっているのか、おおよそ全てを察していた。

 セルシアの所業が何を目的としていたのかも。この現象が何を意味するかも。これから何が起ころうとしているかも。


「……ゼフ様」


 果たして予見通り。もう一人が、姿を現した。ただ、一人と言っていいかどうか。

 聞きなれた声を放つ、光り輝く玉。お約束と言えばお約束だが、コテコテすぎる気がしなくもないと言うか。

 と思えば、きょろり、と光の玉が目を開けた。白目に当たる部分が黒く、その中にルビーのように赤い瞳が灯っている。というか、心なしかうるんでいるような。


「そ、その、あの、ええと、ですの……その、このような貧相な姿で、がっかりされましたの?」


「いやそういうわけではないのだが」


 お約束過ぎるとは思ったが、考えてみれば、じゃあどういう姿だったらいいのかと考えてはみるが。

 いつもの姿では仰々しいし、フレームのみの姿だと出会ったころのあれこれを思い出しそうでもある。

 まかり間違って人間風の単眼美少女だったりした日には今後どう接したらいいかでひと悶着――


(……するよりもまず、安易すぎてツッコミ入れそうになるな。大体変に人間っぽいとかえってクオルらしくないというか――)


「おいゼフィルカイザー」


「なんだ招かれざる客――おい貴様、フィギュアで遊ぶな!」


 呼びかけたアウェルに目をやれば、データモデルコレクションを手に取ってあれこれと弄り回している。

 データモデルで即再構成できるからいいが、これがリアルのプラモだったら即射殺しているところだ。


「やっぱ色の塗り方とか、継ぎ目にも色入れて映えさせてるのとかすげえな。これ、やっぱオレにも教えてくれよ――ってそうじゃなくてだな。

 お前、考えてること漏れてるぞ」


「はっ!? そんなはずは――いや電脳空間だしそのせいか?」


 見れば。目玉のクオルは何やら恥じらったように×の字を浮かべて目をそむけ、逆にセルシアは若干引いた風に半目を向けていた。


「あんた、マジで生身の女に興味ないのね。元は人間って言っといて……うわぁ……」


「何故そうなる!? そういう話ではなくてだな――」


「ゼフ様」


 と、クオルが、上目遣いにゼフィルカイザーを見つめていた。いや見つめるもなにも、目しかないのだが。

 つい、目玉を抱き上げるように手を伸ばすと、何やら照れるようなしぐさを見せる目玉クオル。そして改めてゼフィルカイザーを見つめ、しかしその瞳を唐突にうるませ――うるむと言っても真円だった瞳が波打っているだけなのだが――


「血に塗れた身の上に、このようなはしたない真似をして、どの口でと、思われるやもしれませんの。

 けど、クオルは、クオルはやはり、ゼフ様を、ゼフ様だけをお慕い申し上げておりますの」


「う、うむ」


「……なんか深刻っぽいぞ?」


「あたし、なんかえらいことした?」


 アウェルとセルシアは互いに首をかしげるばかりだ。

 だが、ゼフィルカイザーは、ゼフィルカイザーだけは、クオルがここまで言う意味が理解できる。理解できてしまう。

 かつてそれは、三つの心を一つにすることから始まった。時は流れ、あるいは五体、さらには最大十五体、それどころか数えきれないほどのものが一つとなった果てに、三本の矢となって帰ってきたのだ。

 そこで要らん意味が付加された感は確かにある。だがそれを言い出したら旦那と奥さんのアレはどうするのかとか、さらに言えばそのために釣り馬鹿にも突っ込みに行くつもりかという話になってしまうが。

