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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第二十八話 恐怖! 魔の森の怪奇が探検隊を襲う! 秘境に住まう原住民とは!?
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「ギャーッ!?」


 森の中、絶叫と共に閃いた斬撃が、土中から飛び出た黒ずんだエルフを真っ二つにする。と、思いきや背後から襲ってきた白いエルフ。返す刀で切りつけこちらも両断――したかと思ったら、唐竹割になったはずの切れ目から、一回り小さくなったエルフが飛び出してきた。


「ぬがっ!?」


 流石に狼狽するセルシアだったが、横から幅広の蛮刀、その剣の平が叩き付けられ、白いエルフが粉々になった。


「油断だな、セルシア殿。というか本当に苦手なのだな」


「るっさいわよトカゲ女。あーもう、こいつらも食えないし。気配がする分だけエルフモドキのほうがナンボかマシだわね」


 ぼやきながら先頭を並んで歩く、蛮族の女剣士と半竜の女騎士。言葉は荒いが、そこには昨日までの刺々しさは見当たらない。その姿に、後ろを行く虎面の男や鈍色の少女はぽかんと口を開けていた。


「トラさんの気持ちもまあわかりますよ。なんであの二人仲良くなってるんですか、ゼフさん」


『黒っぽいほうは断面も黒いしゴボウエルフとして、あっちの白いのは……タマネギ、いや、ラッキョエルフか?

 まあ、さっき相手にしていた冬虫夏草エルフに寄生された魔物どもに比べればまだマシか。

 というか、なんなんだ神獣カイコって。神を手に入れたはずの完全家畜が何故神号を得てるんだ』


「エルフの品種名つけるのに夢中になるのやめてもらえませんか、ゼフさん。ていうか」


 小声になりながら、前の操縦席のアウェルが放つ気配に身震いするパトラネリゼ。


「じー……」


「シア姉を見るエル兄の目がすごく怖いんですけど。なんかこう、今までにない凄みがあるというか――しかもシア姉はシア姉で、視線に気づいてる節がありますし」


 時折ちらちらとゼフィルカイザーのカメラアイに視線をやるセルシアは、頬がわずかに赤く気恥ずかしげだ。おかげでエルフの奇襲に反応が遅れ、悲鳴を上げる羽目になっている。


「それに、あっちはあっちでどういうことなんですか」


 下の方に視線をやる。そこにはウヨルキと共に、三人の聖風の民の戦士がいた。彼らの里だったという遺跡への案内役だ。

 そして森の魔物に刺されようがかじられようが溶解液をかけられようが平気なツトリンと、機道魔法のおかげで生身でもそれなりに動けているトーラーがいる。

 問題は他の二名。一方は森の状況にまるでそぐわない、蛍色の姫君の姿だ。今歩いている道なき道が、徐々に勾配になっているせいもあるだろう。肩で息をし、汗に裾を濡らしながら歩いている。

 スカートから伸びる足は、これまで転んだり葉や枝でひっかいたせいであちこちに傷ができていた。道中、両手のマニピュレーターを超す襲撃を受けていることを思えば、むしろ軽傷なほうだろう。


「なあ、リュイル? シングに頼んで乗せてもらうか、里に残ってたほうがよかったんじゃないか?」


「ぜーっ、ぜーっ……何を、言うて、おるのじゃ。足手まといなら、見捨てていいと、言うたのは、お主じゃえ、暴虎」


「キミー、無理はよくないよー?」


 などと言うのは、もう一方の場違い、ルルニィだ。同じくミニスカート姿ながら、こちらは特に傷ついた様子もない。軽い足取りで進んでいくが、スカートが跳ねても何故かパンツがギリギリ見えない。


「うるっ、さい、わ。朕を、誰と心得――」


 ルルニィの手が風を切ると、何かがリュイウルミナの真横に走り、蛍色の髪が一房、瘴気の中に舞った。同時に呻き声。リュイウルミナが恐る恐る振り向けば、巨大な芋虫の頭に小刀が突き刺さっていた。


