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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第二十一話  ケルドスのソーラーレイ焼き~ミュースリルを添えて~
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 襲い来る銀色の鞭。だが鞭というには不規則な凹凸が多く、鞭というよりは手編みの荒縄に近い。それを相手にアウェルは左手を構えた。バリアを展開するためだ。だが、そのバリアが展開しない。


「っ、ゼフィルカイザー、バリアを――」


『ツトリンが近くにいる、どうなるか分からん!』


 その通り、足元にはうろたえるツトリンの姿。セルシアならば即座に逃げただろうが、荒事とは無縁で育ってきたためだろう、ツトリンにはそうした即応性は望めなかった。

 戸惑ううちに、ミュースリルの鞭が差し出された左腕を打ち据えた。重い一撃に、白の装甲にヒビが入る。掴み取ろうにも、その時にはするりと退いている。


『ぐっ! アウェル、ショットガンだ!』


 言われるまでもなし。即座にショットガンを引き抜き、ミュースリルの触手が生えるその根元近くを狙い、引き金を引いた。

 ミュースリルは、元がミスリルとは思えないほど軟質だ。そこに高速で鉛弾が降り注げば、耐えしのげる道理もない。被弾した数か所で触手は断裂し、地面に落ちる。

 しかしそれでもまだのたうち、ゼフィルカイザーへと近づいてくる。だが、その影に突き立ったクナイが動きを封じた。ハッスル丸の影縫いだ。


「お見事。やはりゼフ殿は頑健でござるな。こやつめの一撃を受けてその程度で済むとは」


『いや、結構痛いんだが。しかし、この魔物……魔物でいいのか? いったいなんなのだ?』


「見た感じミュースリルにしか見えないな。いや、ミュースリルにしちゃやたら太いし長いけど」


 アウェルの言うとおり、断片と化したミュースリルは太さは50cm近く、長さに至っては総計で20m近い。一般的な魔動機が7m強ということを考えると、これは異常な長さだ。

 その問いには専門家が答えた。


「あー、これはあれや。ブツ切りになったミュースリルが、魔力で勝手につながったもんや」


『ツトリン、大丈夫だったか?』


「あ、うん。ごめんな、足手まといになってもうて。ゼッフィー、腕、大丈夫か?」


『この程度は問題ない。私は自己修復もするしな』


「ほんま、かんにんな」


 今まで見てきたツトリンは勝気な明るい少女だったが、己の不甲斐なさからだろう、しおらしくなったツトリンはえらくかわいげがある。


「そ、そんでやな。あのミュースリル、工房から出荷されたばっかやったらもっと長いのもあるんやけど、さっきのはその割には割とデコボコしとったやろ?」


『まあ、確かにな』


 のたうつ銀色の触手はいたるところにコブがあり、妙に生々しい。


「言われてみれば、ミュースリルの再生痕に近いよな。でもそうなると、どこのどいつが魔力を注いでたんだ?」


「なに、すぐそこにおるでござるよ」


 ハッスル丸が苦々しげにつぶやいた。普段飄々としたハッスル丸にしては、語調にえらく棘がある。


「こやつら、こうしてどこからか伸びてきて、手当たり次第に動くものを襲うのでござる。拙者らもケルドス近海で襲われてな、あの時は仲間を一人失ったでござる。いい奴だったのでござるが……むっ?」


 苦々しくぼやきながら覗いているのは、今しがたのミュースリルの触手が伸びてきた根元だ。そこにはあるはずの根元がなく、代わりにぽっかりと穴が開いている。


「本体がおらぬか。おのれ」


「本体ってことは、なんかの魔物かなにかがミュースリルを操ってたってことなのか?」


「アウェル殿もツトリン殿もお分かりでござろう。ミュースリルが魔力を注ぎもせずに動き回るはずがないでござるからな。

 ケルドスに限ったことではなく、この大陸では時折、ミュースリルの触手や、下手をすれば魔動機の手足を身に着けてあやつる魔物、などというのが現れるんでござるよ」


『そんなことがありうるのか?』


 以前、エルフに操られた魔動機と戦ったが、あれはコアもそろった状態だった。今回のはコアどころか装甲もフレームもないものだ。


「例によっておっちゃんの受け売りだけど、ミュースリルは今みたいに魔動機の駆動系として用いられる前は、こうやって魔力で操る武器みたいな感じで使われてたらしいからな。魔晶石以前の魔道具の代表例みたいなもんらしい。

