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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十六話 大海原の恵める島
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016-005

 海中をのたうつ巨大な熱源反応は推定100m超、全長だけで言えばヴォルガルーパーをも超えている。


「この赤いのって生き物なんだよな?」


『先ほど話に出ていた海竜というやつか? しかしそれにしても……!!』


 二人の声に焦りが混じる。ゼフィルカイザーも最初は気づいていなかったが、こうして反応を目の当たりにして気づいた。この漆黒の海原に満ちる緊張感に。


『――白いの、聞こえてる!?』


『セルシアか!?』


『今どこにいる!? あと、あんたのところにアウェルいる!?』


「いるぞ、乗ってる! 今、入ってきた水門の前にいる!」


『おっけい、場所は――ちょうど真下ね』


『お、おい!? なにするんだセルシア、ちょ、やめ』


 通信機から第二者の焦る声が聞こえるが、セルシアがそんなもので止まるはずがないと二人ともよく知っていた。

 びたん、と落ちてきた人間大のイモリ的何かに、今更驚くこともなくため息をつくゼフィルカイザー。


『あのなセルシア。海風はそれなりに冷たいのだから暖かくしないと冷えるぞ?』


 そう言うのも当然というべきか、セルシアはいつもつけているインナーのみという出で立ちだった。

 これから夜の海でひと泳ぎとしゃれ込むつもりかと思うような格好ながら、湯上りらしい玉の肌からは湯気が昇っており、そこはかとない艶を醸し出している。結果としてどうなるかというと、


「余計な事言うなよゼフィルカイザー……!!」


(お前が興奮したら困るからだよ!!)


 コックピット内の少年が血走った目でその姿を凝視していた。そこに、今一つパステルカラーの影が落ちてきた。そちらは床面にあたる直前にふわりと減速してから改めて降り立った。どうやら魔法も使えるらしい。


「あー焦ったぜ。セルシア、お前死にたいのか!? 下にこいつらがいなかったらどうなってたか……!!」


『キャプテン、怒ってくれるのはありがたいのだが、こいつはこの程度では何ともないぞ』


「いやまさかそんな――」


 否定した朱鷺江だったが即座に絶句する。当のセルシアがめり込んだ手足を床面から引っこ抜いていたら当然だろう。


「……なあ、お前何でできてんの?」


「肉と皮と骨に決まってんじゃん」


 セルシアに即答され、懇願するような視線を向けられるがゼフィルカイザーは首を横に振った。

 しかし二人とも余程慌てていたのか、セルシアはともかく朱鷺江も下着――というよりは水着姿にテトラの顕現器一丁のみ。先ほどまでの服装の下がこれだったのだろう。

 言っている間に、水門の奥からデスクワーク、それに武装した男たちが次々と現れた。メグメル島の守備隊だろう。さらに島の上部から次々と光が落ちてくる。上部甲板に備え付けられたサーチライトが海を照らしているのだ。


「そんで、状況は把握してる?」


『海中に巨大な蛇のような熱源、それに多数の小型の熱源を感知している。これは』


「おそらく海竜だぜ。あいつら、まだ滅んでなかっ――ッ!?」


 ぼやく朱鷺江が慌てて身を反ると、朱鷺江のいた場所を高速で通過したものが船体壁面へと突き刺さっていた。突き刺さった物体は九本の足をびちびちと動かしている。


「ナガヤリイカじゃねえか!? この辺にはいないはずなのに!?」


 ゼフィルカイザー、もはや突っ込まず。ゴリラ人魚の後ではこの程度大したインパクトではない。むしろ、


「む、口の中でシャッキリポンと踊るわね。新食感」


 今のすれ違いざまに足を切り落として踊り食いとしゃれ込んでいる蛮族のほうがよほど頭が痛い。朱鷺江も突っ込むまいと頭を押さえていた。

 その時、海面がひときわ大きく波打った。闇色の海面に燐光の列が浮かび上がる。発光性の魚か何かか、と思ったが違う。列と熱源反応がくっきりと一致していた。

 鋭角な突起が海面を割り、暗夜の海原に巨塔が起立した。否、塔ではない。

 燐光を纏う背びれを備えた甲殻、それとは対照的にぬめりを帯びた粘膜に覆われた腹。全体の体躯からすればおまけ程度に備えられた腕は、しかしそれだけでも並みの魔動機よりはるかに巨大だ。

