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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第二十五話 反則(チート) 対 例外(イレギュラー)
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 ゼフィルカイザーは即座に動いた。左へと走りながら、右足のミサイル四発を斉射。二機の距離は、ミサイルの巡航速度からすれば無きに等しいものだ。

 しかし、モーターライザーは難なくそれをかわしてのける。最初に僅かに引いての急加速。上から見ればフックを描くようなその動作に、ゼフィルカイザーは既視感を禁じ得ない。


(ミサイルをかわす基本動作を、よくもまあ……だが……!!)


 その程度は予想の範囲内。織り込み済みだ。外れたはずのミサイルはそのまま大きく弧を描き、四方からモーターライザーへと迫る。初手の誘導はいわば囮。避けられることを見越しての二段階誘導こそが本命。

 否――マントをはためかせながら、右腕が武器の照準を合わせる。六本の砲身が束になった、それまでの銃火器とは比べ物にならない複雑さを持つ火砲。ツトリンの技術の集大成。ガトリング砲だ。

 だが、まったく未知の重火器を相手にしてもモーターライザーの機動には微塵の乱れもない。

 背後から迫るミサイルがその背を捕えるという刹那、ミサイルが唐突に炸裂した。そしてその爆圧でモーターライザーはさらに加速し、ガトリング砲の射線を逃れるように跳躍。情報からパイルバンカーを振りかぶり――パイルが、炸裂音と共に射出された。

 魔鉱石と魔晶石の混ざり合った魔剣の刀身を思わせるパイルは、しかし白の機体を捕えることはなかった。代わりに抉ったのは、ゼフィルカイザー右肩のミサイルポッドのアームだ。

 モーターライザーがジャンプした直後、まるでそれを読んでいたかのようにゼフィルカイザーは膝を折って身をかがめた。咄嗟でもかわせたかもしれないが、そうすれば膝が砕けていたやもしれない。

 ミサイルポッドが転がり落ちるのと、モーターライザーが着地するのは同時。その時には機体を切り返したゼフィルカイザーが、ガトリング砲の照準をモーターライザーに向けていた。


『着地狩りは、基本……!!』


 今度こそ、ガトリングガンが火を噴いた。




「ツトリン、あれを完成させたの?」


 暗く閉じられたどこかの室内。分厚い液晶画面の明かりに照らされる、闇よりもなお色濃い影絵の化け猫は、類を見ない機体が手にした銃火器に目を見張っていた。

 シキシマル工廠に置き去りにしてきた図面は一切違えず覚えている。その上で、キティ・グリーニンは驚きを隠せないでいる。


「置いてきた図面は、確か手回し式のままだったはずだけれど……片手で振り回してるわね。動力はどうなってるのかしらね」


 だが、驚いてこそいるものの、それが脅威になるとは欠片ほども思っていない。


「頑張ったみたいだけどね、ツトリン。悪いけど、そんなんじゃああいつは倒せないわよ」


 事実、着地の衝撃などなかったかのように再加速したモーターライザーはガトリング砲の斉射を容易く避けてみせる。

 この世界の誰も見たことがない連射速度で弾丸が吐き出される。有効射程で喰らい続ければ、ヌールゼックの装甲だろうとすぐに限界を迎え鉄屑と化すだろう。しかしそれも、喰らわなければ意味がない。

