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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第二十話 ガルデリオン、初めての変装
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020-004

「申し訳ございませんでした!」


「いや、悪かったのはこっちだからな、たぶん」


 フルークヘイム・アーモニア支部、その建物内は閑散としていた。なんでも、山の方で魔物が出たとかで人が出払っているらしい。その一画で、朱鷺江とシング・トライセルは土下座の猛攻を受けていた。床にこれでもかと頭をこすりつけているのはレルガリア・ジンガーサマーだ。


「いいや、このレルガリア・ジンガーサマー、帝国再興を掲げるリ・ミレニアの末席として、己より魔力ある者への無礼などと決して許されぬことを……!」


「いや、そうは言うが」


「なあ?」


 身分の証として魔力レベルを測定させられたのには驚いたが、それ以上に驚いたのが二人が魔力カウンターをカンストさせると、レルガリアが恐れおののいて平伏したことだ。

 理由は当人が今しがた述べたとおりなのだろうが、ここまで大仰だと二人が戸惑うのも無理はない。

 そもそも二人の魔力測定も全力で手加減してのものだ。魔族の血を引く二人の魔力には、この程度の魔道具ではとても耐えられない。

 そんな事情はいざしらず、二人を見守るアウェルとセルシア。さらにそこからいくらか離れた場所で、パトラネリゼは通信機相手にぼそぼそと話していた。


「……じゃあ、シングさんがガルデリオンさんだって言うんですか?」


『ほぼ間違いない。事前に接触したセルシアには何かしら言い含めたのだろうな』


 アウェルに言ったら解体されそうだが、セルシアの中であの黒騎士に惹かれているものがあるのは間違いない。

 ケリをつける話にしても、今のセルシアはまともな剣を持っていない。あの蛮族は己の優先事項のためなら割と平気で詭弁を弄するので、あるいはそれで黒騎士をほだしたのかもしれない。


「言われてみれば確かに似てるんですけど……でも、魔力の感じが全然違うんですけど。それにハッスル丸さんによれば、魔族はたぶん瘴気の無いところで生きていけないはずですよ」


『魔力の質を偽る魔法があるとすれば簡単な話だ。

 それにバイドロットが言っていただろう、混ざりもの、と。恐らく黒騎士は人と魔族のハーフかなにかだ。それによって魔族のデメリットを受けずに済んでいるのかもしれん』


「じゃあ、朱鷺江さんの幼馴染だっていうのは? 朱鷺江さん、邪神配下の海竜王と戦ってたじゃないですか」


『件の国がそもそも魔界のことだとすればすべて納得がいく。存外、彼女が水の四天王なのかもしれん。

 海竜王と戦っていたのについても、邪神復活よりメグメル島のほうが大切だったのだろう。

 黒騎士も、邪神復活より優先するような目的があるのかもしれん』


 ヴォルガルーパーのことを予見していた時と同じく、予想はすべて的中していた。だが、パトラネリゼは首をかしげる。


「そうは言ってもゼフさんですしねえ……」


『なんだ、信用無いな』


「忍者。あとエルフ」


『その節は本当にすまないことを……!』


 どちらも早合点が原因だった。

 それに、幹部が変装して潜入してくるパターンの亜型として、幹部そっくりの全くの別人が現れて、勘違いの結果トラブルになる、ということもある。


「その上でお聞きしますけど、どうします?」


『特に突かずに観察の方向で頼む。アウェルが気づいたら生身の人間をチェイスするロボットという汚名を着る羽目になりかねん』


「ゼフさん無しでエル兄がガルデリオンさんに勝てるはずもないですからねえ。

 それにキャプテンがあっち側だとすると、精霊機が相手だからゼフさんじゃ手が出せませんしね」


 O-エンジンを用いれば行けるが、メグメル島滞在の一週間で見た限り、朱鷺江は表裏のない信頼できる人間だ。こちらに後ろめたいものがあるならば、表に出さずにいられる娘ではないし、それだけに敵に回したくはない。