 鋭利に尖った頭部は扇状に五つの眼球を備えていた。そして、その口蓋がぐぱり、と三つ又に開いた。


「一抹の自由は謳歌できたか? ――さあ、収穫の時間だ」


 魂が底冷えするような声。肝を潰されるようなプレッシャーに、ゼフィルカイザーたちは覚えがあった。


「海竜王……!? んな馬鹿な、間違いなく母ちゃんたちが倒したはず!!」


「然り。我が父は貴様ら虫けらに討たれた。まったく竜族の恥さらしよ。

 故に此度、神より力を賜りし我が、新たなる海竜王としてその覇をとなえん。

 さあ、贄を捧げるかむごたらしく殺されるか選ぶがよい」


(またそれか……!!)


 ドラゴンどものお家芸は陸海空を問わないらしい。だが、ゼフィルカイザーは焦りを堪えるので精いっぱいだ。

 かつて天竜王を倒した時はフェノメナ粒子満載の上に今のような不調もなかった。アウェルの腕が飛躍的に上達してはいるが、決め手を欠く状況なのは変わらない。

 アウェルやセルシアも同様に圧力に耐えているが、この二人は以前同格の相手と対峙した経験がある。だが、島の守備隊たちは完全に肝を潰されていた。そんな中――


「断る」


 海の女は敢然と言い放った。


「誰であろうとオレのシマに手ェ出す奴ぁ許さねえ」


「――ならばどうする」


「こうすんだよ……! 来い、テトラ!!」


 掲げた顕現器の引き金を引くと同時、朱鷺江を中心に魔法陣が描かれる。描かれた真円から文字列がさらに空中に列を成し、コバルトブルーを基調に赤のラインが走る、海賊調の機体が形成されていく。


「あ、そうだ。デカ乳これ! 白いのと話せる奴!」


「悪い、借りとくぜ!」


 セルシアが通信機を投げ渡して魔法陣から飛びのくと、さらに変化が生じた。魔法陣に覆われた空間内が揺らめいて泡立ち、水色の燐光を纏う霊鎧装が形成されていく。

 水色が徐々に海色に姿を変え完成したのは、ドクロをあしらった海賊帽風の兜が印象的な精霊機の姿だ。


(水属性で女が乗るからもっと女々しい機体かと思ったら……!!)


 どちらかと言えば骨太な印象を受ける輪郭に、右手のカトラスと左手のピストル。本体の青い霊鎧装に反して赤いマント状の霊鎧装のコントラストは、夜の海にも生えている。

 海賊からは脚を洗ったと言うが、その意匠はどう見ても海賊のそれだ。ゼフィルカイザーは歓喜しながらスナップを切る。もはや彼には海竜王などターゲットサイトの外だった。が。


『キャプテン、頼みますから口上唱えてくださいでヤンス』


『テトラ殿、その装いでその口調はどうなのか!?』


 船長ルックのテトラの、下っ端臭滾る口調に我慢できずに突っ込んだ。ロボットは格好よくあるべしという信条のもと駆動しているゼフィルカイザーからすれば許されるものではない。


