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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第二十話 ガルデリオン、初めての変装
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020-006

『魔力あるシング殿!? おのれ、よくも魔力あるシング殿を! 貴様、一体何者――』


 ポールアックスの矛先を向けたレルガリアだったが、その威勢はそれ以上続かなかった。ポールアックスの先端がわずかに震える。

 漆黒の機体からあふれる威圧感は、倒れ伏した黒武者のそれを凌駕している。だがそれに飲まれまいと、ヌールゼック改はポールアックスを強く握り、突き出した。

 機体重量の乗った確かな突きは、食らえば黒騎士とてただでは済まないだろう。だが、その黒剣が逆袈裟に一閃した時には、ポールアックスの先端が切り飛ばされていた。

 声を上げる間もなく、斬りあげた剣が、今度は機体本体を両断せんと振り下ろされる。慌てて飛びのこうとしたレルガリアは、生まれて初めて相対する真の強者に息を呑み――斬撃を受ける直前に、爆発音と金属音の響きを聴いた。


『がっ……く、は、無事、だと!? 今のは……』


 飛びのいたヌールゼック改はどうにか無事だ。ポールアックスの柄がさらに半分ほどになっているが、あの斬撃を受けることを思えば安い。

 それよりも今何が起こったのか。あの敵手は、目の前の敵をやすやすと見逃すような類ではない。この場にいるのは地に伏したシングのミカボシと黒の騎士。それに自分。あとは――


『兄ちゃん、下がってろ。そいつはオレの獲物だ』


 ヌールゼック改の前に出た薄汚れた機体からは、それまでの一歩引いた様子の失せた、闘志のみなぎった声。

 魔力のない弱者。そうみなしていたはずの少年の機体からは、黒騎士と同等かそれ以上の圧力が発せられていた。




 エグゼディの姿を認めた時点で弾丸をリロードし、エグゼディの魔剣に銃弾を当てて軌道をそらした。

 言ってしまえばそれだけのことなのだが、あの一瞬でロックオンと射撃ができたのは奇跡的――否。


「おいスカし野郎。ここで会ったが百年目だ。こないだのケリをつけるぞ――なんとか言ったらどうだ?」


 座った目で敵を睨むアウェル。ゼフィルカイザーにはわかる。今のアウェルの集中力は、あの燃える公都でのそれに迫るものだと。

 黙したままのエグゼディは、剣を構えたまま不動だ。そのたたずまいには隙がない。

 黒騎士の意匠の魔動機は、二点を除きかわりはない。砕かれた盾が別物になっており、そして兜は、まるで敗北を忘れないと宣言するかのように生々しく修繕跡が残っていた。

 血をたぎらせたアウェルだが、しかし状況を見る目は冷静だ。かつてこの黒騎士と初めて戦い敗北し、友に重傷を負わせた二の轍を踏む気はない。


「……どう思う、ゼフィルカイザー?」


『いや、その。私もなんというか状況が掴めないというか――何故奴がここにいるのだ。

 アウェル、お前の目から見てあのエグゼディに何か違和感はないか? なんというか、偽物か何かのような』


「あんな機体がそうそういるわけないだろうが。それに、今の斬撃はお前も覚えがあるだろ」


『それは、まあ……』


 ゼフィルカイザーも言わんとすることはわかる。なにせそれでスクラップ寸前まで追いつめられたのだ。今の斬撃はあの時の恐怖を思い起こさせるには十分すぎた。

 だけに。


(何故、あの機体がここにいるのだ……!? シング・トライセルが黒騎士ではないのか!?)


 ゼフィルカイザーは己の推理が崩壊したことに本気でうろたえていた。

 黒騎士と黒騎士容疑のかかった機体。それが同時にこの場に存在するのだ。こうなると、シングがそもそも魔族云々とは関係なかったと考えるのが一番妥当だ。


(いや待て。こう思わせることこそ策略ではないか? 例えばそう、黒騎士の外装を武者鎧に交換し、本来の外装を何らかの手段で動かして――ならば今の斬撃の威圧感はいったい!?)


