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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第五話 うずくトラウマ 忍者戦士見参!
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002

「魔動機乗りのかた、どうか村をお救い下され!」


 村について開口一番そんなことを言われた。

 この村はモルッドというらしい。何事なのかと問うてみれば、3日ほど前にドラゴンが現れ、生贄を差し出せ、さもなくば村を焼き尽くすと言ってきたのだ。


『どこかで聞いたような話すぎる!』


「竜は邪神の眷属で、邪神同様に人々が苦しむさまを何より求めると言われてますからね。

 だから人々をじわじわと苦しめるために様々な行為を行ってくるんです。言ってみれば生態ですよ生態」


『竜が生贄を要求するのが? というか生贄はどうなるんだ?』


「生き残った人間の話を聞いたことはないですからねえ。

 たぶん弄ばれるだけ弄ばれて最後に食われるんじゃないかと」


『どれだけタチが悪い生き物なのだ』


「血も肉も猛毒ですし、甲殻や鱗、角も毒のせいで特別な精練をしないと使い物になりませんしね。

 錬金術の触媒にはなるんですけど替えが効かないわけでもないですし。

 害獣ですよ害獣」


 そうパトラネリゼが話しかけているのは、ゼフィルカイザーの通信機だ。今三人がいるのは村の中にある酒場の中だ。

 村に来るなりドラゴン討伐を要請され、セルシアが二つ返事で了承したので今は歓待を受けている。

 出される料理や酒に口をつけつつも、その身から鬼気を感じられるのは、


『あれは絶対リベンジ狙いだな、間違いない』


「セルシアさん、前にも生贄にされそうになったんでしたっけ?」


『当人曰く剣があれば片腕持っていかれるくらいで倒せたそうだ。

 この間の所業を思えば不可能でなさそうだから困る』


 とは言うものの、ドラゴンは飛行することができる。いくらセルシアでも上空から火を浴びせられればひとたまりもないだろう。

 逆を言えば陸上戦に限れば本当に倒せそうだということだが。


「だからってまた生贄になろうとしますか」


 作戦を立てたのもセルシアだ。自分が生贄のふりをして油断させたところをうちの白いのが倒す、と言っていたが、自分で斬る気満々だ。

 アウェルはアウェルで姉にいいところを見せねばと息巻いている。止めることについては完全に諦めているあたり、付き合いの長さがうかがえる。


「いやあ、しかしこんなところを魔動機乗りの方が通りがかられるとは、なんという幸運。精霊様に感謝しなければ」


『精霊様というが、この世界ではどういう神が信仰されているのだ? 教義とかは』


「火風地水の四大精霊様ですよ。魔法文明期から続くメジャーな信仰です。

 教義とかは特にないですよ。土地ごとのローカルルールとかのほうが優先だと思います」


(いいかげんな世界だなあ。まあガチガチの宗教国家とか面倒だからいいんだが)


 しかし前回のミグノンの町を訪れたときのことを思えば、今回の来訪はスムーズだった。

 村自体は小さなもので、アウェル達の住んでいた村と同程度かやや大きいくらい。防備も木の柵が立っているくらいで、あまり厳重とは言えない。

 なので前回以上に警戒されることも考えていたのだが、すんなりいったのはドラゴン様々ということなのか。

 それ以上にこちらには幼いとはいえ賢者がいるし、なにより当の二人の身なりもある。

 アウェルはシャツの上に丈夫そうな皮ごしらえのジャケットとズボン姿で、セルシアは動きやすさ優先でスパッツとチューブトップのようなアンダーウェアの上にホットパンツを履いて上着を羽織っている形だ。

