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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十八話 勇者さまは鞘入り娘
118/292

018-005

(拝啓、先輩様方。あれから一晩が経ちましたが相変わらずパーティの雰囲気が最悪です)


 熱砂と岩石の大地を行くゼフィルカイザーは内心で一人ごちた。機内は相変わらずの惨状だった。


「あ~づ~い~で~す~」


「昨日よりはちょっとはマシになったけどね。白いの、どーにかならんの?」


『こっちもいろいろ試行錯誤はしているのだ。

 水と一緒にこっちで用意した飴も舐めておけよ。ミネラルが補給できるからな』


「グエーッ……」


「ゼフィルカイザー、オレらもきついけどハッスル丸ヤバくないか?」


『むしろどうやってこの大陸で生活していたんだろうな、この海鳥』


 疑問である。

 ともあれ、いまだに空調の復旧には至っていない。なので、ゼフィルカイザーは機体内の冷却機構を過剰運転させることで無理矢理機内の温度を下げている。

 これも調整が難しく、匙加減を間違うとアウェル達が凍死しかねないのだ。


(本当にどこにあるんだ、エアコンのドライバは……!!)


 昨夜といい、動いていない時はひたすら電子の海で膨大な量のデータホログラムと格闘していたゼフィルカイザーも流石に神経回路がすり減っていた。

 そんなゼフィルカイザーの疲労を察してか、アウェルが小声で呟く。


「無理するなよゼフィルカイザー」


『なに、私の不備が原因だ。気にするな』


 労いの言葉に返答するゼフィルカイザーだった、が。


『……ふん。所詮はどこの由来かも知れない鉄屑ですの』


 見下した調子のクオルにハッスル丸を除く全員が口をへの字に結んだ。暑さからくる苛立ちもあって、持ち主が突っ込んだ。


「うっさいわねナマクラ。そうやって抜かすんならあんた、どうにかできるの?」


『……ク、クオルは魔法文明が作りし最高傑作、ソーラーレイの統御能力だけではなく、四大属性を自在に操る能力も備えていますの。

 それがあればこの程度は余裕で――』


「てことはなんですか。今はできないんですか」


 賢者、容赦のない連携攻撃。


『……い、いずれ、来るべきときにはクオルの真の力をお見せしますの』


「聖剣って涼しくするための魔道具だったのか?」


『ごふっ』


 弟分の無常なるフィニッシュに聖剣がしなった。持ち主は体内の余熱を吐き出すように深くため息をつく。


「……っとに、どうにかして代わりの剣手に入れないと」


『ク、クオルとソーラーレイになんの不満があるんですの?』


「標的避ける剣に不満持たない剣士がいてたまるか」


 吐き捨てるように言うセルシアだが、それ以上激昂することもない。狭い暑い息苦しいのコンボで余力がないのもあるのだろうが、


(こいつもなんというか、丸くなったなあ)


 ゼフィルカイザーの脳裏には、第一話でロボットで生身の人間をチェイスするという凶行をやらかしたロボットアニメの主人公が思い浮かんだ。犯行の動機は一方的に殴られる痛さと怖さを教えてやるためである。

 そのキャラは中盤に弟分キャラが加入すると、常識的な対応をするようになった。

 ストーリー序盤で横着だったり非常識だったりしたキャラが、より横着なキャラの加入によって大人びた対応をするようになる。これもロボットアニメ限らずお約束だ。


(まーその分、新たな問題児に頭を抱えることになるんだがな……!!)


 そこまで含めてお約束だから仕方がない。ゼフィルカイザーはそう思い定めて、気分転換に荒野の景色に目をやる。

 さんさんと照りつける日光は地表で灼熱の熱波となって吹き寄せ、ゼフィルカイザーの装甲を撫でていく。

 一方で、その荒野にも力強く根を張る緑がぽつぽつとある。砂漠というと死の大地のイメージが付きまとうが、カメラアイに映る風景には力強い生命力が感じられた。

 だが、呑気に異世界情緒に浸る余裕はない。ゼフィルカイザーの視界では、サーモグラフィーと動体センサー、振動感知センサーが多重に起動していた。エルフ相手だとセルシアの直感が当てにならないのでその代わりだ。


(こうやってインジケーター多重展開するのも情緒はあるけどな。おのれエルフ……!!)


