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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第二十七話 ゼフィルカイザーの帰還
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027-006

 アサルトライフルの斉射に削られるプライチェットの大鉈。だが、砕ける前に鉈が再生する。

 切れ味は不明だが、その重量感はゼフィルカイザーを砕くに十分すぎる。

 避けるには間に合わず、受けるには得物が足りない。アサルトライフルはあくまで銃火器で、近接戦闘用ではないからだ。

 なお、格闘戦にも用いれるようにできないかとアウェルとツトリンに尋ねたところ――



「ほほう、クソ重い魔動機殴りつけてもひしゃげんような銃身をこさえろと? お客さん、無理言うたらあきまへん。

 いやーウチの銃をポンポン放り投げてくれるだけあるわ、ゼッフィーは言うことが違うなぁ」


「ツトリン、ひしゃげてる、鋼材ひしゃげてるから」



 このようにキレられた。ゼフィルカイザーにベタボレと公言してはばからないツトリンだが、どうも相当腹に据えかねていたらしい。

 ロボットアニメでは銃と剣を兼ね備えた武器は割とメジャーだし、バズーカで殴り合ったりするのも日常茶飯事なのだが、生憎この世界はそこまで無茶が効かないのだ。


『ち、ならば――』


 両腕を振りかぶり、左右から鋏のごとく大鉈が襲い掛かる。だが紫の粒子光が壁となって鋼のアギトを阻んだ。


『お、お、なんだこりゃ!? 押し切れねえな、面白ぇ……!!』


「そりゃこっちのセリフだ、あんたなんで吹っ飛ばねえんだ!?」


 紫のフェノメナ粒子の斥力は見ての通り、最重量級と言っていいヌールゼックを吹き飛ばせるほどだ。だと言うのに、プライチェットはその力に耐えている。

 何故、と問うまでもなく、ゼフィルカイザーは見切っていた。プライチェットの両足が、霊鎧装ではなく金属の脚甲に覆われている。


『――足裏か!?』


『小僧じゃねえ方か、御明察だ!!』


 プライチェットが鉈を引き、再度、今度はオーバースイングで右からの薙ぎ。だが紫の粒子光に今度は跳ね返され――その勢いそのままに、左からの薙ぎが来た。

 プライチェットが軸にしている左足、そこから金属の杭が地面に深々と突き立ち、機体を独楽の様に回しているのだ。

 左が弾かれれば右、右が弾かれれば左と、絶え間なく続く斬撃に、鉈と障壁が徐々に軋み――


『ちいっ、限界か!!』


 障壁が、鉈と相打ちになるように引き裂かれる。ひとまず間合いをと慌ててバックステップしたゼフィルカイザーに、プライチェットは容赦なく追撃してきた。

 だが向こうは丸腰。ならばと拳を引き絞り、ブレーキをかけながらのカウンターがプライチェットの腹に突き刺さる。

 しかし、返ってきたのは敵を穿った手ごたえではなく、アラートメッセージだった。


【右手にダメージが発生しています】


「なっ……今のゼフィルカイザーなら、霊鎧装エレメイルも殴り飛ばせるはずじゃあ」


『霊鎧装ならなぁ!?』


『この重さ、手ごたえ……追加装甲か!!』


『然り』


 ゼフィルカイザーのセンサーは、魔力の塊である精霊機は凝縮した力場として認識する。だが、プライチェットはそれに加えて多量の金属反応を纏っていた。


(ッ……最初殴り飛ばされてすぐ復帰しなかったのは、倒れたふりをして鎧を形成していたのか)


 鋼色の霊鎧装の目が、よく見れば初見とほんのわずかに違う。霊鎧装に紛れ、練った鋼をさらしの様に巻いているのだ。


『皇帝機をノしたテメェが霊鎧装ぶち抜く手を持ってるのは当然だろ。

 なら、霊鎧装の上に鎧を着込むまでよ。当然――胴巻きだけじゃねえぜ、お返しだ!!』


 ゼフィルカイザーの顔面に拳が突き刺さる。これも霊鎧装とは違う、鋼の重さと硬さを備えていた。


『がっ……!!』


【未確認の関節部にダメージ】


「っ、大丈夫かゼフィルカイザー!?」


『この程度は、な……ふっ!!』


 砕けたフェイスマスクから、割れてぐらつく歯状の顎部パーツをパージする。


『ははは、まるで人間みてぇだな、つくづくおもしれえ機体だ!!』


(こっちもロボットの身でこんな真似するハメになるとは思ってなかったわ!!)