 どちらの上着も部分部分に金属板などで補強が入ったプロテクター仕様で、それなりに値が張るものであることが見て取れる。

 ミグノンを襲ったファングボアからとれた素材などは、そのままミグノンに寄贈した。これはゼフィルカイザーの判断である。

 これによってミグノンは畑がいくらか荒れたものの、それ以上の利益を得ることができた。町長はその分の謝礼としてまとまった額の銀貨をよこしたのだ。

 二人の装備はそれを使い、パトラネリゼの見立ての上で仕立てたものである。

 二人の功績などもあってそこそこ上等な素材を使ったものなこともあり、当初の浮浪児スタイルからすれば随分とマシになったものだ。


「まあ素材は悪くないですからね、とくにセルシアさん。ぐぎぎぎぎ」


 などと歯ぎしりするパトラネリゼは、青色のワンピース姿だ。

 装飾にはかなり気合が入っており、聞いてみればパトラネリゼの自作だという。

 普段はその上にローブを羽織っているが、そのローブは現在、立てかけた杖にひっかけられている。

 しばらく付き合ってわかったが、この幼女、着飾ることにかなりの執念を燃やしている。それこそ知識欲と同レベルでだ。

 なので服が不純物にすら見えてくるセルシアに何とも言えない感情を抱いているのだろう。

 セルシアの、ただ伸ばしていただけの髪をそれなりの長さに切りそろえて、後ろ髪をシングルの三つ編みに束ねるようにコーディネイトしたのもパトラネリゼだ。


(あのときのこいつの目はかなり物騒だったなあ)


 女の外見へのこだわりはわからないが、不要なわだかまりの種になっても困る。


『まああれだ。パトラネリゼも可愛いのだし、大きくなれば美人になると思うぞ?』


 声を若干低くしてイケボ狙いで言ってみるものの、


「その手の台詞は聞き飽きてるんですよ、けっ」


 やさぐれが加速した。つくづく女は難しい、老若問わず。

 しかし、酒場の中は活気があった。

 ドラゴンの襲来で沈んでいたところに光明が見えたのだから、そのようになるのも当然なのだろうが。

 木造の店の中は酒樽や酒瓶が置かれ、掲示板らしきものにあれこれと紙が貼られているのを見るとこれぞ酒場という空気がしてくる。


『やはりあの掲示板に張られているのは冒険者への依頼なのだろうな』


「冒険者? なんですそれ?」



 ――今しがた聞き捨てならないことをこの幼女は口走らなかったか。



『いや、冒険者だ冒険者。

 このような世界においては、己の力で魔物退治や宝物の探索を生業とする者をそう呼ぶと、私のメモリには記されているのだが』


 ロボット狂いとはいえそこまで流行等に疎いわけではない。

 むしろ糧とするために流行のアレコレには広く浅く手を付けていた男である。

 それだけに、これだけファンタジー世界らしい世界で冒険者が不在、などというのが信じられなかったのだが。


「それ、ただの傭兵じゃないですか?

 あと宝物って言われましても、さっきまで話してたようにこの大陸は魔法文明崩壊まで未開の地でしたからね。

 他の大陸ならあるのかもしれませんけど、そういうお宝が出てくるような遺跡はこの大陸にはないですよ?」


 あっさりと否定された。


『では、冒険者ギルドとかもないのか』


「ギルドって、行商人さんが言ってた商人の組合のことでしたっけ?

 その冒険者っていうのですけど、それの組合? 聞いたことないですねえ。

 そもそも渡世を渡っていく力量があるのに定住しない、もしくはできないってのは何らかの問題を抱えているってことになるわけですし」


 言われて思い返すのはあのモヒカンを決めた山賊集団。考えれば魔動機を三機も抱えているというのは武力としては相当なのだろう。

 だがミグノンでも問題を起こしていたようなので追い出されたらしい。


(予想以上に世知辛いなこの世界……!)