 毒づくゼフィルカイザー。昨日の襲撃のせいで、今のゼフィルカイザーには砂漠に点在する緑が全部エルフに見えていた。


「ゼフィルカイザー、疲れてないか?」


『なに、気にするな』


「あー……ちょっと白いの。向こうの方にでっかい池が見えてるじゃない。あそこまで行ったら休憩しない?」


 アウェルの気づかいに便乗してセルシアもそんなことを言ってくる。


(セルシアが俺を気遣った……? いや、単にセルシアも疲れているだけか。

 しかしなあ……)


 操縦席のモニターには人間の肉眼で見るのと変わらない画像が映っている。しかし次の瞬間、その画像が緑がかった。すると、画面に映っていた池も消え失せる。

 ゼフィルカイザーが画面表示を可視光モードから分析モードに切り替えたためだ。


『あれは逃げ水と言って、光の屈折が生む蜃気楼の一種だ。さっきからどれだけ進んでも近づいていなかっただろう』


「不思議ですねー……って、ゼフさん、あっちにある水たまりは消えてませんよ?」


『なに? ちょっと待て』


 パトラネリゼが指さした方向には確かに大きな池がある。念のためサーモグラフィーで見てみるが、その周囲は周りよりも温度が低い。


『どうやら本物のオアシスのようだな。少し寄ってみるか』


「グエーッ……」


『でないとそいつが死にそうだからな』




 ゼフィルカイザーから降りると、一陣の風が吹き付けた。乾いた熱風は、汗だくの肌にはいっそ心地よいくらいだ。

 パンツ一丁のセルシアがそんな感想を抱く横を、やはりパンツ一丁のパトラネリゼが勢いよく水辺へと駆けていく。


「っとに。人にはしたないだのなんだの言っておいて、自分はどうなのよ」


「非常事態だからいいんです! ゼフさんもエル兄も見ちゃだめですよ?」


『へーへーわかってますよ』


 背を向けて膝を抱えた白い機体から、アウェルの意気消沈した声。アウェルも降りようとしていたのを釘を刺したらあの様だ。


「あいつ、ああもサルだったかしらね」


「どうかしたんですかシア姉」


「なんでもないわよなんでも。とりあえず一浴びしましょ」


『クオルも、クオルも一浴びしたいですの……!!』


 セルシアの手にした剣が悲痛な声を上げた。顔をしかめながらも剣を抜き放つが、鞘走る刀身の感触が明らかに鋼や石のそれではない。近いところで言うなら、


「なんか、クラゲの足みたいですねえ」


「パの字、言わないで。泣けてくるから」


 鞘からぬるりと放たれた陽光をたたえた刀身は、さんさんと照りつける日の光を浴びるとどんどんそそりかえり、セルシアの知る剣の感触を取り戻していく。

 そして、それに反比例するようにセルシアがげんなりとしていく。


「シア姉大丈夫ですか?」


「大丈夫だから。ちょっと頭冷やしてるからあんた一人で水浴びしてて」


「頭冷やすんなら水浴びたほうがいいと思いますけど……」


 とはいえ、セルシアの様子に何か察したパトラネリゼは、それ以上踏み入らずに水辺でぱしゃぱしゃと水を浴び始める。水際だからだろうか、空気もいくらかは涼しく感じる。


