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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第二十二話  大魔動杯、開催!
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022-001

 歓声巻き起こる闘技場に立つ者は、既に二体となっていた。

 一機は古式魔動機ロイヤーデン。フルークヘイムのランキングで14位に位置している。肩には所属クランのほか、リ・ミレニアに所属することを表すエンブレムが示されていた。

 対するは黒の武者。メグメル島の旗である三日月貝のエンブレムを刻んだ漆黒の魔動機だ。


『くっそ……! 骨董だってのに、どういう性能だ!?』


 狼狽するテンパライズ。黒武者の周囲には魔動機の残骸が九機、転がっていた。

 大魔動杯予選試合は約十機ごとによるバトルロイヤルだ。この試合において、ロイヤーデンはオッズ一番人気だった。

 同じ試合にはランク12位の古式魔動機カランガランがいたが、それは黒武者の後ろに倒れ伏している。カランガランの機道魔法は毒物合成という対魔物戦闘では極めて強力なものだが、魔動機相手には役に立たない。殺し合いならまだしも、本大会は意図的な殺しはご法度だ。

 対してロイヤーデンの機道魔法は触れた金属を磁石化するというものだ。一見して地味なものだが、全身金属の魔動機にとっては恐るべき機道魔法だ。さらに自機の磁力や極を操ることも可能なので、防御にも攻撃にも転用が可能。

 普段は一度触れて磁石化した相手に武器を投げつけるという戦法にて、ライザーズアリーナにおいては高い勝率をおさめている。だがこの戦いにおいてはわざわざ武器を投げる必要などない。なにせ磁石化した機体に、他の機体が勝手にへばりついてくるのだ。

 カランガランもデスクワークと猛烈に激突してそのまま機能停止した。

 そうして乱戦の中を駆け回り、粗方の機体を同士討ちさせたところで最後に残っていたのがあの黒の機体だ。

 最初は奴を磁石化してやれば、他の機体に押しつぶされるだろうと思った。だが、黒武者には一切の隙がなく、ロイヤーデンが踏み込むことを許さなかった。

 ならばと、既に倒れた機体を磁石化して投げつけてやった。選手の身内らしい観客からはブーイングが飛んできたが知ったことではない。だが、その全てを黒武者は受け止めてのけたのだ。

 そうして弾はあっという間に尽きた。黒武者の周囲に転がる魔動機はいずれも身動きすることなく停止している。ロイヤーデンの磁石化は触れれば発動する分、効果が短いのだ。

 投擲武器も使い果たし、残るは機体による肉弾と機道魔法のみという状況。


『ヘイヘイヘーイ!! どうしたんだ二機とも、動きが止まってるぜぇ!? どうですか、司会のトラさん!?』


『千日手というならむしろ面白いところなんだが、これはな……悪あがきもほどほどにしておいた方がいいと思うんだが』


 解説席からの声に、ロイヤーデンのほうの声に調子が戻る。


『はっ……そういうことか。てめえ、虚勢張ってるがそのナリだ、もう魔力も切れて動けやしねえんだろう? さっさとギブアップしたらどうだ、ああん?』


 対する黒武者は無言のまま、二刀を下げている。そのたたずまい、止水のごとし。その様に圧されたのか、あるいは痺れを切らしたのか。ロイヤーデンは、動いた。

 周囲にあれだけの魔動機が転がっている状況なら、一瞬でも触れて磁化させれば魔動機に押し固められ、そのまま決着だ。

 一撃どころか一撫でだ。そう、それで勝てるのだ――不可能だと、誰よりも本人が知っていたのだが。

 迫り来るロイヤーデンに黒武者も動いた。並みの魔動機からすれば大人と子供ほどもある体格差。そこから生み出される出力は、デスクワークは無論のこと、ヌールゼックすら比ではない。

 踏み出した時にはロイヤーデンを超える速度。さらに加速し、黒と黄の機影が交錯した。

 黒武者が刀を納めたのと、ロイヤーデンの両腕が転がり落ちたのは同時だった。ロイヤーデンの機道魔法は、敵に放つのならば両の手の平の発動体からでなくてはならない。故に――