「ゼフィルカイザー、後にしろ。それどころじゃない。O-エンジンは?」


『あ、ああ。今ならセミドライブまで稼働可能だが――』


 そのあたりの謎をさておいても、黒騎士にやられて背を切り裂かれたミカボシがいる。乗り手が失神したのか、まるで動く気配がない。後は背後のレルガリアもだ。

 他にも、最初にやられた番兵のデスクワークや、今しがた片付けたヌールゼックたちもいる。

 ゼフィルカイザーの粒子兵器とエグゼディの空間干渉の機道魔法がぶつかれば、その被害はどれほどのものになるか計り知れない。

 向こうもそれが分かっているのか、微動だにせず剣を構えている。やはり騎士と名乗るだけのことはあるのか。

 その対峙の下で、ミカボシの中のシングは息を吐いた。


「予定外があったが、まあどうにか修正できたか。しっかし、本当にうまくいかんな」




 本当ならば、こちらで用意した魔物とエグゼディを差し向ける予定だったのだ。だと言うのにあのヌールゼックたちが攻めてきたせいで予定が狂ってしまった。


「そもそもセルシアに感づかれるし……マートル、聞こえるか?」


『おう、ガル坊かい。加減するなっちゅー話やったで全力でやったけど、大丈夫だったべか?』


「どうにかな。そっちは?」


『一応今んとこバレとる気配はないべよ。せやけどあの坊、大分腕が立つでな。二、三合もしたらバレんでおる保証はないべ』


「ああ、わかっている」


 ゼフィルカイザーの推理はここに至っても完璧に当たっていた。とりあえず修復されたエグゼディの外装に詰め物をして、それをマートルの魔法で動かしているのだ。

 その推理を確信に至らせなかった原因、エグゼディから漂う威圧感やシングが操ったときと同様のモーションも単純なことだ。


『もうガル坊のほうが腕前は上だべな。あだすが教えれることものこっとらんべ』


「褒め言葉と受け取っておくよ、師匠」


 母の亡きあと、シングはレフティナの直弟子であったマートルと、戦友であったガンテツに師事してきたのだ。太刀筋が似通うのも当然だ。

 とにかく、状況はシングが仕組んだ通りに動いている。


「俺とて伊達に魔王軍筆頭騎士じゃないんだよ。剣だけと思うな」


 予備動作なしに身を起こして、ダミーエグゼディに斬りかかるシング。タイミングは完璧だ。マートルは無論のこと、ゼフィルカイザーのほうも反応できてはいない。

 あとは打ち合わせ通りマートルが怯んでみせて退却すればいい。そうすればシング=ガルデリオンとは誰も思うまい。

 セルシアも何故か協力的な今、この一行に潜り込む障害はすべて取り払われたも同然だ。


「条件はすべてクリアした、イレギュラーさえなければ――!」


 ――彼の敗因を述べるならば。イレギュラー云々以前に、この台詞に突っ込む相棒がいなかったことではなかろうか。

 ともかく、タイミングを見計らって勢いよく立ち上がったのは彼だけではなかった。


『くっ、いかなる強敵だろうとなにするものぞ、私はゼロビン・ジンガーサマーが一子、レルガリア! 弱者を置いて引くことは許され――』


『えっ』


『えっ』


 魔動機同士が激突し火花を散らした。骨董魔動機であるミカボシことエグゼディと、新物魔動機としては最重量級のヌールゼック改がお互い全速でぶつかったのだ。轟音と共に二機が装甲をひしゃげさせてはじけ飛んだ。




 仰々しすぎるゴングにマートルも目を剥く中、アウェルとゼフィルカイザーは動いた。

 自身の正面でぶつかり合った二機が退いた瞬間、即座に黒騎士に向かってリボルバーを連射した。反応が遅れたエグゼディは弾丸をもろに食らったが、弾丸は何の損傷も与えることはなかった。その代わり、黒騎士がショッキングピンクに染まった――ペイント弾だ。