「――で、あんた。あたしらに何を隠してる」


 そんな中、砂漠の熱も凍てつく鋭さがクオルを突き刺した。


『えっ、な、なんのことですの』


「とぼけんな」


 クオルを突き立て、自分もどかりと座り込むセルシア。当然のように胡坐なのは今更だろう。


「不完全とか言うのはそうなんでしょうよ。なんでかわかんないけど、そうなんだなって感じがしてるし。

 だけど、夕べのはわざとらしすぎるわ。父さんがあんたのことをあたしに言わなかった理由、あんたには心当たりがあるんでしょう?」


『それは……』


 案の定、クオルが言いよどむ。

 気が付けば赤道をまたいでこんなところまで来てしまったが、セルシアが旅を続けてきたそもそもの理由は両親のことを知るためだった。

 最初こそあまり気にかけていなかったが、リリエラから話を聞いて、カーバインを経て、旅をしてきた意味はあったと思った。

 自分が父のもとにいた経緯も、母のようになるなという言葉の意味も、痛いほどに――それこそ死の間際の激痛と共に――理解できた。

 だが、それがセルシアに向けた言葉だったというならば。



「あー、俺が馬鹿だったわ……家訓に振り回され、騎士道に振り回され、女に振り回されてこのザマか。

 本当ならな、その剣と一緒に伝えなければいけないことがあるんだがな……お前は、お前の好きなように生きろ」



 あの、死の間際の独白はなんだったのか。

 この剣が、ただの剣ならばそのまま思い出にしておいてもよかった。だが、いわくつきどころか剣自体が喋るのだ。ならば。


『……あの、なにやら物騒なことを考えていませんの?』


「どうやって吐かせるか考えてるだけよ。融かせないなら……削ってみようかしら」


『ぴぃ!? そ、その、話すからやめるですの!!』


「おうキリキリと吐きなさい」


『ううう……でも、話せることはそうないですの。

 あの戦いで邪神の封印と共に眠りについたクオルには、それからこの数日までの記憶はまるでないですの。なので、マスターの子孫が何を語りついできたのかは知りませんの』


「ちっ、役に立たないわね」


『ぴぃ……で、ですけど、心当たりはありますの。あのとき、マスターは――』


 茹った頭の熱を堪えながら、聖剣の言葉に聞き入るセルシアだったが、


「きゃああっ!?」


「ああもうなんだってのよこんなときに――げっ!?」


 上がった悲鳴に視線を上げると、そこでは、


「ちょ、な、なんですかこれ!? 水、じゃない!? あ、ちょっと舐めまわすんじゃありません!!」


 池の水が粘りを帯びて、パトラネリゼに絡みついていた。つい先ほどまでは間違いなくただの水だったはずだ。それが生き物のように蠢き、パトラネリゼの幼い肢体を捕えて放そうとしない。


「パの字、大丈夫!?」


「大丈夫じゃないですから助けてください!! あ、ちょ、パンツがいつの間にかない……!?