 内心で毒づきつつ、改めて敵を評価する。

 鎌斧の精霊機というが、その本質は製鉄、錬鉄、鍛鉄の機道魔法を用いる鍛冶の精霊機。

 派手な攻撃手段こそないが、霊鎧装と通常装甲を併用することによる防御力はある意味皇帝機にも比肩しうる。

 その上、この状況だ。四方に転がる無人の魔動機。既に手下も逃げ去っており、脅威となり得ない、当初はそう判断したが――


『手下はわざと逃がしたな』


『おおよ。俺の手駒どもはそうそう補充が効かねえんでな。んで、お前みたいな強敵相手なら、こいつらも盾より材料にした方が都合がいいって寸法よ』


 リ・ミレニアに属していただけあり、ダブアルの配下は魔力も高いのだろう。その損失を避けつつ、武器防具の素材、つまりは弾薬代わりの機体を放置させる。

 おそらく装甲もプライチェットならば再生成が可能なのだろう。ダブアル一味の機体の装甲が妙に改造されていたのは、もとよりプライチェットが素材として用い、戦闘後に打ち直していたからだ。


「操縦の腕は立つ、魔力もある、頭もキレてセコい手も使う、か。

 ジャッカルのおっさんとムーを足したような感じか」


(精霊機使いに限らず、今まで相対してきた手合いと比べれば機体も乗り手も格別に突出した能力があるわけでもない。

 その分バランスが良く、手堅く勝ちを取りに来るが故にやり辛い)


 ぼやくアウェルと分析するゼフィルカイザーを尻目に、プライチェットはさらに大鉈を生成しつつ、啖呵を切り返してくる。


『セコいだ? 知的と言え、知的と』


『これも兵法也。死地に飛び込んだ己の不明を呪え』


『なるほど、道理だ――ならば』


 再度突撃しようとするプライチェットめがけ、ミサイルが飛翔し、炸裂した。

 中距離ゆえに爆風がゼフィルカイザーをも襲うが、ゼフィルカイザーは構わずミサイルをつるべ撃ちする。


「あわわわ……まま、町が……!!」


 それまでひたすらあっけにとられていたイルノイルが、目の前の光景に度肝を抜かれ絶句する。


『安心しろお嬢さん。市街地戦に備え、威力は落としてある』


「いやそーいう問題じゃないと思うぞ。本当に周りに人いないんだろうな?」


 確認する間にきっちり全弾撃ち終えた。煙が風に流れるが、しかしそこにプライチェットの機影はない。それを見て、イルノイルが破顔した。


「や、やったの!?」


 町を支配する精霊機使いが、機体ごと跡形もなく消し飛んだことにイルノイルは喜び、


「んなわけないよな」


『その通り』


 そう考えるほど、ゼフィルカイザーもアウェルも、もう初心ではない。機体をひるがえしながら障壁を展開。紫の粒子光に当たったボロボロの鉈が、弾き飛ばされた。

 カメラアイが、建物の上に立つ鋼色の機体を認識する。だが、鋼の追加走行は跡形もなく、鋼色の霊鎧装はひび割れていた。


『がっ、は……テメェ、一体なんなんだ、そいつは!?』


「なにって、ミサイルだけど?」


『何故我を害せしめる!?』


『そりゃ、魔力込みだからな』


 今のゼフィルカイザーは神剣を取りこんだことにより、常に膨大な魔力を生み出し続けている。その影響を受けたゼフィルカイザーの生成物は、自然と魔力を帯びていた。

 故に、ただのミサイルや弾丸も霊鎧装に通じるのだ。無論限界はあるが。


「……で、まだやるか? そっちの機体、言っちゃあなんだけど遠距離攻撃の手段が乏しいだろ。こっちはたっぷりあるぞ?」


 アサルトライフルのマガジンを交換しながら、アウェルが警告する。二機の間合いはプライチェットにとって絶望的だ。

 だが――


『るっせえ。キレた。もうブチ切れた。殺す、てめえらバラバラに切り刻んでやる……!! 精霊形態エレメンタライズ!!』


 ダブアルの怒号と共に魔力が膨れ上がり、一気に霊鎧装を修復させたプライチェットはそのままの勢いで変貌した。

 背側にあったスタビライザーが展開し八本腕を成す。だがプライチェットはそのまま倒れ込み、腕で体を支えつつ、今度は脚を展開させた。


『やはりカマキリか!?』


「いや、違う……サイズパイダーだ!」


 以前トメルギアで戦ったことのある魔物だ。蜘蛛の下半身にカマキリの上半身、テールスタビライザーだった部位のの角張った先端に一本戦の視覚素子が灯る様は、カマキリよりはナナフシっぽくもある。