 親無しになった子供二人が財産目当てに謀殺されかかった時点で今更であるが。

 本命の目的ではないにせよ、そうした冒険者というものにそれなりに期待を抱いていただけに落胆せざるを得なかった、その時。



「頼もう!」



 勢いよく酒場のドアが開かれ、その男が入ってきた。

 背丈はゼフィルカイザーの見立てでは180ほど。深い藍色の装束に全身をつつみ、肩や胸にはプロテクターが装着されている。

 頭部も頭巾に包まれ、額には鉢金が巻かれ、口元は剥げかかった塗装が施された鉄の頬当てと、擦り切れた白いマフラーで覆い隠されている。

 背には反りのついた刀剣と思しきものが背負われ、体のあちこちにも投擲用と思しき刃物が刺されている。

 頬当てと鉢金の奥、見えづらくなった、あるいは意図して見えづらくしているそこには、鋭い眼光のみが見え隠れしていた。

 酒場の喧騒が完全に止んでいた。それほど、この男は異質な空気を纏っていたのだ。この大陸では見られない服装。だが、この場のただ一人だけがその正体を看破できた。



(に……忍者……だと……!?)



 そう、忍者である。藍色の忍者装束に身を包み、忍者刀と苦無を装備した、これ以上ないくらい忍者らしい忍者がそこにいた。

 忍者はきょろきょろと店内を見回したのち、カウンターへと向かいマスターと対峙する。


「お、おう? なにもんだテメェ?」


「これは失礼を。拙者、冒険者をしておるものにて。

 こちらの村には冒険者ギルドの支部などはござらんかな?」


 低い、いぶし銀の聞いた声である。口調は落ち着いており、どことなく理知的な響きを伴っていた。


「ボウケンシャ? なんでえそれは」


「……やはりこの大陸ではそういった機構などは存在せんでござるか。いや、失礼をば。

 改めて、拙者荒事などを生業としておるものでござる。

 南の大陸から渡ってきたのでござるがこちらの銭を持ち合わせておらぬので、何ぞ手を貸せるようなことがあれば一働きさせていただきたく」


 怪訝な顔をしたマスターに、一瞬忍者のほうも訝しんだものの、すぐに切り替えて今度は朗らかな口調でそのように売り込みをしてきた。


「いや、そりゃ今は村にドラゴンが来たりで大変なんだけどよう。

 そこの兄ちゃん姉ちゃんたちが魔動機持ってるからそっちに頼んだんだよ」


 そう言って指さした先には気圧されたのかセルシアの後ろに引っ込んだアウェルと、のうのうと飯を食うセルシアだ。

 ただ、セルシアの様子が先ほどとはまた違う。

 その意識は確実に目の前の忍者装束へと注がれていた。あれは相手の力量を図ろうとしている目だ。

 忍者はそのままセルシアたちの前までやってくると、テーブルの体面に腰を下ろす。


「御嬢さんがその魔動機乗りで?」


「白いの使ってるのはこいつよこいつ。

 あたしはもっぱらこっちのほう」


 顎でアウェルを指しつつ、空いている手で剣を指すセルシア。


「なるほど。拙者、それなりに腕に覚えがあるが、手伝いをさせていただくわけにはいくまいか?」


「へぇー」


 そこからの動作を見切れたものは、日ごろからセルシアの剣を見慣れたアウェルと、その剣を向けられた当人だけだろう。

 音もなく抜かれた白刃が忍者の首筋に突きつけられる。

 だが忍者は微動だにしていない。そのままの姿勢で膠着する、かと思いきやセルシアは剣を何もない上へと振る。

 金属音と共に、弾かれたソレが高速でパトラネリゼのほうへと飛んできた。


「――へ?」


 自分の頬をかすめたソレを見れば、忍者が刺していた苦無だ。それが深々と酒場の壁に突き立っていた。

 何が起こったのか理解したらしいパトラネリゼはとたん蒼白涙目になってへたり込む。

 セルシアの剣に殺気がないのを見切っただろう忍者はそれをよけることすらせず、だが何もしなかったわけではない。

 誰にも気取られないように苦無をセルシアに向かって落ちるよう投擲していたのだ。

