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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第三十話 三つの輪が説く形質の重要性
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 町のそこかしこから、大道芸人が囃し立てたり、市場の賑わいだったりといった祭りの喧騒が流れてくる。とはいえ、帝都のそれに比べれば幾分かおとなしいのは、標高ゆえの低気温のせいだろうか。

 石造りの城塞都市、ゼフィルカイザーが見てきた中でも西洋ファンタジーという印象に最も合致する町並み。そこを行き交う人々も、帝都ほどに雑多な印象はない。むしろ、どこか違和感を覚える。

 ゼフィルカイザーのコックピット内を照らすのは、メインモニターに映るその光景と、座席に立てかけられた聖剣、その鞘口からにじむ木漏れ日だけだ。


『……それでクオル。どういうことなのだ』


 衛兵は言っていた。勇者は、この地より旅立った、と。クオルは、ぽつぽつと語りだす。


『そのままの意味ですの。クオルは、クオルのマスターと四大公たちは、このロトロイツの地において軍を起こし、邪神の眷属との戦いへと赴いたんですの』


『がつがつ……んぐっ、てことは、この国に、魔界への入り口的なもんがあるってことなのか?』


 尋ねる声は、通信機の先にいるアウェルのものだ。向こうでは、腰を下ろせるところを見つけた一行が、ひとまず腹ごしらえをしている。

 なにせマガリトンを出てから休まる間もろくになく、食べ物も保存食ばかりだったのだ。久々の食事らしい食事のおかげか、アウェルの声には張り詰めたものは感じなかった。


『少し、違いますの。

 この地はもともと、シルマリオン直轄の研究機関が置かれていたんですの。故に、シルマリオンの本土への直通路があったんですの。あの、かつて白柱山脈と呼ばれた峰々を貫く巨大な地下道が。

 あと……それだけではなかったような気もしますの。けど、いまいち覚えてませんの』


 ゼフィルカイザーが伏線チェックリストに追記している間に、気になった点にアウェルが突っ込んだ。


『ん? いやいや、ちょっと待てよ。それじゃ、魔法王国を攻めに行った、みたいな感じに聞こえるんだけど』


『その通りですの。この祭りの様子を見ていて、ようやくちゃんと思い出しましたの。

 シルマリオンの建国祭の日、突如現れた邪神とその眷属は、あっという間にシルマリオンの本土を滅ぼし、支配下に置いたんですの。

 難を逃れたクオルのマスターたちは、このロトロイツの地に残る戦力を結集してシルマリオンへと攻め入り、眷属らを滅ぼし、邪神を封印したんですの』


『……この山脈の向こうに、魔法王国の本土がある、ということなのかえ? そんな話、朕は聞いたことないぞえ?』


『お前が知らないだけだろ』


『んなっ、ち、朕を愚弄して……!!

 ぐっ……すまぬのじゃ。朕は、何も教えてもらっておらんのじゃ。

 ひょっとすると叔父上――ルミラジーであれば、何ぞ知っておったやもしれぬが』


 首を傾げた様子のリュイウルミナに毒づくアウェル。リュイウルミナはいきり立つが、しかし頭を下げただけあって、引き下がった。その様に、アウェルのほうがばつがわるそうになる。


『……まあ、別にいいんじゃないのか? イルランドも、昔のことはよく知らないみたいだったし』


『イルランドとは、いったいどこの何者じゃえ』


『トメルギアの王子様、今は公王だよ。オレらと同じくらいだけどすげーしっかりしてる奴だよ』


(そうだと信じたいのだが)


 ゼフィルカイザー的にはあの若獅子の少年王に一抹の不安がよぎる。いつぞやの通信のアレやら、コレやら。


『……左様かえ。して、クオル、さま。なればこの地が、ベーレハイテン発祥の地ということでいいのかえ?』


『ですの。ベーレハイテンのみならず、四つの大公家、その元となった魔導王朝が根を下ろした地。魔道鉱物がよく産したゆえに石の大陸と呼ばれたこの地すべてが、かつてはシルマリオンの本土だったですの。