 モーターライザーの速度そのものはさほどのものではない。大会出場機の中で最速はおそらく小鷹丸だろうが、その最大速度の二割にも満たないだろう。

 だが、乗り手の技量は逆の意味で桁違いだ。不規則な緩急と機動によって、敵の照準を絶妙に掻い潜っている。かつて魔動機を駆っていた時のそれよりもはるかに滑らかに。


「キティちゃん、どう?」


「ノィル、どうしたの?」


「気になっちゃって。相手、あのお兄ちゃんなんだよね?」


 その少女は、以前アウェルがメアドラ屋の前で見た少女だ。飲み物を影絵の女に手渡すと、少女も画面を覗き込む。


「見てのとおりよ。機体の調整は完璧だもの、あいつが負けるはずないわよ」


「え……で、でも、これ……攻撃、当たってない?」


「――――なんですって?」


 慌てて画面を凝視するキティ。そこには、まばらながら機体のあちこちから火花を上げるスケアクロウの姿があった。




『こ、これは……"皇帝殺し"が、攻撃を受けている!?』


 愕然としたスマートの声は、しかし会場の誰もが感じていたことだ。

 無論、今までの試合とてスケアクロウは無傷だったわけではない。だが、それらは全て自損かそれに近い状況でのものだ。

 少なくとも今のように、継続してダメージを受け続けるなどという状況に陥ったことは全くなかった。


「見たところ直撃というわけじゃなさそうだが、どういうことなんだ?」


 観客席のシングも、理解しがたさに眉をひそめている。


「ツトリンのあの武器――」


「ガトリング砲な。ゼッフィーが勝手に呼んどったけど、ウチにちなんでくれたんやろか」


「その辺はいいですから。あれの連射性能のおかげってことなんですか?」


「半分はそやな。作るのにはえらい苦労したからなあ」


 ショットガンとライフルを仕上げてから、ずっと取り掛かっていた秘密兵器だ。

 なにより苦労したのが、動力を手回しではなく、モーターに切り替えたことだ。これによって図面通り組み上げるというわけにはいかなくなった。

 ゼフィルカイザーの作り出すモーターを分解し、大型化した高出力品をどうにか作り上げ、それを組み込めるようにいじり回し、そして電力供給ラインを仕込む。並行して弾丸を繋ぎ合わせた弾帯の製造器具まで作っていた。

 大会に入ってからはアウェルが疲労のために当てにできないことも少なくなく、ツトリンの負担はかつてないものになっていた。


「けどその成果と思えば大したことないて。オトコに格好つけさせたるんがいいオンナいうもんやでな」


「……それ、流行ってるの?」


 以前別人に同じことを言われたセルシアが何気なく呟くが、試合の音と歓声に紛れる。


「んで、あとはゼッフィーから直前に入った注文のおかげやな。ウチもちぃっとカチンと来たけど、結果オーライや」


「注文でござるか? ゼフ殿は一体何を?」


「簡単なことや。あのガトリング砲はな――」




「当たらないのに当たるってのは不思議な感覚だな……!!」


 操縦に両の手足を動かし続けながらも、アウェルはそう思わざるを得ない。

 ゼフィルカイザーのFCSとリンクしたガトリングガンは照準を出し続けている。だがその通りに狙っても、弾は全くその通りに飛ばず、てんでバラバラの方向に散ってゆく。そしてそのいくらかが、スケアクロウに当たっているのだ。


『言っただろう。当てようと思うな、と』


 この戦いにおいて、ゼフィルカイザーは数多くの策を立てた。だが、その基本骨子は今の一言に尽きる。もっと言うと、通じると思うな、だ。

 アウェルも流石にどうかと思った。相手を高く見積もりすぎていないか。さらにはアウェルや、何よりゼフィルカイザー自身を卑下しすぎていないか、と。

 だが、それが驕りに過ぎなかったと、初手で理解した。

 スケアクロウの性能そのものは、確かにゼフィルカイザーに及ぶべくもない。だというのに、二段構えのミサイルをきっちりと避けてのけた上に、反撃まで叩き込んできた。ゼフィルカイザーに言い含められていなかったらあれで終わっていたかもしれない。


「だからってこれはないだろ、ツトリンはなんか言ってなかったのか!?」


『はっ、私が耳元で囁いてやれば一発よ――すみません嘘です頭下げ倒しました!!』


 軽口をかわしながらも、アウェルの手足が休まることはない。右腕は引き金を引いたまま照準を続けている。そして足も、小刻みなジャンプをブースターで制御しながら闘技場を駆けまわっている。

 ゼフィルカイザーがガトリング砲に関して要求した注文は一つ。命中率を徹底して落とすことだ。銃職人ガンスミスにとってみれば、甚だ不名誉な注文だろう。

 だが、それが功を奏している。こちらの照準を読み切っているかのように駆け回るスケアクロウは、集弾性の低さに加えてゼフィルカイザーの機動のベクトルまで加わった弾の照準を予測しきれない。故に弾のいくらかを喰らってしまう。