『それまで。大魔動杯予選第三試合、勝者はメグメル島友の会所属機ミカボシ、操縦者シング・トライセル!』


 歓声というよりは怒号と共に、賭けに発行された機券が舞い散る。なにせ最低人気だった機体が勝ったのだ。大穴も大穴だろう。


『いやー、予想だにしてなかったですわ。オレっちも大損さ。

 トラさん、実際ンとこどうですか?』


『ロイヤーデンも悪くはなかった。実際、ミカボシがいなければあの機体の勝ちだっただろう。ただ、機道魔法に頼りすぎだったな。

 ミカボシのほうは――実践運用可能な骨董なんてもん自体、俺様も初めて見たからな。ただ、機体も操縦者も格が違う』


『そいつぁ、まさか十二神将クラスってことで?』


『かもしれんというだけだな。本戦に進めば化けの皮が剥がれるかもしれんし、断言はできないさ。

 とにかく、いい試合だったと言わせてもらおう』


 司会と解説の言を誰よりも実感してるのは、ロイヤーデンの操縦者自身だ。一対一で相対した時点で、己の敗北を悟ってしまった。それでも突っ込んだのは、ヤケになったのか一矢報いようとしたか、それともまだ勝利を信じていたか。

 ただ、この敗北に、一から鍛え直そうと考えるくらいの胆力が彼にはあった。

 だが、ロイヤーデンのコックピット内で彼は頭を振った。鍛え直したくはあるが、機体を手に入れるところから始めなければならない。なにせ、こうして負けたのだ。それなりに愛着の湧いたこの機体には、別れを告げねばならない。

 無念に思いながらも、彼は服についた徽章を外した。




「お疲れ様です、若! 流石っす! あ、どうぞタオルです!」


「ああ、すみません。ありがとうございます」


 タオルを受け取り、汗をぬぐいながらシング・トライセルは一息ついた。ここは闘技場の地下にあるガレージだ。とはいえ、そこにはミカボシの姿はない。既に格納したためだ。

 待ち構えていたのはたった一人。その一人が、感動も露わにシングに感想を告げる。


「いやー、凄まじかったっす。さすが黒騎士様っすね」


「ありがたいが、その肩書は禁句でたのみます。フナ()さん」


 シングが釘を刺すのは、魚頭の青年だ。フナ次といって歳は25か6あたり。メグメル島の出身者で、この冒険者クラン、メグメル島友の会の若手たちの取りまとめをしている。


「さんづけなんていいっすよ。しっかし、若が申し出てくれて助かったっすよ」


「俺としては無理矢理割り込んだようで悪いことをしたと思ったんだがな」


「いやいや、うちも出る出ないで結構頭抱えましたからねえ」


 メグメル島友の会。これはメグメル島の出身者で構成された冒険者クランだ。出身者とは言うが、当初は半ば口減らしの意味もあったらしい。だが、今では大陸情勢の情報窓口として、またメグメル島の流通の売り込み手段として大いに活躍している。

 この辺りは島民を手厚く守ろうとしていた先代キャプテンである鶴乃、そしてその薫陶を受け継いだ朱鷺江と、シングの母であるレフティナに鉄の経済観念を叩き込まれたメグメル島の幹部衆の合わせ技によるものだろう。


(母さん言ってたなあ、「ツルのやつは人情味ありすぎて一緒に沈んでくタイプだ」って。それからすりゃアイビスはまだ脇が締まってるほうか)


「若? ちょっと、若?」


「あ、すまない、フナ次さん。それで揉めたというのは?」


「やー、うちら、一応ハイラエラに拠点構えてるじゃないっすか。んで、ハイラエラ全体としてはこっちの情勢に不介入ってスタンスなんすよね」


「そうなのか。すると、問題はなかったのか?」


「そこはそれ、ハイラエラの商工会だって、こっちの情勢は気になりますからね。ハイラエラとしては不介入、あくまでメグメル島の、つまり大陸の外の勢力が殴り込みをかけるって形で納まったッす」