『そういうことだ。あの二人の言動の端々から、拾えるだけ情報を拾っていくぞ』


 と、ゼフィルカイザーの優先度的に高い話が終わったので、


『ああ、それとだな。どうもこの街に攻めてきている連中がいる。先ほどのケンタウロス娘が街の中へ駆けて行ったからな』


 と、付け加えた。




「貴女のような魔力高く、また精霊機の担い手でもある方の唇を受けたのは我が身の誉れ。このレルガリア、生涯忘れぬと誓いましょう」


「……ごめんシング、今度からは相手選ぶわ」


「お前がそこまで嫌そうな顔をするのを初めて見た」


 今までこの癖が原因でもめ事が起こったこともなくはない。が、率直に言ってここまで気持ち悪い対応は見たことがない。

 顔はわかる。乳もまあわかる。変わり種だと足やうなじや鎖骨とかあったがまだ理解できる。でも魔力て。そしてこの掌の返しっぷり。

 そんな朱鷺江の気持ちを組んでか、ギルド内に駆け行ってきた馬脚がレルガリアの顔面を抉り抜いた。


「誰か手の空いてる奴いる!? 第一ゲートが襲撃を受けてる! 急いでお館に連絡、あと魔動機持ちで迎撃に出れる奴!」


「ハーレイ、そっちは大丈夫なのか!?」


「支部長! うちのクランで応戦してるけど、相手はヌールゼックが3機、ちょっときつい! つうかレリーの奴はどうしたのよ!?」


「あー、坊ちゃんならお前の足の下に」


「げっ、この能無し、門番の仕事ほっぽりだして何やってんの!?」


「うるさいこの魔力無し……! くっ、だがそれどころではない、乗せろ!」


「へいへい、ほら早くする! 他、誰か機体持ちで戦える人!」


 レルガリアを掴みあげて背に乗せると、ギルド内を見渡すハーレイ。そこにアウェルが手を上げた。


「姉ちゃん、オレも門の機体のところまで連れてってくれ。加勢する」


「ありがと! 君くらいならまだ乗せれるから、ほら、乗って!」


 そのまま勢いよくアウェルを引き上げると、背に乗せて駆け出して行った。


「な、なんかあっという間でしたね。朱鷺江さんはいかないんですか?」


「どうしてもって時だけにしときたいんだよ。

 オレ、一応メグメル島の頭じゃんか。それがアーモニア(ここ)で精霊機持ち出すと、帝国派と手ぇ組んでると思われかねないっていうか。

 今回こっちに来たのも商談絡みの顔見せもあってさあ。いやほんと、その辺ミスるとうちの島干上がりかねんのだわ」


 朱鷺江が口にしているのは事実だ。そもそも朱鷺江は嘘がつけるタイプではない。


「あー、それはマズいですねえ。と言っても他に使える機体があるかと言うと……」


「なら俺も加勢してくる。アウェル君なら大概の相手は大丈夫だろうが、念のためな」


 言いながらシングが取り出したのは、魔晶石に細工をあしらったペンダントだ。やや暗い室内でもキラキラと輝いており、角度によって石の色がくるくると変わる。相当珍しい魔晶石だ。


