ダンジョン開放!
ダンジョン生活1日目――。
※
・紳士用すこやか肌着セット
(上下×2組)
・紳士服カジュアルセット
(ロングカットソー/白×チノパン/ピンク)
・サマーニット帽
(紺色/髑髏エンブレム付)
・カンフー演舞服
(黒色/金刺繍入)
・牛革カンフーシューズ
(黒色/鉄板入)
合計:5pt使用します。
残りダンジョンpt:4985
※
貴重なダンジョンポイントを使って買い物を済ますと、
「ダンジョンポイントを使えば“物理的なもの”は何でも購入することができるが、後々ポイントを増やす機会は限られている。慎重に使え」
ありがたいアドバイスを頂きました。
ドサリ――と、足元に出現した商品を手にとって見定め、満足げに目を細めるドリエル。
まてまてまてまてまて。
おっさんの服を買わされてんだけど!?
つか、紳士服カジュアルセットってなにそれ? しかも、ピンクって、なにそのチョイス? いったい何基準のTPOを考慮してそんなの選んでんだよ、ったく。
「……ほう。なかなかの高品質だ。市販のものとはやはりレベルが違うな」
何かほざいているようだ。
着心地を楽しみながらいそいそと着衣を進めるドリエルを、全力の呆れ顔で一べつし、画面に目を戻す。
ともあれ、物理的なものならなんでも手に入るとは恐ろしく便利なシステムだ。さらに、頼んだ瞬間に手元へ届くとか、物理法則完全無視の超未来型通販である。
購入方法はインターネット通販とほとんど同様で、カテゴリを絞ってゆき、たどり着いたお目当てをクリックすればよい。
ただし、カテゴライズがあまりにも膨大で多岐にわたるため、まずは検索ワードであたりを付けることが基本となる。
色や絵柄、サイズ、材質から細かな造形までをも個別に指定することも“雷属性にかなり強い”といった属性を付加することもできる。
おそらくこちらの発想力しだいで、どこまでも無制限なオーダーが可能であろう。検索して購入するというよりは、もはや“創作”である。
高価値なものを要求すれば、当然、消費ポイントも高くつくが、明らかに価値の違うであろう、肌着セットとカジュアルセットが同じ1ポイントだったという事実は、おそらくそれがポイントの最低単位ってこと。
試しに国産の普通乗用車を検索してみると、リストアップされたそれらは全て、消費ポイント1だった。
…………やっちまった。
おっさんのパンツごときに、同じ1ポイントを使ってる場合じゃないっつーの。
すでにカンフースタイルに着替えを済ました無駄づかいの犯人は、少し離れた場所で、がっつりトレーニングを始めている。
高速の片手腕立て伏せからひょいっと一点倒立し、その体勢のまま腕立てを再開する。息一つ乱すことなく、
「眷属やモンスターの召喚も同じ手順だ。覚えておけよ」
とかなんとか言ってる。
どうやら、反省の色はないらしい。
とりあえず、物品購入やモンスター召喚は後回しにして、まずはダンジョンの骨格造りを進めていくことにしよう。
ダンジョン作成項目から画面に航空地図を表示させると、現在地点である鷲羽山の山頂付近に、半透明色の四角形が描画されていた。
おそらくこのコアルームを示したもので、現時点でのダンジョンの全容ということだ。
実際は山頂付近の地下100メートル地点である。
ダンジョンと一言でくくってしまったが、実際には様々な形態がある。じめじめとした地下洞窟であったり、天まで届くかという塔であったり、魔王の巨城というコンセプトであったり。
塔のてっぺんにコアルームを設置したい場合などは、予め、コアルームを上空に位置させておく必要がある。コアルームは後から動かせないのだから。
しかし、その設定はダンジョン作成の前段階にあるはずだ。そんなことをしたら、初期設定が終わった時点で上空に放り出され、自由落下でゲームオーバーと考えられるが……まぁ、時空を歪めちゃうようなゲームなんだし、その辺の救済措置はあるんだろう。
それよりは、その時点の俺に、そんな発想はなかったということ。つまり、うちのダンジョンは必然的に地下洞窟型ということになるのだ。
それはそれでまぁ、別に不満はないんだけれども。