 それになんだかあちこちヒリヒリするような……」


『なにっ!?』


『落ち着けアウェル、パティのほうだ。しかし池の中に擬態したスライムがいたのか』


 振り向いたゼフィルカイザーが呑気に納得しているが、現場はそれどころではない。

 セルシアもクオルを片手に池の中に突っ込んでパトラネリゼを確保し、岸に上がろうとするが、いつの間にか岸がはるか遠くまで遠のいている。


「げっ!? 回り込まれてる!?」




「いけっ、そこだ……!!」


『お前、後でセルシアに殺されるぞ? しかし本気でまずいな。とっとと二人を確保して焼き払わねば』


 アウェルを諌めながら動き出すゼフィルカイザー。その機内、干からびていた怪鳥の開いたままの目に光が灯る。


「な、なにやら楽しげな事態の予感……!! 一体何事にござるか?」


『ハッスル丸か。なに、砂漠のど真ん中だというのにスライムが出てな』


「ほうほうそれは……む? なんでござると!?」


 いつもの無表情ながら、口調には危機感が灯っていた。それはモニターに映る光景を目にしてより露わになる。


「こ、こやつは……こうしてはおれん、影鯱丸を出さねば……!!」


 ハッスル丸の焦りように、ゼフィルカイザーも警戒を引き揚げながら尋ねた。


『おいハッスル丸、あれは危険な魔物なのか』


「危険どころではござらん! あれはオアシスに擬態して人を襲う砂漠の死地、その名も追い水にござる……!」


 そしてハッスル丸の言葉を実証するかのように、池の水全体が盛り上がり、


『まさか……この池全体がスライムだとでもいうのか……!?』


 ゼフィルカイザーの狼狽など知らぬとばかりに、その薄汚れた白の駆体を呑みこんだ。




「あの役立たず……!!」


 ゼフィルカイザーが粘ついた波にのまれるのを見たセルシアは毒づいた。ゼフィルカイザーは最初は戸惑うような挙動を見せていたが、すぐにもだえ苦しみだした。

 装甲のあちこちに、最初からついていたのとは違う損傷が増えて行っているあたり、


「まさかこの魔物、私たちを溶かして食べる気ですか……!?」


「みたいね。あたしのパンツも気づいたら溶けてなくなってるし。ったく」


 暑さで頭がやられていたせいなのか、この魔物、追い水の擬態がそれだけ徹底していたのか、どちらにせよセルシアは直前になってもその気配が感じ取れなかった。だが今は、池全体から殺気というか、獲物を狙って舌なめずりするような感じがしている。

 となれば、セルシアの判断は早かった。魔力を急いでクオルに叩き込む。


『えっ、ちょ、待つですの! まだ話が――』


「このままじゃあたしらがヤバいのよ、後にしろ後に!」


 都合三度目ともなると、顕現もスムーズだ。あっという間に現れる光の戦乙女。顕現時に弾かれたのか、コックピットに収まった時には二人に絡みついていたスライムはどこにも残っていなかった。


「ふぅ、ひとまず安心。パの字、大丈夫?」


「うう……全身ひりひりします。髪もすごく痛んじゃってますし」


 涙目になりながら自分に回復魔法をかけるパトラネリゼ。

 セルシアも全身あちこちがかぶれたようになっているが、セルシア的にはこの程度ダメージのうちに入らない。しかし、パトラネリゼは酷いところだと蚯蚓腫れのようになっているところもある。

 流石にそのままにしておくのはまずいが、セルシアにはどうすることもできない、そう思ったところに、


『仕方ないですの。ヒールライト!』


 コックピット内に、暖かな光が溢れた。それと同時に、セルシアとパトラネリゼの腫れと痛みが引いていく。


「な、なんなんですかこれ? クオルさんの機道魔法なんですか?」


『そんなところですの。感謝するといいですの、無知な小娘』


「最後の一言さえなければちゃんと感謝してやるものを……!!

 で、どうしますシア姉」


「ナマクラの剣でどーにかしてこの水たまりを消し飛ばす。白いのが役に立たないしそれしかないでしょ。あんたもいいわね」


 過剰破壊が目に見えているが、この状況だと仕方がない。


『ソーラーレイの力を持ってすればこの程度、容易いことですの。それになにより、あの白い鉄屑をぎゃふんと言わせる好機ですの!』


 そして痴漢の恨みもしっかり忘れていないようだ。セルシアの操作など端から受け付けず、意気揚々とソーラーレイを構えるクオルだったが、


『助けてやって、クオルのことを最高の精霊機様と呼ばせ――きゃあああっ!?』


(この流れ何度目かしらねー)


 毒づきながら、自分の中の苦手な魔物リストにスライム類を追加するセルシアだった。




 クオル・オー・ウィン。魔法文明の最高傑作たる最強最後の精霊機は、目覚めて二度目となる貞操の危機を迎えていた。


『くっ、放すですの……!!』


 白妙の戦乙女は、その四肢を拘束されていた。両足は顕現した時から追い水に浸かっていたから今さらとして、両腕も触手状に伸びてきた追い水に捉えられていた。

 拘束から逃れようとするが、しかしまるでびくともしない。視界の端には玉状になった追い水と、それに捕えられた鉄屑の姿。追い水には金属への特効性でもあるのか、鉄屑は今やまっ黒く腐食して見る影もない。