 だが。もし実際に、女性人格ロボットが、男性人格ロボットにそれを行うというなら――


「なんか白いの、いや白っていうか青いのって感じだったけど、なんかピンクっぽいのになってない?」


「あー……なんとなくわかったというか、わかりたくないというか。とりあえずゼフィルカイザー、お前ん中でイチャついて悪かった」


「今言うな!? 余計に恥ずかしいわ!」


 こちらも赤くなりながら遅ればせの謝罪をしてきた少年に全力で突っ込む電脳ピンク体。

 だがそうして意識してしまうと、恥ずかしさよりもむしろ、申し訳なさの方がこみあげてくる。力なさゆえに、これだけの覚悟を彼女にさせてしまったことが。


「……済まない。私は、お前に何の返事もできていないのに。いや、そもそも私など、大した者では――」


「そのようにおっしゃらないで――いいえ、ですの。そのようにおっしゃってくださる、それだけで十分ですの。

 ゼフ様の中に、クオルが確かにいるのだと、そう思えますの」


 瞳を閉じて、


「……ゼフ様の中にいるのが、クオルだけでないのも、知っていますの」


「――――ッ」


 言われて思い浮かぶ、白い髪、深い海色の瞳。屈託なく笑う少女。


「だから――これで決着とは、思いませんの。あの小娘とは、いずれはっきり白黒つけねばなりませんの。そう、小娘と。ミルトカグラではなく」


 瞳をキリっとさせ、


「まああのクズ鉄はできればついでに葬っておきたいところですの」


「それは同意――じゃない、一応あいつも頑張ってるから、な?」


 新たに光学兵器、というか兵器形成能力を獲得したグレムリンに戦々恐々としつつも、目玉をなだめ、


「じゃあ、行くか。ほら、お前ら立て、そして手を合わせろ」


「何が何だかほんとによくわかんないんだけど――なによ」


 立ち上がると電脳体のゼフィルカイザーよりさらに頭半分以上背の高いセルシア。普段見下ろしてばかりいるので、こうして見ると威圧される。


「まあたぶんあれだ、お約束ってやつなんだろ――なんだよ」


 一方で頭半分以上低いアウェル。これでも結構背は伸びたのだが、よくこの少女をゲットしたものだと思う。

 機械の体、パーソナルデータを欠いた前世の記憶、確かなのは魂とロボットへの情熱のみ。

 そんな自分でも、この二人のようなものを手に入れられるのか。わからないが――


「今やらなければ、永遠にわからなくなる。

 私は、嫌だ」


 だから。データの手に、力強い手が二つ重なり、その上に目玉が乗る。告げる言葉はただ一つ。



「――――合体!!」




 魔法陣が砕け、光が孵る。その眩さに、しかし誰も目を覆うことはない。苛烈にして清浄、あまねく天地を照らす光がそこにある。

 白の機体。だが、かつての白、青、赤のトリコロールカラーとも、今の白、黒、赤のカラーリングとも違う。それ以前に、装いがまるで違う。

 全身を覆う白亜の装甲は翠緑と金で精緻極まる細工が入り、豪奢さと剛健さを両立させながら、煌めきを散らしている。

 特に大きく目立つ両肩の装甲からはマントがはためき、腰にも、背部にかけてスカートを思わせる腰布が風に舞う。

 両足は重厚そのものでありつつも、各部関節を邪魔しないよう計算し尽くされた脚甲に覆われている。飛んでいる今は無用かもしれないが、地上戦においても侮れないのは一目瞭然。

 だがそれ以上に重要なのは、身に纏うそのすべてが、超高密度の魔力と魂によって織りなされる霊鎧装エレメイルだということだ。

 しかし、その機体はミルトカグラの造ったそれではない。女性型として作られたそれと違い、その機体はどう見ても男性型だ。


『『クオル・オー・ウィン……いいえ、違う、貴方は何者なんですか!?』』


『何者か、か。私は――私の名は!!』


 白に翠緑の手甲と、機体の中で唯一、黒鋼くろがねに金の手甲で覆われた両の拳をぶつける。ただそれだけ絶大な魔力の波動が天地を揺るがし、マハーバラギートを覆う魂鎧装ソウルメイルが波立つ。