で、大まかなプランとしては、まず、沿岸に向かってずんずんと地下道を伸ばしてゆき、景色の良さそうな場所に入口を開ける。そして、その地上部に“温泉郷”を造ることだ。
なぜ温泉郷なのかというと、できる限り殺伐とした色を消したいから。
ダンジョンptが有限である以上、リアルマネーを稼ぐ手段も確保しておかなくてはならないという判断もある。
もう一つは“カモフラージュ”という利点。ゲームのプレイヤーに魔王の拠点を知る術があったとしても、それはコアルームの座標を知る術でしかないということ。
拠点から離れた位置に温泉旅館があったとして、そこがまさかダンジョンの入口だとは思わないだろう。
時間停止している一般人にとっては、一ヶ月後――時間停止が解けた次の瞬間――いきなり出現した温泉施設に戸惑いはあるだろうが、その辺はあまり気にしなくてもいいみたい。
なぜなら、世界中の至るところに、冒険者ギルドや武器屋、防具屋、スキルショップなど、ゲームに関わる施設が多数設置されるのだから。
その中にあって、RPGでいうところの“宿屋”の一つぐらいそう不審に思われることではないということだ。
そんな細部に戸惑いを傾ける余裕はない。一ヶ月後、全人類は、俺が一足早く味わった戸惑いを、憂いを、さらには絶望を、唐突に受け止めることになるのだから。
これらの情報はドリエルから得たものであるが、考えてみたら結構“メタ”な情報なんじゃないだろうか。他のアシスタントも同様にこのような情報を魔王に提供しているのだろうか。
であれば、グリーゼから受けた最初の説明がもう少し深くてもよかったと思える。
リアリティを損なうから詳細には説明できないとかなんとか、わざわざ説明を濁していた気もするが。
まぁ、今、そんな部分に引っ掛かる必要もないだろうから、少し忘れておくべきか……。
疑問を巡らしていても、前に進まないな。さて――――
コアルームの西側の壁から、瀬戸大橋の北詰――沿岸へ南西方面――に向けて地下道の掘削を開始する。
掘削といっても、どこからともなく現れた削岩機やシールドマシンが活躍してくれるわけではなく“不思議なチカラ”で勝手に掘り進めてくれるって寸法だ。
キーボードを操作して、画面の航空地図上に地下道の経路を描いてゆく。まっすぐなだけの通路では面白くないので、若干の蛇行や高低差を加えつつ、およそ200メートルほど進める。
※
・地下通路(狭)×200メートル
合計:20pt使用します。
残りダンジョンpt:4965
※
20ポイント消費ってことは、1ポイントで10メートル掘れるわけだ。
安い。率直に。
ただし、ここに意匠を加えようとすれば、別途ポイントが必要である。例えば、壁・天井を石貼りにして、等間隔に壁掛けランプを灯してみたり、近未来サイバー風に仕上げることもできる。
実用的なところでは、床を沼地にしたり、溶岩地帯にすることも、極寒という属性を付加することもできる。
つか、基本的に、ポイントを注ぎ込めばなんでもアリだ。
今のところ、地下道部分にこだわりはないので、素掘りのままでいいかな。
さて、この後はどうしよう。
残ポイントから考えれば、四国まで地下道を通すことも充分に可能だが、それをする意味はない。
まずは、温泉郷を作る上で立地条件の良い場所を探し、入口を開けることが第一目的なのだ。
思いきって、島はどうだろうか?
完全な離島だと景観は良いだろうが、交通手段が船のみとなり集客にマイナスだが、瀬戸大橋が橋脚を据える沿線の島々であれば、車両で乗り付けることが可能。
橋の沿線にある島々は、本州側から順に、櫃石島、岩黒島、羽佐島、与島である。
この中から選ぶなら本命は与島かな。与島パーキングエリアを有するため観光客にもお馴染みであり、瀬戸大橋――瀬戸中央自動車道――の上下線から共にランプウェイが通っているおかげで、利便性も問題ない。
悪くないと思うのだが、一応、アシスタントに確認してみるべきか。
そう思って、アシスタントに目をやる。
随分おとなしいなとは薄々感じていたのだが、それもそのはず、座禅をくんで瞑想にふけっている。
アシスタントぉ……。
「ハッ!」
俺が批難の視線を向けていると、急に目を見開き、気合いの声と共にがばっと立ち上がる。
なんだなんだ?
