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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十七話 顕現、光の戦乙女!
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017-004

 底が抜けたように青い空を、白雲が風に流れていく。そしてその彼方、相変わらず白いリングが蒼穹を両断していた。

 一陣の風が砂を巻き上げ、容赦なくゼフィルカイザーの装甲に叩き付ける。空気の感触も何もかもがトメルギアと違う。北半球から南半球へ移動してきたということも含めて、今までとは違うところまで来たのだという実感がわいてくる。

 ハイラエラの町はずれ、町と荒野の境目にそれはあった。岩で大まかに区切られた円形の闘技場バトルリング。地面にはおびただしい量の金属反応。この場で戦った戦士たちの欠片だろう。

 大気成分センサーからは、どこか鉄錆臭さを感じた。それだけではない。この地で幾度となく繰り広げた戦いの熱が染みついているのだ。


『む せ る』


「いや、お前口も喉もないのに何言ってんの!?」


 アウェルが突っ込むが、この光景を前にしてどう言えばいいのか逆に教えてほしいところだ。


(っと、いかんいかん。俺は正義のロボット、ここはファンタジーロボット世界)


 必死で己を再定義するゼフィルカイザー。そのボディはいつものトリコロールカラーではあるが、あちこちがくすみ、塗装の剥げかかった部分もある。装甲もいたるところにへこみが目立ち、いつもの流麗な曲線美は微塵も感じられない。

 ――無論、これ全てが偽装ウェザリングである。

 いきなり新品同様の姿では目立つと判断したゼフィルカイザーは、自分の外装に汚しを入れたのだ。同時に、散々食ったプログラムの中にあった機能の仕様運転も兼ねていた。


(装甲の形状変化、こうやってへこませる程度は問題ないか)


 原理としてはO-エンジン起動時に起こる両手や頭部の強化装甲と同じだ。とは言えゼフィルカイザー自身が不慣れなため、劇的な形状の変化は行えない。


(腕からブレード生やしたりできたら楽なのになー)


 発想が完全に人間のそれでなくなっていることに当人が気づいているかどうか。

 そんな中、砂塵の向こうに機影がいくつも現れた。


『機体照合――デスクワークを確認。九機か。総勢ではないな』


「どういうことだと思う?」


『おそらくハッスル丸のせいだろう。あいつ、昨夜は相当やったらしいからな』


 人死にこそ出てはいないが、あちらの構成員が相当痛めつけられたらしい。無論、被害者の中で下手人の顔を見た者は誰一人としていない。

 基本的にヘイム登録クラン同士の私的な抗争は処罰行為なのだが、証拠不十分の上あちらは脛に傷がある身だ。異議を唱えれる立場ではない。その上で、あの忍者をどこまで信用できるかと言えば。

 事実、ハッスル丸はこの場にいない。この機に乗じて内偵を行うのがあちらの目的で、実質この戦いは陽動だ。


「ゼフさん、なんかハッスル丸さんが怖いと言うか恐ろしいと言うか」


『だから言っただろう、忍者などそんなものだ。

 しかしパティ、ついてくる必要はなかったんだぞ』


「だって不安ですもん。どこかのポンコツがもう少し頼りになればよかったんですけどね」


『貴様……!!』


「はいはいお二人さんそこまで。

 セルシア、なんかあったらパティのこと頼むぞ――セルシア?」


「あ、うん。わかってるから」


 とは言うが、セルシアも心ここに非ずと言った様子だ。

 この場にいるのはゼフィルカイザーたち一行とザンバリン一家、あとは審判でやって来たレナードだけだ。

 もっと気軽な戦いであれば観衆が集まり賭けに興じたりするらしいが、今回は実質、地元と外者の出入りだ。何が起こるか分からないため、この戦いのことも一般人には触れ回ってはいないという。