 とは言えちまちま当たるだけではまともなダメージになりはしない。しかし、本命の狙いはそれではなく――


「――いける、背後!」


 絶妙の加減でバーニアが噴射されると、眼前十数mにスケアクロウの背面があった。

 当初の機動ではこうはいかなかっただろう。だが散発的に飛んでくる弾丸への対処のために、機動のふり幅が当初より大きくなっていたのだ。そこを突いた形だ。

 スケアクロウの防御力は、魔動機に比べれば鉄板と紙切れにも等しい。アウェルはそう見積もっていたし、戦闘中にゼフィルカイザーからもたらされた解析情報もそれを裏付けていた。おそらくゼフィルカイザーの拳一つで、この機動兵器は木端微塵になるだろう。だが。


『盾!』


「わかってる!」


 絶好の好機のはずが、ゼフィルカイザーは踏み込むどころか距離を保って左の盾を構えた。その盾に、衝撃と熱量が叩き付けられた。それ自体の威力は大したことはない。だが、盾で受けなければ視界を取られていたかもしれない。


『対ミサイルフレアの類か、よく読んでくる……!』


 熱と共に金属片が舞い散る。ミサイルの誘導機能をかく乱する兵器の類だ。初手のミサイルは、このフレアの熱と金属成分に騙されて目標より手前で炸裂したのだ。

 ゼフィルカイザーのミサイルはその気になれば全弾ゼフィルカイザーの意のままに操り、任意に炸裂させることもできる。だが、そんなことをすれば本体の管制に支障が出る。

 故にミサイルの識別機能に任せていたのだが、そこを突かれた形だ。だがおかげで、背面に何か仕込んでいるのは読めていた。そして、


『そのフレアはあとどれだけあるかな……!?』


 左肩のミサイルポッドから、ミサイルが全弾発射される。先ほどと同様の状況。だがゼフィルカイザーのガトリング砲は弾を吐き続けている。

 先ほど同様の避け方をすればガトリング砲の餌食になる――だが、ミサイルのうち半数が、二機の間で爆発した。ガトリング砲の弾丸に撃墜されたのだ。

 ゼフィルカイザーはその演算能力で、ガトリング砲の大体の射程範囲を見切っていた。だがそれはあちらも同じだったらしい。

 スケアクロウはあえて弾を受けやすいほうへと機体を向けることによって、ミサイルをゼフィルカイザーに撃墜させたのだ。

 だが残る四発が、軌跡を描いてスケアクロウへと迫る。スケアクロウは初手の焼き直しのようにこれを避けてのけるが、やはりミサイルは再度誘導してくる。そこにスケアクロウは、あろうことか再度その背をゼフィルカイザーへと向け、フレアを発射したのだ。


「な――」


 アウェルは驚愕した。スケアクロウのその対処と発想に。そして、己の友の予測能力に。

 フレアに誘導されミサイルがゼフィルカイザーへと突っ込んでくる。そしてミサイルはゼフィルカイザーに直撃し――推進剤を炎とまき散らしながら、脆く砕け散った。




 鋼鉄の機体の中、渡九郎は即座に両肩のポッドをパージ。次いで緊急離脱用噴射機構を作動させた。あの機体の装備を真似て搭載された両肩の補助機構。その右側が噴射し、機体をスライドさせる。