 んで、魔力は人間に限らず、あらゆる生き物が大なり小なり持ってるからな。魔物のほうに才能があれば、そうやってミュースリルを武器みたいに扱うこともできるんだろ」


「うちの里でもそういうのを得手としている奴はいたでござるからな。確か十二神将にもそういう機体がいたとか」


「巳将の古式魔動機ヨーケィのこっちゃな。あれは機体の固有武装やけど、使いこなせとったのは操縦者の腕前によるとこが大きいらしいで」


「その辺の魔力の加減が困難だから、コアを介して魔動機を操ってるわけだからな。

 と、話を戻して、今の触手を操ってた魔物がいるはずなのに、いないってことか?」


「左様。おそらく逃げたんでござろうな。以前海で遭ったときは全霊で血祭りに上げてやったでござるが」

『ちなみにその魔物はどういう魔物だったのだ』


シャケでござった。遡上途中だったやもしれぬ」


 詳しくは聞くまい。


「あのせいで奴は……片足を失い、かねてより付き合っておった女と小料理店を……くっ! 今となっては奴が羨ましい……!」


「引き際を見誤るとああなるんだな……オレも安定して食えるようになんないと」


 そしてアウェルのハッスル丸に向けられる視線がより冷やかになった。あと名声より安定を望んでいるあたり、アウェルの価値観が垣間見える。


『まあ、それはいい。ではそのミュースリルを回収するぞ』


 影を縫いとめられたミュースリルを掴みあげる。と、影縫いから解かれたミュースリルがまたもビチビチを跳ね回り出した。


『むっ。これは……あれか、魔力が残留していたとかそういうのか』


 そのままゼフィルカイザーの手の中でビチビチ跳ね回り続ける銀色のミミズというかウナギというか。ミュースリルは結構重いので、速度をつけて手に当たると結構痛い。しかし問題なのは、それがいつまでたっても収まることがないことだ。


『な、なあ。これはいつになったら大人しくなるんだ?』


「いや、普通切り離されたらそれで弛緩して動かなくなるものでござるよ。ゼフ殿、今まで散々魔動機の手足を切り離してきてござろうが」


 言われてみれば、切り離した手足が痙攣するのは見た覚えがない。


「となると、ゼフィルカイザーが魔力を注いでるのか?」


『私にそんな機能はない。あれだ、瘴気も一応魔力なのだろう? それで勝手に暴れている可能性は?』


「荒唐無稽っちゃ荒唐無稽やけど、それくらいしか考えれんなあ。とりあえず赤シャチはん、ゼッフィーのアレ、もっかい止めたらんと」


「で、ござるな。ゼフ殿」


『わかった。無駄手間取らせてすまんな』


 ひょいと投げたミュースリルが、影を縫われて再度動きを止める。つくづく便利なのだが、これでオクテットを足止めすることはできないのだろうか。


「彼奴はこと術においては拙者を遥かに上回るでござるからなあ。ぶっちゃけ、果てさせる以外の手段で足止めしようとなると手荒なことにならざるを得んでござる。

 そうはしたくはない」


 人のメモリを読むなと思う一方、散々脇腹を刺されている割には殊勝な態度だ。しかし果てさせるて。


「なあ、果てるってなんだ?」


「それはでござるなアウェル殿」


『「ちょーっと黙っとこうか!?』」


 この時ばかりは絶妙のコンビネーションでハッスル丸の口を止めたゼフィルカイザーとツトリン。ゼフィルカイザーとしてはアウェルが覗き以上の奇行に走ったら洒落にならないし、ツトリンもこの話題の方向性は避けたいという利害の一致あってのことだ。


