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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第三十七話  この手の休息回が、何事もなく終わるはずもなく。
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037-005

 波音を背後に置き去り、岩肌ばかりの荒れ地を飛行する二体の機体が、どんよりとした曇り空に映える。

 白と黒の機体はゼフィルカイザー。もう一方の、青と赤の機体は水の四天王機、テトラだ。


『それでこの大陸に賢学院があるのか?』


『おう、そういう話だ。つっても、オレは直接行ったことねーけどな。

 大体、大陸っていうが風向き次第じゃ一日で一周できるくらいって話だからな。島っつったほうがいいだろ』


『賢学院、ねぇ。ロトロイツにもそこ出身の賢者は少なからずいたけれど……』


『そうなの?』


 渡してある通信機越しに、朱鷺江とディー、それにノーチャの声が聞こえてくる。

 ちなみにノーチャは今、外見年齢はアウェルと同じくらいだ。夜になって縮んできたところを狙って日陰に押し込んで、以降直射日光に当てないようにしていたところ、そのくらいで落ち着いたのだ。


「砂の大陸にもちまちまおったで。ほら、ウチの銃火器のテスター頼んだ冒険者が前にもおった言うたん?

 んの中に、賢者やー、いうもんがおったんや。パトやんみたいなの羽織っとったわ。赤シャチはんも見たことあるやろ?」


「然り。ただ……今になって思い返せば、という程度にござるが、冒険者に身をやつす賢者らは、どうにもよそよそしいものでござったな。同じクランの面々に対しても。

 賢者とはそうしたものでござるか、と思っておったでござるが……」


 ゼフィルカイザーの手の上、ツトリンとハッスル丸が砂の大陸の賢者事情を語ってくれる。


『しかし、こんなところからやって来ていたとはな』


 ゼフィルカイザーの遙か背後、乗ってきた船を係留する簡易な港、そのさらに南の空には、雲間の向こうで空を両断――というよりは、空の一画をスクレイパーで切り取ったような模様が占めている。

 旅をするようになってかなり経つが、天津橋があれだけ大きく広々と見えるのは初めてだ。つまりゼフィルカイザーたちの旅路の中で、今最北に来ているということになる。


『私は結構頻繁に常波海峡を渡っていたけれど、それだって大変だったし。

 ……まあ、今回の船旅はなんていうかその、ね』


 ディーの声が曇るのは、メグメル島からここまで三日ほどで飛ばしてきたからだ。トメルギアよりも北の地に、そんな短時間で来れた理由は単純。航海中、船をゼフィルカイザーとテトラで曳航していたからだ。

 強行軍だったせいで、ありえない船の揺れに屈強な船乗りたちも三割ほどがダウンする有様だった。コックピットから出ようとしないパトラネリゼの顔色がさらに青くなっていたが、ここ最近の不調とは明らかに別種のものだ。


『つうか、昔は魔物だけじゃなく、海竜どもがウジャウジャいたわけだからな。そんなころから世界各地にどうやってか渡ってたってことになるんだよな』


「キャプテンのところは通ったりしないのか?」


『昔はうちの島、海竜王のねぐらだったじゃねーか。んなころのこと知らねーよ』


『大体オイラもキャプテンも生まれてもいねーでヤンス』


 下っ端口調でテトラも答えると、ゼフィルカイザーのコックピット内、セルシアの膝の上のパトラネリゼが抱くクオルが、微妙に柄を曲げる。


「……どうしたんですか、クオル」


『いえその、なんでもないですの』


 とはいうが、口調も明らかに不機嫌そうだ。


「……んで、どういう話なの?」


「賢者連中が、どうやって海を渡ってたかがわかんねえ、って話だよ」


「そりゃ……泳いで、とか?」


「セルシア殿、泳いで参ったとか、賢者は忍者でないでござるよ?」


 短距離とは言え、山の大陸に泳いで、さらに登って参ったハッスル丸の言は変な説得力があった。


「ただパティ殿のお師匠殿を連れ去り、トメルギア港を通らずに山の大陸をで、そしてメグメル島に伝言を残した、となると、やはり何らかの渡航手段……それに長けた魔動機を有しておる、と見るべきでござろう」