「ほら、危ないよー」


「き、貴様……ッ」


 歯噛みするリュイウルミナだったが、それ以上食い下がることなく、前を向いて歩きだした。


「あの皇女さん、なんであんなにムキになってるんですか?」


『さあな』


「……ゼフさん、実は知ってるでしょ」


『私の記録には何も残っていない』


 つくづくロボット三原則を無視したロボットである。

 大体予想はつくが、言及するつもりは全くない。何せアウェルも当事者で、向かう先にはおそらく魔族、トメルギアのケースから推察するに、下手をすれば四天王が待ち構えているのだ。

 機体性能と操縦者のメンタルが直結している機体で、操縦者に何らかのアクシデントがあると大概トラブルの元になる。ロボットアニメのお約束だし、ゼフィルカイザー自身、そのせいで何度か危機に陥っている。

 まして(たぶん)恋愛沙汰である。それを引き起こした状態で、四天王に挑む――撃墜される未来しか見えない。むしろ、


『? どうかしたのか、ゼフィルカイザー?』


 振り返られたことをいぶかしがるシング。このロケーションだと、むしろシング(アニキ)の命が危うい気がしてならない。


(まあ、気を付けるか。私にしても、ダチ公とABAYOするつもりはまだないんでな。フラグは隠し要素取得だけで充分なんだよ……!!)


 隠している時点でフラグがより強固なものになっている気がしないでもないが、リュイウルミナはあの性分だ。わざわざ自分の恥を晒そうとはしないだろう。


「はぁ、まあいいですけど……にしてもルルニィさんも、結構戦えるんですね」


 伊達や酔狂で魔の森まで入り込んできたというわけではないのだろう。襲ってきた虫や獣を、投げナイフで一撃必殺している。その戦いぶりは堂に入っていた。

 またも襲ってきた人間サイズのノミに、手を振るい――だがノミは無傷だった。


「あれ? あ、ナイフ切れてたよ」


『何をやってるんだ、君は……!!』


 ルルニィの体にノミの口が突き刺さる、そのほんの一歩手前で、鋭く光る刃がノミを斬り裂いた。ミカボシの小太刀によるものだ。


「あ、イケメンさん、ありがとねー」


『ありがとねー、じゃない……!! なんで里で待っていなかったんだ!?』


「えー? そりゃ、冒険者として名を上げたいし、なによりイケメンさんともっと一緒にいたいし。

 イケメンさん的には、自分はありなのかな? ありだよね? 夕べも、付き合ってくれたし」


『具合が悪い、風に当たりたいと言っていたから護衛しただけだろう。誤解を招くような表現をしないでくれ』


 ミカボシの視線がルルニィを、次いで先頭の方から飛んできた殺気の源泉を見やる。その源泉はと言えば、舌打ちし、かと思えば他の視線に気づいてもどかしげに視線を泳がせ、再度エルフの襲撃を受けていた。


「この状況、少女的にはテンションあがってくるんですけど」


 などとニヤつくパトラネリゼだが、ゼフィルカイザーはといえば甘酸っぱ苦い感じの絶妙な居心地の悪さに潤滑系が軋む思いだ。


『セルシア殿が調子を狂わされるとは、あの女子おなご、なかなかやりよるでござるな』


『戻ったか、ハッスル丸』


『いやいや、貴殿らが追いついてきたんでござるよ。拙者は待っておっただけゆえ』


 木の上から降りてきた影鯱丸。唐突に声をかけられても何のアラートも出なくなったのは、慣れの問題か、それとも今の空気だと助かる気がするからか。


『それでどうだった』


『この丘を越えれば、おそらく目的地に相違ないでござる。カシラ殿、そうでござるな?』


 ハッスル丸が話を振ったのは、戦士たちの中でも特に大柄な男、聖風の民の若頭だ。


「おウ。そのはずダ。けド、オレらだけでハここまで来ルことモ難しかっタ。感謝スル」


『まだまだにござる。いよいよここが正念場、といったところでござるか、と。

 してゼフ殿、この森について一つ、違和感がござる。実のところ拙者、森に入ってよりずっと、地脈を読んでおるんでござるがな?』


「何かおかしいところでもあったんですか?」


『左様。この森は、森と砂漠の境界あたりから、ずっと地脈が歪められているのでござる』


 流石に何も聞いていなかったわけではないのだろう。今の物言いに引っかかりを覚えたアウェルが、割って入ってくる。


「ん? ちょっとまった。られて、ってことは……人為的なもんってことか?」


『そうでござる。なんというか、地脈は本来乱雑な網目模様のごとく走っておるものなんでござるが、この森は蜘蛛の巣がごとく整えられ、中心へと魔力を送るようになってござる。