 恐るべきはその動作の隠匿性。

 あの獣並みの感覚を持つセルシアが直前まで気づくことができず、乱暴に弾くことしかできなかったという事実。

 実際にそれに気づけたのはセルシアを誰より知るアウェルと、その奇襲を受けた当の本人だけだろう。


「ナメたマネしてくれんじゃない、あんた――」


「フ――」


 一触即発の空気が酒場に満ち、取り囲んでいた村の衆もそれに気圧される、が、


「あいや、これは失礼を。拙者、どうにも不調法ゆえ。

 これこのとおりお許しを」


 途端に調子を崩して、テーブルの上ではあるが三つ指をついて頭を下げる忍者。自分の殺気のやり場が途端に失せたセルシアは舌打ちすると、


「――もういい。宿に戻って寝る。アウェル、あんたが話つけときなさい」


 そう言って、酒場を後にしてしまった。あとに残されたアウェルは戸惑いを隠せずにいる。が、


「ああ……怖かった」


 そう言い放ったのは当の忍者のほうだった。へ、と言う風に表情を崩すアウェル。


「あの御嬢さんはおぬしの連れ合いでござるかな?」


「ツレアイ? いや、まあ一緒に旅してるけど。

 姉ちゃんみたいなもんだよ、セルシアは」


「そうでござるか。いやなに、拙者、久々に死を覚悟したでござる。

 あの御嬢さん何者でござるかな?

 あれほどの剣気、鍛え上げられた肉体、濃密な魔力、なによりあの殺気。

 拙者、それなりにいろんなものを見てきたつもりでおったでござるが、生身の人間にここまで気圧されたのは初めてでござるよ」


「あー、なんていうか、セルシアが悪いことを」


「いやいやいや。元を正せば拙者の悪ふざけが原因。

 そちらに見える御嬢さんもまことに失礼をば」


 パトラネリゼのほうにも深々と頭を下げるが、その表情は放心状態のままだ。

 忍者はぽりぽりと頬当てをかく。その仕草から、まずいことをしてしまった、という雰囲気がありありと伝わってきた。


「でも、すげえじゃん。セルシアに一杯食わせれる奴なんて初めて見たぞ、オレ」


「そう言っていただけるとありがたい。

 ありがたいついでに、拙者にも助力をさせていただけぬか。なに、拙者のこの格好、信用できぬというのはわかっており申す。

 働き次第で報酬を分けていただければそれでようござる」


「手伝ってくれるのは助かるよ。

 実は姉ちゃんが生贄の代わりを買って出てさ。なんかあったら困るから、人手があるのは助かる。

 でも相手ドラゴンだけどあんた生身で大丈夫か?」


「なに、実はこれでも魔動機を持っておりましてな。

 必ず力になれると言わせていただこう」


「へえ。じゃあ頼むわ」


 そんな風に会話が進んでいく。ゼフィルカイザーにもパトラネリゼにも相談なく決めてしまったが、アウェルとしてはやはりセルシアが心配だったということがある。

 なによりパトラネリゼは現在も放心中だし、ゼフィルカイザーも特に何も言ってこない。だから問題ないだろう、アウェルはそう思った。が、しかし。



(忍者……ニンジャ……!

 どういうことなんだ、これは、一体……!)



 ロボットはおかしな方向にバグっていた。彼の目線は忍者に釘づけだ。なにより忍者のプロテクターには文字が書かれていたのだ。ゼフィルカイザーの知る文字が、知った字体で。


(頑張、とは、がんばる、でいいのか!?

 なぜ書道体で、日本語が!?

 一体、なにがどうなって……いいや、それよりも)


 忍者が最後に口にした言葉。

 忍者が、魔動機を持っている。



 ――忍者の、ロボット。



 その結論に達したとき、ゼフィルカイザーの思考回路は灼熱を超えたどこかへと到達した。


(排除……! 排除しなくては……! 忍者のロボット!

 ハァーッ、ハァーッ! 恐ろしい、これは恐ろしいことだ……!)

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