034-006
ゼフィルカイザーが子供のころ、80年代は、環境問題が、身近なものとして取り扱われるようになった時代だった。
それ以前の環境問題と言えば大規模な公害の話だったのが、人間の日常生活から発生するゴミや排水の影響が如実になった時代だったのだ。必然、子供向けのアニメや特撮にも、その影響は及んでくる。
特に三番目の勇者などは、環境問題がメインテーマだったくらいだ。
(ただ、言いたくはないが光るおっさんの二作目ともども微妙に印象が薄いんだよなぁ……恐竜の印象が強烈すぎるせいで。いや光るおっさんの三作目じゃなく。
流石元祖全部乗せ合体、まったくブレイブ――いやそれは三作目のほうで。いや勇者じゃなく恐竜の)
大人になってからなんでかと思いネットで検索し、同時期にやっていたことを思い出して納得せざるを得なかった。
閑話休題。とにかくそんな時代に少年時代を過ごしてきたので、ゴミだの廃液だのが原料の怪獣だのロボットだのの対策はいくらでもそろえているのだ。
そのあたりの要点をかみ砕いたりはぐらかしたりして説明すると、パトラネリゼが呆れた顔で首を傾けた。
「で、装甲を中和剤に変換して、それで汚染を中和した、と?」
『そういうことだ。地下帝国で、ドワーフの泉の組成を記録しておいたのが役に立った』
地竜王にやられたドワーフの残骸を運んでいったときに、飛沫が足に引っかかったのを記録していたのだ。そこから逆算し、ドワーフデスワームの組成やらから汚染物質を特定し、中和した。そのあたりは機体のコンピューターの性能様様だ。
「にしたって、なんで装甲全部だったんだよ。弾薬生成機で作って放り込めばよかったじゃないか」
『量を突っ込まないといかんと慌てていたからな』
などとぼやくゼフィルカイザーは今、下半身が土中に埋まった状態だ。内部フレームにこそさほどの損傷はなかったが、装甲の大半を喪失したので機体がモリモリと物質を吸収しだした、その結果だ。
上半身も、装甲がまだうっすらとしている。
(まあ、アイディア元は入浴剤なんだがな)
子供向けのアニメや特撮の販促商品で、キャラやロボットの形をした入浴剤や、入浴剤が溶けるとおもちゃが浮かんでくる商品があったりする。その発想だ。
(ロボットの時点でアレなのに入浴剤モドキになるハメになるとは、私も想像力が足りなかったか……)
むしろ想像力が変な方向に働いた結果である。想像力を問うた司令も想定外ではなかろうか。
『まあ、勝手な行動をしてすまなかった。はい次』
下半身が埋まった状態ながら、両手は動くので、その手で作業にいそしむゼフィルカイザー。何をしているかと言えば、のたのたと歩いてくるゆるキャラたち、ドワーフのアフターケアだ。
ゼフィルカイザーの文字通り献身あって、ドワーフたちは正気に戻ったらしく、里に戻ってきた。だが中和が完全でなかったのか、はたまたデスワーム化の後遺症か、癒着したままの者が結構いるのだ。
それをゼフィルカイザーが、慣れた手つきでナイフで切り裂き、引き剥がしてやっている。
「お、三色。ああいうの見ると、なんかうまそうに見えない? ダンゴとかみたいで」
「左様でござるなあ。むむ……いやむしろ、冷でいただきたいという思いが。これは拙者の本能でござろうか」
『はいはい、シリコンだから食えないからな。はい次ー』
横から聞こえてくる声に目くじらを立てるでもなく、黙々と作業にいそしむゼフィルカイザー。その手並みはやたらと手慣れている。
「こういうの、得意だったのか?」
『ちょっとした工作だ。お前の職人芸には程遠い』