 その刹那の差で、弾丸が先ほどまでの座標を抉り取った。片方のポッドが穿たれ爆炎を上げ、破片と衝撃が機体を襲う。

 今回の敵の性能はかつて倒してきた中でも五指に入る。だが、相手の性能が上なのはいつものことだ。

 以前のように、苦痛に耐えずに済む分には楽になった。しかしまともな攻撃を一度でも食らえば確実に死ぬ。そういう意味ではどちらがマシなのか。

 しかし、今回の相手は実に奇妙だ。

 魔力以外の動力で動く機体。それはいい。自分も乗っている。

 魔力がろくにないのに、それを駆って戦っている。それもいい。自分もそうだった。

 だが、この戦い方は何だ。戦闘開始からここまで、必殺の機会は三度あった。しかし相手はそれを読んでいたように対処してのけた。しかもその手口。

 初手の誘導弾は、回避と切り返しの手際の良さから避けられることが前提。

 右手の多銃身式機関砲は、おそらく意図的に命中率を落としている。

 今の誘導弾に至っては、こちらが相手に誘導することを読んでいたかのように、中の炸薬を抜いていた。初めから、推進剤を目くらましにするつもりだったとしか思えない。

 かつての大戦で、九郎を侮る者は力を小出しに攻めてきた。侮らない者は初手から全力で攻めてきた。どちらも等しく殺してきたが。

 だが、この相手は今までとは決定的に違う。あえて言うなら――渡九郎とスケアクロウを、侮っていないからこそ、全力を出そうとしていないのだ。




【O-エンジン スタンバイ】


『トライアルなら行けるが――使わんぞ』


「わかってる。闘技場じゃ狭いし、それにガトリングと盾を放り投げるほうがヤバい……!!」


 皇帝機との戦いで、トライアルの出力でも闘技場では手狭であるとアウェルは悟っていた。ゼフィルカイザーの慣性制御とアウェルの腕なら御しきれなくはないが、そちらに注意を割いて立ち回れる相手でないのは最早明らかだ。

 それにフェノメナ粒子によるビーム兵器は、両手の手の平からしか使用できない。大規模な粒子展開はフルドライブでなければ不可能だし、それにしても操るのは両の手だ。


(つくづく最初に注文を間違えた……! 徒手武器と併用できるように手甲にでも仕込んどくべきだった!)


 となれば、腕の向きから照準を読まれ速射の効かないビームはガトリングほど役に立たない。スケアクロウの性能と渡九郎の腕なら、間違いなく避ける。そしてスケアクロウの防御力相手にビームの威力は必要ない。

 被弾によってスケアクロウの装甲は徐々に削られている。そして装甲の隙間からのぞくフレームにも。さらに――


『お、おおっと、ここでスケアクロウから火が上がった! いったいどういうことだ!?』


 スケアクロウ右肩の装甲にある配管が被弾し、そこから炎が上がっていた。急ごしらえなのか、その機構の部分だけ作りが若干荒い。


『ブースターを真似てつけたはいいが、推進剤の配管を機体内部に回せんかったと見えるな』


 そしてその対策も当然のようにしているらしい。右肩から上がった火はすぐに止まった。その間もガトリング砲の射撃を回避しつづけながら、徐々に距離を詰めてきている。


「くっそ……残弾は!?」


『残り三割――だが、確実に削っている……!!』


 強力無比なガトリング砲とて、弾丸が無尽蔵なはずもない。しかし無駄弾など一発もない。先ほどと同様にスケアクロウ左肩のバーニアが損壊。その上、聴覚センサーは少し前からわずかな軋みを捕えている。スケアクロウの挙動から推定して、

「膝に過負荷がかかってるっぽいな。追い立てて振り回した甲斐はあったってことか――ち」

 距離を詰めてきたスケアクロウは左腕の武器を構える。外見は小鷹丸相手に用いていた火炎放射器に近い。そこから発射されたものが、ゼフィルカイザーの盾に当たった。


「っ、まず――」


 反射的に盾を投げ捨てるアウェル。その盾が、二機の間で大爆発を起こした。

 今のはアウェルでもわかった。確かに盾は構えた。そして全弾盾で防げた。しかし、渡九郎のここまでの戦いぶりからして、容易く防がれるような攻撃をしてくるのか、と。

『吸着する爆弾かなにかか、いろいろとやってくる――なっ!?』

 ハンガーアームが寄越したライフルを手にしようとしたゼフィルカイザーだったが、その手が空ぶった。ライフルがそこにない。代わりに、カメラアイに映っていた。ワイヤーガンに絡め取られ、スケアクロウに奪い取られるライフルが。

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