 合わせた拳を放し、両の手を広げた機体は、高らかに名乗りを上げた。


『我が名は……グレートゼフィルカイザー……!!』


『『ぐ、グレート、ゼフィルカイザー……!? は、はったりを――』』


 とは言うミルトカグラだが、その声には隠しようのない怯えが走っている。ただ名乗っただけで、この科学の要塞を揺るがして見せた存在。何がどうなって現れたのか。

 そしてグレートゼフィルカイザーは、おもむろに右手をかかげ、マハーバラギートへと向け、


『『ッ――!?』』


『すまん、ちょっとタンマ』


 タイムを要求してきた。




『……いや、ついノリで名乗ったが、グレートでいいのか? そもそもこれはグレート合体と言うよりはクラスチェンジっぽいしな、下駄も履いていないし。ならばロードのほうが……いや、それも安易か。

 ならばキング、ゴッド……何かが違う。ハイパー、いやそれ暴走だし。ジェネシック、いや破壊神でもないし。ファイヤー? どう見ても光属性だろう。

 ならばシャイニング――Sだから前の形態と被る。となると他、LED……今となっちゃダイオードっぽいし、ツェッペリンさんに怒られるのもなあ。

 あとは……グリット、いやそれだと電脳世界で戦う感じ――私、そういえばデジタル体だよなあ、いやではなく。ならグリッター。

 うむ……よさそうだし私の知る限りあまり使われてないはずだが、なんかすでに被ってる予感がする』


「何しょうもないことで悩んでるんだ!? ていうかこの格好なんだよ!?」


 本当にしょうもないことで悩むかなりアカン友達に全力で苦情を告げるコックピット。そこではといえば。

 いつもの従士服はどこへやら、クオルと同じカラーリングの煌びやかそのものの衣裳を身に纏ったアウェルが、蕁麻疹かなにかのごとくむず痒いとばかりの表情を浮かべていた。


『パワーアップフォームはそういう物だ。というか比較的シックな奴でいいじゃないか。王のやつっぽくて』


「よくねーよ!? ゴテゴテしてるわキラキラしてるわ! そのくせ動かしやすいけど! もっと別の奴ないのかよ!?」


『クソダサい鎧かアーマー付きのピタピタのタイツスーツなら――』


「――――これでいいです、はい」


 例のクラスに転校したいとか、あんな世界を冒険したいとか散々思ったゼフィルカイザーだが、あのスーツだけは着たくないと心底思っていた。

 積極的に着たいと思ったやつがいたら手ぇ上げてほしいところだ。スーパーなのとか、あとロードの鎧とか。剣は滅茶苦茶かっこいいのに。


「んで、なんであたしまでこんな格好なのよ!?」


 がばっと振り向くアウェル。だがそこには座席。しかし目の前に敵だと言うのに、今までにないセルシアの声に何かを感じてか、アウェルは身を乗り出して覗き込んだ。果たしてそこには、


「――――お。おお……!!」


「あ、ちょ、やだ、見ないでよ……!」


 臍や肩や胸元、鎖骨に大腿部の側面から尻にかけてなど、やたら露出の高い衣装に身を包んだセルシアの姿に、アウェルは鼻息荒く目を血走らせた。

 単純な肌色面積で言えば水着の足元にも及ばない。さらに言えば衣装はやはりクオルと同じカラーリング、もっと言えば全体的な意匠もクオルそのままで、露出部こそ多いが、全体的には清楚な雰囲気を保っている。

 だがしかし、いやだからこそ、清楚な雰囲気がセルシアの羞恥心を余計に刺激し、それがアウェルにかつてない感覚を呼び起こす結果となっていた。


(まあ、恥ずかしいで言えば俺自身も結構ハズいんだが)