「んじゃ、あたしも」


「君、丸腰だろうが」


「……あれ?」


 手を上げたセルシアが、シングの指摘に首を傾げた。言われてみれば、背が軽い。あと、金属女の姿もない。


「……あれ? どうしたんだっけ?」


「いえいえちょっと待ってください……ひょっとして市場に刺さりっぱなしなんじゃあ……」


 首をひねるセルシアとパトラネリゼに背を向けたシング――ガルデリオンは、それはそれはげっそりとした表情をしていた。




 なお――


「おのれ、抜けん……! セッちゃんどんだけの力で……!」


『しくしく……ゼフ様、どうかクオルをお助けくださいですの』


 精霊機は貴重であり争いを呼ぶと警告されたはずだったが――市場の片隅に突き刺さった鋼の乙女たちに近寄る者はなかった。




 アウェルとレルガリアが機体を走らせて外周の防壁にたどり着いたのと、その防壁の門が突き破られるのは同時だった。

 門を突き破ったのはデスクワークだ。あちこちの関節がねじまがったそれが、攻城槌めいて防壁を突き破ったのだ。


『くっ、おい魔力がほどほどの者、大丈夫か!?』


『あぐっ……その腹の立つ物言い、坊ちゃんか!?』


『坊ちゃん言うな! おのれ、どこの誰がこんなことを……!』


 砕かれた門をくぐった先には、ハーレイの言ったとおりヌールゼックが三機仁王立ちしていた。レルガリアの駆る改とは、細かい部分で意匠が異なっている。


『くっ、あの機体は……! 貴様ら、誰の許しを得て栄えある帝国魔動騎士団の機体を駆っている!?』


『帝国魔動騎士団っていうと、あれが改良前のヌールゼックってことか?』


『ああそうだ、今や残存数も少ない希少な機体だというのに、どこの野盗だ!?』


『俺たちは野盗じゃない、立派なリ・ミレニアの魔動騎士(ライザーナイト)様よ』


『なにっ、そのエンブレムは! 貴様ら、玉兎派か!?』


『皇女派と言え、皇女派と』


 ヌールゼック三機の肩には、いずれも月に兎のエンブレムがあしらわれていた。


『アーモニアを捨てた月兎騎士団が何の用だ!?』


『皇女様のお達しだ、物資を献上する栄誉を与えるとよ。つーわけで食料をよこせってのにこいつらが通さねえもんだからなあ?』


 先頭のヌールゼックの足元には、スクラップと化したデスクワークが転がっている。


『くっ……おのれ、よくも魔力のない弱者を! ヌールゼックが動かせるほどの魔力を持ちながら、貴様らそれでよく魔動騎士を名乗れたものだな!』


『はっ、魔力のある俺らが弱いこいつらをいたぶって何が悪いんだ?』


(わーい、身分を笠に着た慮外者だー)


 嬉しくないお約束にげんなりとするゼフィルカイザー。

 ザンバリン一家のようなモヒカン気質溢れる郎党と違い、身分で人を見下している。どちらがより不快かは人それぞれだろう。


(そんで玉兎というと、例の十二神将の生き残りで、リ・ミレニアの皇女の叔父だったか。この手の組織内のグダグダもお約束と言えばお約束なんだが)


