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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第三十三話 初めに立ちし者
244/292

033-005

 地の底にありながら、穏やかな明かりに照らされた街並みは活気にあふれていた。

 構造上狭いところが多いため、人々は比較的小さい形質が多く、一方の衣服は岩盤の突起などの対策に関節部にプロテクターがついている。服は革のものが多いが、布や毛皮もちらほら見える。


「どーなってんのかしらねー。地上とやりとりがないでもないって言ってたけど……お?」


 市場にやってきた集団があった。子供たちと、それを引率する、淡い輝きをたたえた蛍色の髪。隣には、頭頂部につぼみが植わったエルフ人間。

 子供たちがおっかなびっくりしているところにリュイウルミナが率先した手振りそぶりを見せて、逆に驚いたところを笑われている。


「あのトカゲ目、なにやってんだか」


 ぼやくセルシアは、市場から離れたところにある、全高200mはあろうかという石筍の頂上に腰かけていた。直線距離で500m以上は離れているだろうが、セルシアからすれば大したことはない。

 ゼフィルカイザーがその光景を見ていたら、自分のセンサーが蛮族以上なことに複雑な思いを抱いただろう。


「アウェルは整備の手伝いだっけか。まあいいやって安心しとくべきなのか、そんなことでなんであたしが安心しなきゃいけないのっていうか」


 ふくれっ面になりながら足をばたつかせ、しかしすぐに肩を落とす。


「……父さん、これを黙ってたかったのか」


 父が言い残さず、抱えて逝った理由。父の旧友に聞いた、若かりし頃の人柄。それに、母親の見せていた父へのいら立ち。


「父さん、ばっかじゃないの、ってー、前なら言えたんだけどなー。それだと、母親あのおんなと同じだし」


 気まずげにため息をつく。


「あのバカは、あたしよりも領地の連中や王家の方が大事だってほざきやがった、か……」


 それは朽ち果てた公宮の頂上で待っていた母親が語ったこと。二人の男女の顛末だ。

 外見だけは見目麗しい血に飢えた蛮族、カーバインはギルトール伯爵家の一人娘、ヘレンカを公王が欲したことによって起こったトメルギアの内乱。

 当初は小競り合いだったのが、気づけばトメルギアが傾く規模になっていた。

 最終的に、筆頭騎士だったセルシアの父ナグラスと、リリエラの兄である先代公王代理騎士ガリカントが一騎打ちを行い、ナグラスは辛くもこれに勝利したものの、その間にカーバインはルイベーヌ伯爵の手勢によって包囲されていた。

 そして講和の場で、ヘレンカの両親である伯爵夫妻、つまりセルシアの祖父母は毒殺され、ガリカントも公王の顔に泥を塗ったと言われ首を討たれた。そこまでは、アウェルやゼフィルカイザーも知っていることだ。



 なお、セルシアの脳髄に記憶されているのは大まかな顛末であり、固有名詞は悉く霞の彼方であることを付記しておく。




「もういいでしょ。こんなとこほっといてさ。二人でどっかで暮らそうよ。ね?

 うっとおしいなら、王とかいうのをぶっ殺してからでもいいし」


 ヘレンカは、母は、父にそのように言ったらしい。

 自身の容姿が発端であることも、故郷が蹂躙されたことも、両親が毒殺されたことも欠片ほども気に留めていない物言いをしたヘレンカに、父はこう返したらしい。


「領民、いや国の民を、これ以上戦に巻き込むわけにはいかない。なにより、公王家を絶やすわけには、いかない。

 俺にはその責任がある」




 逆上した母は父に襲い掛かり、返り討ちに遭い――気づいた時には、鉄の檻で公都へ護送されている最中だったという。

 父の旧友が言っていた、父が母のことを毛嫌いしていた、というのがよくわかる。

 セルシアとて故郷の、あの辺境の村の連中は嫌いだった。けれどそれはあの村の連中がああいうやつらだからだ。

 カーバインは、立ち入ったのはほんの一日にも満たなかったが、温かい場所だった。結局は負け、雲隠れした父のことを、いまだに慕ってくれていた。

 それを振り回すだけ振り回しておいてその物言いなのだから。


「もっとも、前のあたしも似たようなもんか」


 自分をつけ狙うビッチを縊り殺し、事に次第では母親も殺したら、辺境のどこかでアウェルと暮らす。白いの(ゼフィルカイザー)はどこかに行ってほしい。そう思っていただけに。