 全身を霊鎧装で覆われている状態なのだが、ファンタジー系のコスプレをしているような感覚がある。

 と、ゼフィルカイザーの真上から、声がかかった。翠緑と白、金で細工されたヘルメットの、バイザー部分。そこに赤い瞳が灯る。


『ゼフ様……感じていただいてますの、クオルを』


『ああ……クオル、お前を感じている』


 合体完了してから、ゼフィルカイザーはずっと感じていたのだ。そう――寄生虫アニサキスあたるとは、こんな感じなのかと。


『ていうか、痛い、ちょ、痛い。セルシア、頼む、あまり動かすな、抉るな、ぐおっ……!』


『あ、ああっ……ぜ、ゼフ様が、クオルの、中でぇっ……』


 胃痛ならぬコックピット痛に身をよじったら、今度はクオルが嬌声を上げた。嫌な予感にゼフィルカイザーが頭部のモノアイを抑えようとするが、


『き、気持ちいいっ、ですの……! これが、合体……! クオルは、この気持ちを知るために生まれてきたんですの……!』


『言いやがったよこいつ……! どの口でツトリンのことを攻めてんだ!?

 くっ、やはり失敗だった、解除するぞ、解除!』


「そったらどうやって倒すんだよ。いやまあ、今の状態でも本当に倒せるか不安だけどさ。あとゼフィルカイザー、セルシア、撮影」


「あんた、子作り先延ばしにしといてそれ!? ああもう、なんなのよこの格好!?」


『んっ、ふう……マスターのその姿は、クオルとゼフ様を繋ぐため、感覚や魔力の伝達を鋭敏にするためのものですの。露出が高いのも、そのためですの』


『お約束だな――ぐふぅっ!?』


 セルシア、両手で握った剣を深く突き込んだ。


「クオル、グッジョブ。で、ならオレもなのか?」


『小僧のは逆、魔力を遮断してますの。今、クオルはゼフ様の魔力をいただいて、クオルの兵装としての能力のみを顕現させ、ゼフ様に纏っていただいてますの。

 その魔力は絶大――清浄なる魔力とはいえ、小僧では魔力中毒必至ですの』


「あー……気ぃ使ってくれたんだな。文句言って悪い」


『いえ、いいですの――んっ、ふぅ……!』


『身じろぎするたび打ち震えるな!』


『あ……そんな、その。クオルの中、気持ちよくない、ですの?』


『どう答えても地獄な質問をするんじゃない――』


 グレート|(仮称)ゼフィルカイザー、突如襲い来た砲撃に、一瞬で飲まれた。




 ゼフィルカイザーの用いた核弾頭と同等かそれ以上の爆発を見上げながら、ミルトカグラは冷や汗交じりにつぶやく。


『『ふ、ふっ。戦場で隙を見せる方が悪いんですよ。何か苛々しましたし――

 しかし、私の知らぬ間に未知の進化を遂げていたようですねえ、クオル・オー・ウィン。しかしこの砲撃は本来なら大陸間を撃ちぬくだけの威力を備えたもの。

 この至近距離では、いかに進化したクオル・オー・ウィンといえどもひとたまりも――』』


 爆炎が晴れてゆく。そこには、


『『――なんですって!?』』


 輝きを纏うグレートゼフィルカイザーの姿。だが、僅かに違う。白亜に黄金、翠緑ではなく、紫苑の輝きを纏い、傷一つなくたたずんでいた。




 片手で展開した障壁に、その強度に、アウェルとセルシア、誰よりゼフィルカイザーが絶句していた。

 ヴォルガルーパーの火炎もリオ・ドラグニクスの砲声も及ばない、ゼフィルカイザーが今まで受けた中で、いや下手をすれば現文明始まって以来最大最強の破壊力を前にして、揺らぎの一つも見せていない。


『これは――』


『クオルの霊鎧装と魔法障壁、そしてゼフ様の粒子障壁の合わせ技ですの』


 ゼフィルカイザーにはわかる。今霊鎧装の中を、紫のフェノメナ粒子が流れている。


『ゼフ様の持つ神剣の魔力を用いて、ゼフ様の具足として顕現すれば全盛期の力をゼフ様にお貸しできると思いましたの。けれどこれは間違いなくそれ以上ですの』


「これで、って――」


 アウェルもセルシアも戦慄する。その手にした操縦桿、そしてソーラーレイを通して伝わる力の規模は、桁違いなどという域を通り越している。アウェルなど、魔力を絶縁しているはずなのに、それでも伝わってくるのだから。


「お前、どんだけ魔力持て余してたんだよ、ちょっと分けてくれよ」


 ことアウェルに言われると申し訳ない気分もこみあげてくるが、今はそれどころではない。マハーバラギートの青の力場がさらに脈動し、その内部では砲台が次々と展開していく。

 機械仕掛けの蓮の花が、今や茨を纏う毒の華の様相を呈していた。


『『ふ、ふふ……!! ま、まさかマハーバラギートの攻撃をしのぐとは! 流石神剣アースティアと聖剣ソーラーレイ、シルマリオンの至宝の二つを手中に収めただけはあります!