 そうしている間に、ザンバリン一家の代表だろう機体が進み出てきた。グレーに塗装され、メグメル島で見た物に比べるとところどころに装甲が追加されている。


『くっくっく、逃げ出さずに来たことは褒めてやるぜ、ガキ』


「そいつはどうも」


 朝の臆した様子はどこへやら、アウェルは据わった目で敵手を見据えていた。

 闘技場の枠の外、作業用の魔動機に乗ったレナードがメガホン状の魔道具で声を飛ばしてくる。


「一対一、条件は双方わかっているな――では、試合開始!!」


 宣言とともに、ゼフィルカイザーは構えを取った。


『では見せてもらおうか、帝国の魔動機の実力とやらを……!!』




 先に動いたのはザンバリン側のデスクワークだ。左手には大振りな盾。そして右手に持った得物をその場で振り回し始める。


『モーニングスターか……!!』


 鎖につながれた棘つき鉄球が高速で回転し、砂塵を巻き上げる。鉄球は直径が3m超と巨大だ。もし食らったらゼフィルカイザーもただでは済まない。


「おい、どうするゼフィルカイザー」


『接近は危険だから遠距離からどうにか、と行きたいが……』


 ヴァイタルブレードは使い物にならない。そしてビームは、メグメル島での戦いのせいでほとんどチャージできていない。

 ミサイルは上陸を見越して、生成してあった海戦用の物を分解し、再生成してはあるが、


『ハッスル丸からは長引かせろ、と要望が来ているからな。仕方ない、いつもので行くぞ』


「おう!」


 言うなり、ゼフィルカイザーがかがみ込み、地面に手を突き入れた。そこから拾い上げたのは人間一人分ほどの岩だ。それを、


「おうりゃっ!!」


 ほどほどの力で投擲。だが、高速回転する鎖に難なく弾かれた。その様を見た敵手から下卑た笑い声が飛んでくる。どうやらあちらは頭目直々に挑んできたらしい。


『はっはっは!! やっぱりただの田舎もんか!! 石拾って投げるんなら作業用でもできらあ!!

 戦いってのはこうやるんだよ!! うおりゃああああ!!!』


 ザンバリンの気合の声とともに、モーニングスターが風切り音を伴って飛んでくる。だが、


「遅いっ!!」


 アウェルとてリリエラを筆頭に様々な相手と戦ってきたのだ。この程度の見切りは容易く、


『甘いぜえっ!!』


「そいつはもう食らったことがある!!」


 横に薙いできた鎖を即座にしゃがんでやり過ごす。かつてリリエラ相手にとった不覚とその対策は、確かに彼の中に息づいていた。


『けっ、どうやら素人じゃねえらしいな……!!』


「そっちこそ見かけ倒しじゃないらしいな」


 言葉の応酬の最中にもハンマーは再度渦を巻き、質量の盾を形成している。それに相手も制止せず、じりじりと立ち位置をずらしている。鎖の盾も少しずつ角度を変え、隙を見え隠れさせていた。


「くっそ、地味にやり辛い……!!」


『今までの相手と比べて、どうだ』


「なんつったらいいのか、人間、魔動機相手にやり慣れてる感じがする」


『同意見だ。一筋縄ではいかんな』


 黒騎士は別として、トメルギアで戦った魔動機乗りは約二名を除きそれなりに手練れが多かった。だが、彼らは基本的に初手に全力で突っ込んでくるスタイルばかりだった。理由は簡単。彼らの仮想敵は魔物であり、魔物相手に出し惜しみをしてもしょうがないからだ。

 対して眼前の相手はどうか。

 機体性能を過信しておらず、こちらを外見で見くびっているかと思えばしっかりと牽制で様子見をしてくる。これまでにはいなかったタイプだ。

 そして、この闘技場に散らばる金属反応といい。


(ロボット同士の戦いが日常茶飯事に行われているということ……!!

 潤滑剤オイルが滾ってくるのう……!!)


