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ここは一体

 次の実験で私は消えてしまうかもしれない。だから私が消えても誰かに思い出してもらえる様に、私の事を憎める様に、今までの日記を書いて、私という存在を少しでも残しておこうと思う。

 ある日、まだ空も暗い内から両親に起こされて車に乗せられた。眠くて文句を言いたかったが、両親の奇妙な熱気に気おされて何も言えなかった。車に乗り込んですぐに寝てしまい、起きた時には海岸沿いを走っていた。沢山の人で賑わっている浜辺を眺めながら、私は旅行に行くのだと確信した。そして何かおもちゃを買ってもらえるんだと信じて疑わなかった。両親が目を輝かせていたからだろうか。なぜそう思ったのかはちょっと曖昧だ。もう、大分前の事だから記憶は薄れている。

 もうひと眠りした頃に車は目的地で止まった。肩を揺すられて目を開けた時、眼前に白い大きな建物がそびえ立っていて驚いた事を覚えている。今ではすでに見慣れてしまった外観も、その当時はとても不思議で魅力的に見えた。中に入ると両親は受付に行って興奮気味に何かを伝えていた。私は受付の隣に飾られたドーベルマンの置物をいじっていた。

 私がドーベルマンの口に指を突きこもうとした時、両親は私を掴んでロビーの椅子に座らせた。大人しくしている様に言われたが、その言葉を聞くつもりはなかった。綺麗なロビーで一通りはしゃいでから、やってきた研究所の女性に手をひかれ小さな部屋へと向かった。両親と引き離された事に若干の抵抗を感じたが、それでも喜びが勝っていた為に大人しく付いて行った。私はその女性をおもちゃ屋の店員だと思っていたからだ。自分のほしい物を決めに行くものだと勘違いして舞い上がっていた。

 小さな部屋の中には白衣を着た研究員が数人、横に並んでいた。席に座らせられて質問攻めにあったはずだが、正直なところ覚えていない。先ほどから何度も述べているように、私はおもちゃの事で頭がいっぱいだった。

 どうでもいい事だが、その時思い描いていたおもちゃは当時頻繁にCMが流れていた人形だった。私自身はそこまで欲しくはなかったが、友達が親に買ってもらえないと泣いていたので、貸してあげて一緒に遊びたかった。その人形は後で手に入れる事ができたが、その友達と会えなくなっていたので、無用の長物となった。それでもたった一つの私の宝物だ、


 視界が薄れていく、また眠くなってきたようだ。私はゆっくりと日記を閉じた。


 気がつくと、緑色のヒト型を倒していた。頭についている草が食べられそうだったので引き抜いた。あまりおいしそうには見えなかったが、拒む間もなく手慣れた手つきで肩からかけたバッグに詰め込んでいた。自分の行動を少し不思議に感じた。

 しゃがみ込んで、倒れている緑色の頭を持ち上げた。眼が二つ、鼻が一つ、口が一つ、耳はなかった。一見すると人間の様に見える。耳のない人だっているだろうし、人間で間違いないと思う。だがどこかがおかしい。何か道理に合わないそんな気がした。結局これが人なのかどうか、はっきりとした確信には至らなかった。人だとすると殺人の罪に問われてしまう。

 ここは一体どこなのだろう。改めてそんな事を疑問に思った。どの国かは分からないが、ぼんやりとここは島なのだとは思っている。はっきりとは思い出せないが、誰かからそんな事を聞いた気がした。人が沢山いるので、無人島ではないだろう。周りの人を見ると様々な人種や人以外の種族がいるので、日本ではなさそうだ。一つだけ心当たりというか、期待している事があった。それはここが本で読んだようなファンタジーの世界ではないかという事だ。そんな雰囲気が漂っている様に思えた。もしそうであれば、魔法なども使えるかもしれない。今倒した緑色も、人の姿に似たモンスターだと思えば罪の心も軽くなる。

 そういえば、この緑色を私はどうやって倒したのだろう? 戦っていたはずなのだが、思い出せなかった。記憶が途切れがちだ。

 突然目の前に帽子を目深にかぶった男が現れた。再び記憶があいまいになる。ああそうか。そういう事だったんだ。何か分かった気がしたが、記憶と同様千切れていった。

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