地球最後の日
まじまじと夜空を見上げるなんて、いったい何年ぶりだろう。
満天とはお世辞にも言えない星空には、それでも数えきれないほどのきらめきが散らばっている。
あの十字架みたいなのは……白鳥座かぁ。意識して星座を見ることなんて本当に久々だ。あの明るい星がデネブだっけ?
その右上にベガがあって、その右下にアルタイル。ちょっと見えにくいけどたぶんそうだろう。一等星を三つ結んで、夏の大三角形ってやつ。
みーつけたっと。
あっ、そうそう。確か、デネブとベガを軸にして、ちょうどアルタイルの反対位置ぐらいに…………あった。
北極星。
パノラマの夜空の北の果てにあって、その存在を誇示するかのごとく光り輝く北極星。街の光害とスモッグの影響で随分と薄らいだ星空の中でそれは一際強く、強く、輝き…………ん? 輝きすぎじゃないか?
よくよく考えてみれば、北極星がこんなに明るいはずもない。まぁ、見間違いか、思い違いだろう。
俺はそれ以上に深く考えることもなく、久々に童心に帰れてなんとなく癒されたような気分のまま、ベランダに干していた洗濯物を取り込んで部屋に戻る。
携帯がなった。
デイスプレイに目をやると、茶髪ロングヘアーにサングラスを掛けた、雰囲気イケメンの上半身画像をバックに“太郎”と表示されている。大学の同級生で、俺と同じくこの四月から社会人一年生をしている佐伯太郎だ。
こんな時間に掛けてくるなんて、どうせ合コンの誘いか麻雀の人数合わせだろう。とりあえず出てみるか。
「はいよー」
「はいよー。じゃねぇって、隼人! いいからすぐにテレビ付けろ。つか、外見ろ、外!」
「どした、なに慌ててんだよ? まだ慌てる時間じゃないだろ?」
「そーいうのいいから、とりあえずテレビ付けろって!」
あせったようにまくし立てる太郎。いつものお調子者キャラとは明らかに違う様相に違和感を覚えつつも、言われた通りにテレビを付けてみる。
「なんなんだよ、いったい……何チャン?」
「全チャンだよ、それしかやってねーよ! 星だよ、北極星。映ってるだろ」
北極星?
試しにチャンネルを回してみると、確かに全チャンネル、星の映像ばかり。32インチのテレビ画面一杯に映し出されたそれは、星というよりも何か発光体のようにも見えるのだが、これが北極星?
つか、要するに…………
「どーゆうこと?」
「分かんねーよ! 分かんねーけどヤバいだろ、これ。どうなるんだよ、地球のピンチ到来だろ!」
うーむ……状況がさっぱり分からないが、どうやら何事かが世間を騒がせているらしい。とりあえず話題に追い付くべきか。
耳もとでは興奮気味の太郎の声が言葉を続けているが、俺は携帯の通話終了ボタンを無言でポチッと押下し、テレビ画面に目と耳を傾けた。
『――――いわゆる北極星の超新星爆発ではないか――――あるいは、まったく別の発光物体が北極星との直線上に予兆なく出現したのか――――いずれにしても、現在のところ関連機関からの情報が全く入ってきておらず――――』
おいおい、北極星が爆発て、どえらいことになっとるやん…………あれ? さっき見た夜空の星って、やっぱり北極星か?