「ゼフィルカイザー、集中しろ集中」


『なんでお前は私の考えが読めるのだ……!?』


 言う間にも、二機はじりじりと立ち位置をずらしていく。再度膠着状態に陥ったとき、またもデスクワークが動いた。今度はハンマーを上に向かって振り投げたのだ。狙いは上からの叩きつけ、とハンマーを目で追ったアウェルは、その先にあるものに目を焼かれた。


「っ、太陽!?」


 陽光にたじろいだゼフィルカイザーを叩き潰さんと鉄塊が降ってくる。


『ちっ、サイドブースト!!』


 即座にサイドブースターをふかしたゼフィルカイザーはハンマーの一撃を寸でで避ける。そして、そこで済まさない。地面にめり込んだハンマーを全力で踏み付けて固定する。


『なっ、てめえ足をどけやがれ!!』


「誰が放すか!! くっそ、悪いゼフィルカイザー」


『構うな。お前もよくすぐに対応したな』


「不覚とっといて挽回できないとか、セルシアに何言われるかわからないだろ」


 なんだかんだと言っても行動原理が変わってないのは、ゼフィルカイザーとしては呆れと安心が半々くらいだが。しかしここで悲しいお知らせがある。


『悪いがあいつ、こっちのこと見てもいないぞ』


「え゛っ」


 カメラアイを向けてみれば、そこにはひたすら己の剣の刀身を見つめるセルシアの姿。砂塵も意に介していないあたり、完全に没入している。


「……ゼフィルカイザー。ちょっと泣いていいか」


『後にしろ、後に』


 ぼやいている間もザンバリンのデスクワークはハンマーを引き寄せようと悪戦苦闘しているが、ゼフィルカイザーの足はびくともしない。


「で、そろそろケリつけるか」


『ああ。あちらさんには悪いがな。それに、やられたふりを続けれるほど容易い相手でもないようだ』




 ゼフィルカイザーは猛然と駆け出す。足元には確かな地面の感触。パトラネリゼではないが、陸の上とはつくづく素晴らしい。なにせ水没の心配がないのだ。

 ザンバリンもとっさに反応する。ゼフィルカイザーの予想外の速度に、ハンマーを引き寄せるのを即座に諦める。そしてハンマーの柄を放り投げると、右手で盾の裏をまさぐった。


『飛び道具、おそらく銃かなにかだ!!』


「あいよ!!」


 果たしてその通り、盾の裏からマスケットを思わせる銃身が現れ、ゼフィルカイザーへと狙いをつけ、


『くたばりやがれ!!』


 大気をうならせて魔力の奔流が放たれた。だが、ゼフィルカイザーは止まることなく左手を突き出し、


「バリア頼む!」


『おうよ!!』


 緑の粒子光が銃の破壊力をあっさりと霧散させた。驚きに目を見張るザンバリンだが、その時にはゼフィルカイザーは目の前だ。


(メグメル島で銃を見れたのはよかったな)


 失敗もあったが、ゼフィルカイザーはあの件に感謝した。一般に言うこの世界の銃、つまり魔道銃の性能もあの後でしっかりと確認しておいた。

 魔力を単純な破壊力へ転換し発射する魔道具。要するに魔法の矢発射装置だ。銃身がついているのはその方が命中率が安定するため。そして魔力を溜めるほど威力が上がり、高威力の銃撃の連射は不可能。

 機構そのものは単純であり、帝国から買っている、逆を言えば売り買いできる程度の価値のものという話から、ゼフィルカイザーはその存在を警戒していたのだ。


(古式の機道魔法に比べれば効果は単一、だがこうして新物でも使用が可能か。

 これを大量に所蔵するなり、製法を伝えていたとするなら、帝国とやらが天下取ったのもうなずける)


 日本人的に信長の鉄砲隊を思い浮かべながら、ゼフィルカイザーはデスクワークの手から鉄砲を弾き落とした。デスクワークは即座に拳で殴りかかってくるが、それをあっさりと受け止める。