 事実、地脈のツボに当たる箇所にそのための要石が置かれてござった。

 そして、その巣の中心がこの先にござる』


「じゃあ、トメルギアん時みたいに魔族が……いや、でも魔の森って大昔からあったんだよな?」


『地脈は最早今の流れで定着してしまい、要石は役割を終えてござった。百年や二百年でこうはならんでござるよ』


「魔法文明のころにあった、という記録はなかったですね。帝都やアーモニアで読み漁った分には、ベーレハイテンが国号を帝国に改めた時には既に存在していたとか。ええと、今から253年前ですね」


 と、パトラネリゼが具体的な数字を出してきた。

『考えてみれば、魔法文明が滅んだのは数百年前、としか聞いていないのだが、実際には何百年前なのだ?』

「少なくとも帝国やトメルギア公国ができる前でしょうけど、それ以上は。今言ったのだって、帝国歴から計算したものですし。

 それに、トメルギアの公国歴に比べると信憑性が高いですけど、帝国歴も割とあやふやなところが多くてですね。大きいところだと帝国歴180年の継承権争いにおける――」


『歴史の話はまた今度にしろ。

 とにかくそうなると、魔の森自体が人為的にできたもの、ということになるな。その上、地脈を使って大地の魔力をかき集めている、か』


 加えて聖風の民の話を思い出す。彼らを守り、また閉じ込めてきたという聖風の壁。発生源があったと思しき、彼らの聖域。


『……それと関係あるかはわからないですけど、いろいろ思い出した分、クオルもいくつか、不可解なことがありますの』


 セルシアの腰、鞘に納められ押し黙っていたクオルが、懐疑の声を上げた。


「なによ。ていうか、いっつもそれくらい真面目にしてらんないの?」


『蛮族に言われたくはないですの――コホン。

 四体の大魔動機は、そのメインコアにクオルの力を宿し、待機状態を保つことで封印の要として機能する、そのような術式が組まれているはずですの。

 でも待機状態を保つためには、大魔動機と契約する者が必要になるんですの』


「――――ぇ」


「? セルシア?」


 ずっとセルシアを見ていたアウェルだけが気づいた。今、ほんの一瞬、セルシアの意識が飛んでいたことに。他に気づいた様子の者はいない。クオルも気づいていないらしく、そのまま話を続ける。


『けど、聖風の民よ。聖域とやらには、誰も入れなかったんですのよね?』


「オオ。族長が変わる時ダけ、えらイ奴らデ風の虎に祈リを捧ゲるが、開けることノできナい扉の前でだっタ」


『契約の更新は、メインコアに直接接触しなければならないはずですの……なのに今まで封印が保たれてきた……この地の地脈が捻じ曲げられているのだとしたら、ダムザードは何をやっていったんですの』


『ダムザード、というのは』


「――――ダムザード・ランフィス?」


 ゼフィルカイザーの問いに返したのは、クオルではなく、機内からだった。名を口にしたパトラネリゼはどこか放心しているように見え、一拍置いてから、首を傾げた。


「……あれ? ええと、何の話でしたっけ?」


『小娘。風の大公家の家名は伝わっていないと言ってなかったですの? その貴女が、何故ランフィスの名を知っているですの』


「え? 私、なんか言いましたっけ?」


 どうやら本当に、今しがたの自分の言動を覚えていないらしい。


(帝都についたあたりからどうにも様子がおかしかったが……)



