026-011 第二章 完
影がほどけると、そこは見知らぬ場所だった。両側を砂の壁で覆われているあたり、沢の跡かなにかだろうか。
「む、ここは……帝都ではないようであるが。化け猫のお嬢?」
「あー疲れた、もーだめ、死ぬ、死なないけど。
あれよ、帝都の近場に丘があったじゃない、決戦の時に反乱軍が本陣敷いてた。あそこよ」
それだけ説明し、キティがへたり込む。ゼロビンとムーが慌てて坂を上っていく。そして、
「オレも――」
「無理はしないでくれ、兄者。我が、手を貸す」
ラクリヤに抱えられて、トーラーが続く。丘の上からは帝都が一望でき、大闘技場が今まさに崩れゆくところだった。
大闘技場の地上の構造が、砕けながら地下空間へと呑みこまれて陥没していく。
「……これが、帝国の最期であるか。なんとも無常である」
「これでよかったんだよ、おっさん。ラクリヤも、それにリュイルも」
帝国、魔力至上主義にふりまわされた者たちが思い思いに納得する一方、歯噛みしている者もいた。
「ひぃ、ひぃ、ひぃ……早いぞ、お前ら。む。ムー、どうしたのだ?」
「悔しくってさ。アウェルに勝つ前に、闘技場のほうが無くなってしまった」
「ああ……それは、確かにそうだな。私もあの闘技場の土を踏むことはなかったわけだ」
ぼやく中、崩れゆく大闘技場から一条の光が空へと昇っていく。その正体が何か、言うまでもない。
「……だけど、次は僕が勝つ。絶対にだ」
「いやいや、次は私もいるぞ、そう簡単に行くと思わないでもらおうか」
少年たちがかわす言葉を聞きながら、トーラーは寂しげながらも、穏やかな笑みを浮かべていた。
――――そして。
「戻ったのか。予備機まで呼び出されて驚いたぞ。九郎は……機体の中か」
物陰から姿を現した男。以前アウェルたちがメアドラ屋の前で出くわした、妙に雰囲気のある男だ。しかし、その表情はなぜか焦燥に駆られている。
キティの返事を待つこともなく機体によじ登り、首根のレバーを引く。頭部がスライドし開いたハッチから引きずり出された青い鳥は、文字通り息も絶え絶えだった。
「大丈夫か九郎、私がわかるか!? スーツもないのに無理をするから……!」
「あー、大丈夫大丈夫、昔はいっつもだったからな。それより ウィゼル、もっと苦く喋れ。耳が甘ったるくてしょうがない」
耳元で叫ぶ男、ウィゼルに胡乱げに返す九郎。その姿を見たディーの顔から血の気が引いた。
「あの様子、症状……まさか」
急いで駆け寄ったディーに、気づいた九郎が顔を上げる。瞳孔は細動して安定せず、息も不規則。あげく、
「おお、八百屋の姉ちゃんだったか。ノィルが世話になったな。で、なんだ? あんたが目に入ると、かゆくて仕方ないんだよ」
こんなセリフが出てくる始末。五感が混線しているとしか思えない。
こうした症状が出るのは、ディーに思い当たる節は一つしかない。
「まさかあなた、魔力酔い、いえ、魔力中毒? それも相当重度の……そんな体で戦ってたっていうの?」
「あら詳しいわね」
キティが感嘆するが、ディーの耳には入らない。
魔力酔い、あるいは魔力中毒。
人間誰しも、大なり小なり魔力があり、独自の波長を持っている。これと極端に相性が悪い魔力を受けると気分が悪くなり、重度になると心身に致命的な症状を引き起こすのだ。
だが、相性の良し悪し以外でも魔力中毒を引き起こす場合がある。体内の魔力に対して、外からの魔力が濃すぎる場合だ。
人間が魔力を使い果たすと死に至ると言われるのも、極端に魔力を使いすぎた結果、急性魔力中毒によって致命的な疾患を引き起こしてしまうためだ。
とはいえこれも、よほどの真似をして、自身の魔力生成に障害が出なければ起こらないものだ。