 と言ってもここは大陸の南端で、本土はこの北なのですけど』


 岩石風迷彩に全身を染めて隠れ潜むゼフィルカイザーは、通信機の画像情報から意識を外し、瘴気雲の垂れ込める山脈へとカメラアイをやる。

 現時点でも標高2000m超、高原を白雲が流れゆく高度だ。その割に少々涼しい程度で済んでいるのは、赤道に近いためだろう。

 石の大陸上陸前から見えていた山々は、少なく見積もっても5000mを優に超える。しかも雲に隠れ山脈の奥が見えないことを考えると、さらなる絶峰が連なっている可能性は高い。


(あれだ、ヒマラヤとか、あんな感じか。しかしこれをブチぬいた地下通路か……それはそれでロマンだな)


 ゼフィルカイザーの、地下都市を傭兵として駆け抜けた前世|(ゲーム歴)がよぎる。


『それとその、ゼフ様。たぶんクオルに、不信を抱いてらっしゃいますの』


『む? い、いや、そんなことはないぞ?』


 どこか固い口調のクオルを、ゼフィルカイザーはどもりながらもなだめようとする。

 精霊機は主なしでは顕現できない、というのが常識だが、ゼフィルカイザーからすればそういう機体が突如単体で顕現するほうが常識だ。コックピット内で顕現されでもしたら洒落にならない。


『いえ、お隠しになることはないですの。クオルが思い出したことを黙っていたのも、その通りですの。それにこの前の魔族の機体、あれもクオルと無関係ではないですの』


『そういやなんか、クーやんのこと、お姉みたいに言うとったな』


『あれはおそらく、クオルの、そして大公機の後継機ですの。

 クオルによってひとまずの完成を見た人工精霊技術。それを基に新たな四大の精霊機が生み出されるはずだったんですの。けれどそれは、シルマリオンが滅んだことによって永遠に失われたはずでしたの』


『だが、そうではなかった、と』


『ですの。おそらく雛型くらいは出来上がっていたものを、魔族が奪い、邪悪なる姿に歪めて完成させたのが、あのセトという機体と、ゼフ様が対峙していたイザナミという機体ですの。

 トメルギアでヴォルガルーパーを魔族の機体が操った、というのも、同じだと思いますの。。太祖エグゼディと同じように』


『なるほどな。得心した』


『……ゼフ様、信じてくださるんですの?』


『新型機が強奪されるのは定番も定番だからな』


 かのリアル系ロボットの、その初代をリメイクした次世代の作品において、新型の五機のロボットのうち、実に四機が敵軍に盗み出された。なおこの流れは継続し、二作目のリメイクとなる次作でも四機のうち三機が強奪された。

 もっとも二作目については、ゼフィルカイザー的には少々どころではなく含むところがあるが、あくまで前世の話だ。現場には現場の事情もあっただろうし。それに三番目の彼は、クロスオーバーやスピンオフでおいしいポジションになるようになったし、結果としてはこれでよかったのかもしれない。


『ならクーやん、タイソっちゅーのはなんなんや?』


『読んで字のごとく、ですの。

 この世界において初めて完成した魔動機マジカライザー、シルマリオンの象徴ともいえる機体。それこそがエグゼディ様ですの』


『ほえーっ……せやったら、ヌールゼックやデスクワークのご先祖様、いうことなんか?』


『最強の魔動機であるリオ・ドラグニクスも、あの機体が大本じゃというのか?』


『ですの。魔動機だけでなく精霊機も、白騎士・・・エグゼディ様を祖とするんですの』


『白? いや、エグゼディ、あの通り黒だぞ』


『きっと魔族めが、太祖をあのように染め上げたんですの。白騎士とは、エグゼディ様を初代とする、シルマリオンの旗機の称号ですの。それを、あのような……。

 それにコアにも、おそらく細工をしたはずですの』


 クオルの語りは憤りを隠そうともせず、熱がこもっていた。

『なんでそんなことわかるん?』


『……あ、機道魔法ライザースペルか。考えてみたら、骨董魔動機なのに機道魔法使えるのもおかしいしな』


 疑問符を掲げたツトリンに対して、アウェルはぽんと手を打った。機道魔法ができたのは魔動機技術が成熟してからの話だ。初号機のコアに搭載されているはずがない。


『こうした話に関してだけは聡いですの。ゼフ様を乗りこなすだけはありますの』


(あれだな。要接着剤のころの旧キットが、完全彩色の上にフル可動に改造されてるようなもんか。魔族の技術恐るべし。俺もよくやったけど)


