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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十六話 大海原の恵める島
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016-002

 甲板の上で、改めて挨拶が取り交わされる。朱鷺江の背後にはタラップを渡ってきた鱗張りのやせ形の男が控えていた。


「トメルギア海軍所属、グラエブランド号船長のハーガスだ。寄港させてもらったことには礼を言う」


「海に生きるもん同士、水臭ぇことは抜きにしようぜ……って、トメルギア?」


 ハーガス船長と握手を交わした朱鷺江が、しかしその国号を聞いて首を傾げた。


「トメルギアっつーと、どこだっけ?」


「山の大陸の炎の大公国ですよ、キャプテン。鎖国してて、うちから何べんか商売の話をしに行って追っ払われてます」


「ああ、そういやあったな、そんなこと」


 背後に備えた男の言葉にうんうんと頷く朱鷺江。


「この度、先代のロクデナシがくたばって新たな王が即位されることになってな。鎖国を解くことになったんで、ひとまず帝国とまた交易をおこなうために南大陸へ向かってる最中なんだ」


「なるほど、話としてはわかりました。それでそちらの要件は?」


「情報交換がしてぇな。うちの水先案内人は帝国から出てきた奴なんだが、帝国を出たのは二年も前らしいからな。それと物資の補給も頼みたい。んの代わりにこっちが獲ってきたあのコングマーメイドはくれてやる」


「そりゃ剛毅だな。話せることなら何でも話すし、食料もタダで」


「いけませんよキャプテン。支払やらはしっかりしないと。きっちり勘定させていただきます。ま、こちらが代金を支払うことになりそうですがね」


 気前よく応じようとしたキャプテンに、背後からまたも横やりが入った。内容そのものは至極真っ当であるのだが、朱鷺江は表情をいよいよ不機嫌そうにしていく。


「……おい副長。メグメル島の頭は誰だ?」


「キャプテンですが」


「じゃあオレが仕切るところだろ、こういうところは!?」


「あなたに任せるとどんぶり勘定でえらいことになりますんで。せっかくの新しい商談相手です、お互い損ができてはいけません」


 ざっくりと言い放つ副長の言葉に口をへの字に曲げる朱鷺江。登場時のかっこよさはどこへ行ったのか。


「……なあ、副長?」


「まだいたんですかキャプテン。商談はこちらでしておきますからあなたはその辺で遊んでてください」


 冷淡に言い放たれた朱鷺江はがっくりとうなだれた。




「はぁ。そりゃ、オレじゃ細かい話は詰めらんないけどさ」


 肩を落としてとぼとぼと歩く朱鷺江と、よくわからないままに着いて行くアウェルたち。

 副長に邪魔者扱いされた朱鷺江は、ならば暇な者にドックを案内してやろうと提案したのだ。結果、お客様扱いの一行がついてきた。

 とはいえアウェルは既にそう気にした様子はないが、セルシアは依然として渋い表情をしていた。どうにも先ほどキスされたことが相当頭にきているらしい。

 パトラネリゼに至っては、「アレは挨拶みたいなもの、ノーカン、ノーカンですから!」と必死で自己暗示をしている。

 兎にも角にもわからないことが多すぎるので、まずアウェルが思い切って聞いてみる。


「ええと、ピュアフレンズ、さん?」


「朱鷺江でいいぜ。もしくはキャプテンで」


「じゃあオレもアウェルで。朱鷺江がここでいちばん偉いんじゃないのか?」


「肩書の上ではそうだぜー。でも母ちゃんから受け継いだだけなもんで、ああして顔役なんかに抑えられてるってわけだ」


 そう苦笑して、顔をすくめる朱鷺江。当人も納得しているようなので皆もこれ以上突く気はなかった。


「しっかしすげえな、この……ドックっていうのか?」


 ドック内を歩きながら感嘆の声を上げるアウェル。やはり男としてはこういった巨大な建造物にはときめくものなのだろう。ゼフィルカイザーもよくわかる話だ。


「そだぜー。ま、世界で一番でっかいドックだろうぜ。御覧の通り砂の大陸やら教和国やらから船便がひっきりなしに届くからな」


 そう自慢げに語る朱鷺江。背後のパトラネリゼとセルシアはいまだに気まずそうな表情をしており、ハッスル丸に至っては目を回したままカノに抱きすくめられている。


「んなに気にするなよー。っとに、大概の奴は喜ぶんだけどなあ」


「そりゃキャプテンは美少女ですし、若い男の人は喜ぶでしょうけどね。気にする人は気にしますって」


 ぼやく朱鷺江とたしなめるカノ。だがそう言われるだけのことはあり、朱鷺江の姿は日の指さないこの空間にあっても燦然と輝いている。どこかあどけなさを残すはつらつとした表情はなかなかない種類のものだ。