しかし、何故渡九郎が魔力中毒に陥るのか。
今日この男が乗っていた機体で、搭乗者の魔力を要するものはない、そのはずだ。
それ以前に、先ほどの地下ならまだしも、この辺りには濃淡をどうこう言えるほどの魔力も漂ってはいない。
そして、渡九郎から感じられる――否、ほぼ、感じ取れない魔力。考え得る可能性は一つしかない。ウィゼルが諦めたように解をよこす。
「お察しの通りだ。こいつは魔力が無さすぎて、備えがないと常に魔力中毒に陥ってしまう。対魔力スーツがないと、呼吸をすることもままならないんだ。
スーツを脱いでしばらくすると、こんなふうに五感が入れ替わって襲ってくるらしい」
「呼吸も何も、生きていられるのがおかしいわよ、こんなの。とにかく診るわ。私医者だから」
「しかしこいつに回復魔法などは――」
「大丈夫、安心して」
慣れた手並みで九郎を触診していくディー。だが、青い毛並みに隠された骨肉の感触と、その中にある異物感に触れるたびに、その表情が曇る。
そもそもこの空色の羽毛も、生来この色ではなかったはずだ。
苛立ちを露わに、片目で影絵の猫を睨み付けるディー。傾く西日の中、陰影を持たない女はそれこそ影のようにあやふやに笑っている。
「……魔力中毒だけじゃない。何をどうしたらこうなるの?」
「魔力増強のための投薬措置と、その副作用。あとは度重なる戦闘の負傷の治療のために内科外科とかなり強引な手も使ってね。詳細、聞きたい?」
「興味はあるけど、虫唾が走るし今はいいわ――ここね。じっとしてて」
取り出した針を、九郎の首筋に打ち込むディー。それだけで、九郎の息が収まってきた。目も徐々に安定してきている。
「お……なんか、すっとしたな。何したんだ?」
「針で苦痛や神経の乱れを和らげただけよ。治療したわけじゃないわ。なんとかするなら――」
「パパ、持って来たよ。ハトさんは――あれ、八百屋さんのお姉ちゃん?」
物陰から現れた少女。以前アウェル達と出会ったときにからまれていたあの少女だ。両手でなんというか、鳥皮の塊としか言いようがないものを引きずっている。
「なんでお姉ちゃんがいるの? どうして?」
「私は――」
帝都大正門。かつては帝国近衛の連隊が、今はリ・ミレニア玉兎派が本拠地としている場所だ。
数多くの魔動騎士が大闘技場に突撃したが、居残っている者も数多くいた。
ラクリヤとリュイウルミナに半ば脅され付き従ったのはほとんどが空手形の連中で、居残っているのは帝国軍からの生え抜きの魔動騎士たちがほとんどだ。
集団で見れば現在の帝都における最大戦力なのは間違いない。念のため、居残った魔動騎士たちは出撃準備を整えてはいたが、しかし頭となる者を欠いた彼らはどう動いたものか結論が出せずにいた。
もっとも、リオ・ドラグニクスのスペルブレイカーの影響でつい先ほどまで魔動機を動かすこともできなかったのだ。
「先ほどまでのは間違いなく帝都決戦の時の……下民どもを化石に変えていった、大魔動機の機道魔法に相違あるまい」
「しかし副長、それが途絶えたということは」
副長と呼ばれた壮年の魔動騎士は、若い魔動騎士の疑念に沈黙で答えた。
もし大魔動機のコアを再起動できるものがいるとすれば、リ・ミレニアが戴く皇女リュイウルミナと、つい先日その氏素性を晒したラクリヤ・イクサベルを置いて他にない。ならば、コアは奪取できたはずだ。
だがその機道魔法が発動していたということは、大闘技場で容易ならざる事態が進行していたということで、それが途絶えたということは――
実に簡単な話だ。如何に我儘なだけの童女だろうと、如何に裏切り者の血を引く半竜だろうと、魔力においてリ・ミレニアの誰より勝る二人であるには間違いない。