両膝を肩幅より広く開いて腰を落としたドリエルは、次に両腕をグリズリーのごとく大きく構え、ゆったりと流れるように円弧を描き始めた。
しばらくの間、太極拳を思わす型を舞ったかと思えば、瞬間、ふっと動きを止め、両手のひらを前に突き出す。
静から、超速の動。俺がレベル21じゃなければたぶん見えていない。
あっ、なんか出た……。
突き出した両手のひらから、サッカーボールほどの大きさに収束したオーラの塊が飛び出し、対面の壁に衝突して、弾けた。
コアルームに轟音が響き渡る。
格闘マンガやゲームでお馴染みのアレだ。
そして、ドリエルの動きは止まらない。
立ったままの状態からサマーソルトキックを豪快に放ち、着地と同時に一歩踏み込み、下、中、上段の連続蹴りを打ち出す。続けて、回し蹴りから一回転して裏拳を飛ばし、最後に、回転アッパーを華麗に決める。
まるでスローモーションのように四回転半の滞空から着地すると、拳に纏わっていた青白いオーラが、ふっと消える。
…………。
アシスタントの仕事もせずに、何をスーパーコンボかましとんねん!
とはいえ、半ば魅入ってしまっていたことも事実だ。悔しながら。
そうだ。
アレ、見てみようか。
初期設定が終わったのだから、眷属のステータスが確認できるはずだ。
※
◆ステータス
ドリエル・ロイド
クラス:魔王の眷属
称号:獣王
Lv:49
経験値:2899
HP:285
SP:149
体力:70
筋力:75
耐久力:64
器用:53
知力:43
精神力:44
魔力:25
敏捷:51
魅力:70
運:52
根性:82
カルマ:31
◆スキル
・格闘術Lv3
・気功術Lv2
・武器術(銃)Lv2
・武器術(ナイフ)Lv1
・属性攻撃(火)Lv1
・特殊防御(毒)Lv1
・変身(獣人)Lv4
・強化(筋力)Lv1
・隠密Lv3
・操縦(バイク)Lv2
・解析Lv2
・調査Lv2
・探知Lv2
・解錠Lv1
・罠解除Lv2
・酒豪Lv5
・釣りLv3
・生存術Lv2
※
おいおいおい。これなんてチート?
一般的なパターンからすれば、魔王様たる俺がチートキャラであって然るべきだ。
そこを差し置いて、アシスタントがチート全開とか、斬新すぎるだろ……。
レベルの高さもさることながら、スキルの数が異常に多くないか? しかも便利そうなスキルばかりがそろっている。
その中で一際目をひくスキルが、変身(獣人)だ。
読んで字のごとく獣人に変身するスキルかと思われるが、獣人に変身して獣の力を得るということは、ただでさえのパワーファイターが、さらに手の付けられない荒くれ進化カードを隠し持っているということ。
味方で良かったぁ、と考えるべきか。
とりあえず、酒豪がマックスレベルって部分には触れない。
「ふぅ……。なんだ? 相談か?」
いい汗かいてすっきり顔のドリエルが訊く。
「あの。ドリエルって……何者?」
「ああ。ステータスを見たんだな。今はただオマエの眷属だろ。元々の所持能力がステータスに反映されているだけだ」
「元々の所持能力って……?」
「…………それより。オレのレベルが高いと思っているようだが、この“ゲーム”の基準で考えれば、中盤以降の平均レベルだと思えるな。スタートダッシュとしてはまぁ優位だろうが、この域に来る者はそれなりにすぐ現れるだろう」
レベルを上げるための経験値を積むには、戦闘が不可欠だ。それらが得意な者はレベルの上がりも早いということだ。
あいにく、俺は戦闘狂なんかではないから…………
「心配するな。訓練でも経験値は増えるし、相手の息の根を止めなければ経験値が入らないなんてこともない。経験を得れば経験値を得る。それなりにリアルだ。まぁ、どちらかといえば損な性格だろうがな、オマエは」
その指摘には反論できない。
お前はそんなに野蛮な人間ではないと言われているのだが、現在の立場からすればそれは誉め言葉ではないと理解している。
まぁ、おいおい、がんばろう。
「ところでドリエル、ダンジョンの入り口候補なんだけどさ」
画面の地図を指し示し、意見を求める。
「ここにしようと思うんだけど、どう?」