 その一方で表情こそ苦々しげなものの、宝石のように輝く赤い髪と整った顔立ち、獣を思わせるしなやかな肢体のセルシアがいるとなると自然、それだけで人目を引いている。


「……絵になりますねえ畜生め」


『妬む暇があれば自分が輝く努力をすべきだと思うぞ。あ、左に向けてくれ左に』


「はいはい」


 思春期の背伸びを口にするパトラネリゼに容赦なくカメラの角度を指示するゼフィルカイザー。ゼフィルカイザーの本体は船に乗ったままだ。無用な騒ぎを避けるため、ではなく、


(くくく、こうすれば視点が二つになってより画像収集が容易ということよ……!)


 完全に私欲に基づいていた。自身のカメラアイとパトラネリゼの通信機からの映像の二画面をつぶさに監視し、これはと思った瞬間にシャッターを切るゼフィルカイザー。その一方の映像を海色の瞳が遮った。

「なあ、これなんなんだ? 今喋ったよな?」

 朱鷺江が首を傾げながらパトラネリゼの手にする通信機を見つめてくる。おのれ邪魔をしおって、と内心毒づくも、ゼフィルカイザーは即座に切り替えた。


『ごきげんよう、キャプテン・トキエ。私はゼフィルカイザー。アウェルの操縦していたロボットだ』


「うわっ、喋った!? え、なにこれ精霊機かなんか?」


 驚きに改めて目を見開く朱鷺江は腰の銃に手を伸ばした。そこから声がしてくる。


『違うでヤンスよ、キャプテン。魔力の気配が全然しねえでヤンス』


「精霊機や魔動機じゃないけど、ゼフィルカイザーは自分の意思を持ってるんだ。な?」


『ああ。そう言ったものと理解しておいてほしい。今の声はそちらの精霊機か?』


『どうもでヤンス』


 ひゅっと風切り音を伴い引き抜かれたピストルの銃把を見せつける。


「精霊機、さっきのやつか」


『そうでヤンス。テトラというでヤンス、お見知りおきを』


 朱鷺江の抜いたアンティークピストル、仰々しく飾り立てられた銃把のその中心にはまった海色の宝玉からやたら軽い声が流れてくる。軽いというか、下っ端臭いというか。ゼフィルカイザーはその海色の輝きの向こうに黒ひげ危機一髪の姿を幻視した。


『こちらこそ。ゼフィルカイザーだ。

 ところでキャプテン。一つ伺いたいのだが、その精霊機の召喚器、それは銃、でいいのか?』


 機と見たゼフィルカイザーはスナップ編集を放り投げて間髪入れず質問する。

 他にも疑問点は大量にあるのだが、この世界における銃火器の立ち位置はゼフィルカイザーにとっては今後肉弾戦オンリーの苦行を強いられるか否かの分水嶺だからだ。


「そうだぜ、見ればわかるじゃん」


「へー、これが。オレ見るの初めてだよ」


「トメルギアの銃や砲は例によって天竜王との戦いであらかた失われましたからねえ。

 グラエブランド号に火砲が積んでないのも、カーバインに回したからだとか船長が言ってましたし」


『――ということは、魔動機用の銃火器も存在しているのか?』


「あるぜ。うちの部隊も旧帝国から買った機体や武装使ってるしな。

 なんだったら買うか? 安くしとくぞ?」


『是非に、是非に頼む! 金ならあるぞ!?』


 異様に熱のこもった声に引くアウェルとパトラネリゼ。

 確かにトメルギアを出る際にイルランドから少なくない額をもらってはいるが、あれだけケチ臭かったゼフィルカイザーがここまで執着を見せるとなると驚きを隠せない。


「ゼフさん、そう言うのは明日にしましょうよ。ゼフさんだって疲れてるでしょう?」


『わかった。今は動きたくないのも事実だしな』


 渋々頷くゼフィルカイザー。こうして寄港したのに即日で発つということもないだろう。その間に物色すればいい話だ。

 なにより、海上をブースターで移動するのは予想以上に骨が折れた。十日近く船上でじっとしていたせいも相まって、ゼフィルカイザーは久々の関節痛を味わっている最中だった。


