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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第三話 樹海、遭難、お礼参り!
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002

『なあ、怒らないから本当のことを言ってくれないか?』


「大丈夫だって言ってるじゃん! なんとかなるって!」


「いや姉ちゃ、セルシア。もうゲロっちまったほうがいいんじゃね?」


「迷ってなんかないって!

 ちょっと知らないところに来ちゃってて戻り方もわかんないってだけだし!」


『世間ではそれを迷ったと言うのだ……!』


 深緑の森の中をかき分ける白を基調としたトリコロールカラーの機体が、しびれを切らしたとばかりに怒声を上げる。


「んなこと言ったって、大体あたしら村から出たことないのよ?

 それにこの辺ってうちの村以外に村とかないらしいし」


『別にそこを咎めているわけではない、それを最初に言わなかったことを言っているのだ』


 二人と一機が村を出てから三日が経っていたが、一行は深緑の森の中でその大自然を満喫していた。

 足元は草木が覆い繁り、人が通った痕跡など皆無である。

 もっともこうなったのも仕方ないと言えば仕方ない。

 あの村があったのは相当な辺境で、近辺に人里はほとんどないそうだ。

 付き合いのある大きな町があるそうだが、それもえらく遠方であるとか。必然往来は少なく、道など整備されているはずもない。

 まして、人型機動兵器が闊歩できるほどの道などあろうはずもない。

 木々がつっかえて道が使えず、そこをセルシアがあちらに行ってみよう、いいやこっちっぽい、とやっている間に気づけばどこを歩いているのかすらわからない状態だ。


『とりあえず結論から言おう。我々は遭難している』


「へー、そーなん」


『それ以上言ったらもう水を出さんぞ』


「ぐぐぐ……」


 歯ぎしりをしながら、セルシアは手にしたボトルを煽り、空になったそれをコックピット内にある窪みにそれをはめた。

 窪みの上のパネルが赤く転倒し、その中に水が注ぎこまれていく。


「でも飲み水を出せるなんてすごいな、ゼフィルカイザー」


『私は搭乗者の保護を優先するよう作られているのでな』


(なんせそう注文したしな!

 しかし搭乗者の安全性確保とは言っていたが、居住性まで確保してるとは思わなかったな)


 現在、アウェルとセルシアは二人ともコックピット内にいる。

 アウェルが操縦席に座り、セルシアは引き出し式の後部座席に座っている形だ。

 当初は荷物もあり狭苦しかったが、マニュアルなどを調べた結果コックピット内のスペースを広げれることがわかり、また格納用のスペースも見つかったためどうにか二人が外で野宿する自体は避けられた。

 逆を言えばコックピット周りが思ったよりはスカスカだったというか、コックピット周りの装甲がそこまで厚くなかったことになるので、一抹の不安を覚えてもいるのだが。

 この3日間、ゼフィルカイザー自身が歩いたりアウェルが操縦したりで進んできたが、今のようにアウェルが操縦しているときはひたすらマニュアルに目を通していた。それによってわかったのは、この機体が細かい部分でやたらと万能なことだ。

 物質製造システム。装甲等に含まれるナノマシンによって周囲の物質を取り込み、機体の修復や弾薬の精製、また水のような必需品を精製することもできる。

 これによって食料はともかく水はどうするのか、という問題が解決された。

 だがこの機能、便利であるが生成速度はかなり遅い。水程度ならいいが、ミサイルはいまだに数が揃っていない。

 6発目が生成できた時点でミサイルの生成を中止し、現在はレールガン用の弾丸を作っている最中である。


(しかしマニュアルがザルいなあヲイ)