なれば恥を晒した甲斐はあったということだろう。悲願は叶った。そう確信した副長に、慌てた声がかかる。
「っ、副長あれを。皇女らについていった者です」
「なに――ッ、あの馬鹿、何をしている!? すぐさま取り押さえろ!!」
副長が檄を飛ばす。それも当然だ。ボロボロのヌールゼックは恐慌状態で走ってきたのだ。街並みや通行人の被害などお構いなしに。
ヌールゼックは他のヌールゼックにすぐさま取り押さえられ、中から乗り手が引きずり出された。
血走った目は焦点が合わず、全身の穴という穴から体液を垂らしながら震えている。
尋常の様子ではない。その姿を目にしてなお、副長は大闘技場で本当は何が起こったのか、その疑念にたどり着かなかった。だけに、
「ち、空手形どもはこれだから――何があった、その様はなんだ!?」
「――――れた」
「なに?」
「ころ、殺され、殺された……!! みんな、みんな……!! 仲間も、騎士どもも、ウサ公もみんな……!!」
「――――何を、言っている?」
被害が出たという話はまあ分かる。決勝で戦っていたのは、二機とも皇帝機を一度は倒してのけた相手だ。だが、今度は皇帝機だけでなく数もそろえた。
それにウサ公とは。リ・ミレニア帝国魔動騎士団において、兎といえば一人しかいない。その人物は、昨夜、軟禁していた部屋より姿をくらまし行方不明だ。
それが殺された、とは。この男は、一体何を言っているのか。
「彼の言葉は事実だ」
低く、それでいてよく通る声が、集結していた魔動騎士たちの耳朶を打った。
「貴殿は……ラームゼサル卿? 事実、とは、一体何をおっしゃって――」
「ルミラジー・ラビロニア殿は、戦死された。君たちが皇帝殺しと呼ぶ、あの鴉の手にかかってな。加え、フンフント・ワンコルダー殿も。
皇帝機も、あの白い機体に切り伏せられていた。おそらく生きては還れまい――伝説、伊達ではなかったということか」
「何を、何をおっしゃっておられる!? あの皇子と皇女、それにルミラジー様ほどの魔力の持ち主が、あのような魔力無き者どもにやられるなど――」
「人は魔力のみで決まるものではない」
「な――っ、ほざくなよ、小国の騎士ごときが」
副長が指図すると、集っていた魔動機たちが一様に武器をかかげる。
「ルミラジー様も何故このような男を連れてきたのか。まあいい、貴様ら、こうなれば我らの手で帝都を制するのみ――貴様、何がおかしい!?」
なおもアルカイックスマイルを浮かべるラームゼサルにいよいよ激昂する副長。だがラームゼサルは笑いを崩すことなく、ただ一言、口にした。
「――――機道奥義」
「? 気でも触れ」
最後まで口にする前に、突風と衝撃、遅れて轟音が響いた。広場に居並んでいた魔動機、その全てが一様に斬り裂かれ、倒れ伏していた。
損傷は大したものではない。だが、逆を言えば最小限の手傷でヌールゼックを含む魔動騎士団の精鋭に膝を折らせたことになる。なにより、敵手の機影はどこにも見当たらない。
曲がりなりにも魔動騎士団の本拠であり、ルミラジーが有事の際の結界を張ってもいる。姿を隠すような機道魔法を用いられても即座に露見するはずだ。
ならば。まさか、今の技は。
「なに。この程度はただの手品に過ぎんさ」
鷹揚に肩をすくめるラームゼサル。まさか口にしたとおり、この男が機道奥義を用いたとでも言うのか。機体すら用いずに。
「何が、目的だ」
「いやなに、帝国の再興を目指す憂国の士があたら散るのを見殺しにするわけにはいかなくてね。そんなことをしては、私がミュゼーリアに怒られてしまう」
「ミュゼーリア……? 第一皇女殿下と、何か縁でも?」
「縁もなにも、私の妻だ。とはいえ、ルミラジー殿しか知らなかったことだがね」
「ッ!?」