「難しい話だな。実際、三大勢力とやらをノしてしまっていいものなのか?」


「少々なら問題ないっす。俺らとしちゃ、島の宣伝になりゃ儲けもんっすよ。ハイラエラでの発言力もちっとは増すかもっすし。あ、あくまで少々っすよ。

 それに同じような考えで出てきてる連中は少なくないっすからね」


 この大会を取り巻く状況はかなり複雑だ。そのあたり、シングはゼフィルカイザーにいろいろと聞いていた。

 あのロボットは情勢を見る目は確かなようで、三大勢力の動向にもやたらと気をとがらせている。


(まあ、肝心な奴自身のことはさっぱりなんだがな。それに俺のことにも気づいている節があるし)


 会話の端々から、シングに一線を引いている部分があるのは確かだ。もっともそれはシングとて同じことだ。直接的な手段に及ばない以上、おそらく確証が得られていないのだとは思うが――なんにせよ、気を抜くわけにはいかない。


「……しかしだ。このクラン、本来の主力機はどうしたんです?」


 朱鷺江に聞いた話では、出身者でそれなりの手練れに成長した者がいる、という話だったのだが。


「その辺が助かったって話で。つうのも、三か月近く前っすかね。ハイラエラの近辺でもめ事が多発して、ハイラエラの支部に依頼が次々持ち込まれたんすよ。

 んで、解決のために走り回ってたら、最中に現れた魔動機にうちのが返り討ちにあっちまいましてねえ。

 機体は新物なんで修理に時間がかかるし、乗ってた奴も腕を折っちまいまして」


「それは災難だったな」

「や、折れたのが腕だけだったらよかったんすけど、よっぽどこっぴどくやられたのか、心まで折れちまってましてね。今も養生してる最中なんすわ」


「それはまた……」


 パトラネリゼから聞いたハイラエラへの策謀が動いていた時期だろう。メグメル島友の会も、その被害に遭ったということか。


「しかし、確かランカーとかいう奴だったのだろう? かなり腕は立つんじゃなかったのか?」


「いや、ランカーっつっても釣瓶つるべ組っすからねえ。若はおろか、さっきのロイヤーデンにもちぃっと及ばんですわ」


 フルークヘイムは、機関誌であるボのつく自由業で冒険者のランク付けを行っている。クラン単位から個人単位、業種別まで様々なのだが、ランカーといった場合は基本的に魔動機乗りのランキングの、紙面に掲載される50位までのことだ。

 そして釣瓶組とは、その下の方で出たり入ったりしている者を指す。ゼフィルカイザーなら、「ああ、エレベーター組のことか」と納得しただろう。

 大陸で活動する魔動機乗りの総数からすればそれでも大したものだが、上位に居座っている者と比べればやはり格が落ちるのだろう。


「ちなみに聞きたいんだが、あのランキングというのは何で査定しているんだ?」


「ヘイムからの報酬額と、あとライザーズアリーナでの対戦成績っすね。ただ若に限ったこっちゃないですけど、今回はランキングは当てになりそうにないんで」


「というと?」


「ランキング上位でも参加してない奴がいるってのもあるんすけど。

 この大会に際して、無名だったり、そもそも冒険者やってなかった奴まで参加してるらしいっす。なんで、ランキングに関わってなかった強豪が出てきてるんじゃないかって話もありまして」