『多脚型のブレオン機ということか!? だが、それだけでこの間合いを――』


機道奥義ライザーアーツ――ミラージュサイズ!!』


 言い切る前に、鋼と蒼の蟷螂蜘蛛が両の大鎌を振るい――軌道上にあった街並みが、音もなく両断された。


『なっ……!?』


『もう一度言う。テメェらは殺す。この町に住んでる奴らも諸共にな!!』


 激情と共に、蜘蛛が跳ねた。砕けた建物の上、不安定な足場を多脚の有利でもって駆け回る。ゼフィルカイザーがアサルトライフルで狙いをつけるが、引き金が引けない。


「あの野郎、人が住んでる方を盾に……!!」


『とっとと撃てよ!! 俺に刻まれるか、お前に撃たれるかの違いでしかねえんだからなあ!!』


 さらに鎌が振るわれ、慌てて飛びのいた地面に線が走る。その延長線にあった魔動機も、装甲からミュースリル、内部フレームまでがぱっくりとした切断面をのぞかせた。その光景に、イルノイルの顔から血の気が失せる。


「あ、あ……町が……!!」


「ッ、リ・ミレニアの連中はこれだから」


 かつて戦い、帝都を滅ぼしかけた皇女を思い返してか、アウェルが歯噛みする。


「ミサイルは!?」


『全弾使い尽くした後だ、すぐに補充しきれんし――』


 最速で出来上がった一発を、狙いをつけて発射した。だがミサイルは猛スピードで不規則に走り回るプライチェットを捉えきれずに、その間に不可視の斬撃によって撃墜された。


『ごらんのとおり、効かん。さっきのつるべ打ちで仕留めきれたと思った私のミスだ』


『ヒャハハハハ!! 俺をナメやがった報いだ!!』


 狂気じみた哄笑とともに、不可視の斬撃が次々と走る。

 周囲の建物が次々に斬り裂かれ、崩れた建物を足場に、或いは遮蔽物にしながらプライチェットがゼフィルカイザーを両断せんと迫ってくる。


「てえか、どういう機道奥義だ。滅茶苦茶な射程と斬れ味で、しかも見えもしないって」


『ああ、それなら大体見当はついている』


 さらりと、なんとも落ち着き払ってゼフィルカイザーは告げる。粒子バリアを展開しているとはいえ、周囲に斬撃の嵐が吹き荒れているというのにだ。


『はっはぁ!? 虚勢も大概にしろや――』


『鋼糸だろう? 錬鉄の能力でもって、金属の強度を保ったまま極細に加工して振り回している』


『ッ……!?』


 ゼフィルカイザーのセンサーは捕えていた。プライチェットの両の大鎌が振るわれるたび、力場を伴う極細の金属反応が走っているのを。


『何故察した!?』


『この手のスパスパ切れる能力と言えば、カマイタチか鋼糸と相場が決まっている』


 無論他にも類型はあるが、プライチェットの機道魔法の応用だとすれば一つしかない。


『ついでに言えばキレたのもフリだな。あの機道奥義ではこちらのバリアを突破できんと見て、あえて周囲を巻き添えにしてこちらを焦らせようとしている』


 事実、ミラージュサイズはゼフィルカイザーの周囲を切り刻んではいても、ゼフィルカイザー本体はおろか、バリアにも接触しようとしていない。


「あー、なんかヒャッハーしてる割には狙いが的確だと思ったらそういう」


 アウェルの間抜けな感想に、荒れ狂うように駆け回っていたプライチェットがぴたりと制止した。

 だが動きの代わりに、今はその身に、その大鎌に、魔力を荒れ狂わせていた。


『テメェ……どこまで見透かしてやがるってんだ?』


「ていうかゼフィルカイザー、なんで気づいた?」


 先ほどの哄笑が余興に見えるほどの、濃密な殺意。それを前にして、しかし白の機体はやはり平然としていた。


『お前の方がわかるんじゃあないのか? 本気の殺意というのは――』


「あんなもんじゃないよな。それからすりゃ、今の方がよっぽど殺る気出てるし」


 殺されかけるどころかほぼ死んた経験があるだけに、しみじみと呟くアウェル。


「……で、バリアはどんだけ張り続けられる?」


『まだ余裕はある。が――それは正義のロボットらしくはないな』


「ならどうする?」


『斬り伏せる』


「つっても、剣抜きながらバリア張るのは無理だろ? なんか策が――あるんだよな?