理解できたものは一部だが、その一部から話が伝わり、ざわめきが徐々に広がっていく。
「ならば皇女の婿というのは」
「血筋の上では従兄弟となる。ミュゼーリアはベーレハイテンでは近親婚も珍しくないと言っていたし、帝国再興に力を貸してほしいと頼まれてもいたしね。
だから別にそれはよかったのだが――どうにも、あの殿下を直に見て、しくじったかと言う気もしていたのだよ。
器量や気品、他にもいろいろとあるが――あのような娘では、息子を苦しめるだけだとね」
ラームゼサルの視線の先、大闘技場が地響きを伴って崩れ落ちていく。魔法文明以来の歴史を誇る大闘技場が、魔動騎士たちの誉れの場がその姿かたちを失っていく。
それが、魔動騎士たちへの止めとなった。
誰も彼もの心のうちに僅かながら疑念はこびりついていた。あの皇子と皇女に、果たしてあの二機を倒すことができるのか、と。
ありえないと、誰も彼もが思っていた。だって、それでは、魔力以外に勝敗を分ける優劣があることになってしまうではないか。
魔動騎士たちが呆然と見送る中――崩落の噴煙を、一条の光が斬り裂いた。それは一たび天へと上り、そこから暮れゆく夕日に向かって消えて行った。
その意味するところは誰にもわからない。ただ、魔動騎士たちにとっての何かが終わってしまったことは確かだった。
「……君たちは、これからどうする?」
「どうする、とは」
「これからの身の振り方だ。三大勢力は最早無い。この地にとどまっていても、旗印を失った君たちは細っていくだけだろう。
それともリ・ミレニアの旗を掲げた者としてアーモニアに身をよせるかな?」
「それは……」
不可能だ。帝国魔動騎士団をアーモニアから追いやったのはゼロビンなのだ。
追い払われるのはまだマシなほうで、最悪武装解除させられ農奴に混じって野良仕事をさせられかねない。
だが、他にどんな道があるのか。もはや再興する目もない帝国の名を振りかざして、大陸をさすらうのか。それでは冒険者などという気取った渡り者と何が違うのか。
「――――あるいは、海を渡るか」
「え?」
「帝国の継承権を持つ者はまだいる。そして私もまた力を欲している。
私はロトロイツを、トライリング教団を改革しようとしているのだが、何分手が足らなくてね。
君たちが与力となってくれるなら心強い」
「――――我らを、利用するつもりか」
「お互い様だと言っておこうか。だが、私が力をつければつけた分、帝国を真に再興する目は出てくる。
行く末は、我が息子を皇帝としてこちらに凱旋する、そんな目もあるやもしれない。
そしてそのために私に力を貸し続ける限り、君たちはベーレハイテン帝国再興を成さんとする帝国魔動騎士たちだ」
「――お見事ですな、ラームゼサル卿。ああも見事に彼奴らを乗せてしまうとは」
「なに。もとより、帝国の旗印にすがって張り子の矜持を繕っていた輩だ。ならば、新たにすがるものを用意してやればいい」
事もなげに口にするラームゼサルは、付き従う小男を見ようともせずに肩をすくめた。
「しかしラームゼサル卿の目論見を外してのけるとは、銭の猟犬とやら、知恵だけは回ったと見えますな。
されど流石は卿、犬ごときの二段も三段も上をいってのけるとは」
小男の言うとおりだ。
本来は、当初の話の通りリュイウルミナと息子を娶せる予定だったのだ。そうすればラームゼサルは皇帝の義父、話の流れ次第では、皇帝の父の座を手にできる。
しかしそうはならなかった。ワンコルダーが、鬼札を切ってきたからだ。盤面を文字通りひっくり返せる、どころか粉砕しかねない鬼札を。
「いや、やはり流石ですな、ラームゼサル卿。こうして敗残兵どもを手中に収めるなど、余人には出来ぬ所業です。まるで未来でも見えておるかのような――」