 基本機能については大体把握できた。

 だが、マニュアルの中身はほとんどが簡易な説明のみのものであった。特に適当なのがビーム兵器がらみである。



 フェノメナ粒子なる粒子にエネルギーを与えることで攻撃手段や防御障壁として使用可能。

 フェノメナ粒子そのものは大気中の素粒子と動力のエネルギーから生成。

 障壁として使用した場合粒子はいくらか回収されるため効率はいいが、射出兵器として用いた場合、粒子は霧散してしまうので使用は計画的に。



 要約するとこのように書かれているが、どれくらいの速度で生成されるのか、威力や射程はどの程度なのか、環境被害などはないのか、と言ったことは一切書かれていない。

 ロボット物のお約束としてナンタラ粒子だのナンタラ線だのといった類のものが出てくるのはよくあることだ。

 だが、それが人体にとって有害であるか否かはゼフィルカイザーのロボットオタク人生の経験上半々くらいである。

 しかし、なんにせよ肝心の粒子自体が足りていない以上使用は極力控えようと判断した。


『なんにせよ、早く人里へたどり着かねばな』


「そう急ぐこともないんじゃ?」


『お前たちの腹がそれまで保つのならな』


 村から巻き上げた物資は相当の量があったはずだった。

 だが、現在の荷物はあったとはいえそう広くもない格納スペースに収まる程度である。何故か。


『というか、何故あれだけの量が三日で無くなるのだ?』


 村から進呈(という名のカツアゲ)されたのは保存食らしい干し肉やら堅そうなパンやらだった。

 ゼフィルカイザーは受け取った当初、腐る前に消費しきれるか若干不安だったが、その危惧はすぐに撤回された。初日の晩の時点で二人とも猛烈な勢いでそれらの食料を貪り食っていたのだ。

 その量、ゼフィルカイザーが人間のときの一食の、およそ20人前程度。


(まあいろいろケチって毎日最低カロリーギリギリで生きてた俺じゃ比較にならんだろうが。

 それにしたってなあ)


「いやあ、味のするもん食べるなんて久々だったし、つい」


『つくづくどういう生活をしていたんだお前ら』


「そうは言うけどよ。おっちゃんが死んでから村の連中、塩を分けてくんなくってさ」


『塩なぞ海に行けばいくらでも取れるだろう』


「ウミ? なにそれ」


「でっかい水たまりらしいぞ。おっちゃんも見たことないって言ってた」


 二人の言葉からこの辺りが相当に内陸部であることを認識すると同時、ファンタジー世界に来たということを今更ながらに実感してしみじみとする。


(生身でなくてよかったかもなあ。味のしない飯はともかく空腹は耐えられん)


 どれほどおろそかにしようが飯にうるさい日本人である。このあたりは感謝すべきかと思った。

 一方で子供を飢えさせる趣味もない。なんとかできないものかと、物質製造システムに登録されている製造可能リストを見てゆき、


『ふむ。糧食を生成することもできるようだ』


「本当に?」


『少々待て』


 水のボトルの上のランプの、そのさらに上。

 取っ手のついた蓋がありその中から鈍い音が響いてくる。たっぷり10分ほど待って、チーンという音とともに蓋が空いた。

 中にあったのは二本の棒状の何かである。赤、黄、緑のマーブル模様で実にケミカルな雰囲気を醸し出している。


『完全栄養バーだ。それ一本で人間半日分の栄養価があるそうだ』


「な、なんか食べ物にあるまじき色してるんだけど。なにこれ」


『タンパク質と炭水化物とビタミンを先ほど言った分量で配合してあるらしい』


「……よくわかんないけど、とりあえず食べてみよ。アウェルもほら」


「おう、あんがと姉ちゃん」


 取出したフードバーを操縦席のアウェルに渡すセルシア。

 ゼフィルカイザーの操縦に神経を裂いていたアウェルは、特に危機感を抱く間もなくバーにかぶりついた。半分ほどを咀嚼し、飲み込み――顔がいったん赤くなり、それが急に青くなったかと思うと、


「……ごふっ」


「ちょ、アウェル? げ、泡吹いてる!?


 あんた、ちょっとこれなんだったのよ!」


『そういう貴様もなぜ口をつけていない……!』


「い、今から食べてやるわよ今から……なにこれマズっ……!」


 先端部だけを齧ったセルシアが顔をしかめる。ゼフィルカイザーも慌てて再度マニュアルを呼び出すと、スクロールしなければ見れない部分にこんなことが書かれていた。


【なお、味については一切考慮していません】


 冷戦中のレーションか、と突っ込んだ。

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