「ひょっとしたら、私もシア姉みたいにややこしい生まれだったりするのかもしれませんねえ」



 以前彼女が冗談めかして言っていたことだが、ここまで来ると何かの複線にしか思えない。


(偶然仲間になったはずのメンバーが、実は因縁ガッツリってのは、話のお約束だが……騎士殿に頼んで、エンホー殿を訪ねてもらう必要があるかもしれんな)


 どの道今の状況では、森の外とは通信が繋がらないので、この件は後回しだ。


『とにかく、大魔動機と魔の森それ自体に、何か関係があるのかもしれない、ということだな』


『ですの』


 と、言っている間に、丘の上までたどり着く。そこから先の盆地が、一望できた。


「オオ……!!」


「カシラ、これがアタイたちのフルサトなのカ?」


「そうダ。お前は小さかったカラ覚えてないカ」


 これまでの話を総括するに、聖風の内側の地脈は歪んでいなかったのだろう。森の瘴気が盆地へと緩やかに流れ込んでいる。

 瘴気に蝕まれ立ち枯れした木々が、かつてこの辺り一帯が魔の森とは異なる、通常の植生だったことを物語っている。

 エコーやレーダーの反応からして、そもそも盆地自体、風食の結果出来上がったもののようだ。


『……この魔力の波動、間違いないですの。

 ここは風の大公、ランフィスの治める地。そしてあそこに、風の大魔動機ジェリケーンが眠ってますの』


 クオルのいうあそこがどこか、説明されずともわかる。盆地の中央に、エラ・ハイテン大闘技場もかくやという巨大な建造物がそびえている。




「すっかり変わってしまっタが、まタ、ここニ帰ってこれタ。あんたラのおかゲだ」


 盆地を下りながら、若頭がしみじみと言う。確かに道中の魔物の密度は常軌を逸していた。エルフは正直マシなほうで、魔動機でも苦戦するレベルの巨大な魔物がウジャウジャしていた。

 これを、今の弱り切った聖風の民が何とかしようというのは、それこそ巨大ロボットの軍勢に生身で突っ込むのと同義だろう。


『我々も道案内してもらい助かった。

 そしてここからが本題なのだが、あの巨大な建造物が、諸君らの聖域ということでいいんだな?』


「そうダ。オレたちノ里は、聖域の周りニあっタ。今は……里も聖域も、木で、埋もれているガ」


 外縁部は立ち枯れの木が並ぶばかりなのだが、中心近くには、魔の森の樹木とも異なる、どこか艶めかしさを感じさせる色艶の木々が多い茂り、聖域や廃屋を呑みこんでいた。

 ゼフィルカイザーも見覚えがある。エルフのなる木だ。品種改良に勤しんでいるのは確定と見ていいだろう。


『……む? あれは、魔動機のコアか? にしては、割れているものもあるが』


 ふと気になり、カメラアイを向ける。球体の、魔晶石の塊が、そこかしこに転がっていた。球体を保っているものもあるが、大半は割れている。


「あア、あれハ浮き玉ダ」


『浮き玉?』


「魔力を注ぐト、浮くんダ」


「ほう、どれどれ。加減して――お、本当だ」


 トーラーが警戒した様子もなく触れると、魔晶石の塊がふわりと浮きあがった。


「たぶんあれですよ。飛行艇の出力機かなんかじゃないですか?」


『船殻がああして残っていたのだから、浮かせたり飛ばせたりするためのものも残っている、ということか……これをつけたら、飛行戦闘が楽にならんかなあ』


 ぼやくゼフィルカイザー。重力制御とブースターでそこそこ戦えはするが、エネルギー管理が面倒なのだ。もし新たなエネルギーである魔力を用いれるのなら、そうした苦労が一発で解決する。

 だが、今はそれは本題ではない。エルフのなる木に飲まれた聖域を改めて睨むと、クオルが疑問の声を上げた。


『……しかし、謎ですの。感じた限り、ジェリケーンは待機状態で、未だに封印の要として機能してますの。封印を解くだけならば、契約者を殺害し、次の契約者が現れるのを防ぐか、大魔動機自体を破壊すれば事足りるはずですのに。