「面白い奴だな、その機体」


「ただのポンコツですよポンコツ。まったく、変なことにばっかりこだわるんですから」


「面白い機体って言えば、あの魔動機も見たことないんだけどさ。ハッスル丸が言ってたけど、帝国製の魔動機なんだって?」


「ああ、デスクワークか。いい機体だぞ。なんなら――おーい、そこの奴、ちょっといいかー?」


『うぃーっす。なんすかキャプテン』


「客人が機体を見たいらしいんでな、ちょっと降りろ」


 近場で作業をしていたデスクワークを呼び止める朱鷺江。そうして近づいてきて膝をついた魔動機に、セルシア以外の二人と一機は改めて息を飲む。

 間近で見るデスクワークは、今まで見てきた魔動機のセオリーからは明らに外れていた。

 一言で言うなら直立した作業機械。ゼフィルカイザーが抱いた率直な感想はそれだ。胴体は箱のようで、そこに同じく箱のような腕と足をとってつけたような外観から漂う無骨さは、ガンベルなどの甲冑めいた無骨さとは明らかに趣が異なる。

 頭部も同様だ。今までの魔動機は西洋甲冑の兜のようなデザインだったのに対し、作業用ゴーグルを髣髴とさせるカメラアイ。

 その上、これまでの魔動機は例外なく五指を備えていたのに、デスクワークの手は三本指だ。


「さ、乗っていいぞ」


「え!? 乗っていいのか!?」


 朱鷺江の気前の良さに驚きながらも機体によじ登っていくアウェル。ゼフィルカイザーは慌てて指示を飛ばした。


『すまんパティ、通信機をアウェルに』


「はいはい」




 考えてみれば、魔動機のコックピットを見るのはゼフィルカイザーには初めてのことだった。

 座席が備えられた空間は意外と広い。座席の膝置きの先には球状の魔晶石が備えられており、そこからミュースリルがつながっている。

 ゼフィルカイザーを驚かせたのはコックピットの真正面にあるものだ。巨大な球面の魔晶石がそこに鎮座している。逆を言えば他には何もない。計器的なものも一切合財だ。


『なあアウェルよ。ひょっとすると魔動機のコアというのはコックピットまで貫通しているものなのか?』


「そうだぞ。お前は見るの初めてだもんな。よっと」


 座席に腰かけたアウェルがコントロールスフィアに手を置く。と、コアにほのかな光が灯り、途端にコックピットの様子が即座に様変わりした。コックピット内に淡く光るウィンドウがいくつも展開していく。ゼフィルカイザーは直感的に、それらが機体の計器であることを理解した。


「こうやって、魔力を注ぐとコックピットとしての機能が展開するようになってるんだよ。

 お前が聞く前に言っておくと魔動機のコアは超頑丈だし、それにマナパネルだけじゃなくて搭乗者保護のための魔法も同時に機能してるからな。コアをぶち抜いて中身を仕留める、ってのは無理だぞ」


『それはお前やパティから聞いていたが、こうして実物を見るとな』


 ゼフィルカイザーの思考回路に複雑な気持ちが浮かぶ。異世界のファンタジーロボットのコックピットのインターフェイス、それに感動する気持ちももちろんある。だが、願わくば己の手で機体を乗り回したかったという感情が茨のように彼の心を苛んでいた。


(まあ、感傷だな……これはあの光るおっさんにいつか叩き付けてやろう、うん)