 などと、魔族の技術をプラモの改造スキルと同列に並べつつ、


『では、イクリプスとは何なのだ』


 今一つの疑問について尋ねた。ガルデリオンとエグゼディがそれぞれ手にする魔剣イクリプスは、なぜかソーラーレイと共鳴する性質を見せている。


『聖剣ソーラーレイは、最初からこの形だったわけではないですの。もっと巨大な魔晶石から、芯の部分を削りだしたものですの。

 その、研磨した欠片を混ぜ合わせ打ち上げられた最強の魔法剣ソーラーレイと対となる最強の魔剣、イクリプスですの。魔動機用と人間用の二振りが打たれたはずですの。

 やはりシルマリオンの新たなる象徴として、古き象徴である太祖と共に飾られ、魔族の侵攻によって行方不明に……それがあのように、魔族によって貶められているなどと。本来はやはり、白い刀身だったはずですのに。

 そもそも、魔族が生き残っていたことが驚きですの。マスターとクオルは確かに、邪神の眷属どもを滅ぼしたはずなのに』


 クオルが憂いと戸惑いを口にする。よほどショックなのだろうか。


『……とにかく、魔界への入り口があるとすれば、この先だということか』


『たぶん、そう、ですの。ただ、ジェリケーンの気配などは、よくわかりませんの。封印が解かれていないのは確かなのですけど……』


 このロトロイツに近い上空を通ったのも確かなのだろう。なにせあちこちの家々から奥の方に見える大聖堂まで、屋根瓦がところどころ剥落しているのが見える。

 それだけなら経年劣化とも思えるが、祭の最中なのに屋根に登って作業をする職人たちの姿が認められるあたり、急な出来事だったのは想像に難くない。

 ただ、クオルの物言いにはそれ以外にも何か含むところが感じられた。


『なにか気がかりが?』


『ゼフ様、確認なのですけど、ヴォルガルーパーは、近しい血筋の者のみを次代の契約者としていたんですのよね?』


『そうだな。先王には子供がなく、幾代かさかのぼって枝分かれした血筋のはずの現公王でも、不適格だったそうだ』


 故に候補者があのドグサレビッチしかいなかったというのが、トメルギアでの騒動の発端だ。

 おそらくトメルギアの典礼官たちというのは、そういった封印の真実を伝承、秘匿する存在だったのだろう。

 契約者なくば邪神の封印が解ける、だがあの傾国ビッチを公王にすれば確実に国が亡ぶ、そんな究極の二択に振り回された典礼官たちの苦悩が偲ばれる。鎖国していたがゆえに帝国滅亡と封印の欠損を知らぬまま死んだのも、幸と見るべきか不幸と見るべきか。


『ヴィスティーグお兄様、それにあの魔族、ハーヴィエイといったですの? その言うことが確かならば、ダムザードはランフィス大公領全土を媒介として、己を延命して契約し続けていたはずですの』


『確かに、言われてみればそうだな、聖風の民も、ジェリケーンの前で祈っていただけで、ジェリケーンと直接接触したわけではないし――ちょっと待て。ではジェリケーンは、今契約者がいない状態なのか!?』


 セトがジェリケーンを制御していたのでてっきり何とかしたのかと思っていたが、考えてみればヴォルガルーパーとて、セルシアを契約者にラグナロクが操作していたのだ。

 すでに亡骸同然だった風の大公、ダムザード・ランフィスの肉体が、魔の森から切り離されたうえで、契約者としての機能を保っていられるかは疑問だ。というか、聖域が吹き飛んだ際に一緒に消し飛んだ可能性の方が高い。


『……となると、放っておけばジェリケーンの封印はおのずと機能しなくなる、ということか』


 自己修復、自己進化、自己増殖の三大理論を搭載した悪魔のロボがゼフィルカイザーのメモリをよぎる。


(あれも適切な生体ユニットがないとまともに動かん代物だったな。しかもこっちのは、血統に依存していると)


 自分が自己修復と自己進化を実演してしまったことをバックグラウンドに追いやりつつ、目の前の問題に改めて目を向ける。トメルギアで先王が死んでから公都での戦いまで、少なくともその間は猶予期間とみていいはずだ。実際にどの程度かは測りかねるが。