「そっちの機体はいい機体だ。だけど悪いな。ゼフィルカイザーは最強の機体なんだよ……!!」


 そのまま組み合うが、じりじりと抑え込まれていくデスクワーク。


(うーむ、Eランクだけど実はSランクとか、実際に自分でやると気まずくなるなあ)


 あの場で冒険者登録を行い、アウェルの魔力レベルを相手に露見させて油断を誘う。これもハッスル丸の手管だ。

 この世界において魔力以外の物で動く機動兵器は想定外の存在なのだ。そう言う意味では間違いなくチートだろう。

 アウェルの言うとおり、デスクワークはいい機体だ。生産性を優先した工業製品的な外装、基本的に人間の骨格を模した魔動機にあって異彩を放つフレーム。なにより、魔法文明の技術へ依存性を減らしたという設計思想。


(使用しているミュースリルがガンベルの半分という割にそこまで差があるようには感じられんな)


 ゼフィルカイザーの体感ではガンベルのおよそ八割程度の手ごたえだ。これで燃費ではガンベルを上回るというのだから、この機体を作り上げた技術者や職人の心意気が感じられる。


(得物がモーニングスターなのも、遠心力で破壊力を割り増しできるからだろうしな。よく考えている)


 こういう与太者というのはあっさりやられる者と相場が決まっているだけに、ゼフィルカイザーは新鮮な気持ちだった。しかしデスクワークには悪いが、乗っているザンバリン一家には同情の余地はない。

 膠着を何とかしようと蹴りを出してくるデスクワーク。だが、アウェルからすれば隙以外の何物でもない。そのまま重心を崩してデスクワークをなぎ倒し、仰向けになったデスクワークへとヴァイタルブレードを突きつけた。


「っふう。どうだ、まだやるか」


『ぐぐぐ……!!』


 悔しげなうめき声がデスクワークからこぼれる。勝負あり――


『――なぁんてなあ』




 紫色の光弾がゼフィルカイザー目がけて飛来する。だが、ゼフィルカイザーは読んでいたとばかりにその攻撃を避け、距離を取った。射手はザンバリンではない、その配下のデスクワークだ。


「貴様ら、やはりそういうつもりか!? フルークヘイムからの追放は免れんぞ!!」


 レナードがメガホンで声を張り上げる。本来ならばそれは死刑宣告に等しい。だが、機体を立て直したザンバリンは不敵な笑いを返した。


『へっへっへ。そりゃ、てめえの周りを見てから言うんだな』


「何を……」


 レナードが周りを見回すが、何がいるわけでもない。風に砂塵が舞っているだけだ。が、その風景が唐突に歪んだ。

 歪みから現れたのは二機のデスクワークだ。二機とも全身を覆うマントを装着しており、魔道銃の銃口をレナードへと向けている。レナードだけではない。セルシアとパトラネリゼの方も同様に、二機のデスクワークが現れている。


「なんだと!? 隠蔽の機道魔法、コアは古式の物だったとでも言うのか!? しかしこれは……!?」


 有り得ない、とレナードの表情が驚愕に染まる一方。


「シア姉、気づきましたか!? ……シア姉、いつまで剣見てるんですか!? 周り見てください!!」


「ん……? って、げ、囲まれてる!?」


「本当に気づかなかったんですか!?」


 有り得ないとパトラネリゼは思った。機道魔法で目や耳から逃れられても、セルシアの直感まで免れるというのはおかしい。

 それほどの機道魔法を使える古式、正確にはそのコアが四つも存在するというのも考え難い。

 そうなれば怪しいのは四機が揃いで身に着けているマントだ。これが何らかの魔道具だとすれば。


(そんなもの作れる人間がそうそういるはずが……まさかまた魔族ですか?)