『だろーな。あの爺さんと婆さん、いつの間にかやって来てて、翌朝になったら煙みたいにいなくなってやがったからな』


『爺さん、というのは、虫の形質で背を無理に曲げた大男か?』


『おう、そんな感じだったぜ』


 リリエラがミグノンで聞いてきたという外見的特徴と一致する。


『その点だけ見ても、賢学院の前身が水の大公家なのは間違いない、だろうな』


「なんでだ?」


『お約束だからだ――おいなんだ、そのまたいつものか、という顔は。

 ほら、魔の森、風の大公家は空の便を仕切っていただろう。となれば水の大公家は水運、海運を支配していたと見てしかるべきだ』


『の割には、商売敵って感じでもないんだよなあ』


『オイラたち以外で手広くやってる奴らって聞いたことないでヤンス』


 つまり渡航手段を保持しているらしい上に、それを秘匿している節があるわけだ。


『……ちょっと。ちょっとですの』


 さすがに堪り兼ねたというように、クオルが声を上げた。


『? なんだ?』


『なんでヤンスか、アネキ』


『アネキじゃないですの! なんなんですの、貴方、その口のきき方は!?』


 はて、と一行が首を傾げ、


『その、貴方たちがクオルの後継機おとうと・いもうとというのは、まあ百歩譲って認めるとしますの。

 けれどですの! ならばシルマリオンが作り出した機体らしく、それ相応のふるまいをするべきですの!』


『えぇー……』


『えぇー、じゃないですの! まずクオルのことはお姉様と呼ぶですの!』


 今まで末妹末妹と呼ばれてきたせいか、降ってわいた下の弟妹に対して姉貴風を吹かしだすクオル・オー・ウィン。

 しかしながら相手は下っ端とはいえ海賊で、さらには魔王軍の四天王機、知ったことかと跳ねのけた。


『嫌でヤンスよ、、んなの。

 大体オイラを仕上げたのはレフティナ様でヤンスし、オイラたち、災霊機ファントムライザーでヤンスし』


『ぐぬぬ、減らず口を!』


「はいはい、年上風吹かすのもその辺にしときなさいよ」


『まあ、いきなり弟が出てきたらこうもなろうさ。

 しかしテトラ殿、前から気になってはいたのだが、災霊機とは、精霊機とどう違うのだ? それにテトラ殿は、あまり災霊機っぽく感じないのだが』


『あー、それ聞いちゃうでヤンスか。オイラはまあ、特別仕様ってか、人間でも使えるように作られてるんスよね。

 先代のキャプテンが人間だったんで、レフティナ様がそういう仕様を組み込んだんでヤンス。おかげでオイラが一番手間かかったせいで、四機の中じゃ末っ子なんスけど』


「人間でも、ってことは、やっぱ普通の災霊機は人間じゃ使えないのか」


『トメルギアで戦ったんだっけか?』


「ああ。ジビルエル――つってもレフティナタウンで見たみたいなちゃんとした形じゃなくって、黒いドロドロの塊みたいなのだったけどな。

 乗ってた奴は引っ張り出したら、同じ黒いドロドロになって崩れちまった」


 とはいえ、当時は霊鎧装に対する確実な攻撃手段がフェノメナ粒子しかなかったころだ。苦戦の記録はしっかりと残っている。


『そりゃ、人間が乗ったらそーなるだろうよ。災霊機の力の源は瘴気だからな』


『え。わ、私たち、乗ってて大丈夫なの?』


『瘴気……でも、ふるさとや魔界みたいな感じ、しないよ?』


『そのへんがオイラ独自の機能ってやつでヤンス。

 通常の魔力と、同じだけの魔力を瘴気化したもんなら、瘴気のほうが強い、ってのは知ってるっスよね』


 魔力は原則、魔法の形にならなければ、物理的な力はそこまでではない。対して瘴気は、そのまま漂っているだけでも、周囲への影響力は多岐にわたる。


(ま、可視光と紫外線、赤外線みたいなもんだな)