『と、言うでヤンスがねえ。これがオイラの地でヤンスよ?』


『いいか、ロボットとは格好よくなければいかんのだ! それは装いだけではない、普段の立ち振る舞いからして……!!』


「鉄クズども、我を前にして漫才とは――」


『うるさい貴様は黙ってろ!!』


 海竜王の恫喝をも掻き消す裂帛の一声に、海竜王が気圧される。今の言葉にはそれほどまでの気迫が込められていた。


『とにかくだなテトラ殿。トメルギアで出会った公王機フラムリューゲル殿はもっとこう、だな……!!』


「おいゼフィルカイザー。ゼフィルカイザー?」


『なんだアウェル!?』


「前、前」


 言われて見上げた先では海竜王の開かれた顎に魔力の光が収束している。

 げ、などと言う暇もなく、ドラゴンブレスが放たれた。




 フェノメナ粒子のバリアがドラゴンブレスを容易く受け止める。以前の天竜王の物に比べれば大したものではない。しかし、それも当然のことだった。


「今のは警告だ。いいか、次にふざけた対応をしたら島ごと沈むと思え。

 貴様らに勝ち目などない。して、返答はいかに」


『断るっつったぜ、オレはよ。そっちこそ尻尾巻いて逃げかえるなら今のうちだぜ?』


「――理解した。では、精々苦しむがよい」


 その言葉とともに海面から幾多の弾丸が飛来した。先ほども襲ってきたナガヤリイカだ。しかしテトラの腕が一閃すると水の壁が立ち上がり、その飛来を阻む。

 だがその水壁を大質量が容易く打ち破った。海竜王の巨大な尾だ。


「小癪なり」


『くっそ。おいテメェら!! オレが親玉を相手するから、お前らは島を守れ!! アウェル、お前も守備を頼む!!』


「ああ。あとうちの馬鹿が悪い!」


『いいってことよ!! じゃあな!!』


 水色の精霊機の一機駆けに、島の守備隊も臆する様子はない。それだけ信頼されているということなのだろう。


『うむ、惚れ惚れするな。だけになんで下っ端口調……』


「ゼフィルカイザー。沈めるぞ?」


『分かったもう黙る』


 それにそろそろ本気でふざけている余裕はない。海面がうなり、巨大な影が姿を現す。

 海竜王とは比べるべくもないが、しかしそれでも魔動機よりははるかに巨大だ。しかも何体もいる。


『あれも魔物なのか……!?』


『あれはクラーゲンという魔物だ。海竜はああして取り巻きを連れて襲ってくる』


 防衛隊のデスクワークが説明とともに投げてよこしたものがあった。


『これは、銃か!?』


 外観は巨大な火縄銃と言えばわかりやすいだろうか。細工があるわけでもない無骨な作りだ。見れば、どのデスクワークも同じ銃と半身を隠せるほどの盾で武装している。


(同じ武装をした量産機の部隊……フヒッ、フヒヒヒヒヒ!!)


『キャプテンが一丁貸せと言うのでな。頼りにしているぞ!』


 隊長機らしい角のついたデスクワークの言葉など聞こえもしないゼフィルカイザー。そしてそんなことはお構いなしにクラーゲンがどんどんと迫ってくる。イカともタコともクラゲとも見える巨躯へと、各機照準を合わせた。


『撃てーーーーッ!!』


 隊長機の合図とともにゼフィルカイザーも引き金を引く――だが何も起こらなかった。


『……あれぇ?』


 横を見れば、他のデスクワークの銃からは紫色の光が迸りクラーゲンへと向かい、爆ぜた。衝撃を受けたクラーゲンがもだえ苦しむ中、アウェルは肩をすくめた。


「やっぱり使えないか。ま、当然だけどな」


『ちょっと待て、銃だろ!? 弾が入ってないのか!?』


「ヴァイタルブレードみたいなのを期待してたっぽいけどな。銃ってのは魔法を遠距離まで正確に飛ばす魔道具だぞ。魔道銃っつったほうがよかったか?」


(久々のカルチャーショック……!!)


 よく見れば銃把には周囲と異なる金属のラインが走っている。ベルエルグの肩部に使われていたのと同じものだ。おそらくそれが魔力を伝達する経路となっているのだろう。


『何故早く言わなかった!?』


「すぐにこんなことになると思ってなかったんだよ! 大体お前、こういう時人の話聞かないだろ!?」


『……そんなことはないぞ?』


「お前、今オレから目そらしてるだろ」


(何故そこまでわかる……!?)


 アウェルの勘の冴えに進退窮まったゼフィルカイザーだったが、幸か不幸かそれ以上の追及はなかった――額に突き刺さったナガヤリイカのせいで。


『あぎゃああああ!?』


「あ、やべ」


 慌ててアウェルが回避行動を取ると、続くナガヤリイカが次々と壁面に刺さっていく。さらに足場には次々に海洋性の魔物が這い出てくる。

 人間より小さいものから魔動機でないと対処が難しそうなものまで様々だ。防衛部隊の歩兵たちがどうにか対処している中、セルシアは元気よく駆け回り魔物を駆逐あじみしていく。