 そう思うと、アウェルにせよ、シング、ガルデリオンにせよ、あの母親ヘレンカの下位互換のようなこの女のどこがいいのか。


「そりゃ、顔はいいかもしんないけどさ、自分で言うのもなんだけど」


 セルシアとヘレンカは髪の赤の深みと瞳の色を除けば、生き写しのようにそっくりだ。おかげでカーバインで顔が割れた直後、カーバイン滅亡説が街の中を駆け巡ったほどだ。


「けど、世界全部と引き換えれるかって言ったら、ねえ」


 トメルギア公王家が断絶すれば、その時点で邪神の封印の一角が解けていた。結果起こるだろう混乱は、今見ている通りだ。封印が半分解け、世界は徐々に混迷を深めている。

 セルシアが17歳、つまり約18年前の時点で公王家が断絶していれば、帝国が滅んだ13年前の時点でこの混迷が襲ってきて、今はもっとひどいことになっていた可能性がある。

 ゼフィルカイザーと出会ったときに襲ってきた巨大にして異形の竜、天竜王。あれがもっと早くに活動していたら、トメルギアはすでに滅んでいたかもしれない。



 セルシアはこれらの可能性を言語化するほどの頭脳を持たないが、なんとなくの直感でそれを理解していた。



「あたしはあの女と違う……けど、父さんとも違うし。父さんが苦しかったのはわかるけど、たぶんあたしじゃわかんないし」


 邪神を倒すために必要な光の精霊機は、セルシアやナグラスの血筋の、それも女にしか使えない。それに、ゼフィルカイザーもいなかったのだ。

 そして傍らにいるのは、他の奴など知らないとのたまう蛮族女。

 セルシアの傍にいる、セルシアを打ち負かした男とも、セルシアに代わって勇者をやってやると言う少年とも違う。


「……の割に、あたしが仕込まれてるってあたり、父さんも、ねえ」


 トーラーとラクリヤの件もそうだが、男女の仲というのは単純かつ複雑怪奇だ。セルシア自身、迷い続けているのだし。


「世界のすべてに対して責任がある、か」


 父の旧友曰く、父が酒の席で一度だけ漏らした言葉。目覚めたクオルが言っていた、セルシアの家系が負わなければならないもの。

 古き神の怒りを買い、邪神を招き入れ世界を滅ぼしかけた罪。その同族を殺しつくした、肉親殺しの罪。


「関係ないって言えたら言いたいわよねー、ほんと」


 あの聖剣がある以上、とてもそうは言えないが。

 ただ、納得したこともある。

 大瘴門の前で、子供が斬りつけられたとき。セルシアはそれを斬り伏せようとしたが、手にしたクオルは硬いままだった。エルフなど、気持ち悪いから嫌ですの、などと言って避けるくせに。


「……あいつも、人を斬ったりしてたんだ」


 だからどう、というわけではない。むしろ剣はそういうものだ。ただ、普段の年頃の少女のようなクオルを思うと。いやむしろ、普段の奇行がアレすぎてもう。


「ガルデリオン、あれ欲しがってたみたいだけど、今なら丁重にお断りしてきそうだし……白いのに嫁にやる? いやいや、あたしはそこまで恩知らずじゃないわよ。

 あたしはあの女と違うし――ん?」


 街並みの明かりから離れた暗い場所で、人影がちらりと見えた。それだけなら気にしないのだが、銀の長髪がひるがえっていたとなれば話は別だ。

 前を歩いているのは、ほのかな明かりをともした杖を手にする矮躯。エンカだろう。


「あいつ、あんなとこでなにしてんだろ」




「ここが、母の暮らしていた家、ですか」


 周囲を先史文明のころに作られたらしい巨大な建造物に囲まれた、小ぢんまりとした家屋。それでも一人で暮らしていくには広すぎる屋内は、わけのわからない物で埋め尽くされていた。