 視界を奪ったことを確認したアウェルはそのままトドメに入る。O-エンジンが起動し、両腕の機構が展開。左手に生じた金色のビームソードを、そのまま抜き打った。しかし。


「なっ!?」


『く、このフェノメナ粒子を受けて無事、だと!?』


 ビームソードが、魔剣イクリプスによって受け止められていた。今まで触れたあらゆるものを消し去ってきた金色のフェノメナ粒子に耐える黒の剣も凄まじいが、それ以上に、視界を奪われたはずのエグゼディがどうやって正確に迎撃できたのか。

 競り合ったのは一瞬、白と黒の二機は即座に間合いを開け、再度膠着。ゼフィルカイザーはリボルバーをホルスターにしまい、右手も粒子にも粒子を展開する。


『アウェル、どう見る』


「――おかしい。あの状況で、こっちが見えてるはずがない」


 それまでの殺気を治め、いぶかしんだ様子で敵手を観察するアウェル。


『なにかおかしいところでもあったのか』


「いや、あんなふうに頭もコアも塞がれたら、普通の機体なら何も見えないはずだ」


 魔動機の機能はコアに集約されている。なので、コアにもカメラアイとしての機能が備わっているのだ。コアが機体正面に備えられているのは機体の防御以外にそういった理由もある。

 なら頭は何のためについているかと言えば単純な話、横を見るためだ。

 それ自体はゼフィルカイザーもアウェルに聞いて知っていた。知らなかったら頭だけペイント弾で頭だけ潰したあとで反撃を喰らうというコースを必ずどこかで喰らっていただろう。

 だが、今のエグゼディは頭も胴体もショッキングピンクのペイント剤でべとべとだ。前が見えているはずがない。


『単に黒騎士が手練れだからとか、魔族だから魔法でなんとかしたとかでは?』


「それならペイント弾食らう前になんとかしそうなもんだろ。あのスカし野郎があんな隙見せるとは思えないし――さっきのお前じゃないけど、あの機体、本当にあいつが乗ってるのか?」


 あれだけの死闘を演じたのだ。人間でアウェル以上にガルデリオンの実力を知る者などいない。それからすれば当然の疑問だ。

 無論、今の出会いがしら事故に驚いた可能性もある。だが、ガルデリオンこそアウェルとゼフィルカイザーの力は誰より思い知っているはずだ。それと相対して、あの程度で注意を逸らすというのも不可解だ。


『なんらかの策だとして――パティ、そっちは何か変わったことは?』


『あー、なんですか? 今どっかの鉄屑掘り起こすので大変なんですけど。キャプテンにも手伝ってもらってますけど全然で』


『失礼した』


 通信機の向こうからはセルシアとクオルのわめきも聞こえたので、こちらが陽動という線もないらしい。

 だが、膠着を打ち破るものが現れた。背後の防壁を飛び越え降り立った影が二つ。一つは見知った機体、影鯱丸。もう一機は初見だが、フォルムはどことなくヌールゼックと似通っている。全身金色の装甲というどこかで見たカラーリングだが、騎士鎧の重厚さを損なうどころか、より一層の重みを与えている。

 何より特徴的なのが両腕に備えられた武装だ。それは武器ではない。両腕に巨大な大盾が二枚掲げられていた。


『あっ、あれは、ゲートロン!? まさか父上が!?』


『然り! 我が名はゼロビン・ジンガーサマー! そして我が魔動機ゲートロン!

 我こそはアーモニアを守護する者、この双盾を恐れぬならば、ぁあかかってくるのである!!』


(これだよこれ! 黄金のロボットって奴はこうじゃなきゃいけねえんだよ!

 あとであのビッチのはログから削除――でもあれも悪役金ピカロボとしちゃいい出来だったしなー)


「ゼフィルカイザー。かっこいいのはわかるが集中しろ、集中」


『す、すまん。とにかくこれで形勢――くっ!? まずい!』


 不利と悟ったのだろう、エグゼディは即座に踵を返し撤退の姿勢に入る。


(増援がきたら撤退はお約束だが、その前に技の一発も食らうのが礼儀ってもんだろうが……!)