「道化芝居もいい加減にしろ」
「ひっ……し、失礼をば」
「未来なんぞ見える必要はない。この程度は、わかりきった結果だ」
「さ、流石で――して、御用は」
「大闘技場から飛び去った光を追え。その中の、赤い髪の娘を押さえろ」
「はは」
それだけ告げて、小男の姿が消え失せた。それを確認したラームゼサルは、やはり鷹揚に肩をすくめ――
「――当然だ。あの鴉が関わって、無事で済むはずもない」
淡々と事実を呟く。その表情に感情はない。
そう、未来など視える必要もない。なにせあの鴉が関わった時点で、他の全てが跡形もなく崩れ去るのは当然だ。帝国が滅んだ時のように。
だから獲れるものを獲る方向で動いたのだ。ラクリヤとリュイウルミナを自棄に走らせ、しつけの成っていない野良犬を切り捨て、飼い犬だけを手元に残す。
三大勢力による構図の崩れた砂の大陸は、これから乱世を迎えるだろう。大勢力を構築しうる器量はまだいない。
あえて言うなら一人いるが、あの虎は様々なものが折れている。脅威とはなり得ない。
或いはこれから出てくるやもしれないが、それだけの暇があれば先の言のように、帝国再興の楔を磨き上げるには十分だ。
「なにより、ベーレハイテンなどもはや用はない。その上が現れたのだからな。ならばそれを手中に収めるのみだ」
よぎるのは、光の聖剣を携えた薄紅色の髪の少女。ラームゼサルの顔に笑みが戻る。
だがそれはアルカイックスマイルには程遠い、獰猛な笑い。普段の穏やかさと相反するその貌は、しかしこの上なく様になっていた。
ラームゼサルの発する気に応じるように、背の剣が鍔鳴りする。
「お前も猛っているのか。それとも、兄弟が討たれたことを嘆いているのか――安心して待て。大陸どころではない。いずれ世界全てが私と貴様を知る。
楽しみにしておけ――極魔動機デュラスティンゼイ」
「私は、ロトロイツの王女、ディーズィリット・ロトロイツ」
「え、お姉ちゃん、お姫様なの?」
呑気に受け答えするノィルだが、他の三人は表情を変えた。ウィゼルは険しく、キティは猫目の虹彩を細め、そして鴉は不敵そうに眼を据える。
「……依頼か?」
落ち着いたとはいえ息は絶え絶えだ。だが、目の輝きが明らかに違う。
年若くも医者として多くの患者を看取ってきたディーにとって、ここまで死にそうな男は見たことがない。なのに何故だろうか、今のこの男が死ぬ気も、全くしないのだ。
「……やっぱり違うのね、貴方は。
アウェル君に頼もうかと思ったけど、あんな真っ直ぐな子に持ちかけるには血生臭いし」
「単に生き汚いだけだ。で、依頼は」
「簡単よ。あなたがかつて殺し損ねた、赤い鳥の紋章を背負った男。
トライリング教団の聖騎士団長、ラームゼサル・ヴェニトリーを、殺してほしい」
帝国崩壊の影で、かつて掛け違えた歯車がかみ合おうとしていた。
そして――――
――――それは、深く、暗いどこかにいた。
なにをしているわけでもない。光が指す上を、ただ見上げているだけだ。
手を伸ばそうとも、起き上りそこを目指そうともしない。まだ刻ではないからだ。
最初に開いたのは一瞬前だったか、随分昔だったか。光の指し込みが大きくなったのは、それよりは最近で、しかし随分と古いことだ。
待つのには慣れている。それはずっとそうしてきたからだ。
早くしてほしい。そうであるにこしたことはないからだ。
淀みを濁らせるモノに身をゆだねながら、それはずっと、上を見上げていた。
これにて第二章完結となります。ここまでのご愛読ありがとうございました。
続編についてはあらすじや活動報告でご連絡させていただきます。
私生活の都合で第三章は結構お時間いただくことになりそうですが、お待ちいただけると幸いです。