などとぼやくが、同色で継ぎ目のわかりづらいドワーフをも特に迷いもなく切り分けていく。シリコンや粘土、他にも消しゴムなどを相手に磨いた技だ。
だが今、ゼフィルカイザーの業を冴えわたらせているのは、別の要因だ。一行もそれには触れぬよう、その路線の話を続けようとするが、
「じゃあゼフさん、何かの職人とか、そういうのだったんで――」
「おいやめとけってパティ」
尋ねようとしたパトラネリゼを、アウェルが呼び止めた。何度か見た光景に、ゼフィルカイザーも流石に疑問に思う。
『アウェル、何か気遣っているのか?』
「あ、いやな、そういうわけじゃないけどよ。
……お前、元は人間だったんだよな?」
『ああ』
「じゃあ、元はどういう奴だったか、とかって、聞かれるの、嫌じゃないか?」
『む……話題による、としか』
顔や名前は憶えていない。そして来歴は自慢げに語れるようなものでもない。
さらに言えばロボオタ趣味を全開にしようものなら、引かれるのは必然だ。
(洗脳、ゲフンゲフン啓蒙しようにもお題がないし、それなら魔動機トークで盛り上がったほうが建設的だし)
自覚がある分なおタチが悪いやもしれない。
それよりも、アウェルの気の遣い方のほうが気にかかった。
『何故そんなに気にする?』
「いや。オレなら、ヤだからさ」
『ッ……!? お、お前も転生者だったというのか!?』
確かに魔力はショボいが操縦技術はチート、というのは、ぽいと言えばぽい。何故気づかなかった、と上半身のみでおののくゼフィルカイザーに、アウェルが慌てて訂正する。
「いや違う、違うから。紛らわしかった、悪い。
で、そうじゃなくってだな。
オレ、あんなとこの出で、あんな暮らししてただろ? オレだけじゃなくって、セルシアも。
んなことわざわざ話したくもないし、聞かれたくもないからさ」
『……なにかあったのか?』
「レリーやムーと話してて、故郷の話とかになると、どーにも話しづらくってさ。ムーはともかくレリーは察し悪いし」
一応年配のレリーに向かってこの言い様であるが、注意しようという気にならないのは何故だろう。
「んだから、あんま根掘り葉掘り聞くと悪いかなって。気楽に話せることなら、とっくに話してくれてただろうし」
「そうだったんですか」
「むしろオレは、パティが割と聞き分けいいのが驚きだったけどさ」
「……私も、自分のことで割といっぱいいっぱいでして。ゼフさんのことはそりゃ、気になりますけど。
それに今エル兄に言われて、私もあんまりしつこく聞かれたら嫌だなって」
賢者の知識のことではなく、自分の中にある何者かの記憶のことだろう。
「多分、クオルも同じだと思いますけど」
「ふっ、あまいでみんな」
その声に、皆が一様に顔をしかめた。
「ゼッフィーはこれでもな、聞いてくれんかソワソワしとったんやで――」
『黙るですの、このあばずれが……!!』
「あちょ、あだ、いだだだ!?」
ずた袋に入った金属娘が、鉄柱に鞘入り娘によって縛り付けられていた。
その光景を目撃したアウェルとエンカ、ハッスル丸の報告で、ツトリンはしばらくそのまま放置しておこう、と全員がうなずいた。が、そうは問屋が卸さなかった。里に戻ってきたドワーフたちが、担いできたのだ。
並大抵の手段では脱出されるのでと拘束しようとしたら、セルシアがふと思い立って、クオルで縛り上げたのだ。
だがクオル、いつもならば嫌がりそうだが、今回はむしろ嫌に乗り気だった。そもそも魔力切れであえいでいたはずが、今はやたらと眩しく発光している。
「わーい、おひさま、おひさまー」
「しっ、ノーチャ、あまり近寄るでない」
「えー、でもー」
「ほれ、いいからじゃな」
習性に従って光を求めるエルフ娘を引きずっていくリュイウルミナ。