「いいんじゃないか。地形を見ると、この辺りの水深は15メートル程度だ。オマエが造った通路の先端が、たまたま海抜高度マイナス15メートル地点。このまま瀬戸大橋の真下を通して、上陸しろ」
「……え? 真下を?」
「……別に、真下じゃなくても構わないが、なんだ? オマエは結構、融通の効かない性格なのか?」
そ、そんなことはないけど……だってさぁ、いきなりこんな異次元で立ち回ってんだから、ちょっとぐらいテンパりますよね、普通。
「とにかく、与島まで、ダンジョンを伸ばすよ」
操作性の悪いダンジョンシステムをコリコリと操作しつつ、瀬戸大橋の真下に通路を直進させる。
なんとなく蛇行させてみたり、高低差を付けてみたりしつつ――――、
「もう少し複雑に迷路化した方が良いな。オマエを倒そうとやってきた冒険者が強豪だとしたら、いくら強力なモンスターを置いたとしても、一気に突破されて終わりってこともある。一本道ではな」
ごもっともな意見なので、それに習って、あと50ポイントほど消費し、ダンジョンを迷宮化させる。
別れ道からの別れ道…………からの、別れ道。そして行き止まり。
どうだ、まいったか。
※
・地下通路(狭)×6320メートル
合計:632pt使用します。
残りダンジョンpt:4333
※
全長6キロ強の巨大ダンジョン完成である。
あとは、通路の要所要所に大部屋を設けて、ボスモンスターみたいなのを配置すれば、かなりダンジョンらしくなるな。
ボスモンスターの得意な地形効果を与えつつ、いい感じの地下迷宮に仕上げていこう。
ダンジョンの先端部は、現在、与島の北端から100メートルほど内陸に入った場所の地下だ。
入口を開ける詳細な位置は、この後じっくりと検討する予定。
後に分かることだが、島のこの辺りは瀬戸大橋開通ののち観光事業にかなり力を入れていた場所である。結果、事業はおよそ失敗に終わり、今は更地となっているが、その名残が航空地図上でも確認できる。
「ここの更地でいいんじゃないのか? オマエのいう温泉郷とやらの建設にも充分な土地だ。すぐ近所に大型の駐車場もあるし、海沿いに船着き場まであるな」
瀬戸大橋の高架橋を挟んで東側の海沿いである。
おそらく何らかの観光施設の跡地であろう。ドリエルのいうように、観光地として整備されていただけあって土地開発に関しては大幅に省けそうである。
まぁ、俺も土地開発公社に勤めていたわけでもないし、考えてもベストな答がでるはずもなし。
ある程度、イケイケで進めなきゃな。
「よし。じゃあこの土地の真ん中に入口を開けるよ」
※
・地下通路(狭)×40メートル
合計:4pt使用します。
残りダンジョンpt:4329
《New!!》瀬戸内国際ダンジョンは開放されました。
《Caution!!》ダンジョンコアが破壊されるとあなたは死にます。
※
祝。ダンジョン開放おめでとうございま~す…………じゃないでしょ! なんか物騒な一文が目端にとまったんだけど!?
俺が固まっていると、
「開放されたんだから侵入者が現れる可能性はゼロではないな」
「だって、ダンジョン開放は一ヶ月後だって……」
「一般人の時は止まったままだ。ゲーム自体の開始も一ヶ月後だから“プレイヤー”も存在しない。そう慌てる必要はない」
……そ、そうだよね。
「でも、だったらなんで可能性がゼロじゃないって……?」
「同業者がいるだろう」
そうか! 魔王業の競合が98人もいるんだった。そいつらは当然、現段階でも俺と同じように外に出て動き回れるはずだ。
どうする。入口を封鎖しとくべきか。
「開けっぱなしはマズいよね……?」
「わずかな可能性の話だ。他の魔王どもも、今はダンジョン作成で手一杯のはずだろ」
「そうだよね。そもそもこの広い地球上で、たった98人にそうそう見つかるはずもないか」
心配しすぎたかな。
「98の“魔王軍”であって98人ではないがな。それに、他の魔王のダンジョン所在地――つまりコアルームの位置情報だけなら、お互いに確認できるはずだ」
「え?」
「オマエほどのポイントを持った魔王のダンジョンでも、総延長6キロ程度だ。つまり、他所のダンジョンも拠点の半径10キロ圏内には入口があると考えられる。世界広しといえども、あながち無対策というわけにはいかんかもしれん」
え?