「なるほどな。Bランクと思わせておいて実はSランクという奴か?」


「なんすかそれ?」


「母さんのヨタ話だよ」


 フナ次も、ああ、というように納得した顔をした。彼本人はほとんど面識はないはずだが、彼の母は先代キャプテンの側近だった。なので、いろいろと聞いているのだろう。


「まあ、とにかくお疲れ様でした。それじゃ本戦もお願いします。

 いやあ、今の試合、キャプテンにも見せてやりたかったっすね。きっと惚れ直しますぜ?」


「俺とあいつはそういうんじゃないですって。それじゃあ俺はちょっと出てくるんで」


 と、フナ次の顔が途端に不機嫌そうになった。


「またあの赤い髪のお嬢さんのとこで?」


「あ、ああ。なにか、問題が?」


「……若。俺らメグメル島の島民一同は、先代レフティナ様に受けた御恩は決して忘れてはいないっす。

 しかっしすね。我らのキャプテンを泣かすような真似をしたら、タダじゃおかないっすよ」


「いや、だからだな」


「いいっすね」


 釈明しようとしたが、シングはそれ以上言えなかった。フナ次の背後には、メグメル島全島民の圧力が垣間見えたのだ。




「まったく、昔からのこととはいえ……」


 メグメル島の人々は、シングと朱鷺江が結婚することをかねてから望んでいる。ああしたことはよくあることだ。


「関係強化とかそういうのが望みなのかもしれんが。

 別にそんなことをしなくても、魔王軍にとってメグメル島は良き同盟相手だし、切り捨てるようなことはしないというのに」


 むしろ、メグメル島に見捨てられて困るのは魔界、魔王軍のほうだ。あの痩せた土地において、メグメル島を介して手に入る食料は何をおいても貴重なものだ。それを打ち切られでもしたら、魔界は早晩干上がってしまう。

 ピュアフレンズの者を二代続けて水の四天王に任じてきたのは、母娘が揃ってテトラに選ばれたというだけでなく、メグメル島がそれだけ重要な相手だったからだ。

 そうした意味では、シングと朱鷺江が結ばれることは双方に多大なメリットをもたらすのだが、


「そもそもこういうのは当人同士の気持ちのほうが重要だろうに。アイビスの気持ちも考えろというのだ」


 一番考えてないのはこの朴念仁だろう。


「しかし、凄まじい賑わいだな」


 ぶつぶつと呟いていたシングは、雑踏を見渡して感嘆の息を漏らした。

 大魔動杯開催宣言までの半月ほどエラ・ハイテンに滞在していた。その際も大した賑わいだとは思っていたが、それでもメグメル島や、カーバインのそれに比べれば規模こそ大きいが勢いは劣ると見ていた。

 だが、今は違う。大路を埋める雑踏は、大会出場者の関係者であったり、大会そのものを見物しに来た者たちだ。そしてそれを相手に商売をする数々の露天。もめ事がないよう見回る警邏の者たちは身なりは様々だが、体のどこかに地平線と太陽をあしらった徽章を身に着けている。


「ここはフラットユニオンとやらが仕切っているんだったか」


 帝都は地域ごとに、三大勢力のいずれかによって支配を受けている。支配と言うと大仰だが、要は警備などで商売や暮らしの安全を保障する代わりに、売り上げのいくらかをもらう、というものだ。

 とはいえ統治方針には勢力ごとに特色もあるらしい。リ・ミレニアが一番わかりやすい。魔力の高い者は割引を受けれるなど、帝国時代に近い方向での統治を行っているという。


「その代わり、魔力の無いものは商売もできないんだったか。それでこっちはこの賑わい、と」


 フラットユニオンはそのあたりの縛りが緩く、明確に敵対していないならば割とあっさりと商売の許可が下りる。

 しかしそのあたりが自由な分、中にはぼったくりなども混ざっており、トラブルが絶えないらしい。露店の並びを見ていると昨日と顔ぶれが変わっているのもそのせいかもしれない。

 商業連合のほうはいたって簡単、自勢力の商会の店しかない。信用は高いがその分値段も高いというものだ。


「どこも一長一短か。しかし、砂漠のど真ん中にあってこの栄えようはどうだ」


 エラ・ハイテンなどは滅び去った帝国の都だというのに、魔界の活気とは天地よりも開きがある。

 いつか魔界をこんなふうに栄えさせることができるのか。いや、


「栄えさせてみせる――そのためにも、俺は成すべきことを成さなければ」


 残る二つの封印については調査待ちの状況だ。なのでさしあたってはこの大会に勝ち残り、コアと神剣を手に入れる。

 そう腹に決めたところで、前方の人だかりから歓声が上がった。


「あーっと!? 挑戦者、とうとうチャンピオンに追いついたぞ!?」


「くっそ、この体のどこに入ってやがるんだ……!?」


「ふぅ、こいつに勝ったらタダなのよね? んじゃ、ここからが本番よ。今までの料理、大皿で持って来い」


 歓声と共に店主の悲鳴が響き渡る。背伸びしてみればやはりと言うべきか、猪頭の大男とテーブル越しに座った赤髪の美少女。大男は腹を膨らませてのけ反っており、反面少女は闘気をみなぎらせながら目の前の料理を喰らっていた。


「……まあ、あれくらいは予想の範疇だ、うん」


 諦めたようなシングは、連れ添いが周りにいないかと目をこらした。

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