005
「で、申し開きはある?」
「はい、すみませんでした」
「あれえ? 村のためだったんでしょ?
なんか謝らなきゃいけないようなことしたの?」
「そ、そんなことは……本当に申し訳ございませんでした」
「んー? 誠意が感じられないなあ?」
村長と顔役数人が縛られ、座らされている。その周りを回りながら詰問を続けるセルシア。
その手には、村娘には不釣り合いなほどの細工のこらされた拵えの剣。彼女にとって父親の形見である剣だ。
鞘に収まったそれで地面をばしばしと叩いている様を見て、ヤンキーの木刀じゃあるまいしもったいない、と思うゼフィルカイザーである。
『容赦ないなあ、お前の姉』
「姉貴分な。まあそれだけ腹立ってたんだし仕方ないだろ」
『周りの村人も止めようとしないのは』
「誰だって死にたくないだろ」
『うしろめたさよりもセルシア怖しか。お前の姉は一体何なんだ』
コックピットを下り、つま先に腰かけているアウェルとそんな会話を交わす。
ガンベルを退けたあと、ゼフィルカイザーが村長宅を掘り起こしたところ、セルシアの剣をはじめとした二人の家の家財などが広間だったあたりで見つかった。結果、セルシアが私刑を敢行した。
といっても全員正座に拘束の上で詰問されているだけだが。
そういう意味ではセルシアはまだ手加減しているのだろうと思い状況を見ていると、不意に村長がこちらに向かって声をかけてきたではないか。
「あ、あんた!」
『……ん? 私か?』
「そ、そうだ! わしらは村のためにやったんだ!
言うなれば大切なものを守るために仕方なかったんだ!
あんたならわかるだろ! さっきそんなことを言っていたし!」
『…………』
「なんならどうだ、この村の用心棒にならないか! 金ならいくらでも出すぞ!」
その時点で明らかに場の空気が変わったことを認識できたものが、どれだけいたか。少なくともこの件の被害者二人はそれを敏感に感じ取っていた。
「なあ、姉ちゃん、その辺にしといたほうがよくないか?」
「まあ、そうするかな。いい加減飽きたし――」
『うむ。ではこの村を焼き払うとするか』
「「ちょっと待った落ち着こうか」」
少年少女が全力で突っ込む中、ゼフィルカイザーはカメラアイを光らせ村の衆を睥睨し、おもむろに腰の得物を抜き放った。
「お、おい!? おいクソガキども、どうなってやがる!?
大体誰が乗ってるんだ!?」
「こいつには意志があるんだ! 誰も乗ってなくても勝手に動く!」
『そういうことだ』
「おいゼフィルカイザー! やめろって言ったのはお前だろ!」
『このような村社会は滅ぼしたほうが世のためだ。
なに、私が勝手にやるだけだし目撃者を残さねば怨恨も残らない』
「ひいいいいい!!」
またも、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す村人たち。ただ先ほどと違い、拘束されている顔役たちには逃げ出すすべはない。おもむろに村長をつかみ、目線の高さまで持ってきて、
『ではシメるか』
「た、助けてくれ! なんでも、なんでもするから!」
『どうだった、私の迫真の演技は』
「どう考えてもマジだっただろ?」
『はっはっは。あっはっはっは』
「笑ってごまかそうとしてるわコイツ」
森の中の道を白い機体がかき分けていく。
『とはいえ物資も巻き上げることができたのだ。万々歳ではないか?』
「そりゃそうだけどさ」
二人はゼフィルカイザーの顔の両サイドにそれぞれ腰かけている。
コックピットの中には二人の日用品のほか、保存食の類が詰め込まれているせいだ。脅迫の戦利品である。
『しかしながら、よかったのか?』
「なにが?」
『いや、結局村を離れることになっただろう。遺恨があったとはいえよかったのか?』
「いーのいーの。このままいたら本気で誰か斬ってたかもしんないし」
『お前の姉はいったい』
「こういう奴だから諦めてくれ」
疑問を告げる前に諦観を強要された。
「まあこんだけの大事になっちまったしな。オレらが村に居続けたら他のみんなも居心地悪いだろうし仕方ないさ」