 なら、任せた!!」


【O-エンジン トライアルドライブ】


 ゼフィルカイザーの右腕が展開し、青い焔が迸る。纏う粒子も金色の輝きを帯びていく。

 粒子を散らしながら、ゼフィルカイザーは右手を左手の平に添えた。そこから軋みをあげて剣の柄が、刀身が生えてくる。


『好機……!!』


『おおよ!! 俺をナメやがった報いだ、機体ごと細切れになりやがれ……!!』


 その隙を見逃すことなく、プライチェットは機道奥義を仕掛けた。それも、先ほどまでの大げさな陽動とは格が違う。

 両の大鎌が五枚ずつに展開する。五指のごとくなった十刃が、不可視の斬撃を繰り出した。


機道奥義ライザーアーツ十刀流、縦横十閃プロセッサー!!』


 音速を超えて迫る十本の鋼糸は、一様に振るわれた十の大鎌に反してそれぞれが有機的とすら言える軌道を描いている。

 無論、それが見えるのは余程魔力感知に長けた者か人外の五感を持つ蛮族か、でなければチートじみたセンサー類を持つロボットのみ。

 そしてそのロボットも、この技を受ければみじん切りになるのみだろう、ダブアルもプライチェットも、後部座席で震えるイルノイルもそう確信し――


「斬り払うには間に合わないよなー、どうすんだろ」


 搭乗者は呑気に構え――ゼフィルカイザーの全身を、十の斬撃が襲った。




 ゼフィルカイザーは微動だにしない。白と黒、それに赤で彩られた機体の全身には、直線曲線が合わせて十本、刻まれている。

 ダブアルは勝利を確信した。次の瞬間には、あの機体は崩れ落ちる。この技を受けた機体は、いずれもそうなった。そう、ほくそ笑み――


『――超痛い』


 そんなぼやきと共に。


『やられたからにはやり返す、倍返しだ……!!』


 一瞬で斬撃の痕が消え失せた白の機体は、左腕から機神の剣を抜き放った。




「あわ、わ……い、生きて、る?」


 イルノイルは、機体と己の命が無事なことに首をかしげる。アウェルも安堵したように息を吐き、尋ねた。


「で、どうやったんだよ」


『超痛い』


「いーから」


『なに、簡単だ。あちらさんの鋼糸を、食った』


 ゼフィルカイザーには装甲から内部構造まで、ナノマシンが含有されている。それによって周囲から材質を吸収し、自己修復を行うのだ。

 そしてゼフィルカイザーはトライアルドライブの出力すべてをナノマシンの活性化につぎ込み――極細の鋼糸を、刻まれる前に分解吸収したのだ。


『細すぎたから吸収も楽だったな。これが指程度の太さだったら打ち据えられていただろう。

 超痛かったがな……!!』


 全身の装甲を深いところで5㎝近くまで斬り込まれたゼフィルカイザーは修復された歯で歯ぎしりした。


(むしろプラモ制作時にモールドを彫ったり追加してたとき、プラモ達はこんな痛みを負っていたのか……私はなんと罪深いことを……!!)