 ハーヴィエイとかいう賊は、本当に魔族なんですの?』


「確かバイドロットの奴、魔界のことなんかどうでもいいとか言ってたよな。ここにいる奴も、そういう奴なんじゃねえかな?」


『つまりエルフを養殖し、地元民に嫌がらせをしていると。森の外で増えている新手のエルフや、リ・ミレニアに協力していたのもその一環だとすれば、筋は通るな』


「大魔動機自体が目的と言うことはないのか? 奪い、自分の力にしようという感じで」


 トーラーが手を上げる。トーラーも帝都決戦の折、大魔動機フォッシルパイダーの力を目の当たりにしているが故だろう。だが、クオルは否定した。


『その心配はいりませんの。ヴィスティーグお兄様が、邪神の眷属に身を許すのは考え難いですの』


「ん? どうしてそこでヴィスティーグが出てくるんだ?」


『大魔動機を待機状態で維持するためには契約者が必要ですの。けど、実際に起動するためには、加えて四大公家の旗機たる魔動機か、精霊機が必要となりますの』


「ああ、そうなのか。そういやアークミットも、ベーレハイテン家伝の精霊機で大蜘蛛を動かしてたか」


『ランフィスの旗機のうち、魔動機であったラングールはあの戦いで失われたはずですの。なので、ヴィスティーグお兄様がいなければ、ジェリケーンを起動することは――』


『――――待て』


 機体出力が低下する一方、思考回路は一瞬でオーバーヒート近い温度を叩きだす。ゼフィルカイザーだけではない。アウェルもパトラネリゼもハッスル丸も、トメルギア公都での出来事を知る者は全員凍り付いている。例外はセルシアだけだ。捕らわれの身だったせいか、それともよくわかってないのか。


『記憶を失っていたにしても、思い出したならなぜもっと早く言わなかった』


 平静を保つよう努めたはずだが、語調にどうにも険があったのだろう、クオルが答えにくそうに柄をくねらせる。


『え? ゼフ様、フラムフェーダーを倒したとおっしゃってたですの。フラムリューゲルの大お兄様が魔族に屈するわけがないですし、フェーダーが魔族の手に落ちたのでは――』



『違う。フラムフェーダーと戦ったのは、それとは別件だ。大魔動機を操っていたのは、バイドロットの災霊機ファントムライザー、ラグナロクだ』



『――――え』


 今度はクオルが、言葉を失った。

 クオルとて、目覚めてから一行が何をしてきたのか――主にゼフィルカイザーの活躍譚だが――は聞いてきたが、皆もそれを事細かに説明してきたわけではない。

 その齟齬が、ここまで致命的な何かに蓋をしたままにしてきていた。


『どういう、ことですの。たとえクオルでも、大魔動機を起動させることは不可能なはずですのに、それを、魔族の用いる機体が……?』


(単純に考えれば、魔族が持つ魔法技術が人間より上で、ハッキングして操作していた、というあたりなんだろうが)


 果たして本当にそうなのか。先ほどのパトラネリゼのうわごとといい。ゼフィルカイザーの長年ロボット物を見てきた直感が、それだけではないのではと告げている。


(別にここまでの旅が無駄だったってことはないんだが、大魔動杯はこの件とはあまり関係なかったからな。

 魔法文明滅亡のときに何があったのか、これについて、未だにわかっていないことが多すぎる)


 初めて戦った時、ガルデリオンは言っていたではないか。エグゼディを、始まりの魔動機だと。本当に最初の魔動機だとして、何故それを魔族が使っているのか。

 勇者伝説には、邪神は突如現れたとされていた。だが実際には、この世界の文明の黎明のころから、邪神の眷属とは戦っていた。

 その文明を与え、信仰の対象となったと思われる古代神、左上にて輝く者――この機体ボディを、かつて操っていた何者か。何故、今の世では忘れ去られているのか。


(よっぽどのことがあった、そう思っといたほうがいいだろうな)