 ゼフィルカイザーの考えを読んだように、咳を伴なっての補足が入った。


『けほっ……トメルギアで、先王が死んだのが、確か三月の頭くらいです。そんで公都でドンパチやったのが六月の半ばだから、三か月ちょいで、けほっ、こほっ』


『ちょ、大丈夫かパトやん。ほら、温かいやつやで』


『そんなに経つのか。考えてみたらもう十三月だしな』


 この世界、一年は371日で、一週間が七日なのは同じだが、四週間で一月で、十三か月と一週間で一年となる。


(とはいえ、あまり気にする暇も必要もなかったからなあ。赤道越したり砂漠うろついたりしてたせいで、季節感もあんまなかったし)


 ゼフィルカイザー(OSは日本産)としては、四季がないとそのあたりの感覚がどうしてもあいまいになってしまうのだ。

 最も、変化がなかったわけではない。旅に出た当初、アウェルが十四歳、セルシアが十六歳、パトラネリゼが十二歳だったのが、一つずつ年を重ねた。


(年を食うだの取るだの言わずに済む若さよ……というか俺はいくつ扱いになるんだ? 前世持越しだと二十七だが、転生したんだし一歳未満か? そもそもこっちの世界とだと一年の日数も違うし――ではなくてだな)


 脱線しつつあった思考を元に戻す。


『ともあれ、今後どうすべきか』


『もしあの戦の後のことがこの国に伝承されているのでしたら、水の――ああ、四大公がその後どうしたかがわかるかもしれませんの』


 モニターに即座に表示した×マークを見て、即座に言い回しを変えるクオル。つくづくどこでどうやって見ているのか。


『クオル様は知らぬのかえ?』


『クオルは邪神を封じると同時に眠りについてしまったので、あの後、マスターや四大公がどうしたのか知りませんの、ベーレハイテンの。

 ……だから、この国がどうしてこうなのかも、クオルにはわかりませんの』


 クオルの気が引けたぼやき。それは、町並みを行き交う雑踏に向けられていた。




 行き交う人々は旧帝都に比べれば雑多ではない。向こうと違い、衣服の意匠が共通しているせいもあるのだが、それはおまけにすぎない。


『正直、ムーやアゼリから聞いたときには嘘だろとしか思えなかったけどなー。

 もぐもぐ……しっかし、芋と肉と酒だけだとさすがに飽きてくるな』


『ウチの髪はツッコミ入れられて、構成材質なかみにツッコミ入れんとか、よーわからんわ。自分で言うのもなんやけど絶対人間違うで、ウチ。

 ぽりぽり……これビミョーやなぁ』


『クエッ、クエエッ』


 料理の単調さに飽きてきたアウェルと、出店で買ったからくり仕掛けの味にケチをつけるツトリン、そして地べたに置かれた干し魚を食らうペンギン。

 彼らもまた、雑踏の歪さに表情を曇らせていた。

 行き交う人々は、その身なりで貧富の差がある程度透けて見える。それはまあ、普通のことだ。

 だが、整った身なりの者は一様に二足二腕で、毛皮や甲殻、特徴的な耳や角といった形質を備えていない。

 逆に貧しい身なりの者は大概、衣服の面積が極端に少なく、獣や虫などの形質をなにがしか備えている。

 それだけでも十分異常なのに、ゼフィルカイザーの感覚で言う、いわゆる人間の姿をしたものは、獣人、亜人の姿をしたものを煙たいものでも見るようにしており、亜人らはそれに険のある視線を返している、となれば、祭りの喧騒の賑やかしさも歪に見えようものだ。

 その光景に、ゼフィルカイザーの思考回路がカリカリと音を立て、冷却機構がうなりを上げる。ただでさえパトラネリゼやジェリケーンの件でハングしそうなのに、これだとブルースクリーン表示に陥りそうだ。


(とーとー出て来たよ、外見からくる差別的価値観)


 創作物だと、来訪先の調査をろくにせずに行ってカルチャーショックを食らうまでがお決まりだが、あいにくゼフィルカイザーはそこまで間は抜けていない。

 聖地巡礼やイベント参加などで事前チェックをするのは常識でありマナーである。まして、銭の猟犬(ワンコルダー)の末期の言葉など、前フリは多数あったのだ。調べるのは当然だ。