『村も荒らしてしまったしなあ』
「その辺はあちらさんの自業自得ってことで。
ディアハンター3号も置いていったんだし文句言わんだろ」
ディアハンター3号とはアウェルの家にあった魔動機のことだ。
作業用というだけあって、でかい羽釜のような胴体に手足をくっつけたような代物であった。コックピットもむき出しで、全高もゼフィルカイザーの半分もない。
ゼフィルカイザー自身はこれはこれで泥臭くていいなあ、などと思ったりもしたが、アウェルは惜しみつつもその機体を村に置いてきた。
聞けば、魔動機は作業用のものでも貴重なもので、村にはアウェルの物を含めて二台しかないらしい。
今回の件の大本はそのあたりにあるのではないかと、一瞬浮かんだ想像をすぐに掻き消した。もう終わったことである。
「ゼフィルカイザーはあれだ。なんか思い出せたか?」
『生憎と――否、一つだけ、あの巨大な竜と対峙した時に思い出したことがある。邪神というものを知っているか』
「邪神? そういやあのドラゴンがなんか言ってたな。聞いたことないけど、姉ちゃんは?」
「それ、食べれる?」
「すまんオレが悪かった。で、ゼフィルカイザー、その邪神とか言うのがどうかしたのか?」
『私はその邪神と戦わねばならないらしい』
らしい、ではなくほぼ確定事項である。なにせマニュアルの最上段に思いっきり書かれているのだ。
【ミッション:邪神の封印維持ないし討伐】
【邪神についての詳細は不明。現地で情報収集を行うこと】
(ミッションとは言わんわこんなもん!
投げっぱなしにもほどがあるぞ!)
とはいえあのドラゴンの発言から邪神とやらが実在すること、それが人間にとってどうにもよろしくない存在であることは確実らしい。
何より問題なのは、この機体の機能が把握できていないこと、ビーム兵器が使い物にならないこと、そして、
『そして、私は誰かが乗り込まなければ力をふるうことができないようなのだ』
この点である。ビームもミサイルも使用不可。
唯一の得物であるブレードレールガン――弾がないから実質ただの剣――も、ガンベルとの戦いで見せた重力波や凄まじい切れ味は誰かが乗っていないと機能しないらしい。
(なによりブレードレールガンでは味気ない。なにか名前を付けないとな、かっこいい奴)
無意味なこだわりを抱きつつも、足を止め、改めてアウェルを横目に見る。
『危険が伴うだろう。だがそれを承知で頼む。私と共に戦ってくれないか』
(でないと俺が死ぬ!)
言葉は真摯である。しかし内心は必死であった。
白い機体がこの世界に降り立ってから2日と立っていないし自身の性能も把握できていないが、自分がいかに戦いというものと縁がない人生を送ってきたかだけは理解した。
また、アウェルの操縦センスは本物だとゼフィルカイザーは確信していた。
戦い自体に不慣れなところはあるが、それでもゼフィルカイザー自身がステゴロを挑むよりかは万倍マシである。
自身のゲームやオタク知識を総動員してアウェルを補助すれば、否、それ以外に自分の生きる道はないのではないか。そんな漠然とした予感がゼフィルカイザーを覆っていた。
「ちょっと、アウェルに危ないことさせようってんなら――」
「いいぜ」
セルシアの横やりを押しのけて、アウェルはその頼みを承諾した。
『よろしく頼む』
「こっちこそだ」
笑いながら返すアウェルと、ふくれっ面のセルシア。そして、
(ま、いい歳だしな俺も。それに喋るロボット枠はこれはこれでおいしいか)
先の危機感はどこへやら。そんな気楽なことを考えるトリコロールカラーの機体であった。
いろいろとあって異世界の冒険がスタートしたゼフィルカイザー。
しかし、彼には冒険どころかハイキングの経験すらなかった!
さらに追い払った傭兵の親玉が逆襲してくる!
アウェルが口にした古式魔動機とは?
次回、転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~
第三話
「樹海、遭難、お礼参り!」
(というか、状況だけ見たら完全に未成年略取事案だよなあ……)
次回もお楽しみに!