『と、とにかくだ。そうなると地下は相当まずいのではないか?』


「せやな。下から沸いて来とるんやで、地下は瘴気の溜まり場んなっとるはずや。もし遺棄された魔動機でも転がっとったら襲ってきかねんで」




「いやー、快適ですねえ。瘴気はソッコーで分解されますし、光が苦手なのか魔物も寄ってきませんし!」


『どうですの! もっとクオルを讃えるですの小娘!』


「そこらにミュースリルがやたら転がってますけど、回収しようにも運搬手段がないのが残念ですね。まったく、こういう時に限って通信が使えないとか」


『無視するなですの!』


 上の心配もなんのその、地下を行く三人+一本は呑気なものだった。


「……本当に凄まじいな。というか、魔力はいったいどうしているんだ? 今はパティが持っているが、パティの魔力によるものなのか?」


「あ、いえ。私の魔力が持っていかれた感じは全然ないんですけど」


『これはソーラーレイに蓄積された魔力をほんの少し振りまいた程度ですの』


「クオルさんとソーラーレイは別の物、ということでいいのかな?」


『そうなりますの。ソーラーレイはシルマリオンが作り出した最初の魔剣と同じ魔晶石から作り出された、最強の魔法兵器ですの。クオルはその担い手として、ソーラーレイの機能を限定的に展開することができるんですの』


「じゃあなんでそうやって動き回れるのよ」


 そのせいでゼフィルカイザー以上に被害を受けているセルシアとしては最もな疑問だった。だが、柄を傾げたクオルはきっぱり告げた。


『さあ?』


「さあってなによさあって!? あんた自分のことでしょ!?」


『人は己のことすらはっきりとはわかっていないということですの。それともあなたは、己の全てを知り得ているとでも言うんですの?』


「ぐぎぎぎぎぎ……!!」


「はいはいシア姉、どうどう。屁理屈相手に知恵熱出さない。あとクオルも何言ってますか。人違うでしょう」


『だから呼び捨てにするなですの小娘!』


「まあまあクオルさん。そうわめかずに。パティもほら、な?」


「……あんた、よっぽどそのナマクラのことが気になるのね」


「なっ!? いやいや、そういうわけではないぞ? 俺はただだな……」


 拗ねたようなことを言うセルシアに慌てて弁明するシング。その影で、パトラネリゼは一人頭を抱えていた。

 シングの正体がガルデリオンではないか、というゼフィルカイザーの疑念。ゼフィルカイザーは確証を得かねている様子だが、そのゼフィルカイザーの疑念に感染したのか、パトラネリゼもそんな気がするやらしないやらの微妙な感覚に襲われていた。

 まず、セルシアがこれだけ好意的に接する相手がそうそう現れるわけがない。しかし一方でガルデリオンとの接触以降のアレっぷりを見れば、そうと見た相手にセルシアが惚れっぽいのも確かだし、トメルギアの一件以降、丸くなっている節もある。

 それにシングの鼻血ブー助っぷりも、黒騎士の発言に思い当たる節がないでもない。



「見ず知らずの男の手を取るとはどういう育てられ方をしたんだ」



(ガルデリオンさん、こんなことを言ってましたし……でもねえ)


 あれだけ美形で素がこれだったら残念に過ぎる。

 だが、これらの推理をゼフィルカイザーに伝えるつもりはない。伝えたところで無駄だからだ。

 あのポンコツは妙な疑心暗鬼にかられてああでもないこうでもないと悩んでいる。パトラネリゼが助言をしても、それに対する反証を勝手にこさえるだけだろう。

 あと、アウェルに伝えるのが論外なのはパトラネリゼも理解していた。


(個人的には三角関係そのものは見てて楽しいんですけどねえ。でも、血を見るのは流石に遠慮願いたいというか……そもそも三角どころか四角関係ですし)