 一瞬、自分もああなるのかという恐怖が湧くが、


『ふ、ふん! クオルは精霊機ですの。そもそも霊鎧装を纏うクオルに下等生物如きが――きゃあああっ!?』


 強がったところに、拘束する力がさらに強まった。両腕もだが、両足が大きく開かれてしまっている。必死で足を閉じようとするが、力がまるで入らない。

 そして、足元からするすると、脚を伝って絡みついてくる追い水。その感触が霊鎧装越しにも伝わってくる。


『ひっ、いやっ、いやですの……!!』


「別にいーじゃん、減るもんじゃないし」


「そもそも精霊機に恥じらいを実装するとか、魔法文明の魔動技師は変態ですか」


『助けてあげた恩を忘れて……あっ!』


 両足を伝ってきた追い水が、腰のスカートの隙間から腹部、そして胸元にまで這いずってくる。


『くっ、こ、こうなったら……祓え、ソーラーレイ……!!』


 手放さずにいた白亜の聖剣が展開していく。しかし追い水も剣からあふれる光に警戒したのか、この獲物を早く始末しようと拘束力を強めた。

 そのせいかどうか。クオルのいたるところから、ぴしり、と何かがひび割れるような音がした。

 それだけにとどまらない。浸食部から、霊鎧装がじわじわと削れるようにほどけて行っているのだ。


『なんなんですのこの下等生物、まさか魔力を持っているんですの!? あ、いや、ぬるぬるして気持ち悪いですの……!!』


 必死に身をよじるクオルだが、スライムはほどけるどころかむしろより食い込んでくる。それが限界に達したのだろう、霊鎧装があちこちで爆ぜた。


『あっ、いや、嫌あああああっ!!』


 引き裂かれたスカートから、艶やかなラインの脚線美が覗く。ところどころ裂けた霊鎧装は、破れ裂けたストッキングを髣髴とさせた。

 そして胴体も、ふくよかなバストが、辛うじて残った霊鎧装でどうにか押しとどめられていた。

 拘束された上に鎧を剥がされ素肌を晒した戦乙女が、素肌をスライムに這い回られ、羞恥と怯えに身悶えしているその姿はなんとも艶めかしい。人ではなくそれを模した精霊機であるというのに、いや、だからこそより一層エロティックな雰囲気を醸し出していた。

 だが、


『あぐっ……ぐっ、ぎっ……』


 そこに、明らかな苦悶の声が混ざる。スライムが、クオルの本体を締め付けているのだ。各部の関節が軋みを上げ、コックピット内にもそれが伝わってくる。


『ちょっ、本気でまずいですよシア姉!?』


『わかってるけど、こいつ操作受け付けないのよ!! おいナマクラ、このままじゃあんたもヤバいわよ!?』


『いっ、嫌、ですの……!! シルマリオンの血を引きながら、その自覚もないような者に使われるなど……!!

 あなたのどこに、全ての命の責を負う覚悟があるんですの!?』


 その時。セルシアは初めて、このけったいな剣の本質のようなものが見えた気がした。だが、機体の軋みの前には言葉を返す余裕もない。圧力の影響だろう、コックピットの映像もノイズが入り乱れる。その映像が、衝撃と共に光に覆われた。


『きゃああっ!?』


 衝撃にあおられ、悲鳴を上げるクオル。光はクオルにとって味方であるというのに、この光はクオルの視覚をもくらませていた。

 だが、光と衝撃の中、何かが自身に駆け寄るのを感知した。拘束されながらも身をこわばらせるクオルだったが、唐突にその拘束がほどけた。両手のみならず、両足も粘液に絡まれている感触が失せている。そして、


『少しじっとしていてくれ』


 頭の横で囁く男性の声。直後、クオルの機体が後ろ抱きに抱き上げられ、そのまま引っ張られていく。徐々に視覚が戻ったところで見えたのは、その体積のかなりを失った追い水の姿だ。うねりながら、その呼び名のごとくクオル達に追いすがろうとするが、舞い散る金色の燐光がそれを許そうとしない。

 十分な距離が取れたからだろう、クオルを助けた主はクオルを地面に立たせるとその手を離した。だが、先ほどまでのダメージに加え、この数瞬の出来事に目を回していたクオルはそのままへたり込んでしまう。


『大丈夫か? まったく、不備があるならば無理はしないほうがいい』


 そう告げ、穏やかな声の主がクオルの前に出た。金色の燐光と、青い焔を纏う白の機体がそこにあった。

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