 乱暴に解釈するとそういうことだ。可視光は身体への影響はそれほどないが、不可視光の類は身体に様々な影響を与える。まあ可視光にもブルーライトだのがあるのだが、そのあたりは割愛するとして。


『つっても、魔力を瘴気に、えーと、レーキ、っつーんすか? させようとすると、歪んだ地脈を通すとか、使い手の体をいじるとかが必要になるでヤンス』


「左様でござるな。拙者の里にもそのような禁術があるでござるよ。体内の気脈を意図的に乱し、己の魔力を暴走させる術が。

 とはいえ習得は容易ならざる上に、羽目を外せばよくて廃人、大概は瘴気の塵と化すでござるが」


『はー、人間でもオイラたちみたいなことができるんスねえ……ゲフン。

 とにかく、災霊機は、取り込んだ魔力を瘴気にレーキさせて力にすることができるでヤンス。

 これによって持ち主の魔力以上の力をふるう事ができる上に、瘴気のないトコでも魔族が活動できるんでヤンスよ』


『欠点はそのまんま、だな。人間が使ったら、瘴気が体ん中で暴れまわって急性瘴気中毒だ。乗ってる間は機体と一体化してるから動けるだろうが、降りたときにゃ体はボロボロって寸法だ』


(なんというか、物騒なんだが突っ込みづらいというか)


 ロボット物において、ごく一部の才能や適性のある人間しか乗れない機体は珍しくない。そして適性のない人間が乗って動かない、ならいいが、動く代わりに代償が必要になるパターンも時折ある。

 中毒性、害のある薬剤で適性を無理やり引き上げる必要があったり、精神に多大な負荷がかかる、挙句の果てには機体にどうかされてしまうなど。

 もっともドーピングの件も、すでに皇帝殺しの例外という実例があったりするわけだが。


(乗ってる間はOKでも勝とうが負けようが降りたら死ぬような機体にわざわざ乗るとか、あの邪教徒ども、今の俺には理解できないな――相応の理由があれば話は別だが)


 生前だったらノリノリで乗り込んだ気がするが、さすがに一回死んだり殺したりしているだけあって、ゼフィルカイザーもそのあたり慎重になっていた。


『テトラ殿は、その魔力を瘴気に励起させる能力の切り替えができる、ということなのか?』


『そゆことでヤンス。災霊機は基本、その辺を基本的な機能として組み込んでるっスからね。結構メンドいでヤンスよ』


『その苦労は、私も何となくわかる』


 ゼフィルカイザーも基本動力の永久機関と武装出力用のO-エンジンと、異なる動力系を複数有しているうえ、仕様上にはなかった魔力まで手に入れてしまったので、他人事には思えない。現に今も、バーニアと浮遊魔法の出力調整を同時に行っているのだ。