 パトラネリゼの脳裏をよぎったのは、おっぱいだった。




「なあパティ、お前を女と見込んで頼みがある。シングとセルシアがいい仲になりそうだったら妨害してくれ」


「キャプテンにしちゃ陰険な頼みですねえ。私、恋愛は自由だと思うんでそういうのは辞退させていただきます」


「ちっ……ところでここにあるのは、アーモニアの好事家に売りつけようと思ってた稀覯本なんだがなあ……?」


「お、おっぱいの間から取り出だされた、そ、それは!? その装丁、魔法文明中期ごろの物に相違ないです!」


「価値のわかる奴にはどれだけはたいても欲しいもんだからな。

 けど、真にこの本の価値が分かってる、たとえば賢者みたいな人種になら特別にタダで譲ってやってもいいんだけどな……?」


「くっ……私は賢者、正しい知識の流布と伝承を任ずる知の探究者にして啓蒙者! 賄賂なんかに屈することは……!」


「ああ、ちなみにまだあるんだよな」


「ぱ、パンツの中から取り出だされたそれはよもや、魔法文明後期の……!?」


「衰退期に書かれた手記らしいぜ?」


「ああっ、ダメですっ、知識欲が、抑えられない……!」


「こいつが欲しかったら……わかってるよな?」


「こ、こんな海賊の言いなりになるなんて……悔しいっ! で、でも……もう、我慢できないです……!」


「へっへっへ。賢者様の口は正直だなあ?」




(くっ……あのおっぱい海賊め、今度会ったら覚えてるです!)


 報酬をもらっておいてよく言う。

 まあ、朱鷺江があまり島から離れられないとか、シングが家の事情で使命のようなものを帯びており、その関係でシング当人に色恋に勤しむ気ゼロだとか、いろいろ事情があることは聞いたのだが。


(それだけシングさんと付き合い長いキャプテンが、あの魔族と仲間っていうのもちょっと違う感じがしますし。

 大体、シングさんとガルデリオンさんじゃ魔力の質が別物すぎますし)


 ハッスル丸ほど感知に長けているわけではないが、生でバイドロットを見て、その魔力を肌で感じたことのあるパトラネリゼだ。

 バイドロットの魔力は淀み切っていたし、ガルデリオンにもわずかに似たものを感じた。シングにも朱鷺江にも、そういったものは感じられない。


(大体、シングさんがガルデリオンさんだって言うならなんでシア姉は襲い掛からないんですか。お風呂の時にあんな肉食系なこと言ってたくせに。

 ――――はて。お風呂。そう言えばあの時、キャプテンが妙にうろたえてたような。ええと、前後にどういう話を――)


『危ないですの小娘!』


「へ? ちょ、うわっ、気持ち悪っ!!」

 

 懐のクオルの声に慌てて視線を上げれば、岩壁にぶつかる一歩手前だった。壁はうぞうぞと蠢く虫とも動物ともつかない生き物がみっしりで、クオルの明かりに圧されるように逃げていく。