 非常識な常識に基づき、ゼフィルカイザーはフラッシュミサイルをロックして発射した。足止め以上に、果たしてあの敵が何者なのかを見極めるためだ。が。


『『逃がすかああああっ!』』


『「あ゛』」


 唐突に起き上った二体の鉄巨人にミサイルが直撃し、その場で爆発した。距離が近かったせいで、ゼフィルカイザーのカメラアイもシャットアウトが間に合わず、


『ぎゃああああああっ!? 目が、目があああああっ!?』


「まぶっ……! ちょ、これ何も映らなくなったぞ!? 大丈夫かゼフィルカイザー!?」


 モニターには【カメラアイに異常発生 復旧中】の文字。この状況で襲われたらと身構えるが、攻撃が来る様子はない。時間にしてほんの数秒で映像は復旧したが、そこにはどんどん遠ざかる黒騎士の背があった。

 そして、ある瞬間に掻き消える。おそらく空間転移で逃げたのだろう。


『このゲートロンの武威に恐れをなしただけとはみえんであるな』


『ゼロビン殿、なにもしとらんでござるからな。まあ拙者もでござるが……これは格好のつけどころに間に合わんかった模様で。

 それよりご子息を放っておいていいので?』


『ぬわーっはっはっはっ!

 あの程度で参るような鍛え方はしておらんのである! おう、起きんか』


 豪快に言い放つゼロビンの声に従って、ヌールゼック改が身を起こす。閃光弾も全く威力がないわけではないので、直撃した背中がわずかにへこんで煤けていたが、この程度は無傷と言っていいだろう。


『父上、魔物の討伐は』


『とっくに終わったのである。んで、帰り道にそこの赤シャチと出くわしてな。情報交換をしとったところにハーちゃんが伝えにきてくれたわけである』


『な、ハーレイが? それで奴は?』


『急いどったあまりに蹄が割れてしまったのである、他の奴にうちまで送らせておる』


『そうですか……』


 それを聞いて安堵したレルガリア。だったが。


『……で、貴様はなんで門番の仕事を放り投げておるのであるかな?』


 そこから説教に突入した。




 一方。


「なー、兄ちゃん大丈夫かー?」


『だ、大丈夫だ』


 倒れ伏したミカボシがどうにか起き上がる。損傷は大したことはない。


『ふぅ。格好悪いところを見られてしまったな。

 それで、その機体がアイビスの言っていた機体か。聞いていたのと見た目が違うようだが』


「ま、いろいろ事情があってさ」


『それで、その機体は意志を持っていると聞いたのだが』


 尋ねられ、ゼフィルカイザーは後方カメラを見る。そこではヌールゼック改が双盾の魔動機に土下座を繰り返していた。

 これならば気づかれまいと思い、改めて眼前の黒騎士容疑者に対峙した。


『……ゼフィルカイザーだ。その、無事でよかったな、黒騎士、いや黒武者殿』


「おいおい間違えるなよゼフィルカイザー。黒スカしはさっき尻尾巻いて逃げてったあっちだろ」


『す、すまんな。こちらも少々動揺している』


 カマかけのつもりだったのだが、けらけら笑うアウェルに突っ込みたくても突っ込めないゼフィルカイザー。アウェルの声にミカボシが身じろぎしたような気もしたが、気のせいだろうか。

 ともかく、ゼフィルカイザーは混乱していた。あの黒騎士の出現から撤退には作為を感じてならない。その一方で、この機体と乗り手に対しても戦っている最中に違和感を感じてならなかった。


『しかし、一日に二体も骨董魔動機を見ることになるとはな。アウェル、お前から見てこのミカボシ殿はどう思う?』


『っつーと?』


『その、たとえばあの黒騎士、エグゼディと比べてどうか、と言った感じで』




「ッ!?」


 コックピット内でシングは身をこわばらせた。アウェルは気づいていないようだったが、この白い機体は自分の正体に感づいているのではないか。

 ヴォルガルーパーとの戦いの最中に檄を飛ばしていたのはこの白い機体の方なのだろう。それを思えば、この白い機体も油断していい相手ではない。


「母の言ったとおりか……一体、何者なのだ」


 ガルデリオン・シング・トライセルはこの白い機体を見極めねばという意志をより強くした。だが、その彼を次に動揺させたのは、やはりと言うべきか機体のほうではなく、乗り手のほうだった。


