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独りロンド

 幻想と戯れる。

 葬儀を終えた死体が踊る。

 死体の中で私も踊る。

 そうか、私も仲間だったんだ。




 目の前に死体が倒れていた。さっきまで元気に踊っていた寡黙な死体は二度と動く事のない人形に変わってしまった。今度は誰か別の意思が彼の体を輪舞に誘うのだろう。

 それが良い事なのか、悪い事なのかは判別できなかった。ただ彼の意志は決してそれを望んでいなかった事だけは分かる。私はその事に憐みを覚えていた。目の前の笑い始めた物ではなく、すでに飛び立った名前も知らぬ誰かに。その飛び去った先で願いを叶えて欲しいと祈らずにはいられなかった。

 木枯らしが吹く中で私はずっと祈っていた。




 ゴンという音と共に意識を覚醒した。額に皮膚が張った様な熱を感じる。どうやら寝ていたらしいが、起きぬけのぼんやりとした酩酊感はなかった。はっきりとした意識が、額に走った痛みのせいだろうかと考えた。

 机に載っている置時計を見ると、ちょうど十一時を指していた。夕飯を食べ終えたのが八時過ぎだったはずだ。帰るのが遅くなったため親が時計を強調しながら夕飯を並べていたのでよく覚えている。そうしてご飯を食べてからの記憶が無い。という事は、二時間は寝ていた様だ。長い間、机に突っ伏していた事を認識すると、急に体の節々が痛み始めた。体が鉛でも流し込まれた様に重い。全身が強張っていた。

 反射的に大きく伸びをした。すると手に持っていたシャープペンシルが手からこぼれ落ちた。緩慢な動作で拾い上げていると、宿題をしていた事を思い出した。

 どれだけ進んでいただろうか。眠る前の進歩状況は覚えていない。大した量ではないが、夜も更けた今になって義務的に勉学と向き合わねばならない事がたまらなく億劫だった。

 閉じた状態で置かれたノートに手を伸ばした。ノートを閉じられているという事は意識して宿題を中断したという事だ。全く覚えていないが、どうやら寝たのは自分の意志らしい。それでは何を恨む事もできない。

 苛立ちながらノートを開けると、そこにはびっしりと書き込みがされていた。よく見るとそれは宿題の答えだった。思わず寝る前の自分を褒め称えた。やる事はしっかりとやっていた様だ。

 ならばこんな机の上ではなく、ベッドに入って寝る事にしよう。そう考えてノートを閉じようとすると、ページの端に何やら奇妙な走り書きが描かれていた。よく見てみたが全く見覚えのない文字だ。それを何故文字と認識しているのかすら分からない位、自分の知っている文字とはまるで違っていた。だというのに、私はそれを字と認識し、あろうことか読めそうな気さえした。

「それはね。草の葉から降り注ぐ雨の意味だよ」

 声のした方へ振り返ると、全身がただれた死体が立っていた。

「ふーん、朝露の事?」

 その死体はどこかで見た事のある姿だった。つい最近どこかで見たはずなのだが、それがどこだか、その死体が誰だかは分からなかった。

「違うよ。この世界とは全く違う世界だと、雨は木から生まれるんだ」

「なんだ。この世界にはないんだ」

 気になっていた文字も意味が分かってしまえばなんて事はない落書きにしか見えなくなった。馬鹿らしくなって落書きは消しゴムで消してしまった。

「君が望むならその世界を見る事ができるんだよ」

 意味がわかってしまえば、死体の語る言葉も馬鹿げた妄言にしか聞こえない。

「悪いけど、これからお風呂に入らなくちゃいけないの」

 私は着替えを持って扉へと向かった。

「どうして現実から目をそむけるんだい?」

 あいにくとさっきまでと違って、私は彼等の仲間ではないのだ。

「ん?」

 私が今思い描いた彼等とは誰の事なのだろう。何か忘れている気がする。ぼんやりと何かを思い出しかけたが、一つに収束する事無く霧散してしまった。そもそもどうしてそんな事に思い至ったのか。寝ぼけているのだろうか。

「疲れてるのかな」

 私は疲れを落とすという新たな目的を持って、部屋のドアを開けた。湯船につかる快楽を想像すると、さっきまでの何もかもが消え去っていた。




 あんまり眠れなかったなぁ。

 さてと、今日もなんとか生き残らなきゃ。

 ん、早速来たわね。

 あれ? お母さん? 鳩? シュウ?

 迎えに来てくれたんだ。ちょっと待ってよ、すぐ出るから。

 あれ? シュウ? 鳩? なんで? 鳩? どうして?

 そうか殺さなくちゃいけないんだ。

 とにかく生き残らなきゃ。

 あれ? お母さん?

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