「そんな、人を物騒なもん扱いせんでもやな」
『どこがですの! ゼフ様を汚しておいて!』
剣の乙女は、数刻前のしおれっぷりはどこへやら、強烈な光を放ちながらグレムリンを縛り付けている。用いられ方がどう言いつくろっても剣のそれでないのは、本人的にはどうなのだろうか。
「ヤられそうになってもうて、最期かもしれへんと思てついついつまみ食いしてまっただけやって。
まぁ、かぶりついた後何があったか、さっぱりなんやけど……ウチ、やっぱなんかやらかしてん?」
『私の記録には何も残っていない』
背中を向けたまま、平坦に告げるゼフィルカイザー。だが先ほどまでの手つきが、ものの見事に止まっている。
「……いい加減アレですし、もういっそ地下に捨ててったらどうです?」
「あの光景を見た後だと、あんまり反対する気にならないな」
「いっそやはり、化け猫殿に引き取ってもらったほうがよかったのではござらんか」
パトラネリゼの提案に、辛辣な反応を返すアウェルとハッスル丸。じ、と向けられた視線に、宝石の瞳を泳がせたツトリンはわざとらしく口笛など吹いている。
「地下ぁに、よぅわからんもんを捨ておかれるんはぁ、迷惑なんじゃぁがの?」
「爺さんに迷惑かけたくはないんだけどさ。ゼフィルカイザーの立場からすりゃ、そりゃ、なあ」
「ひ、ひどいでみんな!? ウチをそんな、悪い虫みたいに言いよって――ぐぎっ!?」
『これ以上ゼフ様を惑わすなら容赦はしないですの! 聞くですの、地獄の、轟きを……!』
「うごっ、ちょ、クーやんギブ、これ、マジであかん、あかんやつや、ちょ!」
ぎりぎりと締まるソーラーレイの刃に、袋に入ったまま足をばたつかせるツトリン。そのたびに足元の岩盤が砕け散る。
そんな頑丈なツトリンを本気で焦らせるクオルがすごいのか、魔剣すら両断するソーラーレイの刃に締め上げられてまだ原形をとどめているツトリンの頑丈さに目を剥くべきか。
ともかくこのままだとツトリンがねじ切られてしまうので、ゼフィルカイザーはやむなく、本当にやむなく、口を開いた。
『……はぁ。ツトリン。背中の傷は大丈夫か』
「んがが!? だ、ダイジョブやで!? 今まさに真っ二つになりそうやけどな!?」
『クオル、淑女が、そんなに汚い言葉を使うものではない。セルシアやパティみたいになるぞ』
「はぁ!? シア姉はともかく私みたいって、どういうことですか!? ていうかなんでこの期に及んでかばい立てしますかね!?」
『私がとっとと引き下がればよかっただけの話でもあるからな。調子に乗って、無茶をしすぎた』
「いやまあ、そうかもしれませんけど。ものの見事に予想通りでしたし」
どうも同行を読んでいたらしいパトラネリゼに、ゼフィルカイザーは全身かさぶた状態に等しい身をひりつかせながら排気する。
つまるところ、先日のカミングアウト以降、浮足立っていた。今回のも、そのせいだ。
(ロボットは、カッコよくなければならないわけだが――俺一人じゃあ、カッコつけられないんだよなあ)
泥臭く頑張ることもできるが、結果に結びつかなかったり、果てに周囲に迷惑をかけては元も子もないのだ。
『……まあ、そういうことでな。今回は、目をつぶっておく』
「ほ、ほんまか、ゼッフィー?」
哀願するような目つきのツトリンに、微妙に寒気を覚えるゼフィルカイザー。
(と言っても、野放しにするのも危険っぽいんだよなあ、俺の推測通りなら)
少なくともグレムリンを解き放って、地下帝国に迷惑をかけるのはまずいだろう。
自己犠牲もまた、正義の味方の条件なのだ。
(だがこれは、ロボットというより、パンのアレでは?