『や、比べるって言うか、同じ機体じゃないか?』


「――――な、に?」


 反射的に、機体に魔力を滾らせる。機体は動いてこそいないが、シングの意志ひとつで双剣を抜き打てる。

 考えてみれば、アウェルはあの蛮族セルシアの弟分なのだ。やはり油断するべきではなかったのか――




『ど、どういうことなのだ、アウェル?』


 ゼフィルカイザーは全身のフレームが凍りつく思いでアウェルに尋ねる。

 眼前の黒武者から、装甲に刺さるような殺気を感じている。ビンゴどころか藪蛇だったか――


「あー、シングの兄ちゃん、ひょっとして怒ったか?」


『い、いや、そんなことはないぞ。しかし同じ機体とは?』


「単に同型機なんじゃないかなーってだけの話なんだけどさ。

 稼働可能かつ実践運用可能な骨董魔動機なんてそうそうあるはずないし、中のフレームやミュースリルの配置はたぶんほとんど同じなんじゃないか?」


『…………そ、そうかもな!? 俺もこの機体以外の骨董魔動機は初めて見たしな!?』


『なるほど、納得した! すまんなアウェル、妙な事を聞いて!』


 二人が妙に高いテンションなのにアウェルは首をかしげる。


「つうかひょっとしてゼフィルカイザー、シングの兄ちゃんをあのスカし野郎だと思ってたりしないか? さっきのあの黒騎士も偽物とかで」


 ロボットは思った。なぜこの少年はこういう時だけ勘が鋭いのだと。


(この状況……! 「テメェ今度こそ血祭りに上げたらあ!」とアウェルが暴走するか、「気づかれては仕方ない!」と黒騎士が暴れるかの二択……!)


 なんにせよ被害を被るのは自分だ。再度気を高めだした黒騎士容疑者に対して、ゼフィルカイザーもバックブーストのために出力を高め――


「だってさ、シングの兄ちゃんいい奴じゃん」


 アウェルの一言に、二人ともそろって毒気を抜かれた。




「あ、いや。そう言ってもらえるのはありがたいが、何故?」


『セルシアが着いてったんなら悪い奴じゃないだろ。それに、こうやって助けに来てくれたしな』


「アウェル君……」


『アウェルでいいって』


 ほとんど初対面の体の自分をここまで信頼してくれている。その少年を欺いており、かつては人質にとるなどという真似をし、そもそも真の初対面では殺さなかったのがほとんど偶然のような状況だった。

 セルシアに見透かされたときと同様、いや、それ以上の申し訳なさが溢れてくる。


(黒騎士とは。魔王軍の筆頭騎士とは。ここまで耐えねばいけないことなのか……!)


『それとまあ、あれだ。認めたくはないけど、あのスカし野郎強いからな』


「む……そうなのか」


 敵ながら、そのように認められると気恥ずかしいものがある。好敵手とはこういうものなのだろう――


『だからシングの兄ちゃんみたいに出会いがしらで事故ったりしないだろ』


「……ごふっ」


 とんでもないところから変化球が来た。


(い、いや。背中から切りつけられたのも、貴様の放った光の弾を受けたのも意図してのことなんだが……!?)


 釈明すると芋づる式にばれる。なにより、レルガリアとぶつかったのは完全なる自分のミスだ。


『あんま偉そうなこと言うのもあれだけど、無様なことばっかりやってると機体が泣くぞ?』


「は、はは。そ、そうだな?」


 乾いた笑いを返すシング。道化を演じると決めたのは自分なのに、なんなのだろうか、このやるせなさは。


『つってもあの黒い奴も尻尾巻いて逃げてったしな。次は絶対にぶっ殺す。絶対にだ』


(黒騎士の名に傷が……! そして命を狙われている……!?)


 茶番を演じた結果、何か大切なものを失った気がしてならないシングだったが、




(――――無様)


 声なき声が、黒の機体のコアに湧き上がる。

 この茶番最大の被害者は、間違いなく黒の機体(エグゼディ)だった。

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