 既存の燃料で例えるなら、ゼフィルカイザーは電力に加え核動力も積んでいたところに、さらにガソリンエンジンが後付けされたような状態。

 テトラはガソリンエンジン主体なのに、特別仕様でガソリン燃料の蒸気機関が併設されているような感じなわけだ。


『だってのにキャプテン、こっちのカッコしか使ってくんないっスし』


『つってもこっちのほうが燃費いいだろうが。それに本気モードの破壊力が必要な相手なんてどんだけいるんだよ』


『えーと、こないだの海竜王は』


『だーかーら、んなことしたら海が汚染されるだろうが。っとに、あんときはホント、ゼフィルカイザーたちがいてくれて助かったぜ――て、ゼフィルカイザー?』


「おわっ!? ちょ、なんかフラついてる!?」


 進路がそれていたことに気づき、慌ててアウェルが制御を取る。今更声をかけるまでもないとばかりにモニターに怪訝な顔を向けるアウェルに、ゼフィルカイザーは謝罪しつつ、


『す、すまん。つい、な。

 それでつまりテトラ殿。テトラ殿には――もう一つの形態があるということなのだな!?』


 全力で食いつかれて、海賊ロボが引いた。


『ま、まあ、そっスね。そー言うことっす。いうなれば今のオイラは精霊機エレメンタライザー形態ってトコでヤンス』


『……くっ、羨ましい……!!』


「いやおい、お前だってゼフィルカイザーなんちゃらになったじゃないか」


 かつてない熱量のこもった一言にアウェルが突っ込むが、ゼフィルカイザーは全力で否定した。


『これは機体自体の変化だからな、しかも不可逆の。フォームチェンジだのとは全くの別物だ』


 自分は自分でフルドライブがあるのを棚上げしてのこの言い草である。


「え、ええと?」


『つまり私のこれはスーパーではあるが王ではないということだ』


「余計わかんねえよ!?」


『スーパーでわからないなら星でもいいぞ。王と星なら無印と2で同じシリーズだしな。

 む……星、STAR。ふっ……どうやらゼフィルカイザーSのSにはさらなる意味がまだ残されていたようだ』


「のぅツトリン殿。野暮なことを訪ねるでござるが、この御仁のどこがいいので? 控えめに言って狂ってござるぞ?」


「でもええカラダしとるしなぁ」


 などとぼやきあう掌の上の怪鳥と金属塊。機内の三人も、いつものことながらため息をついていた。


「アウェル、すごい今更だけど、友達は選んだほうがいいわよ?」


「選べる状況じゃなかったんだからしょうがないだろ。っとに」


「何気にひどいこと言ってますね二人とも。まあわかりますけど」


『ぜ、ゼフ様のことですから、きっと深遠なお考えがあるはずですの! そうに違いないですの!』


 クオルですら歯切れが悪いあたり、本当にいろいろとアレである。


『……こほん。ともかく、事情はわかったですの。貴方は魔族の町で見た機体や、最初に相対した風の機体のような邪な感じがしなかったですの』


『あー、セトのアニキとイザナミのアネキとも戦ったんスよね。

 ラグナロクのアニキとは』


「あの機体ならトメルギアで戦ったけど、すげー弱かったぞ」


 バイドロットの駆った炎の魔神。その力はすさまじかったが、すさまじいだけだった。なにせセミドライブすら使わずに倒せてしまったのだし。今なら最初のターンから一方的にボコれるだろう。

 だがテトラから返ってきたのは、なにやら憐れむような調子の声だった。


『あー……よっぽど使い手がヘボだったでヤンスね。

 ラグナロクのアニキは、オイラたち四天王機の中じゃ一番強いんでヤンスよ。

 初代四天王の代で模擬戦やったんスけど、ラグナロクのアニキは全員相手に完封したでヤンスからね』


「え、マジで?」


『え、なにそのフラグ――い、いや。それより、そういえば今一つなのだがな。テトラ殿の名の由来は――』


 驚くアウェル以上に、実はヤバい機体だったとこのタイミングで聞いたことで、後々の再戦を確信してしまったゼフィルカイザーは慌てて話題をそらす。

 だがテトラが顎をしゃくった。厳密には、その操縦者が。


『お話もここまでだ。見えてきたぜ』




 最初、地面が鏡に置き換えられたかのように錯覚した。雲がどよめく空を鏡写しにする広大な湖の中に、台形のシルエットが頭をのぞかせていく。


「あれが、賢学院……」


 全高100m近く、直径は300mはあろうかという、六角形のゆるやかなピラミッド状の建造物。その表面は装甲を思わせる材質でおおわれ、鈍い輝きを帯びている

 加えて異質なのが、湖のほうだ。

 水深はほとんどの誤差なく1m、岸辺はほぼ完全な直線、おまけにその輪郭はほぼ真四角だ。それだけなら溜め池の類に思えるが、東西南北、キロ単位にわたって広がっているとなれば、池ではなく湖と言うべきだろう。