他の魔王の拠点って、わかるの? それって俺の拠点も筒抜けってことじゃん。
ヤバイじゃん。
急いでダンジョンシステムを操作し、それらしい項目を探ってゆく。
しばらくの間、ハイパーリンクをうろうろと渡っていると、自分のダンジョン情報ページのトップに「その他のダンジョン情報」という項目を見つけた。
めっちゃ分かりやすいところにあるし……。
ドキドキしながら、クリックしてみる。
すると、ナンバー1~100まで振られた表形式のリストが表示され、それぞれの横列に魔王名と拠点位置が並んでいた。
#99の欄には、葉山隼人、日本国岡山県倉敷市児島――――と、くっきりはっきり表示されている。
「そんな暗い顔をするな。初めから分かっていたとして、やることは同じだったはずだ」
心の準備も必要だっつーの。
ぐちぐちとこぼしつつ、魔王のリストに目を通してゆくと、すぐにおかしな点、二つに気がついた。
一つ目は、魔王がナンバー100まで採番されていること。99人と聞いたはずだったのだが……。
まぁ、99でも100でも大勢に影響はないだろうが。
もう一つは、リストの内、半数ほどの魔王が空欄ということだ。
「こいつらは未だダンジョンコアを見つけれずに、暗闇を彷徨っているんだろうよ」
魔王のリストに興味を持ったのか、ドリエルが声を掛けてきた。
なるほど。確かに、ダンジョンが未登録であればここには載らないよな。
「ざっと見たところ、やはり、大国に多く分布しているようだ。日本も多いな」
ドリエルなりに今後の戦略を考えようとしてくれているのかな。
まぁ、どうせすぐ筋トレ始めるんだろうけど。
現在、50人ほどの情報が確認できるが、内訳は――――、
中国:6人
インド:5人
アメリカ:5人
日本:5人
ブラジル:3人
メキシコ:3人
インドネシア:3人
ロシア:3人
バングラデシュ:2人
フランス:2人
ドイツ:2人
ナイジェリア:2人
その他もろもろであるが、北極圏や太平洋のまっただ中に拠点を構えるような猛者もいる。
その中で気になるのはやはり日本の連中だが、最も近場でいえば、日本国兵庫県――ってやつだ。
・魔王#24 碓氷業魔
拠点:日本国兵庫県神戸市垂水区――――
明石海峡大橋のたもとである。
中二病を拗らせたような名前だが、業魔なんてつけるところをみると、真っ当な人間とは思えない。
俺みたいに温泉郷うんぬんとかいってる平和主義者とは一線違うことだろう。
戦闘になる可能性は十分にありえる。要注意だな。
「さて、どうする。このままここで外の建物を造ってしまうのか? それとも一度、外に出てみるか?」
うーん。
実際、温泉郷を作るにしても現場でイメージしたい部分もあるし、外に出るなら護衛としてドリエルにも同行して欲しい。
しかし、そうなると“ここ”が不安なんだよな。なんせ俺の心臓が置いてあるみたいなもんだから。
「少し考え直したのだが、他の魔王が襲ってくる可能性は低くないかもしれん。そろそろ、眷属やモンスターを何体か召喚しておくべきじゃないか」
……そうだな。
ちなみに、眷属とは自己意識と知性を備え持った人型の従者のこと。モンスターとは読んで字のごとくである。
モンスターの中にも自我や知性を持つ個体は存在するが、人型かそうでないかという分類が基本だ。
召喚方法はアイテム購入とほとんど同じってことなので、かなり自分好みに選択できる。
しかし、生命を……特に“人を創造する”んだろ? いよいよ、とんでもない領域に踏み込んできたわけだ。
背徳感がハンパない。
まぁ……いいや。
眷属もモンスターも、みんなひっくるめて、俺が幸せにしてやればいいんだろ。
「ドリエル、あのさ。とりあえず、新しい眷属を何人かと、拠点防衛用モンスターを召喚したらさ、一度、外へ出てみない?」
……ん?
反応がないので振り向くと、先ほどまで俺の隣で画面を見ながら、戦略を練っていたであろうドリエルの姿がない。
「ドリエル?」
目を凝らしてみると、少し離れた場所で人影が動いている。
上下運動をしているような……。
何してんだ?
ああ、スクワットね。
スクワットかぁ、なるほどなるほど。
また、筋トレしてんのかよ、アシスタントぉ……。
このパターン、そろそろ飽きたんだけど……。