 だが、推理は後だ。この状況をどうしたものか。


「シア姉、この状況で逃げることってできますか?」


「あたしだけなら余裕。ちんまいの連れてだと無理。たぶんあんたが死ぬ」

「ですよねえ……」


 加えて離れたところではレナードも銃口を突きつけられている。いくらなんでも手詰まりだ。


『さあて、命が惜しかったらザンバリン一家の勝利を認めてもらおうか!!

 それともここで死ぬか? 言っとくがな、俺らは追放されようが怖くもなんともねえんだよ!!』


 嫌に自信満々なザンバリンからは勝利を確信していることがうかがえる。ゼフィルカイザーもこの状況では即座に動けないだろう。閃光弾は用意しているはずだが、その存在を知っているセルシアとパトラネリゼはともかく、レナードは即座に反応できないからだ。

 こんなことならついてくるべきではなかったと、パトラネリゼが己の判断に歯噛みする中、


「……しょうがない、か」


 何か覚悟を決めたように、セルシアが呟いて、


「えーと、んーと……パ、パ、パ……あーもう出てこない……!! パの字!!」


「は、はい!?」


 頭文字だけでも呼んでくれたことに感激するべきなのか、これだけの間一緒にいてようやく一文字かと嘆くべきなのか。心中複雑なパトラネリゼを、セルシアは抱き寄せた。


「へっ!? し、シア姉!?」


「しっかりつかまってなさい。何が起こるか私もよくわかってないから」


 それだけ呟いたセルシアは、その手に掲げた陽光の剣へと、魔力を注ぎ始めた。




「どうするよ、ゼフィルカイザー」


『どうする、と言われても……!! あのペンギンめ、詰めが甘いというのだ!!』


 乱闘になることそのものは予想していたし、それだけに戦闘中もあちらの魔動機の動向には気を配っていた。だが、さすがにこれは予想外だ。一方でハッスル丸がここまで手の込んだ手段を取ったのもうなずける。

 ゼフィルカイザー達もこの大陸の情勢についてはまだ素人だが、あちらの使ったステルスの手段がこの程度の連中にそうそう調達できるようなものでないことは察しが付く。確かにこれは背景を探っておくべき事態だ。

 レナードは隙をうかがっており、セルシアは安心させようとしてかパトラネリゼを抱き寄せている。いくらセルシアでも、パトラネリゼを連れて離脱するのは難しいのだろう。


「あいつら、後で殺す……!!」


 アウェルがセルシアに銃口を向けるデスクワークへと殺意を飛ばしているのはまあ置いておくとして。


(首魁をボコって人質にし返すか、時間をかせいでハッスル丸が気づくのを待つか)


 それが通じる相手か、という不安が残る。滾っていた潤滑剤が、今は冷え切っていくのを感じるゼフィルカイザー。


(こんな均衡いつまでも続かない、確実にどこかで暴発する。それまでに何とか打開策を――)


 その時。何かが、ゼフィルカイザーの回路を走り抜けた。反射的にセルシアへと視界を向けると、そこには、


「っ、召喚、いや、顕現魔法陣!?」


 セルシアを中心に魔法陣が展開されている。幾度も見た光景だ。遅れて気づいたザンバリンの手振りで、控えていた二機が魔道銃の引き金を引く。

 だが。


「ちょっと待て、なんだあれ……!?」


 展開する魔法陣が光弾をあっさりと弾き飛ばした。魔法陣がどんどん密度を増し、機体を少しずつ編み上げていく。




 己から剣を通して迸る魔力の奔流に、セルシアは思わず剣を取り落としそうになる。決して手放すまいと歯を食いしばり前を見据えたその向こうに、見知った背中があった。


「――父さん……!!」


 セルシアの呼びかけに、父は顔だけ振り返った。そこには、寂しげな笑顔があった。

 手を伸ばすが、届くことはなく。セルシアとパトラネリゼを、光の帯が覆い隠した。


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