たずねてくるもの
『夏ホラー2007』と検索したら他の作者様の作品も読めるであります!
かつて学校の研修旅行に行った時の話である。
その研修施設は普段は一般観光客にホテルとして解放されているほど、美しい所である。しかし学生たちには、"何か"がいるとして、もっぱら有名であった。
ある年の7月の終わりのこと、我々のクラスは研修で、そこのホテルへと行った。ホテルといっても一室一室はコテージとなっており、大体5、6人で一部屋に泊まるのである。僕の部屋はK、O、A、そして僕の4人部屋だった。
研修も順調に進んでいった3日目の夜、その"何か"は唐突にやって来たのである。
外出が禁じられている午後10時以降、男4人の部屋では決まって毎夜毎夜ポーカーに興じたり、怪談話や夜食作りで時間をつぶしていた。何しろ夏真っ盛りである。熱帯夜など寝付けやしない。
あれは、その夜の日付が変わったあたりだったと思う。
不意に扉がコンコンと鳴らされた。誰かが来た様である。
外出が禁じられているこんな夜中に訪問者?
「はいはい、ちょっと待ってくださいね」
Kが扉を開けに行った。
コテージの為、玄関の扉は凝った造りになっており、チャイムではなくドアノッカーが取り付けられている。
Kが戻ってきた。扉の外には誰もいないと言うのである。
しかしそれはおかしい。確かに部屋にいた者はノッカーが叩かれる音を聞いているのである。もちろん扉を開けに行ったK自身も。
「何かオカシイ」
誰かがポツリと言った。あるいは僕が言ったのかもしれない。
と、ふっと室内の空気が変わった。
何故かは分からない。しかし4人が4人一斉に扉を見た。何かをズズッズズッとひきずる音が外から聞こえたのだ。やがてノッカーを叩く音が響き渡った。
4人は直感した。
訪問者は人間じゃない、と。
「ヤバイよ、マジでいたのかよ……」
Aが真っ青な顔をして呟いた。
あくまでも噂でしかなかったので本当に"何か"が出るとは思っていなかったのが本音である。
カチャン
軽い金属音が部屋に響いた。はっとして扉を見ると、鍵が外れている。
外れている?確かにKは鍵をかけていた。
かと思うと、"そいつ"はスーッと部屋に入ってきた。扉は開いていない。すり抜けてきたのだ。
4人は部屋の真ん中で肩を寄せあい、ガタガタ震えている。"そいつ"は僕たち4人をじっと上から見下ろしている。
まるで生きた心地がしない。
寒い。
今日は熱帯夜だと夕方見た天気予報では言っていた。それが今はどうだろう。吐く息が、白い。
やがて"そいつ"が言葉を発した。
「誰からにしよう」
殺られる。
4人の頭にはその4文字が浮かんだ。
初めて味わう死への恐怖。身にふりかかる危険への警鐘。
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」
Oがいきなり大声で叫んだ。その声によって金縛りが解けた他の面々もOにならって唱えはじめる。
5分経ったのか、10分経ったのか、はたまた1時間経ったのか。唱え続けるのに疲れてきた時、頭上からゆっくりと、だがしっかりと聞こえた。
「そんなもの、効かない」
気を失った。
気が付いたら朝だった。
(夢だったのか!)
ふと部屋を見回すと、泥のついた靴跡が我々の前に残っていた。靴跡は玄関の扉からまっすぐ4人が肩を寄せあっていた所まで続いていた。
その日、朝イチで主任の先生の所に行った僕たちは部屋を変えてもらった。
今もあそこの研修施設には得体のしれない"何か"が住み着いているのだろうか。
不思議な事に、大声で叫んだはずの僕たちの念仏を唱える声や、大音量で響き渡ったノッカーを叩く音は、すぐ隣のコテージに泊まっていた女の子たちには聞こえなかったという。
ある夏の夜の恐怖体験
『たずねてくるもの』
2007年8月15日
蓬莱雪也
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
この作品はカテゴリにも入れた通り、作者の体験談。ノンフィクションです。よって、この作品は小説というより、体験レポート、怪談としての色が強くなっています。
さて、作者である私がこの体験をしたのは今から一年前、高校三年の時の事です。本来なら、すぐ小説にしても良かったのです(蓬莱雪也として登録したのは今年4月だが、以前は別のPNで活動してました)。しかし、自分はそうする事を避けました。理由はただひとつ。
恐かったからです。
霊的な現象を信じていないわけではありません。むしろ信じています。しかし、ソレをこんなに身近に感じたのは初めてでした。
そして本文に書いた通り、"死"を密接に感じたのです。
また、この作品は文章に残す為、削除・修正した箇所がございます。が、お教え出来ません。
文章にする為、神社にお参りにも行きました。
一年経った今も、恐いのです。
長くなりましたが、最後に一言。
後輩たちからの報告では、この研修施設では、今も"出る"そうです。
ありがとうございました。