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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第二話 壮絶! 村社会に迫る脅威!
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004

『おいおい、俺たちはドラゴンが出たってことで雇われて来たんだぜ?

 なんで他の魔動機がいるんだ?』


『どうなってんだよ村長さんよ?』


 ほぼ同型の、しかし細部には若干違いの見られるロボットが二体現れた。サイズはゼフィルカイザーと同程度。5,6頭身ほどの、全身鎧を着た戦士を思わせる姿だ。


 どちらの機体も胸部に紫色のオーブが嵌っている。


 全体は緑色に塗装されているもののあちこちが剥げており、区別のためか一方は緑色のままだがもう一方の肩は黄色い。

 聞こえてくるのはどちらも男の声。


(あれが魔動機ってやつか。量産型か?

 しかし、ドラゴン相手に傭兵を雇っていたとなると生贄を出す必要はなかったんじゃないのか?)


 そう疑問に思いながらも、ゼフィルカイザーはその2機に向き直る。


『この村に出たドラゴンは私たちが退治した』


『あ? じゃあ俺ら無駄足ってことかよ!?』


 2機のうち、緑色の肩にⅠと書かれたほうがおどけたようなしぐさを見せ、黄色い肩にⅡと書かれたほうがメンチを切ってくる。

 あれは1と2でいいのだろうか、と疑問に思いながらも、一応半身に構える。


(コックピット内だけ会話、と)


 インターフェイスを切り替え、


『アウェル、あれが魔動機か』


「あ、ああ。ありゃガンベルって言って、数打ちの魔動機マジカライザーだよ。

 古式ヴィンテージほどじゃないけど戦闘用の魔動機としちゃそれなりに知れてる奴だ」


 若干またわからない用語が出てきたが、とりあえず状況は把握した。

 して、微妙に関係ないことだが念のため聞いておく。


『先ほど見えたお前の人形、あれはあの魔動機がモデルか』


「まあな。二年くらい前に来た町のガンベルを思い出しながら作ってたんだよ」


 微妙に曇りながら答えるアウェルだが、ゼフィルカイザーは素直に驚いていた。


(いい腕してるなあ、こいつ)


 アウェルの作品の全体像を見ていないので何とも言えないが、垣間見えた破片を見るに細部に関してはかなり再現度の高い物だったと言える。

 こやつはできる、そう考えつつも目の前の相手に意識を戻す。

 ゼフィルカイザーの中に量産型だから、などという理由で相手を侮る思考は存在しない。むしろその手の手合いのほうが手ごわいというのがロボットアニメの相場でもある。

 なにより今見せた動き。人間的で、機械のようなカクついた感じが見られない。

 機体性能なのか中身の技量によるものか。いずれにせよ、ゼフィルカイザーは状況を収める方向に持っていこうとし、


『事を構えるのは得策ではないな。何より村の中だ。どうにか交渉で引き取ってもら――』



「依頼の変更だ! そこの白い奴、そいつを仕留めてくれ!

 報酬はドラゴンの倍払う、いや、その魔動機も持ってってくれていい!」



 村長がそのような叫びをあげ、ご破算になった。


『ほう……見たところ只者じゃなさそうなんだがね。古式でもこんなの見たことないぜ?』


『いやちょっと待ってくれ、私は』


「いいからなんとかしてくれ! 報酬は言い値で払うぞ!」


『ヒャッハー! やってやるぜえええ!』


『まあいい、お頭にいい手土産ができるってもんだ』


 二体のガンベルがそれぞれの得物、緑色の肩のほうは背に負った剣と盾、黄色の肩のほうも、同じく背に負ったバトルハンマーを構える。


「くっ……こうなったらやるしか、ゼフィルカイザー!

 ……ゼフィルカイザー?」


『ああ、うむ。少々気が遠くなってな。操作は任せるぞアウェル』


 初の対ロボット戦に胸を馳せるよりも、村長の愚行っぷりに対する苛立ちがつのるゼフィルカイザーであった。




 最初に向かってきたのは緑肩のほうだ。剣ではなく盾を前面に突き出しての突進。シールドバッシュである。


(くっそカッコいいな! なんで俺は盾も注文しなかったし!)