 思いながら、アウェルの見ているものへとカメラアイを向ける。厳密には、セルシアが腰に差している聖剣へと。

 享年27歳童貞のゼフィルカイザーだが、目を覚まして以降、クオルの様子がどことなくおかしいことには流石に気づいている。いや、昨晩のは別の意味でおかしかったが、そうではなく。

 思えば、トメルギアの公王機、フラムリューゲルも何があったのか口にするのを憚っていた。今の世を生きる者に、語り難い何かがあったのだ。


(人それを、黒歴史という)


 今や後ろ暗い、忘れ去りたい恥ずかしい過去やその物証を指すスラングとして定着した単語だが、元々はロボットアニメで作り出された言葉だ。

 そんなことに考えを巡らすうちに、聖域の手前までやってきた。


「でかいな。帝都の大闘技場並みで……けど、建築様式は大分違うな」


「詳しく見てみたいですね。ちょっと降ろしてもらえますか、ゼフさん」


『見たところ動く者はいないようだが……気をつけろよ?』


 膝を着いてパトラネリゼを降ろしつつ、改めて聖域に見入る。

 飾り気のなかった大闘技場と異なり、こちらの巨大建造物は装飾が施されていた。ゼフィルカイザーの感覚で言えば、中華風のそれが近いだろうか。細やかな部分は長年の風化や今なお浸食するエルフの木によって削り取られているが、それでも魔法文明のころのよすがを感じさせる。

 魔法文明の遺跡らしく、魔動機サイズの大きく空いた入口は、先に明かりは見えず、まるで奈落に通じているようにも見えた。


『しかし、盆地を降りてくる間、何の妨害もなかったでござるな。エルフ共が襲撃してくることもないでござる。まあ、とはいえ』


「上にも下にもエルフが……!!」


「ちょっと落ち着きーや、セッちゃん」


 セルシアが青ざめながら視線を上下させている。上のエルフのなる木には、いまにも落ちてきそうなたわわに実ったエルフたち。下は下で、マンドラゴラよろしく生えた、人の髪のようなもの。恐らく根菜っぽいエルフだちだろう。


「とにかく、元凶をシメてデカブツにこいつをぶっ刺して、さっさと帰るわよ」


 この辺りのエルフの巣窟っぷりに余程嫌気が差しているのだろう、皆を先導しようとするセルシアだったが、止める声があった。


『それは困るな、セルシア』


「は? なに言ってるのよ、シング――」


 振り返るセルシア。セルシアだけではない。誰もが、殿をしていたミカボシに目をやり――当のミカボシが、慌てて背後を振り向いた。そこにいる、声の主を。

 黒くくすんだ景色の中にあってなお黒い、黒金の騎士甲冑を纏う、鋼の巨躯の姿。瘴気の風の中、マントを揺らめかせながら、漆黒の剣を構える骨董魔動機アンティーク・マジカライザー


『ッ……お前は、アーモニアの時の!?』


 小太刀を抜き、対峙する黒武者ミカボシ

 そう、疑念と言えば、まずこれがあったのだ。黒騎士ではないかという容疑のある男、シング・トライセル。だが、シングが今対峙している相手は、まさにシングの正体ではないかと思われる男の駆る機体だ。

 兜には補修痕。かつて戦った折に刻み付けた損傷が、あの屈辱を忘れていないと物語っていた。

 宿敵を前にした感情の昂りに、O-エンジンセミドライブの認証が下りる。アウェルが、その名を叫んだ。


「スカし野郎、それに、エグゼディ!!」


『久方ぶりだな、アウェル。そして、ゼフィルカイザーと言ったか』

 大魔動機を前に姿を現し、ミカボシと対峙するエグゼディ。

 馬鹿な、ガルデリオンとシングは同一人物ではなかったのか!?


 混乱する情報、状況、そんな中風の大魔動機が、そして風の四天王機がその猛威を振るう!

 荒れ狂う嵐の中で、ゼフィルカイザー達が見たものとは……!?



 次回、転生機ゼフィルカイザー


 第二十九話


 嵐の中でかg(ry



「ガル君をたぶらかす勇者は、自分が品定めしてあげないとねー」



 次回もお楽しみに!



 次回は1/21掲載です

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