 故にわかっていたことではあるが、こうして実態と直面すると、やはり面くらうというものだ。


(まー、ロボットアニメにおいて、差別やそれに基づいた対立は基本ガジェットだけどさー。戦争やってるならメインテーマだったりするし)


 宇宙移民者と地球在留者や、遺伝子調整人と非調整人、地球人と異星人や、地球人内の民族間の云々、果てには男と女など。

 この場合で頭をよぎるのは磁石の力で合体するというのが触れ込みで、実際発売した超合金にもそのギミックが積みこまれたロボット作品の一つ、それに出てきた敵の異星人だ。


(角のあるやつが偉い、ないやつは奴隷だっけか。この場合逆だけどさあ。

 しっかし、そりゃ俺も最初は外見の差別とかあるんじゃとか一瞬心配したよ? 一瞬心配したけどさあ)


 本当に一瞬のことだった。もっと具体的に言えば、アウェルらの故郷を出て、パトラネリゼの故郷ミグノンに着くまでの間のみだ。

 活気あふれるミグノンの往来を行き交う、雑多な、あまりにも雑多な形質の人々を見て、さらに形質の遺伝の法則性の無さを見て、この雑多さで差別を定着させるほうが困難だと考えたのだ。


(ギモアさんちだっけか。人間とリザードマンからワードッグが生まれるような世界観で外見差別してどーすんだ。

 おまけに肌の色に関しては無頓着というのが、また)


 形状は人間でも、青かったり緑だったりグレーだったり紫だったりと、どこの宇宙人ですかと言わんばかりの肌の色の者もいる。前世の地球史が肌の色で悲惨な歴史を生み出してきただけに、ジェネレーターに落ちない。


『……世の中、変わった風習があるもんじゃのぅ』


『何言ってんだ。オレらが帝国行ってどんだけ驚いたと思ってんだ』


『ちゅーても、ウチが子供んころの帝都ほどギスった感じもせんけどなぁ。

 ちゅうかゼッフィー、エルやん。ほら、ウチら帝都出てからなんべんか襲われたやん? そん中に、村ごと敵だらけやったトコがあったやんか』


『ああ、あれは大変だったな。オクテット殿が現れなければどうなっていたことやら』


 大魔動杯が終わり、帝都を後にした一行は、ロトロイツのものと思われる刺客に次々と襲われた。

 疲れ果てた一行が立ち寄った、砂の大陸南沿岸の漁村。宿の食事に何か盛られていることにセルシアが感づいたのを皮切りに、村人が一斉に襲い掛かってきたのだ。

 ハッスル丸を迎えに来たオクテットが、忍法で村人を一度に拘束してのけねば、どうなっていたことか。


『でもあの村の人ら、そう形質偏っとったっけ?』


『言われてみれば……どうだっけか、ゼフィルカイザー?』


『今呼び出す――偏ってるな。三割くらい魚介系だぞ』


 つまるところ差別対象が混ざっているわけだが、このロトロイツのようにいがみ合っている様子はなかった。

(大体、それまで普通に暮らしていたところに差別モリモリの宗教の布教なんてできるもんなのか?

 それに、衛兵はツトリンやリュイウルミナを気遣っている風だったし、旧守派がどうのと言っていたし。

 加えて、ハーヴィエイと取引していた件もあり……これは、なぁ)

 ロトロイツがキナ臭いのはわかっていたが、ロトロイツの内部自体も相当きな臭い様子だ。


(砂の大陸の三大勢力はまだ心が躍ったが、こっちはなんかこう、すでに伏魔殿めいた臭いがするというか)


 ロボット物における組織はクリーンなものからダークなものまでさまざまだが、ここまでもろに見えているようで、その実何も見えていないというのはかなり恐ろしい。


『とにかくあまり長居はしたくないな』


『そりゃそうだ。アニキはどう――って、あれ、アニキ?』


 アウェルがあたりを見回すが、銀髪の長身の姿はどこにも見当たらない。そして、薄紅色の髪も見当たらなかった。

次回は2/23掲載です

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