 恩人のはずが閻魔帳の最上段に太字で書かれる扱いとなっていることを当の本人が知ったらどう思うか、それはわからない。


『しかし、お前は魔動機は動かせないんじゃなかったのか?』


「物によるって。でもこれクラスの機体だと手が動かせればいいほうかな。と、あれ?」


 デスクワークの手をわしゃわしゃと動かしながら首を傾げるアウェル。


『どうかしたのか?』


「いや、妙に負荷が軽いというか……ちょっと試してみるか」




 一同の目の前で、デスクワークが立ち上がる。初めて乗る機体だろうに、その機体の重量バランスを把握しきった見事な起立に朱鷺江が口笛を鳴らす。

 そのままファイティングポーズをとったデスクワークは、その場でシャドーボクシングを始めた。機体特性ゆえだろうか、動きは硬いが、その分安定している。


「へぇ、やるじゃねえか、流石だぜ」


 その一方、感嘆する朱鷺江の背後では、瞠目するセルシアにパトラネリゼが質問していた。


「あのー、エル兄って魔動機とか動かせないんじゃなかったんですか?」


「の、はずだけど。少なくとも父さんは軍用魔動機とかはまず動かせないから絶対に触るなって言ってたし」


「そりゃ、デスクワークでござるからな」


 二人の疑問に答えたのは、カノの胸にうずまったままのハッスル丸だ。


「は、ハッスル丸様、目を覚まされたんですか? すぐ降ろしますね」


「いやいやこのままで。かように寝心地のいい寝床はそうなかったでござるよ、クエッ」


 二人が白い目を向けるが、忍者怪鳥は気にせず続ける。


「あれこそがデスクワーク、帝国が生み出した超低燃費魔動機でござるよ。パティ殿にわかりやすく言うと、ガンベルとさほど変わらぬ体躯でござるが、使用しておるミュースリル量はガンベルの半分以下でござる」


「はあ!? それでどうやって機体を支えてるっていうんですか!?」


「それまで蓄積してきた技術を放り投げて一から新規に設計したフレーム、外骨格としても機能する装甲、さらには魔力を用いないからくりによって、魔力由来の技術への依存度をかなり減らした機体なのでござるよ」


「なるほど。でも、帝国製なんですよね。見ると結構な数がいるっぽいですけど、相当儲かってるんですか、この島」


「まあな。だけど大体は物々交換だぜ?」


 そう言って朱鷺江が指さしたのは、一行からやや離れたところに停泊する船だ。現在もデスクワークが荷の積み下ろしをしている。その荷を見て、パトラネリゼは今度こそ目を剥いた。


「あのー、朱鷺江さん?」


「おう」


「私の目が確かなら、あれって魔晶石マナタイトの原石に見えるんですが。図鑑でしか見たことないですけど」


「そうだぜ?」


「それも魔動機のコアにできそうなサイズの」


「おうよ」


 朱鷺江の威勢のいい返事の後、沈黙が流れる。ドック内の喧騒や波の音が、どこか遠い。それくらいにパトラネリゼが見た物は彼女の常識を覆すものだった。見れば、そんな原石が一つや二つではない、山のように積まれている。


「お、おかしいでしょう!? 魔鉱石ならまだしも、魔晶石は魔法文明期にあらかた掘りつくされたはずですよ!?

 そ、そう言えばハッスル丸さんが魔鉱石や魔晶石の産地とかなんとか言ってましたけど」


 疑問の声を上げたパトラネリゼの背後で、アウェルの乗るデスクワークが急に膝をついた。何事か、と朱鷺江が首を傾げる中、セルシアがハッスル丸に尋ねた。


「あの魔動機、燃費いいのよね」


「そうでござるよ?」


「でもうちのアウェル、作業用の小型機乗り回しても一時間で目ェ回すんだけど」


「あー、そのレベルだとちときついでござるよ」


 それを聞くや否やセルシアの姿が掻き消え、次の瞬間にはデスクワークの背部に張り付いていた。コックピットハッチをこじ開けて中を見れば、


『おいアウェル、貴様私を捨てる気じゃないだろうな!? おい、なんとか言え!』


「うぇへへへ、オオオオオレもママジカラライザーうごかせたぜぜぜぜ」


 カメラの向きのせいで状況に気付かないゼフィルカイザーと、目を回して泡を吹くアウェルの姿があった。

 セルシアはアウェルを引きずり出すと殴り倒し、グラエブランド号まで全力疾走するとゼフィルカイザーも殴り倒した。

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