 ですが所詮は防御力のみ、いかにアースティアの魔力が無尽蔵といえど、クオルを顕現させているのはあくまで人間! ならば燃料に勝る私が――』』


『ふっ。自分で造ったと言っておいて忘れたか、ミルトカグラ』


 ゼフィルカイザーがこれまでの動揺はどこへやら、余裕満々で悠然と告げる様に、アウェルは「あ、調子乗ってるな、これはオチが来るな」と予想し、


『クオル、ソーラーレイを我が手に……!!』


『はいですの――と言いたいところですけど、無理ですの。今のクオルでは、ゼフ様をお包みすることだけで精一杯で……せめてもう一つ封印が戻らないと――ですから』


 これもお約束かとがっくり来そうになるゼフィルカイザーをとどめるように、クオルが促す。

『癪ですがゼフ様、クズ鉄めの銃を……!』


『なに? いやしかし――』


 霊鎧装の上にマウントされる形で再設置されていたライフルを右手に取る。だがこれは正真正銘、ただのライフルだ。

 フェノメナ粒子圧縮弾頭でも詰めねば役に立たないし、そんなことをしたら一発で銃身が消滅する。そもそもが今までの戦闘で破損している。

 と、グレートゼフィルカイザーの右腕の霊鎧装を、魔力光のラインが走った。肩から腕、手ときて、さらにそのラインはライフル全体にまで走り――ライフルが半透明の力場に覆われ、


『形成……!!』


 魔力の光が砕け、そこには白の霊鎧装に覆われた長銃の姿。ミリタリ臭漂う無骨な質感はどこへやら、なめらかな白に覆われ、金のエングレーブで彩られたファンタジックな装い。

 儀礼用と言った方が通じそうだが、凝縮した静謐な魔力は、お飾りで通じる規模を超えている。


『ちっ、魔力の通りがいい、本当に癪ですの。材質もですけど、魔道銃の技巧を受け継いだ加工もやたらいいですの』


 ライフルに関しては、メグメル島で突貫工事で仕上げた代物だ。材質はメグメル島の交易品、つまり魔界産の魔道鉱物をふんだんに使用しているのだ。


『そしてゼフ様、お力を……!』


【O-エンジン セミドライブ】


 ゼフィルカイザーの両腕の手甲が展開し、青い焔が噴出する。その燃え盛りように、しかしゼフィルカイザーは危機感を覚え、


『待て、アウェルの消耗は――なに!?』


 魂を燃やしているのはアウェルではない。別のアームドジェネレーターだ。誰か、決まっている。登録した直後に、ゼフィルカイザーの下半身を部位破壊した奴だ。


「っ、セルシア!?」


「あたし、あんたの奥さんになるんだからさ――ちょっとくらい、手助けさせなさいって……!」


 セルシアの感情、魂の波動がさらに高まり、


【O-エンジン フルドライブ】


 グレートゼフィルカイザーの霊鎧装の粒子光のラインが、紫から今度は金色に変わり、金の粒子光がライフルにまで流れ込み――


「っ、これなら――!!」


 引き金が引かれ、黄金の極細の光条が空を切り裂いた。光の糸は魂鎧装などないかのように、マハーバラギートの上面装甲の一枚を横薙ぎに一閃。数呼吸遅れて――


『『はっ、こけおどしを――な、え、あ……!?』』


 金色の爆光と共に、射撃を受けた上面装甲が断裂した。

※次回は9/12掲載です

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