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第二話 トラック環礁を砲撃せよ

 一九四二年二月二四日

 トラック諸島より北東に500km 第16任務部隊 旗艦『エンタープライズ』

 

 

 

 空母『エンタープライズ』の艦橋に、厳つい顔をした中年と、細面の男が立っている。

 

「司令、如何なさいますか? 最も、この荒天では航空隊を出すのは不可能ですが……」

 

 ブローニング参謀長が艦橋に仁王立ちするハルゼー提督に問いかける。外はひどいどしゃ降りで、大粒の雨が艦橋のガラス窓を叩いている。

 

「そりゃあ、いくらなんでもこのどしゃ降りの中ボーイズを飛ばす訳にはいかねぇ。……ワイルド“キャット”と言えど、な」

 

 自分の言った軽口が面白かったのか、にやりと口を歪める。

 

「犬は何処ですか、犬は。……それは良いとして、リー少将の戦艦部隊を突入させますか?」

「おう。ちょっち練度に不安があるが、どうせトラック泊地にたいした艦はいないんだろう? それに、ツカハラの機動艦隊でも出てくるかと思ったのに、歓迎の一つもないじゃねぇか」

 

 至極残念そうにそう言う。

 情報部の分析では、塚原二四三の第一機動艦隊は内海にいるとのことであったし、事実正規空母四隻は瀬戸内海にいた。残りの三隻は中部太平洋海戦に参加し、内地へ向かっている最中である。

 またこの前日、潜水艦がトラック泊地を偵察。旧式軽巡を中心とする弱小な戦力しかいないことが確認されていた。

 

 

「はい。ではご命令を」

「よし、全艦で500km地点まで進出、レイ(R・スプルーアンス)の部隊以外はトラックを夜間砲撃だ! ジャップをヒイヒイ言わせてやれ!」

 

 微妙に命令の呈をなしていないハルゼーの命令をブローニング参謀長が適宜翻訳して各所に伝える。

 

「艦隊分割用意。スプルーアンス少将の部隊を本隊の護衛に拘置し、残りはリー少将の指揮下で夜間砲撃を行うように。発動時刻は――」

 

 

 第4戦艦隊 旗艦『ワシントン』

 

 

「――第16任務部隊第2群を率い、トラック環礁を夜間砲撃せよ、とのことです」

「そうかそうか。ふふ、腕が鳴るな」

 

 エンタープライズからの命令に不敵に笑っているのは、ウィリス・リー少将。アメリカ海軍きっての砲術の大家で、特にレーダー射撃に造詣が深い。

 

「ただ……本艦や『ノースカロライナ』はともかく、急遽増援として編入された『サウスダコタ』『インディアナ』は就役してまだ日が浅く、十分な練度とは言い難いのですが……」

 

 金髪の首席参謀が心配そうに言う。サウスダコタ級は竣工を急ぎ、完熟訓練を最小限で切り上げて急遽合流した為、艦隊行動も若干不安という体たらくなのだ。

 

「それに、やはり本級の四連装14in砲は技術的に未成熟で、いざというとき不具合が発生するかもしれませんし。本当に敵艦隊は出てこないのでしょうか?」

 

 と、艦長も同調する。四連装砲塔の利点として、連装と比べて重量が3/4で済むのだが、このノースカロライナ級やサウスダコタ級、英国のキング・ジョージV世級のような形式の艦はどれも故障に悩まされている。

 

「大丈夫だろう。対地砲撃とはいえ実戦は実戦だ。演習と実際に撃つのとは大違いだから練度も上がるだろう。それに……だ」

 

 特徴的な丸眼鏡を押し上げ、口元に笑みを浮かべてリー少将は続ける。

 

「これは極秘事項なのだが、日本海軍の暗号の一部解読に成功したらしい」

「本当ですか!?」

「……」

 

 驚いた表情をみせた艦長の横で、首席参謀は懐疑的な目線を送っている。

 

「ああ。それによるとだ、奴らの主力戦艦隊は日本海に、空母機動艦隊は内海にいる。そして、作戦行動中の部隊で我々と遭遇する可能性があるのは、巡洋艦数隻を根幹とするウェーク攻撃部隊のみだそうだ」

 

 もっとも、作戦は中止され、任務部隊は引き返したらしいがな。と、続ける。

 それに対し、首席参謀が反論する。

 

「その判断は早計なのでは? 確かに、情報部はそう言ってきていますし、前回(第二次)の攻撃部隊は巡洋艦数隻が根幹でした。ですが、今回もそうであるという保証はありません。むしろ、我々との遭遇に備えて戦艦……コンゴウ級やキイ級を連れてきていても不思議ではない。と、私は思います」

 

 そう言って、暑くなったのか軍帽を取り軽く頭を振る首席参謀。飛び出してきたアホ毛を撫で付けて軍帽を被り直す。

 

「いずれにせよ、前回が上手く行き過ぎたのです。狐は同じ罠に二度とはかからない、とも言います。……何隻か喰われる覚悟が必要やもしれません」

 

 この時点では弱気に過ぎる言い種に、リー少将はやれやれ、というように肩をすくめる。

 

「まったく、キミは心配性だな。あまり悲観的なことを言えば兵の士気が下がる。気をつけて欲しいね」

「……はっ」

 

 不承不承といった感で頷く首席参謀。

 その肩にポンと手を置き、艦橋の皆に言い聞かせるように言う。

 

「大丈夫だよ。サウスダコタ級は完全な、本艦級は不完全とはいえ対16in防御だ。ナガト級なら逃げ切れるし、キイ級なら返り討ちだ」

 

 その言葉に艦橋のそこここで笑いがまきおこる。

 

 余裕を見せるリー艦隊に、帝国海軍の最初の一撃が忍び寄ってきたのは、丁度日付も変わって雨も止み、星空が見えてきた2月25日午前2時。トラック環礁まで約200kmに迫ったころであった。

 

 

 つづく


 ────────────────


 ◇TF16.2艦隊編成

 第4戦艦戦隊 W・リー少将

 戦艦『ノースカロライナ』『ワシントン』『サウスダコタ』『インディアナ』

 

 第7巡洋艦戦隊 T・キンケイド少将

 巡洋艦『ミネアポリス』『ニューオーリンズ』『ヴィンセンス』

 

 第2巡洋艦戦隊 W・スミス少将

 巡洋艦『アストリア』『ポートランド』

 

 駆逐艦六隻


 ────────────────



貴方も私も四連装。四連装艦がいっぱいです。


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