『――――た、大変なことが起こっています! 北極星と思われる星の光が一気にその光度を増しました。まるで、太陽、そ、それどころか――――げ、現在21時を回ったところですが、局前は完全に白夜という状況、いや、少なくとも日本中で同様の現象が起こっているものと――――って、え? な、なにこれ! 信じられな――――』
気丈に中継を繋いでいた女子アナウンサーであったが、最後の最後で取り乱し、それと同時に全ての音声がぷつりと途絶えた。
他のチャンネルに変えてみても同じだった。もはや映像すらなくなっている。
報道人とはいえ人の子だ。こんな状況で仕事なんてしてる場合じゃねぇってことにでもなったんだろうか。
実は、普通じゃないってことには、俺自身すでに気が付いていたりする。だって窓の外がまるで明け方のように明るいから。夜の9時なのに。
さっき俺が見つけた北極星が、見間違いじゃないのなら、そいつが異常な光を放ってるってことだ。とりあえず、百聞は一見に如かずってことで。
勢い付けてみたものの、内心はドキドキのまま、俺はベランダの窓を開けて外に出た。
星空を見上げる。
雲一つない“純白”の空は、まるで朝もやのようにぼんやりとぼやけ、大気に反射した光が霧散している。
ついさっきまであった星たちの姿は一粒もなくなっていて、そして、北の空にそれはあった。
直視することなどできないほどにまばゆく光り輝く、白い太陽。
いや、太陽であろうはずはない。色が違うし、今は夜だ。何よりも違うのは――――太陽はこんなに巨大じゃないだろってコト。
ビルが見える。
それなりに都会だけど、それなりに田舎を残した岡山の街。白夜というよりは、真っ昼間の街。明るさの種類が違うだけってのが正解で、白く輝く太陽が、ただ異質だった。
今もなお、どんどんと膨張しているのが視認できる。あるいは接近してきているということか。
もしこれが星という物質そのものなんであれば、地球に衝突したらどうなるんだろう。全ての生命は滅亡するしかないんだろうか。
それも、もう――間もなく。
そんなことを考えていると、再び携帯が鳴った。ふいのバイブレーションに体がびくんと反応してしまう。緊張してんのかな。
「おう。太郎、元気?」
「元気? じゃねぇよ。隼人……なぁ。あのさぁ、なんかさ、もしかしてだけど、これって本当に終わりなんじゃねぇ?」
「かもな」
「はぁ……相変わらず達観してんなぁ、隼人は。ちょっとぐらい、あたふたしろよな」
「太郎もだろ? さっきはずいぶんとあせってたくせに、今は冷静じゃねぇか」
「いや、あんまりにも規格外すぎてさ、どう足掻いたらいいのか分かんねぇし、恐がり方も分かんなくなってよ……見てみろよ、隼人。さっきからもうこんなにでかくなってる。これもう、大気圏のすぐ外まで来てんじゃねぇの?」
太郎の言葉の意味はよくわかる。
選択肢がなくて、どうにかなる可能性もなくて、どうしようもできない状況に迫られた時、人は意外とパニックにおちいったりはせず、ただただ、内に向かって怯えることしかできないのかもしれない。
これほどまでに圧倒的なものを前にすれば……怯えることすら忘れて、もう、半笑いで立ち尽くすのみだったり。
「……限界だ、隼人。眩しくて外にいられねぇよ」
北極星――――今となってはもう何だっていいのだが――――すでに視界の半分を占めるほどに迫った凄まじいエネルギーは、辺り一面を光の闇へと沈めてゆく。
「あーあ、人生最後の会話が太郎とかよ……なんか、ぱっとしねーなぁ」
「アホ、そりゃこっちの台詞だわ。まぁ……彼女もいないし、別にどうでもいいけどさ」
「じゃあな」
「おう。また……来世で会おうぜ」
――――その日。
世界は、光に包まれて。
真っ白な闇の中へ。
姿を、消した。
※
◆タイトル:セイブ・ジ・アース
◆メーカー:ポラリス
◆ジャンル:リアルダイブMO
◆発売日:白王暦5705年16月5日
◆定価:1億 7000万セロン
◆レーティング:成人指定
前作から実に50年ぶりとなるリアルダイブの最新作が、満を持して登場。
――――混沌が魔王を生んだ。大地に刻まれた人の業が、ダンジョンを生んだ。
後悔している暇はない。立ち上がろう。
世界を救うのは君だ――――!