「あー、びっくりした……ていうかなんなんですかあの生き物。さっきの魔物といい奇怪な」


「どうしたのよパの字。さっきから頭抱えてて」


「あ、いえいえなんでもないです。ええと、ええとですね」


 セルシアの追及に慌てて弁明をとりつくろうパトラネリゼの脳裏から、今しがたよぎった疑念がこぼれ落ちていく。


「あのポンコツの通信機、肝心な時に使えないことが多いなーと」


『ゼフ様をポンコツ呼ばわりなどと……!』


「起きてしばらくゼフさんを鉄屑よばわりしてたあんたが言いますか」


 などと言い合っていると、シングが何か思案した様子で尋ねてきた。


「しかしゼフ、ゼフィルカイザーは凄まじい機体だな。アウェルはあの機体が空から降ってきたと言っていたが……」


「そーよ。ドラゴンに追っかけられてたら、空から落っこちてきてドラゴンを叩き潰したのよ」


「空から降りてきて、力を与えるか……まるで古の神のようだな」


「古の神、ですか? それって邪神のことじゃ?」


「む。パティは知らないのか、賢者なのにいたぁ!?」


 シングの脛に鋭いつま先蹴りが突き刺さっていた。パティの靴も旅用の頑丈なものだ。それで蹴られれば痛かろう。

 イラッと来たからつい蹴ったが、これも避けれないあたり、黒騎士かと言われると首をかしげたくなる。


「あらら、すみませんつい。

 それで古の神っていうのは、魔法文明が崇めていたっていう神さまのことですか?」


「なんだ、知ってるじゃないか……ああ痛」


「そういうのがいた、って程度しか知りませんよ。トメルギアでは精霊信仰と、あと魔族がばら撒いた邪教くらいしかなかったですし。

 公宮でも祭祀はあったんですけど、興国王を崇拝していたものでしたからね」


「となるとやはりトメルギアでも、左上の者への信仰は残っていないのか」


「さじょーのもの、ですか……?」


「正式には、「左上にて輝く者」と言うらしいんだがな。天より光と共に現れ、選ばれし者に啓示を与える神だったらしい」


 と、そこまで言ってシングは言葉をつぐんだが、しかし時すでに遅し。パトラネリゼの目は知識欲に血走っていた。


「はぁ、はぁ……!! そ、それで、その神は、いったい!?」


「あーあーあー。パの字、こうなったら止まらないわよ」


『おぞましいですの、こわいですの……!』


「いいから黙ってなさいこの魔法生物」


「そう騒ぐな。あとでちゃんと話してやるから。今はここから脱出することを考えるべき……む?」


 言っていると、大きな空間に出た。クオルの放つ明かりに照らされる中、巨大な銀色の塊が鎮座している。その威容に、さしものパトラネリゼも欲情から覚めた。


「な……こ、これ、全部ミュースリルですか!? ざっと見、魔動機10機分近くありますよ!? いったいいくら分になるんでしょうか」


「空洞のあちこちにミュースリルが伝っているな。一体この空間はなんなんだ?」


 シングの訝しむとおり、巨大なミュースリルの塊からは、何本ものミュースリルが空間の天井へと繋がっている。その様は球根が茎を伸ばしているかのようだ。


「この広さならミカボシが出せそうだが――ッ!?」


 とっさにその場を飛びのいたシング。そこに、銀の槍が突き立っている。見れば、ミュースリルの塊がうぞうぞと蠢いているではないか。

 それだけではない。ミュースリルの塊が鎮座した場所から、漆黒の霧があふれ出てくる。ソーラーレイの光に照らされいくらかは分解するが、それでもあふれ出る勢いのほうが強い。

 その上、空洞のあちこちにヒビが入り、崩れ落ちようとしている。もう限界が近い。


「瘴気、それも極めて濃厚な……! くっ、来い、ミカボシ! セルシアとパティも乗れ!」


 魔法円が描きだされ、瘴気の黒とは異なる黒が顕現する。骨董魔動機ミカボシ。そこにシングと、パトラネリゼとクオルを抱えたセルシアが乗り込んだ。


「ぐえっ……! も、もう少し優しくですね」


『聖剣にはそれなりの扱いを要求するですの!』


「るっさい、あいつはヤバいわよ!」


 セルシアの声にもいつもの余裕がない。セルシアから見てエルフ級の強敵ということか。

 乗り込んだミカボシのコックピットは、パトラネリゼの知る戦闘用魔動機、ガンベルやギルトマなどとは随分と様式が違う。正面にコアとコントロールスフィアが設置されているのはそのままだが、座席周りにやたらと妙な機器が設置されている。

 特に目を引くのが円筒形の金属管だ。コックピット内のいたるところに設置されたそれが、コントロールスフィア同様の魔力ケーブルでコアにつながっている。


「その辺に捕まっててくれ! こいつは――」


 展開したマナパネルに、動き出した敵の姿が映し出される。うねりを上げる銀色が空洞を軋ませ――不意に、そのうねりが止んだかと思うと。


「あ、動きが止ま――」


 パトラネリゼが覚えていたのはそこまでだった。爆発的に膨張したミュースリルが、空洞ごとミカボシを打ちのめした。

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