 その様子に、シングは実家の倉庫を思い出す。造形品らしきものの意匠といい、間違いなく母のものだ。


「然ぁり。あの娘は孤児でぇの。儂ゃあが後見しておったのよ。とはいえなんでも自分でやってしまう娘であったから、なんの手もかからんかったからの。

 それどころかああだこうだと入れ知恵をして、おかげでこの地は随分豊かになった。あの市場も、あのような形にしつらえたのはレフティナよ」


「そうだったんですか。故郷でも、母はいろんなものをもたらした英雄として今でも慕われています」


「そこよ」


 エンカが、錫杖を、原初の精霊機オーバーディが宿る顕現器を突き付ける。


「お主の故郷とは、どぉこじゃ?」


「それは、その」


「わたしより背の高いイケメンがいない、こんなとこ出て行ってやる、なぞとほざいたあの娘がどちらの方へと向かったか、覚えておらん儂ゃあではないぞ。

 それにその身に纏う偽装の魔法、今の世の魔法使いでは到底気づかんじゃろうが、儂ゃあにはわかっておる」


 細く引き絞られた眼光が、シングを、その奥にいるガルデリオンを射抜く。が、それよりもその前の一言に、シングはうなだれた。


「……どっちかっていうと、母が旅に出た理由がそんなもんだったってのがよっぽどショックなんですが」


「そういう娘じゃったからの。なんじゃ、お主の知るレフティナはそうではなかったのか?」


「いえ、そんなもんでしたよ、ええ」


 膝に手を突き、立ち直るシング、ガルデリオン・シング・トライセルは、改めてエンカに向き直った。

 その左目はレフティナ譲りの真紅に、そして右目は魔族特有の紫の輝きを帯びている。その姿にエンカは、ただ嘆息した。


「……あの娘が魔族と子をなした、か。となると今の魔族は、かつての魔族とは違うのじゃろうな。あの娘が変えたぁ、か」


「何故、そうお思いに?」


「レフティナじゃからじゃぁよ。あの頃の魔族のままなら、あの娘なら正そうとしたじゃぁろ」


 五千年以上生きたという伝説のエンシェントゴブリンにここまで言わせるとは、母はつくづくどれほどの人だったのか。


「……まさに。母は父、魔王ザンドラストの片腕となって魔界を平定し、そしていずれは邪神を討とうとしていました。ですが、13年前に」


「ベーレハイテンが滅んだとき、邪神の封印が緩んだ、か。大変だったようじゃぁの」


「それなりには。今は表向きは邪神の復活を掲げ、俺と、信頼できるものたちが真の目的のために動いている状況です。

 光の精霊機も見つけ出すことができたのは僥倖だったのですが、今の世には、それとは異なるものがいます」


「ゼフィルカイザー、あの機体か。主は短くない間共におったようじゃが、どう見る?」


「ヴォルガルーパー、リオ・ドラグニクスを容易く倒してのける圧倒的な戦闘能力。底知れない出力に自己修復能力、加えて神剣を取り込み変貌したあの機体には、まだまだ先があるのかもしれない。

 翁のおっしゃった、己の機体と神剣のみを武器としていた左上の者とは全く違う。

 ただまあ人格については見ての通りというか……はっきり言って小心者ですね、ええ。それにやたらと疑い深く、猜疑心の塊みたいなところが」


「やはりか。左上のも用心深かったが、あそこまで臆病ではなかったしなぁ。ましてそれほどの力ぁがありながら小心者というのもわからん。シルマリオンを滅ぼしてのけたぁ相手とも、やはり思えん」