 エラ・ハイテンは無理にしても、トメルギア公都あたりならすっぽりと収まってしまうかもしれない。


『なんつーか、不気味っつーか……この湖、生き物の気配がしねえな』


 朱鷺江の呟きの通り、この規模の人造湖でありながら、水草一つ見当たらないのはどうにも不自然だ。


「キャプテンの言う通りだし、畑とかも全然見当たらないぞ。ここの人たち、どうやって生活してんだ?」


「ていうか、本当に人なんているの? あの建物も、なんか気味悪いっていうか。やたらめったらでかいし」


『原因についてはまあ、なくはない』


「ていうと?」


『放射線量が妙に高いのだ』


「ほーしゃせん、ですか?」


 ゼフィルカイザーが、今までになく重たい口調で切り出すと、パトラネリゼが首をかしげる。というのも、島に上陸したあたりから、センサーが先ほどから微弱なアラートを出し続けているのだ。そして徐々に強くなっている。


【放射線量の増量を確認】


【ただちに健康に被害が出る量ではありません】


 こんな感じだ。健康に被害がない、と出てはいるが、放射線と聞いて安心していられる日本人はそうはいない。


『物質の中には、ただそこにあるだけで目に見えない毒の光を出し続けるものがあってな。この島、その反応がやけに多い。土壌にその手の物質が多いのだろう』


「へー……って、それ、降りて大丈夫なのか? あとテトラも大丈夫なのか?」


『オイラたちは操者に有害なもんは全部カットするようにできてるッスから、大丈夫ッスよ』


『それに今までも反応がやけに高いところは時折あったからな、地下帝国でもそこそこあったし。とはいえ、長居はしたくないな』


 これだけ長いことアラートが鳴っているのは久々だったのと、島の生態が生態なので気になった分、警戒はしなければならない。


(しかし、一体どういうことなのやら。念のため精密分析を、と――)


 センサーの放射線測定の感度を引き上げると、すぐ近くから反応が出た。あの巨大施設かと思ったら、なんと手元だ。見下ろすと、そこには重金属とペンギン。普段いろんなものを食っている重金属の方からはやたら高い数値が検出されていた。


【生物が摂取すれば健康に被害が出ます】


 ご丁寧にアラート付きである。もっとも他にも重金属いろいろ含有なので、どのみち有毒なのだが。


「お? ゼッフィー、どないしたん? まさかウチの魅力に気づいてもうたん?」


『あー、いや、うん。そうだな、お前悪食だからな、うん』


「なんやねんそれ。こんなとこで言うことかいな」


 ヤバくなったら吸収剤を生成して放り込んで封印せねばと、ゼフィルカイザーは誓いを新たにした。


『それでクオル、テトラ殿、あの建造物自体が、水の大魔動機なのか?』


『違うですの』『違うっス』


 ダメ元の質問を、異句異音に否定する光の精霊機と四天王機。さっきいがみ合っていた姉弟、こんなところで妙に息が合っていた。


「ならあの地下とかにあんのか? トメルギアとかでもそうだったじゃんか」


『水の大魔動機があるのなら、クオルの力の気配も感じ取れるはずですの』


『同じくでヤンス。これだけ近くにいるのに何も感じないってことは、ここには、いや下手したら、この島には水の大魔動機はないかもしんないでヤンス』


 テトラの言う通りやもしれないと、ゼフィルカイザーも思う。港からここまで、そして眼下の賢学院から向こう、ひたすら岩肌ばかりの土地が広がっているのだ。

 その荒涼とした風景は、この先に何かがある、という予感がまるで感じられない、いや、感じさせない、というべきか。


『んなはずあるか。あの婆さん、賢学院に来れば大魔動機フラディピオンの手がかりが、って……手がかり?』


 はたと気づいて、気まずそうに舌を打つ朱鷺江。とはいえ、何の手がかりもないよりはマシなのは確かだ。


『とにかく降りて尋ねてみない? そうしないと話にならないじゃない』


「ま、その通りにござるな――と?」


 どこを見ているかまるで見当がつかないが、たぶんおそらく眼下を見つめているはずのハッスル丸が怪訝な声を上げた。

 湖に浮かぶようにたたずむ巨大な六角錐。その一片にのみ、埠頭のような広場が設けられている。

 そこに人影と、複数の機影が整然と列を成して進み出てくる。その中心に、風になびく白い髪が映った。

※次回は8/10掲載です

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