「こいつはウマいわね。こいつは……こりゃ毒か。ぺっ」


「セルシアは平常運転だしあのままでいいだろ。んじゃ、そろそろ真面目にやるぞ」


『そ、その前にこれを抜け!! それに遠距離攻撃の手段がないのにどうするのだ!? まだ機体は安定していないぞ!!』


「遠距離攻撃の手段なら今できただろ」


 ゼフィルカイザーの頭部に突き刺さったナガヤリイカを引き抜くアウェル。モニターには迫り来るクラーゲンと、その触腕に捉えられ、今にも荒波に引きずり込まれそうになるデスクワークの姿。

 アウェルはそれに狙いを定め、


「一投入魂……!!」


 投擲されたナガヤリイカは荒波を切り裂き、触腕を容易く引き裂いた。


(拝啓先輩方。ロボットなのにロボットらしく活躍することができません。

 どうしたらいいのでしょうか)


 ゼフィルカイザーの志が音を立てて砕け散りそうになっているが、そんなことはお構いなしとばかりにアウェルは壁に突き刺さったナガヤリイカを引き抜いてはクラーゲンへと投擲する。

 ゼフィルカイザーのメイン動力にかかっていたリミッターはヴォルガルーパーとの戦いの折に解除されている。

 なので今のゼフィルカイザーの駆体の性能はかつてのそれを大きく上回る。

 今日の昼は海上でブースターにエネルギーを取られていたために、そしてそれ以上に足場の存在しない状況だったためにその力を十全に発揮することができなかった。

 発揮することができたらどうなるか。


『す、すげぇ……!!』


 防衛隊の誰かが思わずこぼす。イカやタコに比べればクラゲに近いのだろう、クラーゲンのぶよぶよとしたゼラチン質の体躯が、ナガヤリイカが投擲されるたびに文字通り砕け散っていく。

 ゼフィルカイザーの記憶回路に、ミグノンでの猪討伐が浮かんでくる。あの時の惨状を思い起こさせる。赤い血を流す魔物が混ざっていないのは僥倖だった。


(並みの魔物相手なら余裕でチートできるんだがなー。

 コングマーメイドも陸上ならもっと楽に倒せただろうし)


 しかし、己の不調に改善の余地が見えないのも相変わらずだ。現に今も慣性制御がわずかに追いついていない。ほんのわずかなズレでしかないがアウェルはそれに気づいて挙動を加減しているし、強敵と渡り合うような状況では致命的になる。


(と言っても操縦で体が動いてからじゃないと危険だしな。アウェルの動きのパターンはそれなりに読めるけど、もしミスしたら)


 腕を振り下ろすつもりで慣性制御をかけたのが振り上げようとしていたどうなるか。慣性力が倍加して関節の負荷が倍加する。下手をすれば腕がねじ切れる。

 ロボットアニメならばお互いの信頼でどんな無茶もこなすのだろうし、アウェルのことは言うまでもなく信頼している。

 だが機体の性能と、何より己のOS、FCS、オペレーターとしての能力については全く過信していない。自身の安否が担保になっているのでなおさらだ。


(せめてあと一手早く操縦の挙動を認識できればいいんだが、自分の体だしこれ以上どうしろと――ん?)


 ゼフィルカイザーが心中のぼやきにかすかな違和感を覚えた一方。手元の弾が亡くなったアウェルは次々飛んでくるナガヤリイカ他の魔物をヴァイタルブレードでジャストミートしていた。柔らかい魔物は即座に砕け散り、頑丈な魔物はそのまま弾となって海上の魔物と玉砕する。

 縦横無尽に駆け回るセルシアも相まって、防衛隊の面々は感嘆の声を上げるばかりだ。


「大体食ったけど、毒持ってる奴が多いわねー」


『海洋生物は毒持ちが少なくないぞ。というか貴様、何故大丈夫なのだ』


「セルシアだから諦めろって。大体は始末できたんじゃないのか?」


『熱源反応は随分と減ったな。しかしキャプテンは大丈夫なのか』


『安心しろ客人、メグメル島の守護神は無敵――』


 防衛隊の声は、粉砕音に掻き消された。壁面に激突した海賊機は一見して無傷に見えるが、半透明の霊鎧装が明滅している。

 そして。


「――今一度問おう。服従か、死か」


 海上には血の一滴すら流していない竜身がそびえ立っている。

 並みの魔物相手ならばチート性能で圧倒できる。

 眼前の相手は、並みというには程遠い。

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