「ただ、我々とは異なる知識体系を有している、それも事実です。そして、だからこそ理解できないことがある。

 エンカ翁。俺の母、レフティナ・トライセルとはいったい何者だったんです? 左上にて輝ける者を信仰していたことといい、知識にゼフィルカイザーと通じるものがあることといい」


「……ま、通づぅるものがあるのは、確かぁじゃろて。あの娘ぇも、コレをリトルグレイ、と呼んでおった」


 エンカが指さした先にあるのは、細い体と不釣り合いな大きな頭に、黒い目と妙にとがった耳を備えた人形だ。なぜか全身、銀色に塗られている。

 加えて腹にはくたばれ、と書かれ、さらに、れ、が×で消され、隣に、った、と追記されている。どう見ても母の字だ。


「…………これは?」


「レフティナがこさえた先史文明人の復元模型じゃぁて。彼奴が見れば、驚くんでぇないかの」


「……母とゼフィルカイザーに、一体どういうつながりが……?」


 シングはさらに当惑する。四天王機の件以上に明白な証拠が、こうして出てきたのだ。


「左上の者を信仰しておったのはまあ、儂ゃあの教育の賜物と思っときたいがぁの」


「ええまあ。自称ゴブリンの神官戦士でしたからね。今の俺くらいの背丈がありましたけど。

 母は最期に、もし本当に神が降りてきたら気をつけろ、と言ってもいました。それもエンカ翁の?」


「確かに、妙にせがまれるんで教えはしたがぁの。あの娘の出自やらぁは結局儂ゃあも知らんのよなぁ。ドワーフがゆりかごごと拾ってきたぁだけじゃぁからの。

 そのゆりかごも、大きくなってから捨ててまいよったぁで、身元の探ぅりようがなぃ。

 どこであのような知識を得ておったのか……あの娘のやりようやらは、まるで左上のを見ておるようじゃったぁわ」


「……母、ゼフィルカイザー、それに左上の者、彼らは同じところから来た、とか? ゼフィルカイザーも左上の者も空から降りてきたと言いますし、母もそのように?」


「ここ、地の底じゃぁぞ。まさかの地の底から蘇ってきた先史文明人、とか思おうにも、先史文明人、これじゃぁしの。

 先史文明人の骨格は、発見されておる限り大体同じじゃぁてな。あの娘が先史文明人というのはちぃと考えられんて」


「そういえば、パティとキティさんが、先史文明人は魔力を持たなかった、とか言っていましたしね。魔族並みの魔力を持っていた母が、というのは、やはりないか」


「あー……そら、あの連中なら気づくわなぁ」


 何とも言えず嫌そうな顔をしながら、エンカが毒づく。引っかかっているのはレフティナではなく、推論を持ち出した二人についてらしい。


「帝国のグリーニン家の末娘が、先史文明の遺産に手を出しておる、という話はちらと聞いたんじゃぁがの。

 まさかそれが帝国を滅ぼすことになるとは……聞いた時点で殺し屋でも送りこんでぇおくべきじゃったぁかの。

 それに、あのマゥの娘も……ミルトカグラの生き写しじゃぁて」


「マゥの娘……ひょっとしてパトラネリゼですか?」


「おぅよ。あの娘、何者じゃ?」


「詳しい出自は不明というか、不明瞭なところが多いんですが、その」


 シングは簡単に、魔の森で会ったことを話す。ヴィスティーグがパトラネリゼをミルトカグラと呼んだこと、そのミルトカグラが、ダムザードを打ち倒しランフィス領が鎖国することになった元凶であると語ったことを。


「……なんと、な。にわかには信じがたいが……先の戦が終わったとき、すぐに地下に引きこもるべきではなかったぁか」


「彼女は、そのミルトカグラにそんなに似ているんですか?」


「年のころを除けば、瓜二つと言っていいのぉ。魔力の質も似通っておる。ヴィスティーグの言とその時起こったことを信じれぇば、ただの子孫と思うのは難しい、か……文字通りの生まれ変わりであるとかか?」