 思いながらも火器管制へと意識を回す。立場としてはFCS兼オペレーターのそれである。

 先のドラゴンとの戦闘で確認できたが、機体に搭載されている武器はパイロットさえ乗っていればゼフィルカイザーの意志でも使用が可能だ。ミサイルでとっとと仕留めようとし、


【残弾0 現在補充中】


 そんなメッセージが表示された。


(んな!? 撃ち放題って注文しただろうが!)


【装甲修復に機能を回していたため余力がありませんでした】


 表示されたインジケーターにはミサイルの柄が8発分並び、うち一番下のものが7割ほど灯っている状態だ。

 そうこうしているうちに敵手が距離を詰めてくる。


『ええい……ビームを使う! アウェル、手を突き出せ!』


「おう!」


 左の掌を敵に向け、


【フェノメナ粒子残量2% 攻撃用出力に足りません】


 掌が、敵の盾と直撃した。ただ突き出していただけの腕の、手首のあたりから嫌な音が響き、


(ぎゃあああああ! 手首がああああああ! ば、バリアー!)


 掌から淡い緑色の光がヴェールのように迸る。光は盾の向こうから剣を振り下ろそうとしたガンベルを弾き飛ばし、間合いを稼ぐ。

 だが、突き飛ばした程度でダメージらしいダメージも与えていないと見える。


「どうしたんだゼフィルカイザー!?」


『す、すまない。どうやらあのドラゴンたちと戦った消耗が激しすぎたようだ……』


(というか他に原因考えられんがな!?

 永久機関にしろって言っただろうが!)


【当機メインジェネレーターは半永久的な出力機関ですが出力にはリミッターがもうけられています】


【リミッター解除のためにはアームドジェネレーターの出力を上げてください】


『アウェル! 魔力を高めるんだ!』


「ねえよ! てか魔力ナシで動くんじゃなかったのかよ!」


『うっ……中枢回路に不備が生じているようだ!』


「ボケてる場合じゃねえよ! こっちで勝手に動くからな!」




 再度向かってきた緑肩のガンベルに対して徒手空拳を構えるゼフィルカイザー。だが、その様子に不安を覚える者がいた。


「あーやっぱダメだ……あいつ喧嘩弱いからなー」


 セルシアの足元には村長とその取り巻きたちが伸びている。

 魔動機同士の戦いが始まったと同時、逃げ去ろうとした彼らを一瞬のうちに叩きのめしたのだ。

 村長の頭を足蹴にするセルシアの前で、ゼフィルカイザーが徐々に追い込まれていく。一方を相手取る間にもう一方が回り込み攻撃してくる、という基本的すぎる戦法に引っ掻き回されている。