……炭水化物とはいえ被造物と考えると、友達があいとゆうきな正義の味方もロボット――いや、流石にないから)
少なくともゼフィルカイザーは顔を食べさてやれる気などまったくない。
『ああ。そういうわけだからクオル、拘束を解いてやってくれ』
『ぜ、ゼフ様がそういうのでしたら――うう、気が緩んだら、また、眠気がぁ……ゼフ様、お情け、お情けを……』
しゅるしゅると解けて縮み、剣の形を取り戻すやしおれ始めるクオル。一方のツトリンは、袋から腕をだし、とりあえず背伸びした。
「かーっ、危ないとこやった。っとにクーやん、ウチのことあないな風に言うといて、自分かて同じ穴の地竜やんか」
たぶん同じ穴のムジナのこの世界版だろう。
『何をぉー、ですのー』
「言うとれ。お、腕にめっちゃ痕が。さっきの背中のよりよっぽどひどいで――おおっと、何も着とらへん、そいや、溶けてまったな」
ずり落ちて胸が見えそうになったのを、慌てて押さえるツトリン。こういう羞恥心はあるのにあの有様なのだから恐ろしい。
『オーバーオールなら、後でもっと頑丈なものを作ってやる』
「あぁん、ゼッフィーは優しいなあ。けどそんなとこも――へ?」
ツトリンの甘い声は、轟音を立ててその前に置かれた金属塊に遮られた。
全長はツトリンの身長の倍ほどある、細長い金属の塊。だがよほどの薬剤にさらされたのか、腐食しきっている。
「……ええと、ゼッフィー、これは?」
『ショットガンだ』
「ああ、ああ。そか。ウチの作ったヤツか。そら、あんな環境で錆ひんわけがって、うえぇえええええ!? ちょ、これ芯の芯まで腐食しとるやんか!?」
『そうか。じゃあ出発までに修理してくれ』
「ちょ、無茶、無茶言わんといてぇな!? ちゅうかこないなったら、一から作り直したほうが早い――」
「んで、なんだゼフィルカイザー? 実はどういう奴だったとか、聞いてほしかったのか?」
『いやそのあたりは内容によるとしか、な? 左上の者は、文化干渉を避けていた節があるし』
「いちいち細かいですね。とにかく、聞くだけなら問題ないんですね?
ならゼフさん、気になってたんですけど」
『……なんだ?』
「ゼフさん、忍者が絡むとやたらおかしくなりますけど――前世って、忍者に殺されたんですか?」
『――ごふっ。な、なんだその変化球、いやいっそ手裏剣は!?』
「ありゃ、違ったんですか」
『違うわ! 忍者に殺されたのは、資金と経験値と隠しフラグ、そして代役の座からチャンスをつかんで駆け上がっていったシンデレラだ!
ご存知、ないのですか!?』
「ご存知なぃわぃ。ちぅか、何故に敬語なんじゃぃ?」
「いやいやパティ殿、その推理は甘いでござる。
あの挺身に、拙者は忍法空蝉の術を見たでござる。すなわちゼフ殿自身が忍者――」
『何故そうなる!?』
「あ、あのー、ゼッフィー? みんな?」
「……けど実際、何やってたんだ? あ、いや、オレも気にはなってたというか。博識だし、戦いにも通じてるし、その割には体動かすの下手だし」
『そ、それは……ぐっ、き、記憶が……!』
「ゼフさんがいつもの逃げをかましましたよ。こりゃ大したことないですね。
そんなんで、エル兄無しで戦おうとか……はっ」
「言ってやるなよ。オレだってそう大したもんじゃないんだし」
『アウェル、あまり自分を卑下するな。あと覚えていろよ白髪頭』
「ふーんだ。私だって、自分のことで忙しいんですよ。ゼフさんも、もう少し頑張ったらどうなんですか」
『……まあ、使える手立ては大いに越したことがないのも事実、か。
地下帝国で魔道具を分けてもらったりすべきだったか』
「魔道具をどうすんじゃぃ?」
「ゼフィルカイザー、魔道具を食うとその魔法が使えるっぽいんだよ。
けど魔動機のコア食うのは嫌がってさ。まあ、食えるかもわかんないけど」