「まさか……」


 魂の実在は証明されている。人に限らず、魂ある者はそこから魔力を生み出している。だが、死ねば魂は霧散し、散ってしまうものだ。巡って何かに生まれ変わる、と言われることもあるが、少なくともガルデリオンは実在を確認したことはない。

 精霊機たちがほぼ魂だけの存在でありながら記憶を持っていることからして、魂にも記憶は残るのかもしれないが、それにしても。


「わからん。なんせミルトカグラじゃからの。滅亡当時、十代半ばにしてシルマリオン最高の頭脳を持ち、クオルを始めとした新世代精霊機計画にも深く携わり、さらに邪神の封印式を構築もした正真正銘の天才じゃぁて。

 当時、シルマリオンの中でも知ることの少なくなった儂ゃあら地下帝国の存在をかぎつけ、もったいない、調べさせろと詰め寄られたんじゃぁの。

 儂ゃあも長く生きたが、あれほどの才は見たことが――いや」


 二人の脳裏によぎるのは、先も話題に上った、帝国を滅ぼした影絵の化け猫。先史文明の遺産を複製再現してのける技術力を持ち、電動機を作り上げた正真正銘の天才。


「……まったく、世の中何が起こるかわかりゃあせんの」


「ええ。ですけれど、おかげで希望もあります」


「希望とは……クオルのことか」


「それもですけれど、セルシアがです。

 勇者はかつて魔族を滅ぼしかけた、魔界ではそう伝えられています。翁の話を聞いて、事実だったと言うことも知りました。

 けれど、セルシアは先代の勇者とは違う。セルシアなら、今の魔族にも生きていく道を与えてくれるはずと、そう信じれます」


「……とは言うがぁの。四大公とニカカの力があっても、邪神を追い返すがせいぜい、そしてニカカは廃人となった。血を残したからには回復したのやもしれんが、な」


「そうならないための俺と、エグゼディです。あいつの及ばないところは、俺達が助けます」


「……なるほど、の。あの娘が、あの機体を手にし、そしてお主はそれを継承した、か……んで、嬢ちゃん、お主はどうすんじゃぃの?」


 エンカが天井を見上げながらぼやく。ややあって、カサカサという音がして、家の入口に何かがぼたりと落ちてきた。


「き、気づいてたの?」


「儂ゃあは嬢ちゃんのその挙動に驚いとるがぁの。しかもこやぁつは驚いとらんし、嬢ちゃんも聞ぃておったにしては平静じゃぁし」


「あ、彼女は俺が魔族なの知ってますんで。エンカ翁もできたら他の面々にはまだ内密に」


「……嬢ちゃん、こやつはこぅいうことで動いておるらしいがの。邪神の手先の魔族じゃあぞ?」


「うっさいわよ、爺さん。あたしらにもいろいろあんのよ、いろいろ」


 腹ばいの姿勢のまま頬を赤らめそっぽを向くセルシアに、エンカは天ならぬ天井を仰いだ。


「本当に、世の中変わったぁの。穴倉にこもりすぎたか……ぬ?」


 何かを感じ取り、小首をかしげる。気のせいかと思ったが、やはり確かに地鳴りがする。


「……これは。まさか彼奴等が攻めてきよったか? まぁた随分と間の悪い、いやぁええのか?」


「奴ら、ですか?」


 顔を引き締めたシングと、同じくすでに立ち上がり、剣の柄に手をかけているセルシアに、こちらも厳しい目つきになったエンカは足早にかけながら告げた。


「この地下帝国にも、敵がおらんではないのよ。地下住まいだけにな――ところでじゃ」


「はい」


「どっちか、おぶってくれんかぁの。足遅いんじゃで。できたらぁ、嬢ちゃんのほうがえぇのお」


 頭をがしりとつかまれたエンシェントゴブリンだが、手の後が骨にまで残っていてしばらく消えなかったらしい。自分じゃなきゃ死んでたと語っている。

※次回は5/12掲載です

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