『右、左、いや後ろだ!』


「どっちだああああ!?」



 盾を持つ緑肩が前面に立ち、黄肩が隙を見て両手持ちのハンマーを振り下ろしてくる。ゼフィルカイザーそのものの動きはむしろガンベルより機敏だが、立ち回りが悪すぎる。

 アウェルかゼフィルカイザーの集中力が途切れたらそれまでだろう。


『へへへ、こいつはとんだ見かけ倒しだ』


『まったくだな! とっとと畳んじまおうぜ兄弟!』


 そのあたりを見切ったのだろうか。二機のガンベルも完全にゼフィルカイザーを侮りだした。その野次にセルシアの苛立ちが限界を超えた。


「あーもう、だから目を離せないってのよ。

 アウェル! 何も考えずに正面の奴に全力!」


「っ……」


 その声にアウェルが歯噛みしたのも一瞬のこと、盾をかざして再度突っ込んでくる緑肩のガンベルに、


「こうなったらヤケクソだあああああ!」


 全力の鉄拳が撃ち込まれ、緑肩のガンベルが砲弾のように吹っ飛んだ。

 地面に対して水平に飛んでいったガンベルは広場に面したうちの一番大きな家に直撃、家を倒壊させた。


「うっし、村長の家撃破」


『貴様狙って指示したのか!?』


 センサーが拾った呟きに突っ込みを入れるゼフィルカイザー。そう言いつつも、今起こったことに驚きを覚えざるを得ない。

 人間だったころの自分に今のような真似ができたか。否、できない。同じ体格の相手をああも殴り飛ばすなどとは。


『ちくしょう、よくも兄弟を!』


 黄肩が怯みを見せながらもバトルハンマーを振り下ろしてくる。だがゼフィルカイザーは今度は確信をもって指示を飛ばした。


『アウェル! 小細工はいい、受け止めろ!』


 直撃コースを描いていたハンマーが停止する。

 ハンマーのヘッドが、片手だけで止められていた。指先がヘッドに食い込んですらいる。


「す、すげえ……!」


 アウェルがその状況に感嘆する。同じことをゼフィルカイザー自身も思う。あの瞬間に即座に対応できたアウェルの操縦技術、そしてこの機械の体の底力にだ。


(こいつ、戦いの勘はまだまだだが、操縦技術は紛れもない、本物だ……!

 それにこの体、量産機では太刀打ちできないほどの出力、これこそ主人公機!)


 言っている間も黄肩はハンマーを押し込めず、ついにはハンマーに限界が来たのか、柄がへし折れ踏鞴を踏む。その瞬間を狙いゼフィルカイザーはバックステップして間合いを確保した。


『今だアウェル! 剣を抜け!』


「おう!」

 腰の後ろに差されていた武器、刃のついたレールガンが抜かれる。


(まさかこれまで使えんということはないよな!?)



【エネルギー伝達問題なし】


【弾体なし】


【砲撃機能使用不可】



『またか! またなのか!』


「ど、どうしたゼフィルカイザー!?」


『なんでもない、なんでもな!』


 つい漏れた言葉を流しながらブレードレールガンの機能説明を一気に流し読む。

 直後、刀身から紫電が飛び交い、剣の周りの空間がひずんでいく。まるで渦を巻くように。


『重力制御――よし、アウェル! 剣を奴に向かって振れ!』


「え? とどかないけど、こうか!?」


 その場で空を切った刃から、ひずみの渦が風を伴って黄肩のガンベルを襲った。だが、それだけだ。

 仕切り直しと言わんばかりに両腕に残るハンマーの柄、それを槍のように構え治す。


『はっ、こけおどしか! 武器ってのはこうやって使うん、がっ!?』


 最後まで言葉が続くことはなかった。その途中で黄肩のガンベルの体が沈んだためだ。

 比喩でなく、足元が50センチは地面にめり込んでいる。



【荷重波命中】


【物体割断力場展開】



『動きは封じた! そのまま叩き斬れ!』


「おう! うおおおおおお!」


 走り抜けながら、ひずみと紫電を纏った件で腰溜めからの逆袈裟斬り一閃。

 数瞬の時を空けて、ガンベルの装甲が刃のなぞった通りに裂け、左腕がちぎれとんだ。

 重力式ブレードレールガン。攻撃能力はそのすべてが重力制御の転用によって成り立つ武器である。

 最初に放ったのは当たった対象に重力負荷をかけ拘束する荷重波。

 斬撃時には、刃の面から垂直に斥力場が発されていた。押しのける力を放つ尖ったものをぶつけた結果、相手の装甲は引きちぎられるように裂けたのである。


『なっ、きょ、兄弟!? くそっ、覚えてやがれ……!』


 倒壊した家から這い出てきた緑肩が、破損した黄肩を抱きかかえて逃げ去っていく。


『く、アウェル、追いかけるぞ、おいアウェル――』


 追い打ちをかけようとしたゼフィルカイザーの言葉が止まる。

 コックピット内、アウェルは緊張が途切れたのか滝のような汗を流しながら息を切らしていた。そうこうしているうちに二機の姿が森の中へと消えていく。

 空から降り立った謎の機動兵器と、辺境の村の少年の魔動機相手の初陣はこうして幕を閉じた。

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