「ほほぅ? 面白そぅじゃぁな。余っておる魔道具を分けてもらぇんかぁ、聞ぃてみぃるとするかぃの」
『助かるが……いいのか?』
「ドワーフらぁを助けてもろた礼じゃぁて」
完全にシカトされ、眼前には腐食しきった金属の塊を置かれて、所在なさげなツトリン。
と、その眼前に、竜眼の少女が立った。
「だ、大丈夫なのじゃ?」
「うぅ……ミナちん、ウチに気ぃ使ってくれるんは、ミナちんだけや」
「な、なに。同じ帝国人同時なのじゃ、助けあうものだえ。で――」
つい、と指さした先。リュイウルミナが譲り受けた作業用機が置かれている。が、両腕がだらんとしていた。肩関節を破損しているのが一目瞭然だ。
「その、リオ二世なんじゃが、操縦の練習なぞに興じておったら、故障してしもうたゆえ、直してもらえんかえ?」
「え、ええ? せやけど、ウチ、これの修理が――」
さすがに困り顔を浮かべるツトリンだったが、リュイウルミナの背後で、ノーチャがしおれきった聖剣を拾い上げた。
「おひさま、またしおれてる? 大丈夫?」
『あーぅー、ゼフさまの、おなさけー』
「うん、わかった。もってったげる」
「ああこれ、待つのじゃノーチャ」
と言って、ノーチャを追ってリュイウルミナまで歩き去る。
「かわいいわねえ。なんだかんだで、アウェル君がつけた名前使うんだから」
「ディーはん……ウチ、よっぽどなんか、やらかしてん?」
流石にゼフィルカイザーたちの様子からただならぬ気配を悟ったツトリンの顔には、青い筋が縦じまに走っていた。
「本当に不思議な体してるわねえ。ほら、これ」
と、ディーが渡したのは、いつも着ていたのと瓜二つのオーバーオールだ。
「仕事がんばれ、だって。彼、やさしいのね。じゃ」
それだけ言伝て遠ざかるディー。オーバーオールを抱き込んで、出来立てのぬくもりを吸い込みながら、ツトリンはぼやいた。
「こんなん、頑張るしかないやん。ほんっと、ゼッフィーの、いけずぅ……」
シキシマルの名に懸けて仕事を完遂したツトリンは、出発の時、ゼフィルカイザーの手の上で寝こけていた。
寝ぼけて指をかじりそうになり、また騒ぎになったのは別の話――というよりは、日常風景だった。
そしてその一方で。
「……で、あんたは何してんの」
「母さんの思い出話を聞いていたら、いろいろとね」
住民にもみくちゃにされ、髪やら服やらよれたシングに、呆れた視線を向けるセルシア。
「あんた、そんなんで鈍ってたら――」
「大丈夫、大丈夫だ。俺は、忘れていない」
おっとりとした笑いの中、ほんの数瞬解放された殺気。それだけで、セルシアは総毛だった。体の芯が凍るようでいて、頬や耳は真っ赤に上気している。
シング――ガルデリオン・シング・トライセルは忘れていない。今この時も、セルシアを下すための英気を溜め込んでいる。
「エンカ翁の話どおりなら、ここからもう少しということだ。
覚悟、しておいてくれ」
それだけ告げて、シングは誘われるままに住民に応じ、話に花を咲かせていく。その心中を、灼熱に焦がしながら。
それがセルシアを、どうしようもなく熱くさせた。そして、
「……? セルシア?」
その様子を見た少年も、何かを気取り、北を、その先に待ち構えるだろう、黒の機体を幻視していた。
かつて、少女はその青年に、父親以外で生まれて初めて敗れた。
「父さん以外で、あたしを初めて倒した強さと」
かつて、少女は自分よりはるかに弱い、自分が守ろうとした少年に助けられた。
「あたしより全然弱いのに、あたしを疼かせた何かと」
その時抱いたものは、果たしてなんだったのか。
「そのどっちが、あたしの本当なのかを、あたしは知りたい」
次回、転生機ゼフィルカイザー
第三十五話
決着
※次回は6/11掲載です