 そしてどうでもいいことで懺悔していた。


「ちなみに魔力は」


『今の私なら霊鎧装も砕けるんだから大丈夫だろうと』


「……一歩間違ったらやっぱりバラバラにされてたんじゃないか、それ?」


『そんなことはいい。忘れるなこの痛み……!! 倍返しだ!!』


「しつこい、何回言うんだよ」


 ゼフィルカイザーは押し切って、機神剣片手に駆け出す。


『なん、なんなんだテメェは!? ちぃっ!!』


 プライチェットが両の五連鎌を振るうたびに斬撃が迸るが、ゼフィルカイザーは切り払おうともしない。

 不可視の斬撃が何度も直撃するが、致命傷になる前に鋼糸が分解吸収され、攻撃の体を成さない。


『痛っ、づっ、あだぁっ!?』


「うるさい気が散る、すぐ治る程度なんだからちょっと黙ってろ!!」


 足を止めたままに機道奥義を乱発するプライチェット。ゼフィルカイザーが目前まで迫り焦ったのか、振り下ろした五指が地面に突き刺さり、動きを止める。


「っ、このまま――」


『なんてなぁ!! ただ足を止めてるだけだと思ってたか!!』


 鎌の両手が、地面に埋まっていたものを引き起こした。脚を止めている間に作った、否、鍛え上げたのだろう、剣とも鉈とも鎌とも斧ともつかない巨大な鉄塊が、そこにあった。

 得物だけではない。蟷螂蜘蛛の纏う霊鎧装が、重厚な鋼に覆われていく。

 こう見れば、すべてが策略だったとわかる。不可視の斬撃を飛ばして自軍の魔動機を斬り刻んだのも、その場所を隠蔽するため。

 動揺したように見えたのも、足を止めるための振りだ。舌戦に付き合うふりをして、バリアごと貫けるだけの得物を作り上げていたのだ。


機道奥義ライザーアーツ一刀流、唐竹割ランバーアックス!! 砕け散れぇえええっ!!』


 迫る、重量感満載の鎌斧を前に、しかしゼフィルカイザーは、操縦するアウェルは、機神剣の握りを強くし、


「甘い、そんなもんで、薪が割れるか……!!」


 木こりの息子(アウェル)の一声と共に二機は交錯し――プライチェットの追加装甲が、蟷螂の斧ごと砕け散った。


『が――ギ』


『まだダウンすんじゃねえ、この野郎、こいつ、まだ俺は――』


 機体が悲鳴を上げる。それでもなおゼフィルカイザーの背めがけ機首を返すダブアルは、確かに一級の精霊機使いなのだろう。

 だが――


「半端だ」


 アウェルは、ぽつりとつぶやいた。ゼフィルカイザーも同感だ。


(性能は確かで、攻防一体で遠近両用、しかし万能ゆえに半端だ)


 実力を伴い策も弄する。確かにやり辛く、強敵だ。しかし、それだけだ。

 圧倒的な実力というには気迫が足らず、策というには己の技量と魔力頼み。それも、万能と呼べるほど全方位に通じている風でもない。

 町を支配下に置くにしても、邪魔者を排して劇毒で脅すという手が、ダブアル・ダンブルの器量の程を示している。

 故に――電光石火で機首を返し、今一度交錯する間に機神剣を振り抜いたゼフィルカイザーのコックピットで、


「……なんであんた、そんなに焦ってるんだよ。もっと自信持てばいいだろ」


 解け行くプライチェットを振り返ることなく、アウェルは誰となく呟いた。


「……で、大丈夫か、姉ちゃん? 終わったぞ――って、泡吹いてる!?」


『流石にショックが強かったようだな。で、ついでにダブアルも生きているようだぞ』


 解けて霧散したプライチェット。外装の破片が舞い散る中、両断された胴体の痛みをこらえながら、蟷螂の複眼がゼフィルカイザーを睨み上げていた。

 アウェルとゼフィルカイザーは驚愕した。立ったダブアルにではない。その後ろに立つ姿にだ。


「勝った、つもりか……!? 俺は、まだやれる、まだ……!!」


「いや、お前の負けだろ」


『この魔力――虎の兄か!?』


 背後からの、そしてノイズ混じりのプライチェットの言葉に、ダブアルが顔を引きつらせた。


「よぉ、久々だな、鎌斧の。んで、お前は何人様に迷惑かけて――」


「ッ!! テメェ!!」


 ダブアルが動く。近場にあった鋭利な金属塊を手に取り、それこそ蟷螂のごとく背後へと斬りかかり――だが、それより早く振り向きざまに、顔面を掴み取られた。


「民草泣かす奴は、俺様の敵だ」


「るっせえ!! お前が、お前さえいなけりゃ俺が最強の――」


 ばちりと、赤い雷光が迸った。ダブアルの四肢から力が抜け、崩れ落ちる。

 そして改めて、男の姿が露わになった。虎面を被った男。以前と比べてどこか痩せこけたような印象がある。


「ま、今の俺様に偉そうな口叩く権利なんてないけどな――よ、久しぶりだな、アウェル、ゼフィルカイザー」


『久方ぶりである。壮健そうだな、二人とも』


 大陸最強の精霊機使い、トーラー・チャン。そして暴虎の精霊機、インカーリッジだった。

12/19掲載の007に続きます

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