 トーラーに、残る二人の十二神将について尋ねておいたが功を奏した。今のわずかなやりとりで、リ・ミレニアが一枚岩でないことは一目瞭然だ。

 詳しい話はハッスル丸あたりが仕入れてくるだろうから、この場を切り抜ける方が優先だ。


「どう見る、ゼフィルカイザー?」


『警備についていたデスクワークは軒並みやられて当てにできん。お前こそあのヌールゼックという機体はどう見る?』


「乗ってる奴の腕次第だけど、面倒だな。レルガリアの兄ちゃんの機体見てて感じたけど、たぶん単純な格闘性能なら下手な古式より上だ」


 そして乗っている相手はおそらく対魔動機戦闘に長けている。数は3機とわずかだが、ザンバリン一家などとは比べ物にならないだろう。


『対してこっちの装備は、役に立たない板切れ、それに試し撃ちもまだの拳銃か』


「ビームは?」


『粒子はそれなりに溜まっているが、大会に備えて極力溜めておきたい。使うなら確実に落とせる状況にしておきたい』


「ミサイルは?」


『光るのと燃やすのと爆発するの、それと対魔動機用に貫通力が高いのが2発ずつ』


「最後の奴はヴァイタルブレードみたいな威力があるのか?」


『試してないから何とも言えんが、一発で仕留めれるとは思わんほうがいいだろう』


 現実の戦争ではミサイルは必殺兵器なのだが、ロボットアニメだとミサイルは大体撃ち落とされるか切り払われるかが常だ。

 そしてこちらの大陸の魔動機乗りの対魔動機戦の練度はザンバリン一家で身に染みた。なのでゼフィルカイザーも過度な期待はしていなかった。

 冷静に戦術を思案する二人に対し、レルガリアは機体に魔力を滾らせ、ポールアックスを構えた。


『くっ、3対1か。だが、退くことはできん……! 私の後ろには魔力無き弱者たちがいるのだ!』


「おい兄ちゃんふざけんな」


 アウェルが座った目でレルガリアに抗議するが、レルガリアは心底心配そうな声で指示を飛ばす。


『君のような魔力で私の疾走についてきたら立っているだけでやっとだろう。

 何もするなとは言わない、隙をついて周りの大した魔力を持たない者たちを回収してくれ』


 口ぶりは差別的極まりないが、この世界の常識で言えばレルガリアの言っていることは正論だ。そして周りが見えていないわけでもない。その声には同格の機体3機を相手取ろうという緊張感に溢れていた。

 それを敵も読み取ったのだろう。下卑た笑いと共に、得物の剣を足元のデスクワークへと向ける。


『てめぇこそなってねえよ。魔力がねえゴミはいくら減らしてもいいんだよ。こうやってなあ!』


『やっ、やめろ!』


『嫌だね!』


 剣が振り下ろされるその瞬間、アウェルはブーストで突っ込もうとし――背後から迫り来た何かに身をこわばらせ、出遅れた。

 黒い風が一瞬で戦場を駆け抜け、ゼフィルカイザーとヌールゼック改の前で静止した。二機の前には黒い大きな背中がある。存在感が、というだけではない、実際に大きな背中だ。

 ゼフィルカイザーより頭一つは大きい。全高はおそらく10mを超すだろう。


「でかい――骨董魔動機アンティーク・マジカライザー……まさか」


 アウェルの昂りに応じたのか、O-エンジンが起動可能になる。黒い骨董魔動機と言えば、思い当たる機体はただ一機だ。しかし、その黒い機体は困ったような声を返してきた。


『警戒しないでくれ。俺だ俺、シングだよ』


「シングの兄ちゃんなのか? その機体は……」


 鎧うは漆黒。黒と言っても、アウェル達が知るあの黒騎士とは趣が異なる。夜の帳を思わせるエグゼディに対し、その機体は鉄鋼の黒を纏っていた。直線的な角ばったフォルムに肩に大盾を備えたその姿は騎士というよりも武者のそれだ。


『レフティナ・トライセルが愛機、ミカボシ。ここに推参』


 黒武者、ミカボシは右手に直刀、左手には今しがた砕かれようとしていたデスクワークを抱えていた。やや遅れて、二組の間にあるものが落ちた。先頭のヌールゼック、その右腕が肘から滑らかに切断されていた。


『なっ……なんだてめぇは!?』


『ただのしがない魔動機乗りだよ。ごらんのとおり骨董品なのでな、できれば加減してもらえると助かる』


 骨董品などと言うが、その機体から放たれる存在感はその場にいたすべての者を圧していた。猛々しい荒武者が放つ獰猛な圧力は、静謐とすら言えたエグゼディのそれとは似ても似つかない。


(外装を取り換えた同じ機体……いや、どうだ?)


 ゼフィルカイザーは己の読みに若干自信がない。外装の意匠が違いすぎる。それにコアの色も違う。漆黒の銅鎧に輝く真紅のコアは、エグゼディの緑がかった紫のコアとは別物だ。

 なにより、アウェルに一切感づく様子がない。あれだけ魔動機の読みに長けたアウェルが気づかないのなら、正真正銘別の機体か。


(……そうなるとまさか、乗っている本人も別人路線か?

 そもそも何故黒騎士たちが俺たちの行く先を? お約束と言えばそれまでだが、何らかの手段でそれを察知していたと見るのが妥当……いや、俺とセルシアとハッスル丸に一切気取られることなく? それこそ有り得んと思いたいが、いやしかし)


「ゼフィルカイザー、後にしろ、後に」


『あ、ああ。了解した。とにかく武器の試し撃ちをしつつ、あの狼藉ものたちを仕留めるぞ』

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