完全なる“現実世界”での冒険をお楽しみ下さい。
【はじめに】
ゲーム開始と同時に、あなたの肉体はゲーム世界のフィールドにて、新たに構築されることとなります。成形が完了しましたら、そちらへ霊体・魂を転送いたします。
その際、現実世界に残った肉体はいったん廃棄処分させて頂きますのでご了承下さい。
なお、お客様の情報はこちらで厳重に保管しており、ゲーム終了と同時に、現実世界にて肉体の再構築をさせて頂きますのでご安心下さい。
プレイヤーキャラクターはあなた自身となりますが、ゲーム開始時に多少のエディットをお楽しみ頂けます。
髪型や肌の色の変更、コスチュームなどは豊富にご用意しておりますが、性別変更、極端な体型変更などは、霊体との結び付きが不安定となる可能性があり、非対応とさせて頂いております。
このゲームには、セーブ機能はございません。一度ゲームを開始した後は、以下の方法でのみ現実世界に帰還することが可能です。
(1)プレイヤーの誰かによってゲームがクリアされる。
(2)ゲーム内で死亡する。
(3)各街に設置された冒険者ギルドでゲーム終了手続きをとる。
いずれの方法で帰還された場合も再開はできませんので、その際は新たにアカウントを取得していただくこととなります。
※新たにソフトをご購入いただき、新規プレイヤーとして再登録していただくこととなります。
ゲーム内では現実世界と同様の軸で時間が経過します。一年間プレイされますと、現実世界でも一年の月日が経過します。その間、現実世界にあなたは存在しないということです。長期間プレイに専念できる環境下での開始をおすすめします。
【プレイガイド】
舞台となる“地球”には100の魔王が存在し、人々の平和を脅かしています。
彼らの居城であるダンジョンを攻略し、全ての魔王を倒すことがゲームのクリア条件となります。
このゲームは、多人数参加型オンラインゲームです。ゲーム世界は、あなたと同じく冒険者となったプレイヤーと共有しています。時には彼らと手を取り合い、共に戦うことが必要かもしれません。
また、ゲーム世界の住人であるノンプレイキャラクターたちは、セイブ・ジ・アースの世界観に準じた文明レベルしか持ち合わせていませんが、それ以外は、あなたと同じ生身の人間です。
彼らも当然、魔王たちに対抗しています。プレイヤーと同等であったり、あるいはそれ以上の力をもった“勇者”が存在することもあります。
それら勇者と協力することも重要です。
プレイヤーには専用の携帯型タブレットが支給されます。ステータスの確認や、セロン(リアルマネー)での買い物に使用します。また、対象キャラクターの情報や、ダンジョンの情報を確認することができます。ノンプレイキャラクターは所持していないので、プレイヤーのみのアドバンテージとなるでしょう。
なお、タブレットは“絶対に壊れたり紛失しない”仕様となっておりますのでご安心ください。ゲームを途中終了する際にも必要です。
キャラクターのステータスは、それぞれ数値化されています。詳細を確認できるのは自身のもののみとなります。
それ以外のキャラクターのステータスは“レベル”という総合値で表されます。
※タブレットで確認できるのは、相手の名前と称号、レベル値のみです。
レベル値は、相手の戦闘能力をはかる目安になりますが、値に反映されない強力な装備やスキルを所持していることもありますので、とらわれすぎは禁物です。
ただし、初めて接する相手のレベルを確認することが有効であることに違いありません。
プレイヤーは“スキル”という様々な特殊能力を扱うことができます。
それらは、強力な攻撃手段となる“必殺技”と呼べるものから、回復手段となりえるもの、一時的に身体能力を高めたりする補助スキルまで、様々です。解析や解錠といった非戦闘スキルもございます。
中には、超自然的な力を支配するような強力なスキルもございますので、その目で確かめて見てください。
もちろん、これらはプレイヤーだけに与えられた能力ではなく、ノンプレイキャラクター、魔王、モンスターも同様に行使する能力です。
新たにスキルを取得する方法は様々です。自分の望むものを入手するためには、ゲーム内での情報収集が重要となります。
別途、ゲームを有利に進めるための課金アイテムなどがございますが、無課金でも十分にお楽しみ頂けます。
遊び方は自由です。魔王に興味がなければ、普通に恋愛をして、仕事をして、幸せに暮らすこともできます。あなたが望むなら大統領を目指すことだって自由なのです。
【ユーザーの声】
>ヤバい、めちゃくちゃ面白そう。でも、プレイするには会社を辞めなきゃな……
>スキル使いてー!
>いやいやいや、高すぎるわ。俺の給料の何年分やねん……期待していただけに残念すぎる。
>クソ高い。そもそも買えないんだから、期待もくそもない。
>クソゲーワロタwww 買えねーよ。
>成人指定……あー(察し)
>人を殺したりできるんだろ。その辺の再現性に興味はあるな。まさか、リアルガチ?
>技術は凄いと思うけど、これ買えるやつって限られると思う。
>めっちゃプレイしたい! 体験版みたいなのでいいから参加させてくれ!
>誰かがクリアしない限り永遠にプレイ出来るってことだろ? つまり生まれ変わるって感じ? 人生やり直したいやついっぱいおるやろなー。まぁ、そういうやつらが買える値段じゃない件w
>βテストないの? 無料で!
【最新情報】
本日の15時より、βテストプレイヤーを100名募集いたします。
抽選ではなく、アンケートフォームにご記入頂いた内容を元にこちらで選考させて頂きますので、予めご了承ください。
βテスト版のプレイ料金は無料です。
ご希望の方は正式版リリース以降も、引き続きプレイして頂けます。